飲食店M&A完全ガイド|売却・買収・閉店買取・事業承継の流れと相場
飲食店M&A完全ガイド|売却・買収・閉店買取・事業承継の流れと相場
飲食店M&Aとは、飲食店(個人事業または法人)の事業を居抜き売買・事業譲渡・株式譲渡のいずれかのスキームで第三者に承継する取引の総称です。 店舗造作・什器・営業権・賃借権・従業員雇用・営業許可を一体で扱うため、Webサイトの売買や中小企業M&Aと共通する論点を持ちつつ、飲食店特有の「営業許可承継」「賃貸人承諾」「業態別相場」が判断軸として加わります。本記事はM&A仲介プラットフォームM&A-WEBの編集視点から、市場背景・売却プロセス・業態別相場・買収側の論点・3スキーム判定フロー・閉店買取の代替・営業許可承継・税務・届出書までを体系的に整理します。対象は売却を検討する飲食店オーナー(個人事業主・小規模法人経営者)と、脱サラ独立・第二創業・FC本部の直営拡大・他業種からの参入で飲食店買収を検討する買い手です。閉店を考えている経営者向けには「閉店買取より譲渡で手元に残る金額」の試算も提示します。
飲食店M&Aの定義とスコープ — 本記事で扱う範囲
飲食店M&Aとは、飲食店事業を居抜き売買・事業譲渡・株式譲渡のいずれかのスキームで第三者へ承継する取引の総称です。 売り手の経営形態(個人事業か法人か)と、譲渡対象の範囲(造作のみか営業権込みか法人格ごとか)によって、最適なスキーム・税務・引継ぎ範囲が大きく変わります。
本記事の結論先出し — スキーム選択で手取りが変わる
飲食店M&Aを検討する際、最初に整理すべき論点は「居抜き売買」「事業譲渡」「株式譲渡」の3スキーム選択です。同じ店舗・同じ譲渡額でも、選ぶスキームによって売り手の手取り・買い手の負担・営業許可の扱い・引継ぎ期間が変わります。詳細は§6の判定フローで5段階の質問形式に整理しますが、結論を先に示すと、個人事業の飲食店は「居抜き売買」か「事業譲渡」の2択、法人の飲食店は3スキームすべてが選択肢となり、簿外債務リスクの有無と節税効果の大きさで判断します。
また、閉店を検討している飲食店オーナーには、閉店買取業者への内装・什器売却よりも、事業譲渡で営業権込みで売却した方が手元に残る金額が大きくなるケースが多くあります(§7で試算例を提示)。閉店買取の見積もりを取る前に、M&A仲介に事業譲渡の可能性を相談する選択肢を持っておくことが、最終的な手取りを左右します。
本記事のスコープと範囲外論点
本記事は、一般飲食店(居酒屋・ラーメン店・カフェ・焼肉店・中華料理店・ファインダイニング・バー等)のM&Aを対象とします。次の領域は本記事の範囲外とし、別途専門家への相談を推奨します。
第一に、風営法対象店舗(キャバクラ・クラブ・スナックの深夜営業・接待行為を伴う飲食店等)は本記事の対象外です。 風営法に基づく営業許可は譲渡そのものが原則として認められず、譲受者は新規許可の取得が必須となるなど、一般飲食店とはM&A慣行が大きく異なります。風営法対象店舗のM&Aは、風営法に詳しい弁護士・行政書士への個別相談を強く推奨します。
第二に、店舗物件の譲渡は不動産仲介との併走前提です。 居抜き売買・事業譲渡で店舗の物理的引継ぎを伴う場合、賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が必須となり、契約条件の変更・敷金の引継ぎ・原状回復義務の整理は、不動産仲介業者と並行して進めます。本記事は宅地建物取引業法上の「不動産仲介行為」には踏み込まず、M&A取引の側面のみを扱います。
第三に、本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。 個別案件の法務・税務・規制判断は、弁護士・税理士・公認会計士・行政書士などの専門家への相談を推奨します。本記事は弁護士法72条が禁ずる「報酬を得る目的での法律事務」には該当せず、最終的な法的判断は弁護士相談に委ねる構成としています。
詳細な親カテゴリ(店舗・オフライン事業の譲渡全般)の論点は店舗・オフライン事業譲渡の総合ガイドで扱っています。
飲食店M&A市場の背景 — なぜ譲渡が選択肢になるのか
飲食店M&Aが2020年代に経営者の選択肢として広がった背景には、複数の構造要因が重なっています。事業承継問題・コロナ後の経営疲弊・買い手側の参入ニーズの3つの軸で整理します。
中小企業の事業承継問題と飲食業界の経営者高齢化
中小企業庁の試算では、2025年までに中小企業・小規模事業者の経営者のうち約127万人が後継者未定の状態となり、その約半数が黒字でも廃業に至る可能性があるとされています(中小企業庁 中小M&Aガイドライン)。飲食業界はこの中でも家族経営・個人事業の比率が高く、店主の高齢化・後継者不在・体力的限界がM&Aを選ぶ直接的な動機となっています。
帝国データバンク・東京商工リサーチが公表する飲食業の休廃業件数は、コロナ禍前から年間1万件規模で推移し、2023〜2024年は物価高・人件費上昇・客足の戻りの遅さが重なって増加傾向にあります。「閉店」を選ぶ前に「譲渡」の選択肢があることを知らないまま、内装造作の解体費・原状回復費・賃貸契約解約損害金を負担して店を畳む経営者は少なくありません。
コロナ後の経営疲弊とアフターコロナの再編期
新型コロナウイルス感染症の影響で、飲食業界は2020〜2022年に大規模な売上減・補助金依存・営業時間短縮を経験しました。日本フードサービス協会の月次統計では、2020〜2021年の市場規模は2019年比で2〜3割減で推移し、2023年以降ようやく回復基調に転じています。
このアフターコロナの再編期では、コロナ前から続けてきた店主が「もうこれ以上は体力がもたない」と判断するケースと、コロナ禍で営業ノウハウ・店舗造作を温存したまま新たな経営者を迎えたいケースの両方が観察されます。同時に買い手側では、立地の良い物件が居抜きで放出されているタイミングを好機と捉え、初期投資を抑えて新規参入する動きが活発化しました。
売り手・買い手のプロファイル
飲食店M&Aの売り手は次の4類型に整理できます。第一に、経営者の高齢化・後継者不在を理由に店じまいを検討する個人事業主。第二に、コロナ後の収益悪化・体力的限界でExitを急ぐ経営者。第三に、複数店舗展開のうち不採算店舗を譲渡してリソースを集中したい中小法人。第四に、本業(別業種)との両立が難しくなり飲食店事業のみ切り離す多角化経営者です。
買い手は次の4類型が中心となります。脱サラ独立で初期投資を抑えて飲食店経営に参入したい個人、既に飲食店を運営していて第二創業・業態転換を狙う経営者、FC本部が直営店拡大のために店舗を取得するケース、そして他業種(不動産・小売・専門商社等)から飲食業へ多角化参入する事業会社です。
特に脱サラ独立層は、ゼロから物件を借りて内装工事を発注すると2,000万〜5,000万円の初期投資が必要なところ、居抜き売買なら300万〜1,500万円程度で済むため、サイト売買と並んで「個人M&A」のエントリーポイントとして注目されています。サイト売買視点からの個人M&Aの全体観はサイト売買とは|M&A視点で読み解く市場・取引方式・価格・サービス選びの完全ガイドで扱っています。
飲食店 売却の5ステップ — 売り手目線の標準プロセス
飲食店の売却プロセスは、準備からクロージングまで標準で4〜6か月かかります。仲介相談から最終契約までを5ステップに整理します。
Step 1: 売却準備 — 財務整理・店舗評価・引継ぎ範囲確定
最初のステップは、譲渡対象を明確にする社内整理です。直近2〜3年の月次売上・営業利益・人件費比率・食材原価率・家賃比率を一覧化し、不採算メニュー・繁忙期と閑散期の振れ幅・季節変動を可視化します。並行して、店舗の内装造作・厨房機器・什器・備品を譲渡対象と非対象に仕分けし、賃貸借契約書・営業許可証・労働契約書・主要取引先(食材仕入・酒類卸・リネン・清掃)の契約書を一式そろえます。個人事業の場合は青色申告決算書・所得税申告書、法人の場合は決算書3期分・税務申告書を整理しておきます。
この段階で「営業権込みで譲渡するのか、造作のみの居抜き売却なのか」「従業員を引き継ぐのか退職処理してから引き渡すのか」「店名・看板・SNSアカウント・既存顧客台帳を譲渡対象に含めるのか」を経営者自身で意思決定しておくことが、後のスキーム選択の前提条件となります。
Step 2: 仲介相談とノンネーム化
次に、M&A仲介・飲食店特化マッチングプラットフォーム・地元の事業承継支援機関のいずれかに相談します。仲介担当者と面談し、希望譲渡額・引継ぎ条件・希望クロージング時期をすり合わせた上で、店舗を特定できない形に加工した「ノンネームシート」を作成します。
ノンネームシートには、所在エリア(市区町村レベル)・業態(居酒屋・ラーメン・カフェ等)・月商規模・営業利益率・席数・坪数・賃借条件の概要のみを記載し、店舗名・正確な住所・店主氏名は伏せます。秘密保持の徹底は、現職従業員・取引先・常連客への売却情報の漏洩を防ぐために必須です。仲介手数料の体系(売主完全無料か、双方手数料か)はこの段階で必ず確認しておきます。
Step 3: マッチングとトップ面談
ノンネーム情報を見た買い手候補が秘密保持契約(NDA)を締結すると、店舗名・詳細情報が開示されます。買い手候補と売主のトップ面談、店舗見学、試食、営業中の店舗観察を経て、買い手側が「具体的な交渉に進みたい」と意思表示するのが一般的な流れです。
このステップでは、買い手の事業ビジョン(業態をそのまま継続するのか、業態転換するのか)、従業員引継ぎへの姿勢、譲渡後の店長・サブ店長の処遇方針を売り手が確認します。買い手が複数現れた場合は、提示価格だけでなく従業員・取引先・常連客への影響を考慮して優先順位を決めます。
Step 4: 基本合意(LOI)とデューデリジェンス
買い手が決まると、譲渡額・スキーム・主要条件を盛り込んだ基本合意書(LOI)を締結します。LOIは原則として法的拘束力を持たない(独占交渉権と秘密保持のみ拘束力を持たせる)のが通例です。
LOI締結後、買い手がデューデリジェンス(DD)に着手します。飲食店DDの主要項目は次のとおりです。
| DD項目 | 確認内容 | 主な確認書類 |
|---|---|---|
| 財務DD | 売上・営業利益・原価率の検証、簿外債務の有無 | 申告書・決算書・通帳・売上日報 |
| 営業許可DD | 飲食店営業許可の残存期間・許可番号・施設基準適合性 | 営業許可証・保健所立入検査記録 |
| 賃借権DD | 賃貸借契約の譲渡可否・賃料・敷金・原状回復義務 | 賃貸借契約書・賃貸人との覚書 |
| 内装造作DD | 厨房機器の状態・耐用年数・リース残債 | 機器一覧・リース契約書・点検記録 |
| 顧客・取引DD | 食材仕入先・酒類卸・予約システム・常連客台帳 | 取引先契約書・予約管理データ |
| 労務DD | 従業員雇用契約・有給休暇残・退職金引当 | 雇用契約書・就業規則・社保記録 |
| 法務DD | 訴訟リスク・許認可リスク・コンプラリスク | 弁護士確認・行政書士確認 |
DD期間は2週間〜2か月が標準で、検出された論点に応じて譲渡条件の調整・価格修正・表明保証の追加が行われます。
Step 5: 最終契約とクロージング
DD完了後、最終契約書(事業譲渡契約書または株式譲渡契約書)を締結し、譲渡対価の決済・営業許可の譲渡または新規取得・賃貸借契約の名義変更・取引先への通知・従業員への説明会を順次実施します。
営業許可の手続きは特に時間を要するため、クロージング1〜2か月前から保健所への事前相談を始めるのが標準です(詳細は§8)。賃貸人承諾も同様に、賃貸借契約書に「賃借権譲渡の禁止」条項がある場合は別途承諾書の取得が必要となり、貸主との交渉・承諾料の支払いが発生することがあります。クロージング後は1〜3か月の引継ぎ期間を設け、売り手が現場に残って業務移管を支援するケースが一般的です。
業態別売却相場レンジ — 月商規模 × 業態のマトリクス
飲食店の売却相場は、業態と月商規模で大きく変動します。中央値ベースの目安レンジを7業態 × 月商4階層のマトリクスで提示します。
飲食店M&Aの基本算定式 — 年買法と営業権
中小規模の飲食店M&Aで主流の算定式は、年買法(営業権法)です。直近年間営業利益に「営業権の年数」(1〜3年)を乗じて譲渡額を算出します。式で表すと次のとおりです。
譲渡額 = 直近年間営業利益 × 営業権年数(1〜3年)+ 譲渡対象資産の簿価(造作・什器・在庫)
営業権年数は、業態の安定性・立地・ブランド力・将来見通しで決まります。立地が良く常連客が多く業績の振れ幅が小さい店舗は3年、業態転換前提・立地が弱い店舗は1年、平均的な店舗は1.5〜2年が目安です。ただし年買法は簡便な目安に過ぎず、業態の将来性・人材・物件権利の安定性・買い手側の事業計画との整合性も加味して個別に調整されます。
業態 × 月商規模の相場レンジ表(中央値ベース)
業界実勢に基づく中央値レンジを次のマトリクスで示します。数値は譲渡額の中央値の目安で、立地・造作の新しさ・賃借条件・営業利益率によって上下します。
| 業態 \ 月商 | 〜300万円 | 300〜700万円 | 700〜1,500万円 | 1,500万円〜 |
|---|---|---|---|---|
| 居酒屋 | 150〜500万円 | 300〜800万円 | 700〜1,800万円 | 1,500〜4,000万円 |
| ラーメン | 200〜600万円 | 400〜1,000万円 | 900〜2,200万円 | 1,800〜5,000万円 |
| カフェ | 150〜500万円 | 300〜900万円 | 700〜1,800万円 | 1,500〜3,500万円 |
| 焼肉 | 250〜700万円 | 500〜1,500万円 | 1,200〜3,000万円 | 2,500〜7,000万円 |
| 中華料理 | 150〜500万円 | 300〜800万円 | 700〜1,800万円 | 1,500〜4,000万円 |
| ファインダイニング | — | 500〜1,500万円 | 1,500〜4,000万円 | 3,500〜1億円 |
| バー | 100〜400万円 | 250〜700万円 | 600〜1,500万円 | 1,200〜3,000万円 |
ファインダイニングは月商300万円未満では事業として成立しにくいため、最低帯はマトリクスから除外しています。焼肉・ファインダイニングは設備投資が大きく営業権年数も長めに評価される傾向があり、相場レンジが他業態より高めに出ます。バーは客単価は高いものの席数が少なく月商の上限が抑えられるため、上限レンジは控えめです。
相場を押し上げる要因と押し下げる要因
同じ月商・業態でも、譲渡額を押し上げる5つの要因があります。第一に立地の優位性(駅前・繁華街・人通りの多い路面店)、第二に内装造作の新しさと厨房設備の状態(耐用年数残存)、第三に賃借権の安定性(長期契約・賃料水準が相場以下・賃貸人が安定的)、第四にブランド力(メディア露出・SNSフォロワー・常連客比率)、第五に従業員・店長の残留意向(買い手にとって人材確保コストの低減)です。
逆に押し下げる要因として、賃貸契約の残存期間が短い、原状回復義務が重い、内装造作が老朽化している、HACCP対応が遅れている、簿外債務の懸念がある、季節変動が大きく業績の予測可能性が低い、などが挙げられます。営業利益が黒字でも、これらの押し下げ要因が複数重なると、年買法で1年以下の評価となり、ほぼ造作価値のみの譲渡額に落ち着くこともあります。
売却相場の試算は仲介担当への無料相談が早道
業態と月商規模だけでは精度の高い相場感は出せません。具体的な譲渡額の試算は、店舗の現地確認・財務資料の精査・賃借条件・買い手候補のニーズを踏まえた個別査定が不可欠です。M&A-WEBでは売主完全無料の事前査定を実施しており、店舗業態別の相場と買い手傾向を1〜2週間程度で提示できます。自分の飲食店の売却相場を無料査定で確認したい方は、M&A-WEBの無料相談(売主完全無料)よりお問い合わせください。
飲食店 買収側の論点 — 買い手目的別の判断軸とDDチェック
飲食店買収の判断軸は、買い手の目的によって大きく異なります。4類型の目的別判断と買収DDチェックリストを整理します。
買い手目的別の判断軸
第一に、脱サラ独立による飲食店参入を目指す個人買い手は、初期投資の抑制と利益持続性が最優先となります。居抜き売買で内装・厨房をそのまま引き継ぎ、現店長・スタッフから業態ノウハウを承継できる物件が適合します。営業権年数を1.5〜2年で評価し、年間営業利益が安定して300万円以上ある店舗を狙うのが現実的です。
第二に、既存飲食店経営者による第二創業・業態転換を狙うケースでは、業態をそのまま継続するのか、造作を活用しつつ業態を変えるのかで判断軸が分かれます。業態転換前提なら、内装造作の価値より立地・賃借権・席数規模を重視し、年買法ではなく「物件権利の再取得コスト + 必要造作改修費」をベースに評価します。
第三に、FC本部による直営店拡大では、物件権利と既存顧客基盤・スタッフを併せて取得することで、直営店舗網の即時拡大を狙います。FC加盟店オーナーが離脱を希望するケースで本部が買い戻すパターン、競合FCチェーンから加盟店ごと取得するパターンなどが該当します。買収価格は通常の年買法に加え、FC本部の事業計画における立地戦略上の価値が上乗せされます。
第四に、他業種からの飲食業参入では、営業ノウハウと店長・主要スタッフの残留が条件となります。買い手側に飲食店オペレーション経験がない場合、現店主が業態転換期間中(6〜12か月)はアドバイザーとして残る契約や、店長が継続雇用される条件が譲渡契約に盛り込まれることが多くあります。
買収DDチェックリスト7項目
買い手が確認すべき主要DD項目は次の7つです。
第一に財務DD — 申告書・決算書だけでなく、レジ売上データ・現金預金通帳・仕入れ請求書を突合し、計上漏れ・架空売上の有無を検証します。月別の売上振れ幅・原価率・人件費比率を5期分追跡し、買収後の収益計画の前提を固めます。
第二に営業許可DD — 飲食店営業許可の許可番号・残存期間・施設基準適合性を確認します。営業許可は事業者単位のため、譲受者は新規取得が原則となり、保健所の事前相談で必要書類・改修工事の有無を確認します(詳細は§8)。
第三に賃借権DD — 賃貸借契約書の譲渡条項・更新条項・原状回復義務・敷金扱いを精査します。賃借権譲渡禁止条項がある場合は、賃貸人の承諾書取得を条件に組み込みます。賃料が相場より高い場合は、賃料改定交渉を譲渡条件に含めることもあります。
第四に内装造作DD — 厨房機器の耐用年数残存・リース残債・故障履歴を確認します。買収後すぐに大規模修繕が必要となる物件は、修繕コストを譲渡額から差し引きます。
第五に顧客・取引DD — 食材仕入先・酒類卸・予約システム・配達アプリ契約・SNSアカウントの引継ぎ可否を確認します。常連客台帳がある場合は個人情報保護法上の取扱に注意します。
第六に労務DD — 従業員の雇用契約・有給休暇残・社会保険加入状況・残業代未払いの有無を確認します。退職金引当が不足している場合は譲渡額から控除します。
第七に法務DD — 過去の訴訟・行政処分・食中毒・労務トラブルの履歴を確認します。重大事案がある場合は、買い手側の表明保証で売り手側に責任を残す契約構造とします。
買収失敗の典型パターン
買収後のトラブルとして頻出するのは次の4類型です。第一に、賃貸人不承諾で営業継続できないケース。第二に、営業許可承継手続きの遅延でクロージング後に営業開始できないケース。第三に、売上の季節変動を見落とし、買収後の運転資金不足に陥るケース。第四に、従業員が買収を機に大量離職し、オペレーション破綻するケースです。これらはいずれもDD段階で予見可能なため、買い手側のDD実施体制と仲介者の助言品質が成否を分けます。
【独自軸】居抜き売買 vs 事業譲渡 vs 株式譲渡 判定フロー
飲食店M&Aで売り手が最初に決めるべきは、3スキームのうちどれを選ぶかです。本セクションでは、ma-platform独自の5段階判定フローと3スキーム比較表を提示します。
3スキーム比較表(5軸)
居抜き売買・事業譲渡・株式譲渡の主要な違いを5軸で整理します。
| 比較軸 | 居抜き売買 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
|---|---|---|---|
| 譲渡対象範囲 | 内装造作・什器(営業権は含まない場合が多い) | 営業権・造作・什器・取引契約等を選択的に承継 | 法人格ごと(株式 = 会社の全資産・負債) |
| 営業許可の引継ぎ | 譲受者が新規取得 | 譲受者が新規取得 | 法人格維持で許可継続(役員変更届のみ) |
| 賃借権の処理 | 賃貸人承諾が必要 | 賃貸人承諾が必要 | 法人契約は原則維持(賃貸人通知のみのことが多い) |
| 税務(売り手側) | 譲渡所得(個人)/法人税(法人) | 譲渡所得・事業所得(個人)/法人税(法人) | 株式譲渡所得20.315%分離課税(個人株主) |
| 簿外債務リスク | なし(資産のみ承継) | なし(負債は譲受対象から除外可能) | あり(法人格ごと承継のためDDが重要) |
居抜き売買は造作・什器の物的引渡しが中心で、事業譲渡は譲渡対象を契約で柔軟に選べるのが特徴です。株式譲渡は法人格をそのまま承継するため営業許可・賃借権・取引契約・従業員雇用がすべて自動的に引き継がれる反面、過去の簿外債務リスクをすべて引き受けるため、買い手側のDDコストが最も重くなります。
5段階判定フロー
スキーム選択の判断は次の5段階で進めます。
Q1: 売り手は個人事業か法人か?
→ 個人事業の場合: 株式譲渡は選択不可(法人格が存在しないため)。「居抜き売買」または「事業譲渡」の2択となります。Q2へ進みます。
→ 法人の場合: 3スキームすべてが選択肢。Q2へ進みます。
Q2: 譲渡対象は造作・什器のみか、営業権込みか?
→ 造作・什器のみで営業権(顧客・取引・スタッフ・店名)は含めない場合: 居抜き売買が標準です。譲渡額は造作・什器の残存価値(簿価または時価)が中心となり、年買法による営業権評価は含まれません。
→ 営業権(顧客・取引・スタッフ・店名・ブランド)込みで譲渡する場合: 事業譲渡または株式譲渡が標準です。Q3へ進みます。
Q3: 法人格を残したいか(借入・取引契約・従業員雇用継続のため)?
→ 法人格を残したい場合: 株式譲渡が適合します。借入・取引契約・従業員雇用・営業許可・賃借権がすべて自動承継されるため、譲渡後の事業継続性が最も高くなります。Q4へ進みます。
→ 法人格を残す必要がない場合(または個人事業の場合): 事業譲渡が標準です。Q5へ進みます。
Q4: 簿外債務リスクのDDコストは負担可能か?
→ 負担可能(法務DD・税務DDに数百万円のコストをかけられる): 株式譲渡で進めます。簿外債務が発見された場合の表明保証条項・補償条項を契約で手当てします。
→ 負担困難(DDコストを抑えたい・簿外債務リスクを買い手に引き受けてもらえない): 事業譲渡に切り替えます。事業譲渡なら負債を譲渡対象から除外できるため、簿外債務リスクを売り手側に残す構造とできます。
Q5: 売り手の節税効果はどちらが大きいか?
→ 個人株主が法人を株式譲渡する場合、20.315%分離課税となり税負担が軽くなります(数千万円規模の譲渡では税負担差が数百万円となることがあります)。
→ 個人事業の事業譲渡では、譲渡所得(総合課税)と棚卸資産(事業所得)に分かれて課税されるため、所得規模によっては税負担が重くなります。詳細な税額試算は税理士同席のもとで実施します(§9参照)。
判定フローのポイント — 個別判断は仲介担当 + 税理士同席で
上記の判定フローは標準的な意思決定パスを示したものです。実際の案件では、買い手側の希望スキーム・賃貸人の方針・営業許可の残存期間・税務上の繰越欠損金の有無などによって、最適解が変わります。スキーム決定は仲介担当者と税理士が同席する場で、複数シナリオの手取り試算を行ったうえで判断するのが標準的な進め方です。
経営権譲渡という言葉は、事業譲渡・株式譲渡のいずれかを指すことが多いですが、契約書上は事業譲渡契約書または株式譲渡契約書として明確に区別して記載します。「経営権譲渡契約書」という用語は法的に確立されたものではなく、内容によって法的取扱が変わるため、契約書のタイトルではなく条項の中身で判断する必要があります。
【救済型】閉店買取の代替=事業譲渡 — 手元に残る金額の差
閉店を考えている飲食店オーナーには、閉店買取業者の見積もりを取る前に、事業譲渡で売却した場合の手取り試算をおすすめします。閉店ではなく譲渡を選ぶことで、手元に残る金額が大きく変わるケースがあります。
閉店買取の実態
「閉店買取」とは、閉店する飲食店から内装造作・厨房機器・什器を買い取る業者によるサービスです。買取業者は、転売可能な厨房機器(冷蔵庫・コンロ・製氷機・食洗機)を中心に査定し、内装造作の解体・撤去を売り手に代わって実施することもあります。
ただし、閉店買取の実態として注意すべき論点が3つあります。第一に、買取額は厨房機器の中古市場価値が中心となり、内装造作の固有性・客席の家具・看板等は値段が付きにくく、買取総額は数十万〜200万円程度にとどまることが多くあります。第二に、賃貸契約の解約に伴う原状回復義務(スケルトン戻し)の費用は売り手負担となり、坪あたり3〜10万円が相場のため、20坪の店舗では60万〜200万円の支出となります。第三に、解約損害金(残期間賃料の一部)が賃貸契約に定められている場合は、別途数十万〜数百万円の支出が発生します。
結果として、閉店買取で受け取る金額から原状回復費・解約損害金を差し引くと、手取りはゼロまたはマイナスになるケースが少なくありません。
閉店買取 vs 事業譲渡の試算比較
具体的な数字でケース比較してみます。月商400万円・年間営業利益240万円・席数25席・坪数20坪・賃料月35万円の居酒屋を例にします。
ケースA: 閉店買取で店じまいする場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 内装造作・厨房機器の閉店買取額 | +50万円 |
| 原状回復費(スケルトン戻し、20坪 × 10万円) | -200万円 |
| 賃貸契約解約損害金(2か月分) | -70万円 |
| 廃棄物処理費(スケルトン外の什器・在庫) | -30万円 |
| 手元残額 | -250万円(赤字) |
ケースB: 事業譲渡で営業権込みで売却する場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡額(営業利益240万円 × 営業権2年 + 造作価値100万円) | +580万円 |
| 仲介手数料(譲渡額の10%、売主側) | -58万円 |
| 譲渡所得税(簡易試算、譲渡所得 × 20%) | -約50万円 |
| 手元残額 | +472万円(黒字) |
ケースAとケースBの差額は 722万円 となります。閉店買取で-250万円の支出となるところを、事業譲渡なら+472万円の手取りに転換できる計算です。仲介手数料・税金を考慮しても、譲渡を選ぶメリットは大きく、特に賃借権が残っていて買い手から見て立地価値のある物件ほど、この差額は拡大します。
閉店買取業者の見積もり前にM&A仲介に相談を
上記の試算はあくまで一例ですが、月商200万円以上で営業継続中の飲食店であれば、閉店買取より事業譲渡の方が手元に残る金額が大きくなる可能性が十分にあります。閉店を決める前に、まず事業譲渡の可能性をM&A仲介に相談することで、「閉店」が本当に最適解なのかを検証できます。
閉店買取より高く手元に残る譲渡額を確認したい方は、M&A-WEBの無料相談(売主完全無料)へ。 店舗業態別の相場と買い手傾向を踏まえた事前査定を、売主完全無料で1〜2週間で提示します。閉店ではなく譲渡を選んだことで数百万円の手取り差を生み出した事例は、廃業と譲渡の比較を扱った廃業 vs 事業譲渡 — どちらが手元に残るかでも具体的に紹介しています。
食品衛生法と営業許可承継の論点
飲食店M&Aで最も実務的な論点となるのが、食品衛生法に基づく営業許可の承継です。事実ベースで整理します。
飲食店営業許可は事業者単位
飲食店営業許可は、食品衛生法に基づき各都道府県の保健所が個別事業者(個人または法人)に対して発行する許可です。許可は事業者単位で発行されるため、M&Aで譲受者が変わる場合、譲受者は原則として新規許可の取得が必要となります。
具体的には、居抜き売買・事業譲渡で個人→個人・個人→法人・法人→個人・法人→法人のいずれの形態でも、譲受者は新たに営業許可を申請し、保健所の施設基準審査を経て許可を取得します。許可申請から取得までは通常2週間〜1か月程度かかるため、クロージング日と新規許可取得日のタイミング調整が必要です。営業許可の取得前に営業を開始すると食品衛生法違反となるため、引継ぎ期間中の営業継続には注意が必要です。
株式譲渡なら法人格維持で営業許可が継続
例外として、株式譲渡(法人格を維持したまま株主が変わるスキーム)では、法人事業者そのものは変わらないため、営業許可は新規取得不要で継続されます。役員変更があった場合は、保健所への「変更届」の提出で対応するのが標準です(自治体により取扱が異なる場合があるため、所管保健所への事前確認が必須)。
このため、営業許可承継の手続き負担を最小化したい場合、特に風営法対象外でも複雑な施設基準が適用される業態(例:大規模厨房を持つ店舗・特殊な食品製造を併設する店舗)では、株式譲渡が選ばれることがあります。
個人→個人の相続による承継
個人事業の飲食店オーナーが死亡した場合、相続人が事業を承継する際は、相続による営業者地位の承継として「営業者地位承継届」を保健所に提出することで、既存の営業許可がそのまま引き継がれる規定があります(食品衛生法施行令第34条の6)。これはあくまで「相続」のケースで、生前贈与や売買では適用されない点に注意が必要です。
HACCP義務化(2021年〜)の影響
2018年の食品衛生法改正で、2021年6月以降、すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されました(小規模事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が適用)。これに伴い、飲食店M&Aでも次の対応が必要となります。
第一に、譲渡対象店舗のHACCP衛生管理計画書・実施記録の引継ぎ。第二に、譲受者が新規許可を取得する際の衛生管理計画書の再策定(自社の運用に合わせて再構築)。第三に、譲受者側のHACCP研修受講記録の確認です。HACCP対応が不十分な店舗を譲り受ける場合、改善コストを譲渡額から差し引く交渉が必要になることがあります。
営業許可の残存期間と「許可残存期間が短い物件」
飲食店営業許可の有効期間は通常5〜8年(自治体により異なる)です。譲受者が新規取得する際の許可有効期間は新規取得時から起算されるため、譲渡時点で売り手側の許可残存期間が短いことは譲受者にとって直接の不利益にはなりません。
ただし、許可残存期間が短い物件は、過去の保健所立入検査・営業許可更新時の指摘事項・施設改修履歴を確認しておくことが、施設基準への適合性判断の参考になります。買収DDの一環として、所管保健所への事前相談(譲受者目線での施設基準確認)を実施するのが標準です。
保健所への事前相談が必須 — 断定的判断は禁物
営業許可の承継・新規取得・施設基準適合の最終判断は、所管保健所が個別に行います。本記事の記述は一般的な整理であり、「絶対に引き継げる」「必ず新規許可が取得できる」といった断定はできません。M&Aの初期段階で所管保健所への事前相談を実施し、店舗ごとの個別条件を確認することが必須です。
風営法対象店舗(キャバクラ・クラブ・スナック深夜営業等)は、本記事の対象外です。風営法に基づく営業許可は譲渡そのものが認められない構造を持ち、譲受者は新規許可取得が必須となるなど、一般飲食店とは規制構造が大きく異なります。風営法対象店舗のM&Aは、風営法に詳しい弁護士・行政書士への個別相談を強く推奨します。
飲食店M&Aの税務と手取り試算
飲食店M&Aの税務は、売り手の経営形態(個人事業か法人か)と選択スキーム(居抜き・事業譲渡・株式譲渡)によって大きく変わります。方法論と試算例を整理します。
スキーム別の税務取扱
個人事業主が事業譲渡する場合:
譲渡対象資産の譲渡損益は、資産の種類によって次のように区分されます。土地・建物・営業権は譲渡所得(総合課税、保有期間5年超なら長期譲渡所得)、棚卸資産(食材・酒類・備品在庫)は事業所得、固定資産(厨房機器・什器)は譲渡所得として扱われます。所得税・住民税の合計税率は所得金額に応じて15〜55%程度となります。消費税は事業譲渡が課税取引のため、譲渡額に対して消費税が課税されます(個人事業主が課税事業者の場合)。
法人が事業譲渡する場合:
譲渡損益は法人の事業年度の益金・損金として法人税の課税対象となります。実効税率は中小法人で約33〜34%(資本金1億円以下、所得800万円超部分)です。受領した譲渡対価は法人内に留まるため、株主に分配する際は配当課税が別途発生します。
個人株主が株式譲渡する場合:
株式譲渡所得は申告分離課税で、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%、合計20.315%の固定税率です。事業譲渡(個人事業主または法人)と比べると、特に高所得帯では税負担が大幅に軽くなります。
法人株主が株式譲渡する場合:
株式譲渡損益は法人税の課税対象となります。実効税率は約33〜34%です。
消費税の扱い
事業譲渡は資産の対価としての譲渡となるため、課税事業者間の取引では消費税が課税されます(棚卸資産・固定資産・営業権の譲渡対価それぞれに10%課税)。一方、株式譲渡は有価証券の譲渡となり、消費税は非課税です。譲渡額が大きい案件では消費税の影響も無視できないため、スキーム選択の判断軸の1つとなります。
手取り試算例 — 譲渡額1,000万円ケース
譲渡額1,000万円(うち営業権800万円・造作200万円・棚卸資産除く)の飲食店を、3スキームで譲渡した場合の手取り試算を比較します(個人事業主または個人株主、簡易試算)。
| スキーム | 譲渡額 | 仲介手数料(10%) | 税金(概算) | 手取り(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 居抜き売買(個人事業、造作200万円のみ) | 200万円 | -20万円 | -約30万円 | 約150万円 |
| 事業譲渡(個人事業、譲渡所得15%試算) | 1,000万円 | -100万円 | -約120万円 | 約780万円 |
| 株式譲渡(個人株主、20.315%課税) | 1,000万円 | -100万円 | -約183万円 | 約717万円 |
上記は所得控除・取得費・経費を簡略化した概算です。実際の税額は所得規模・他の所得との合算・取得費の有無・経費按分によって変動するため、必ず税理士の試算を経たうえで判断します。
事業譲渡と株式譲渡の手取り差は、譲渡所得の所得規模と総合課税の限界税率によって変わります。年間総所得が低めの個人事業主では事業譲渡の方が有利になることもありますが、年間総所得が4,000万円超の高所得帯では株式譲渡の20.315%の方が大幅に有利となります。
税務判断は税理士同席が必須
上記の試算は方法論・税率水準を理解するための概算であり、個別案件の実務税額算定は税理士の個別相談が必須です。本記事の試算結果はあくまで参考であり、実務税額とは異なる可能性があります。スキーム選択の最終判断は、仲介担当と税理士が同席する場で複数シナリオの手取り試算を比較したうえで行います。
居抜き売却 vs 事業譲渡 vs 株式譲渡、手元に残る金額を仲介担当と税理士同席で確認したい方は、M&A-WEBの無料相談(売主完全無料)へ。 案件規模に応じた税理士紹介・同席手配も対応しています。
【内章】事業承継時の届出書 — 個人事業の飲食店を譲渡するときの書類一覧
個人事業の飲食店を譲渡する際は、税務署・都道府県税事務所・市区町村・保健所への複数の届出が必要です。書類・提出先・期限を一覧で整理します。
個人事業の飲食店を譲渡する場合の届出書類
個人事業の飲食店オーナーが事業譲渡で店を売却する場合、売り手・買い手それぞれが次の届出を行います。
売り手側(譲渡後):
第一に、個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届として)を税務署に提出します。譲渡日(廃業日)から1か月以内が期限です。「廃業日」と「廃業の事由」を記載し、「廃業」にチェックを入れます(国税庁 個人事業の開業・廃業等届出書)。
第二に、所得税の青色申告承認を受けていた場合は所得税の青色申告の取りやめ届出書を提出します。廃業年の翌年3月15日までが期限です。
第三に、消費税の課税事業者だった場合は事業廃止届出書を提出します。
第四に、給与支払事務所等を開設していた場合は給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(廃止として)を提出します。
第五に、所轄の都道府県税事務所への廃業届(事業税の関係)を提出します。期限は自治体により異なり、譲渡後10〜15日以内のことが多くあります。
買い手側(譲受け後):
第一に、個人事業の開業・廃業等届出書(開業届として)を税務署に提出します。譲受日(開業日)から1か月以内が期限です。
第二に、青色申告を選択する場合は所得税の青色申告承認申請書を提出します。開業日から2か月以内が期限です。
第三に、個人事業開始申告書(都道府県により名称が異なる)を都道府県税事務所に提出します。期限は自治体により異なり、譲受け後15日以内のことが多くあります。「個人事業税」の課税対象者として登録される手続きです。
第四に、市区町村への個人事業開始届(自治体により様式・名称が異なる)を提出することがあります。
第五に、従業員を引き継ぐ場合は給与支払事務所等の開設届を税務署に提出します。事業開始から1か月以内が期限です。
届出書類一覧表(売り手・買い手の対応)
主要な届出を1つの表で整理します。
| 届出書 | 提出する側 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届) | 売り手 | 所轄税務署 | 廃業日から1か月以内 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 買い手 | 所轄税務署 | 開業日から1か月以内 |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 売り手(青色申告者) | 所轄税務署 | 廃業年の翌年3月15日まで |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 買い手(青色希望) | 所轄税務署 | 開業日から2か月以内 |
| 事業廃止届出書(消費税) | 売り手(課税事業者) | 所轄税務署 | 廃業後速やかに |
| 給与支払事務所等の廃止届 | 売り手(給与支払あり) | 所轄税務署 | 廃業後1か月以内 |
| 給与支払事務所等の開設届 | 買い手(給与支払予定) | 所轄税務署 | 開業日から1か月以内 |
| 個人事業税の廃業届 | 売り手 | 所轄都道府県税事務所 | 自治体規定(10〜15日以内が多い) |
| 個人事業開始申告書 | 買い手 | 所轄都道府県税事務所 | 自治体規定(15日以内が多い) |
| 飲食店営業許可申請書 | 買い手 | 所轄保健所 | 営業開始前(取得まで2週間〜1か月) |
| HACCP衛生管理計画書 | 買い手 | 自社で策定(保健所への提示は許可申請時) | 営業許可申請時 |
期限・様式は自治体・税務署により異なるため、所轄機関への事前確認を必ず行います。
関連する税務上の選択届出
買い手側が事業を承継したタイミングで、税務上の選択を行うための届出があります。
消費税課税事業者選択届出書: 開業初年度に課税事業者を選択する場合(インボイス制度対応、課税仕入を控除したい場合等)に提出します。原則として課税期間の初日の前日までですが、開業年は開業年中の提出が認められる特例があります。
消費税簡易課税制度選択届出書: 簡易課税を選択する場合に提出します。
減価償却資産の償却方法の届出書: 買収時に承継した固定資産(厨房機器・什器)の減価償却方法を選択する場合に提出します。原則として最初の確定申告期限までです。
これらの選択届出は、譲受後の税負担に直接影響するため、買い手側は税理士と相談のうえで最適な届出時期と内容を決定します。
食品衛生法関連の届出 — 飲食店営業許可の新規取得
事業譲渡で店舗を承継した場合、買い手は所轄保健所へ飲食店営業許可申請書を提出します。申請から許可取得まで通常2週間〜1か月かかるため、クロージング日との時間調整が必要です。
申請に必要な主要書類は次のとおりです。営業許可申請書、施設の構造及び設備を示す図面、食品衛生責任者の資格を証する書類(食品衛生責任者養成講習会修了証等)、水質検査成績書(井戸水使用の場合)、登記事項証明書(法人の場合)です。HACCP衛生管理計画書も併せて提示を求められることがあります。
保健所の立入検査では、施設の床・壁・天井の構造、シンク・手洗いの設置、冷蔵庫の温度管理、排水設備、害虫防除、トイレ等が施設基準に適合しているかを確認されます。基準不適合の指摘があった場合は、改修工事を経て再検査となり、許可取得が遅れる可能性があるため、クロージング前の事前相談が重要です。
公式情報の参照先
各届出の最新様式・期限・記載方法は、公式サイトで確認します。個人事業の開業・廃業等届出書は国税庁の届出書様式ページ、個人事業開始申告書は所轄の都道府県税事務所、飲食店営業許可申請は所轄保健所、HACCP衛生管理計画書は厚生労働省 HACCP啓発ページが公式情報源です。
個人事業の飲食店譲渡における届出運用は、個人事業全般の譲渡論点と共通する部分が多いため、別記事の「個人事業の譲渡全般ガイド」(後続記事で詳述予定)と併せて参照することを推奨します。
サービス比較 — M&A仲介・飲食店特化マッチング・閉店買取業者
飲食店M&Aを進める際の主要な相談先は、M&A仲介・飲食店特化マッチングプラットフォーム・閉店買取業者の3類型に整理できます。5軸で比較します。
サービス比較表(5軸 × 3類型)
| 比較軸 | M&A仲介(M&A-WEB等) | 飲食店特化マッチング | 閉店買取業者 |
|---|---|---|---|
| 価格水準 | 営業権込みで年買法ベースの中央値〜上位レンジ | 物件価値中心、業態マッチで安定 | 厨房機器の中古買取価格水準(数十万円〜) |
| 取引リスク | 仲介担当者がDD・契約書を支援、低 | プラットフォームのテンプレ提供、中 | 業者側の査定基準依存、売主の交渉余地小 |
| DD精度 | 財務・法務・労務・営業許可まで一気通貫 | 物件側DDが中心、税務は別途 | DD概念なし、現物確認のみ |
| 契約書サポート | 専門家ネットワーク(弁護士・税理士・行政書士)と連携 | テンプレ契約書中心 | 動産売買契約書のみ |
| エスクロー | 仲介担当が決済を管理、トラブル時の調整可 | プラットフォームのエスクロー機能 | 即時決済(買取代金を業者が直接支払い) |
それぞれの特徴と適合層を順に整理します。
M&A仲介(M&A-WEB等)
M&A-WEBは、店舗系オフライン事業(飲食店・美容室・店舗ビジネス等)とWeb系事業の両方を扱うM&A仲介プラットフォームです。売主完全無料(売主は仲介手数料を負担しない)・買主成約報酬制の料金体系で、業態を跨いだ仲介担当者が売り手・買い手双方の論点を整理します。営業権込みの事業譲渡・株式譲渡で年買法ベースの相場感を引き出しやすく、譲渡額500万円〜数千万円規模の中小飲食店M&Aに適合します。
バトンズ(batonz.jp)は汎用M&Aマッチングプラットフォームとして、飲食店も含む幅広い業種を扱います。買い手登録者数が26万人以上と多く、買い手探しに強みがあります。一方、業種特化の知見は限定的なため、業態固有の論点(営業許可承継・賃借権・HACCP対応等)は売り手側で別途専門家を確保する必要があります。
飲食店特化マッチングプラットフォーム
inshokuten.comは飲食店特化のマッチングプラットフォームで、飲食店物件・居抜き案件の取扱に強みがあります。物件側の情報(立地・賃料・坪数・席数)が整理されており、業態転換前提の買い手が物件を探す用途に適合します。営業権込みの事業譲渡というよりは、居抜き売買・物件権利の譲渡が中心となるため、相場感は物件価値ベースです。事業全体を譲渡する場合は別途M&A仲介を併走させる構成が現実的です。
なお、Webサイト売買プラットフォームの「ラッコM&A」は、2024年4月にラッコ株式会社からラッコM&A株式会社(運営者変更)へ事業譲渡され、現状はWebサイトM&A領域のみを取り扱う構成となっています。飲食店M&Aの取り扱いは行っていないため、本表からは除外しています。
閉店買取業者
閉店買取業者は、閉店を決めた飲食店から内装造作・厨房機器・什器を買い取るサービスを提供します。買取査定は厨房機器の中古市場価値が中心で、内装造作・客席家具・看板等は値段が付きにくく、買取総額は数十万〜200万円程度にとどまることが多くあります。原状回復義務・賃貸契約解約損害金は売り手負担となるため、§7で示したとおり、手取りはゼロまたはマイナスとなるケースが多い構造です。
事業として営業継続中の店舗を「閉店」ではなく「事業譲渡」で売却した場合の手元残額の差は、§7のケース比較で示したとおり数百万円〜1,000万円規模になることがあります。閉店を決める前に、まずM&A仲介での事業譲渡可能性を相談することが、最終的な手取りを大きく変える可能性があります。
サービス選定の意思決定ガイド
飲食店M&Aの相談先を選ぶ際の判断軸は次のとおりです。営業継続中で営業権込みの譲渡を望む場合は、M&A仲介が第一選択肢。物件権利・居抜き造作のみを譲渡する場合は、飲食店特化マッチング。閉店買取業者の見積もりを取る前に、まずM&A仲介で事業譲渡の可能性を確認することを推奨します。
FAQ — 飲食店M&Aのよくある質問
飲食店M&Aに関して検索ユーザーから繰り返し寄せられる質問を8つ取り上げ、簡潔に回答します。本セクションはFAQ Schemaの対象として構造化される想定です。
飲食店のM&Aの流れは?
飲食店M&Aの売り手側の標準プロセスは5ステップです。Step 1: 売却準備(財務整理・店舗評価・引継ぎ範囲確定)、Step 2: 仲介相談とノンネーム化、Step 3: マッチングとトップ面談、Step 4: 基本合意(LOI)とデューデリジェンス、Step 5: 最終契約とクロージング、の順に進みます。準備からクロージングまで標準で4〜6か月かかります。詳細は§3で説明しています。
飲食店の売却相場はいくらですか?
業態と月商規模で大きく変動します。中央値の目安レンジは、月商300〜700万円の居酒屋で300〜800万円、ラーメン店で400〜1,000万円、焼肉店で500〜1,500万円、月商700〜1,500万円のカフェで700〜1,800万円、ファインダイニングで1,500〜4,000万円といった水準です。算定の基本式は「直近年間営業利益 × 営業権年数(1〜3年)+ 譲渡対象資産の簿価」の年買法が主流で、立地・造作の新しさ・賃借権の安定性・ブランド力で個別調整されます。詳細な業態別マトリクスは§4を参照してください。
飲食店のM&Aはいくらで売れますか?
営業利益・立地・賃借権・業態・造作の新しさによって変わりますが、年買法で「直近年間営業利益 × 1〜3年 + 造作価値」が基本式です。具体例として、月商400万円・年間営業利益240万円の居酒屋では、営業権2年で480万円 + 造作価値100万円程度 = 580万円前後が中央値レンジとなります。実際の譲渡額は買い手のニーズ・複数候補の有無・賃借権の安定性などで上下するため、仲介担当者の個別査定が必要です。
飲食店の閉店買取と事業譲渡はどちらが手元に残りますか?
営業継続中の店舗では、多くのケースで事業譲渡の方が手元に残る金額が大きくなります。閉店買取は厨房機器の中古買取が中心で数十万〜200万円程度に留まり、原状回復費(坪3〜10万円)・賃貸契約解約損害金が売り手負担となるため、手取りはゼロまたはマイナスになることが多い構造です。一方、事業譲渡では営業権込みで売却でき、年買法ベースで数百万〜数千万円の譲渡額が見込めます。具体的なケース比較は§7で試算しています。閉店を決める前に、M&A仲介で事業譲渡の可能性を相談することを推奨します。
居抜き売買と事業譲渡と株式譲渡はどう違いますか?
譲渡対象範囲・営業許可の引継ぎ・税務・簿外債務リスクの4軸で大きく異なります。居抜き売買は造作・什器が中心で営業権は含まない場合が多く、事業譲渡は営業権・造作・取引契約を選択的に承継し、株式譲渡は法人格ごと(資産・負債・契約・許可すべて)承継します。営業許可は居抜き売買・事業譲渡では譲受者が新規取得、株式譲渡では法人格維持で継続します。税務は個人株主の株式譲渡が20.315%の分離課税で最軽となり、事業譲渡は譲渡所得(総合課税)・法人税で個別計算となります。判定フローは§6で5段階の質問形式に整理しています。
飲食店の営業許可はM&Aで引き継げますか?
飲食店営業許可は事業者単位で発行されるため、譲受者は原則として新規許可の取得が必要です。居抜き売買・事業譲渡では、譲受者が所轄保健所に新規申請を行い、施設基準審査を経て許可を取得します。例外として株式譲渡では法人格が維持されるため許可は継続し、役員変更届のみで対応します。個人事業主が死亡した場合の相続では、「営業者地位承継届」で既存許可を承継できる規定があります(食品衛生法施行令第34条の6)。「絶対に引き継げる」「必ず取得できる」といった断定はできないため、M&A初期段階で所管保健所への事前相談を必ず実施してください。
飲食店を売却した場合の税金は?
スキームと経営形態で大きく変わります。個人事業主の事業譲渡は譲渡所得(総合課税)・棚卸資産は事業所得で、税率は所得規模に応じて15〜55%程度。法人の事業譲渡は法人税課税で実効税率約33〜34%。個人株主の株式譲渡は20.315%の申告分離課税(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)で固定税率です。消費税は事業譲渡が課税取引、株式譲渡が非課税です。スキーム選択の最終判断は、税理士同席のもとで複数シナリオの手取り試算を行ったうえで決定します。詳細は§9で試算例を提示しています。
個人事業の飲食店を譲渡するとき廃業届と開業届はどう出しますか?
売り手は廃業後1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)」を所轄税務署に提出し、青色申告者は「青色申告の取りやめ届出書」を翌年3月15日までに提出します。買い手は譲受後1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を所轄税務署に提出、青色希望の場合は開業日から2か月以内に「青色申告承認申請書」を提出、譲受後15日以内(自治体により異なる)に「個人事業開始申告書」を都道府県税事務所に提出します。さらに買い手は所轄保健所への飲食店営業許可申請(取得まで2週間〜1か月)も必要となります。詳細な書類一覧は§10の表を参照してください。
まとめ — 飲食店M&Aを次の一歩につなげるために
飲食店M&Aは、飲食店事業を居抜き売買・事業譲渡・株式譲渡のいずれかのスキームで第三者に承継する取引の総称で、スキーム選択・営業許可承継・賃借権処理・税務対応の組み合わせで売り手・買い手双方の手取り・引継ぎ範囲が大きく変わります。本記事では市場背景/売却プロセス5ステップ/業態別相場マトリクス/買収側のDDチェックリスト/3スキーム判定フロー/閉店買取の代替試算/食品衛生法と営業許可承継/税務と手取り試算/届出書一覧/サービス比較までを一気通貫で整理しました。
飲食店M&Aを次の一歩につなげるための3原則は次のとおりです。第一に、スキーム選択で手取りが大きく変わります。 個人事業か法人か、営業権込みか造作のみか、法人格を残すかで最適スキームが分岐します。第二に、閉店買取より譲渡を先に検討してください。 営業継続中の店舗では、事業譲渡で営業権込みで売却した方が手元に残る金額が数百万円規模で大きくなるケースが少なくありません。第三に、営業許可・賃借権の承継論点を事前に保健所・賃貸人と確認してください。 営業許可の新規取得には2週間〜1か月、賃貸人承諾交渉は数週間〜数か月かかるため、クロージング日からの逆算で早期に着手することが標準です。
飲食店オーナー(売り手)で売却を検討している方は、まず§4の業態別相場レンジで譲渡額の目安を確認し、希望売却額と相場の乖離を把握することをおすすめします。閉店を考えている方は、§7の試算比較を参考に、閉店買取業者の見積もりを取る前にM&A仲介での事業譲渡可能性を確認してください。買い手側で飲食店買収を検討している方は、§5のDDチェックリスト7項目を満たすDD体制を整え、賃借権・営業許可・労務の論点を早期に確認することが、買収後のトラブル回避につながります。
親カテゴリの店舗系オフライン事業譲渡全般の論点は店舗・オフライン事業譲渡の総合ガイドで扱っています。廃業と事業譲渡の手取り比較は廃業 vs 事業譲渡 — どちらが手元に残るか、Web系M&Aの市場と取引方式はサイト売買とは|M&A視点で読み解く市場・取引方式・価格・サービス選びの完全ガイド、査定方法論の参考としてはサイト売買の査定方法が併走資料として活用できます。なお、後続記事として飲食店業態別の相場詳細、買収側の実務、経営権譲渡の法的論点、居抜き売買、美容室M&A、個人事業の譲渡全般、財産譲渡などの spoke 記事を順次公開予定です。本 hub から派生する spoke が公開され次第、内部リンクを更新します。
飲食店M&Aの売却・買収相談は、M&A-WEBの無料相談(売主完全無料)へ。 売主完全無料・買主成約報酬制の料金体系で、店舗業態別の相場と買い手傾向を即日提示します。閉店を考えている方も、まず事業譲渡の可能性をご相談ください。居抜き売却 vs 事業譲渡 vs 株式譲渡のどちらが手元に残るか、業態別の相場と買い手傾向を仲介担当に無料でご相談いただけます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引・税額・法的判断を保証するものではありません。個別案件の最終判断は、弁護士・税理士・公認会計士・行政書士などの専門家への相談を推奨します。風営法対象店舗(キャバクラ・クラブ・スナック深夜営業等)は本記事の対象外であり、別途風営法に詳しい専門家への相談を推奨します。営業許可承継・賃借権の処理・税務判断は、本記事の記述を参考としつつ、所管保健所・賃貸人・税理士への事前相談を必ず実施してください。