この記事の目次
2025年の休廃業・解散企業の49.1%が黒字。利益が出ていても事業が続くとは限らない背景を、経営者の高齢化と承継の選択肢から読み解く。
なぜ利益だけでは残せない?
49.1%
2025年 休廃業・解散企業に占める黒字企業の割合
出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」p.50(元データは帝国データバンク調べ)
資料の公表日:
この記事でわかること
「黒字廃業」は珍しい例外ではない。ただし、黒字企業がすべて売却可能だったともいえない。統計で確認できる事実と、事業の引き継ぎを難しくする条件を分けて読む。
答えの要点:利益が出ていても、経営者が続けられない、利益が経営者個人に頼っていて引き継げない、続けるために追加の資金や人材が要る、といった条件が重なると事業は残りにくい。黒字であることは、第三者に引き継げることの保証にもならない。ただし統計が示すのは「休廃業・解散した企業の約半数が黒字だった」という事実までで、個々の企業がなぜ廃業したかではない。
会社をたたむのは、赤字になったときだけではない。2026年版中小企業白書によれば、2025年に休廃業・解散した企業のうち、49.1%は黒字だった。数字だけを見れば「利益があるのに、なぜ続けないのか」と思うかもしれない。
だが、利益が出ていることと、次の経営者がその事業を続けられることは別の問題だ。誰が仕事を回しているのか。顧客は社長個人についているのか。必要な設備投資はどの程度か。経営者が退いた後も利益を生み出せるか。今回の統計を入口に、事業を残せる条件を考える。
01|黒字の休廃業が49.1%。まず数字を正確に読む
49.1%は「2025年に休廃業・解散した企業のうち、直前の決算で黒字だった企業の割合」だ。母数は休廃業・解散した企業で、黒字企業の49.1%が廃業したという意味ではない。
黒字企業の割合|2025年
49.1%
休廃業・解散企業の損益別構成比
休廃業・解散件数|2025年
67,949件
2026年版中小企業白書の系列(帝国データバンク調べ)
出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」p.50(元データは帝国データバンク調べ)。黒字・赤字は休廃業・解散直前の決算の当期純利益で判定。休廃業・解散した企業の内訳であり、全黒字企業の半数が廃業したという意味ではない。
一方、2024年の黒字割合は51.1%で、2025年は49.1%へ低下した。したがって「黒字廃業が急増した」という表現は、この割合だけからはできない。割合の低下と件数の推移も分けて考える必要がある。白書の系列では、件数は2023年に増加に転じ、2025年は67,949件と前年(69,019件)からやや減った。
数字の読み違いに注意
東京商工リサーチの2025年休廃業・解散件数は67,210件(前年比7.2%増)。白書の67,949件(帝国データバンク調べ。前年比1.6%減)とは集計の定義・対象が異なり、件数の増減の向きも逆だ。同じ系列の数字として混ぜず、本記事の主要指標は白書の系列に統一する。
02|黒字でも終わる。利益以外に何が事業継続を左右する?
統計が示すのは「黒字の状態でも退出する企業が相当数ある」という事実であり、個々の企業が廃業した原因そのものではない。原因を考える際には、少なくとも次の論点を分ける必要がある。
経営者が続けられない
経営者の高齢化や健康上の理由は、業績とは別に経営継続を難しくする。中小企業白書では、休廃業・解散企業の経営者の高齢化が続いていることが示されている。2022年版小規模企業白書の調査(感染症流行後に廃業を意識した小規模事業者が対象)では、最も多い理由は業績の悪化(45.1%)だったが、高齢化・健康上の理由や後継者の不在も合わせて3割程度あった。
利益がそのまま次の経営者へ移るわけではない
利益が社長の営業力や人間関係に依存していれば、引退と同時に顧客や売上が減る可能性がある。会社の損益計算書に黒字が載っていても、買い手が引き継いだ後の収益力は別途確かめなければならない。
継続には追加の資金・人材が必要かもしれない
設備の更新、採用、システム刷新、許認可の維持などに追加負担が見込まれる場合、現在の黒字だけで将来の事業継続を判断できない。これは一般的な検討論点であり、今回の休廃業企業の何割に該当したかを示すデータではない。
03|黒字なら売れる? 会社の利益と「引き継げる価値」は違う
「黒字なら買い手が見つかったはずだ」と考えるのも早計だ。買い手は過去の利益だけでなく、引き継ぎ後の売上、従業員、顧客契約、資産、負債、事業運営の再現性などを見る。
| 確認すること | なぜ重要か |
|---|---|
| 顧客・取引先との関係 | 契約や受注が経営者の交代後も継続するか |
| 人材・運営体制 | 経営者以外が日常業務を担えるか |
| 実際の収益力 | 役員報酬・一過性収益などを整理した後も利益が残るか |
| 借入・保証・簿外債務 | 引き継ぐ負担と取引条件にどう影響するか |
| 設備・契約・許認可 | 事業譲渡等で移転できるものとできないものを区別できるか |
これらが整えば必ず売れるというわけではない。業界環境、価格希望、買い手との条件一致なども関係する。「現在黒字であること」は検討材料の一つであって、売却成立の保証ではない。
04|「後継者不足」の一言では説明できない
2026年版白書では、後継者不在率は全体として低下傾向にある一方、60歳以上の経営者が過半数を占める状況が示されている。後継者不在率の改善と、高齢化に伴う退出は同時に起こり得る。
また、廃業の選択には経営者自身の希望もある。親族に継がせたい企業もあれば、自分の代で事業を終える意向を持つ事業者もいる。したがって「M&Aを知らなかったから廃業した」と一律に説明することはできない。
この記事が答えられないこと
2025年の黒字休廃業企業のうち、何社が売却を検討し、何社が買い手不在で廃業したのか。この白書の数字だけでは分からない。検討率や売却可能性を49.1%から逆算することもできない。
05|事業を残す選択肢は、利益があるうちに検討できる
今回の数字から読み取れるのは、「黒字であること」と「事業が続くこと」は別の条件だという点だ。経営者の引退が近づいてから引き継ぎを考えるのではなく、顧客との関係、業務の標準化、後継人材、契約の整理などを早い段階で把握しておくことに意味がある。
親族内承継、役員・従業員への承継、第三者への売却、計画的な廃業は、それぞれ異なる選択肢だ。重要なのは黒字という一点で判断するのではなく、今後の継続可能性と当事者の希望を並べて検討することだろう。
参照資料
- 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要 p.50–51」(2025年の休廃業・解散件数と黒字の割合(p.50 図1)、経営者年齢と後継者不在率(p.50–51))
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書 第1部第1章第7節(休廃業・解散)」(第1-1-41図〜第1-1-43図(件数・黒字の割合・経営者年齢))
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書 第1部第1章第8節(事業承継)」(第1-1-44図・第1-1-45図(後継者不在率・経営者の年齢分布))
- 帝国データバンク「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年)」(白書の休廃業・解散件数と黒字の割合の元データ(2026年1月9日公表))
- 東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散企業』動向調査」(白書(帝国データバンク)とは別の集計。件数の比較にだけ使う)
- 中小企業庁「2022年版小規模企業白書」(第2-1-7図「廃業を意識した理由」)
- 中小企業庁「2025年版中小企業白書・事業承継」(第1-1-69図(事業承継の意向))
- 公表事実
- 数値・日付・取引条件は、上の資料に書かれていることだけを載せています(資料の公表日 2026年4月24日)。
- 編集部の分析
- 「どう読むか」は M&A-WEB 編集部の解釈です。資料から言えることと区別して書いています。
- 確認できないこと
- 資料に無いこと(取得価格の内訳、個々の企業の事情など)は推測で埋めず、そう書いています。
一次資料との照合:2026年10月22日