事業承継とは|3つの方法・進め方とやることチェックリスト

更新: 2026年6月9日

事業承継とは|3つの方法・進め方とやることチェックリスト

事業承継とは、会社や個人事業の「経営」「資産」「知的資産(ノウハウ・取引先・信用)」を後継者へ引き継ぐことをいいます。

承継の方法は大きく「親族内承継」「従業員(社内)承継」「M&A(第三者承継)」の3つに分かれ、準備には一般に5〜10年かかるとされます。本記事では、事業承継の意味と「事業継承」との違いから、3つの方法とスキームの比較、5ステップの進め方、やることチェックリスト、使える補助金・税制、相談先までを、中小企業庁などの公的情報をもとに体系的に整理します。「何から手をつければよいか分からない」という経営者の方が、自社に合った進め方の全体像をつかめる構成です。

後継者がいない、引退時期が近づいてきた、税金や手続きの見当がつかない——こうした悩みは、決してあなただけのものではありません。まずは全体像を理解し、最初の一歩を踏み出すための地図として活用してください。

§1 事業承継とは|「事業継承」との違いと3つの構成要素

事業承継という言葉は日常的に使われますが、「事業継承」との違いや、具体的に何を引き継ぐのかは意外と整理されていません。まずは定義と、承継する3つの要素を確認します。

事業承継とは、会社や個人事業の経営・資産・知的資産を、現経営者から後継者へ引き継ぐことをいいます。 単に社長の椅子を譲るだけではなく、経営権という「人」の側面、株式や事業用資産という「資産」の側面、そして取引先との関係やノウハウといった「知的資産」の側面を、総合的に引き継ぐ取り組みです。

事業承継のゴールは、現経営者が築いてきた事業を、その価値を損なうことなく次世代へつなぎ、雇用や取引関係、地域経済を維持することにあります。経営権の移転がいわば広義の到達点ですが、そこに至るまでには、後継者の選定や育成、株式・資産の移転、関係者の理解の獲得など、多くのプロセスを段階的に進める必要があります。だからこそ、承継には一般に長い準備期間が必要とされるのです。

以下では、まず混同されやすい「承継」と「継承」という表記の違いを整理し、続いて承継すべき3つの要素を具体的に見ていきます。

§1-1 「事業承継」と「事業継承」はどちらが正しい?

検索すると「事業承継」と「事業継承」の両方が見つかり、どちらが正しいのか迷う方も少なくありません。結論から言えば、公的文書では「事業承継」が用いられており、一般に正式な表記とされます。

語義の面では、「承継」は地位・権利・義務などを受け継ぐという法的なニュアンスを含む言葉で、「継承」は前の人から受け継ぐことを表すより一般的な言葉です。中小企業庁や国税庁などの公的機関が示す制度・ガイドラインでは、いずれも「事業承継」という表記が採用されています。たとえば中小企業庁の「事業承継ガイドライン」や、税制上の「事業承継税制」など、制度名称も「承継」で統一されています。

ただし実務上は、「事業継承」と記載・検索しても意味はおおむね通じ、同義として扱われています。本記事では公的表記にならい「事業承継」で統一しますが、「事業継承」で調べてきた方も、そのまま読み進めていただいて問題ありません。

§1-2 承継する3要素(人・資産・知的資産)

事業承継では、何を引き継ぐのかを「人」「資産」「知的資産」の3要素で整理すると理解しやすくなります。株式や不動産といった目に見える資産だけでなく、目に見えない「知的資産」の承継が見落とされやすい点に注意が必要です。

承継する要素 具体例 引き継ぎの難しさ
人(経営) 経営権、経営者としての地位、後継者の選定・育成、リーダーシップ 後継者の確保・育成に時間がかかる
資産 自社株式、事業用不動産、設備、運転資金、許認可 株式の評価・移転、相続・贈与・売買の税負担
知的資産 ノウハウ・技術、取引先・顧客との関係、信用・ブランド、従業員、組織風土 形がなく、引き継ぎ方が定まりにくい

このうち、後継者の育成(人)と知的資産の承継は、時間をかけて少しずつ移していく必要があります。たとえば取引先との信頼関係や、職人的な技術、社内の暗黙知などは、書類で渡せるものではなく、現経営者と後継者が一定期間ともに働く中で受け継がれていくものです。

こうした「目に見えない承継」に時間を要することが、事業承継の準備期間が一般に5〜10年と長くなる大きな理由のひとつです。承継の手順や期間の目安については、後述の§5 事業承継の進め方で詳しく解説します。

§2 なぜ今、事業承継が必要なのか|後継者不在の背景

事業承継が経営課題として強く意識されるようになった背景には、経営者の高齢化と後継者不在という構造的な問題があります。なぜ事業承継が必要なのか、その理由をデータで確認します。

まず、経営者の高齢化が進んでいます。2025年版中小企業白書(第1部第1章第9節「事業承継」)は、「中小企業の経営者年齢の水準は依然として高く、60歳以上の経営者が過半数を占めている」と記述しています(中小企業庁・2025年版中小企業白書)。 経営者の年齢が上がるほど、引退と承継を現実的な課題として検討する必要が生じます。

一方で、後継者を確保できない企業の割合は、近年は改善傾向にあります。帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、2025年の全国・全業種の後継者不在率は50.1%で、前年比2.0ポイント低下し、7年連続で前年水準を下回りました(帝国データバンク・2025年11月21日公表、調査期間2023年10月〜2025年10月)。 約2社に1社はなお後継者が決まっていない計算ですが、改善が続いている点は注目に値します。

後継者の決め方にも変化が見られます。同調査(速報値)では、後継者の決定方法の内訳は内部昇格36.1%、同族承継32.3%、M&Aほか20.6%、外部招聘7.6%で、同族承継が低下し、内部昇格やM&Aほかが伸びる「脱ファミリー化」の傾向が見られます(帝国データバンク・2025年11月21日公表、速報値のため確報で変動しうる)。 かつて主流だった親族への承継だけでなく、従業員への承継や第三者へのM&Aといった選択肢が、現実的な手段として広がっていることがうかがえます。

事業承継が必要とされる理由は、単に経営者個人の引退準備にとどまりません。承継がうまくいかず廃業に至れば、長年培ってきた技術やノウハウ、従業員の雇用、取引先との関係が失われてしまいます。事業を次世代へつなぐことには、雇用・技術・取引網を守るという社会的な意義があるのです。

なお、承継が思うように進まない背景には、後継者不在だけでなく、株式の買取資金、相続税・贈与税の負担、経営者個人保証の引き継ぎといった課題もあります。これらの課題と解決の方向性については、§7 事業承継の課題と後継者の悩み・解決策で詳しく取り上げます。

§3 事業承継の3つの方法|親族内・従業員(社内)・M&A(第三者)

事業承継の方法は、誰に引き継ぐかによって「親族内承継」「従業員(社内)承継」「M&A(第三者承継)」の3つに大別されます。まず3つを一覧で比較し、続いて各方法のメリット・デメリットを詳しく見ていきます。

方法 後継者 対価 難易度 主なメリット 主なデメリット 向くケース
親族内承継 子・親族 贈与・相続が中心(売買もあり) 関係者の理解を得やすい/準備期間を確保しやすい 後継者の資質・意欲、相続・税負担、他相続人との調整 親族に承継意欲のある後継者候補がいる
従業員(社内)承継 役員・従業員 売買が中心(MBO/EBO) 中〜高 事業を理解した人材へ承継できる 株式買取資金、経営者保証の引き継ぎ 信頼できる役員・幹部がいる
M&A(第三者承継) 社外の企業・個人 売買(株式譲渡・事業譲渡) 後継者不在でも事業を残せる/創業者利益・雇用維持 相手探し・条件交渉、仲介手数料 親族・社内に後継者がいない

このほか、従業員や第三者が独立する形での「のれん分け」や、承継を機に新規事業へ挑む「第二創業(独立・創業型)」も、広い意味での承継の一形態として整理できます。たとえば、長年勤めた従業員が事業の一部を引き継いで独立するのれん分けは、従業員承継と独立・創業の中間的な形といえます。

前述のとおり、近年は内部昇格やM&Aによる承継が増え、親族内承継が中心だった時代から「脱ファミリー化」が進んでいます(§2参照)。どの方法が自社に合うかは、後継者候補の有無、財務状況、事業の特性によって異なります。以下、3つの方法をそれぞれ詳しく見ていきましょう。

§3-1 親族内承継のメリット・デメリット

親族内承継は、子どもや親族に事業を引き継ぐ、伝統的な承継方法です。

メリット

  • 従業員・取引先・金融機関など関係者の理解や心情的な納得を得やすい
  • 後継者を早くから決め、長い準備期間と育成期間を確保しやすい
  • 贈与・相続を活用でき、所有と経営を一体で引き継ぎやすい

デメリット

  • 後継者となる親族に経営の資質・意欲があるとは限らない
  • 自社株式の評価額が高いと、相続税・贈与税の負担が重くなる場合がある
  • 後継者以外に相続人がいる場合、遺留分など他の相続人との調整が必要になる

親族内承継では、株式の分散や遺留分、贈与・相続といった論点が生じやすく、株式の移転スキームと税負担の検討が欠かせません。スキームの選び方は§4 事業承継の手段・スキーム、活用できる税制は§8 補助金・税制で解説します。なお、相続税・贈与税の具体的な金額や有利不利の判断は個別事情によって大きく異なるため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。

§3-2 従業員承継(社内・のれん分け・独立)のメリット・デメリット

従業員承継は、役員や従業員に事業を引き継ぐ方法で、経営陣による買収(MBO)や従業員による買収(EBO)の形をとることもあります。のれん分けや社員の独立制度も、この延長線上にある選択肢です。

メリット

  • 事業内容や社内事情を深く理解した人材へ承継できる
  • 従業員や取引先からの信頼を得やすく、引き継ぎが円滑に進みやすい
  • 親族に後継者がいなくても、社内から後継者を確保できる

デメリット

  • 後継者となる従業員に、株式を買い取るだけの資金力がないことが多い
  • 現経営者の個人保証を後継者が引き継ぐ負担が生じる場合がある
  • 経営者としての覚悟・育成に時間を要する

従業員に承継する場合の大きな課題は、株式の買取資金です。金融機関からの借入のほか、後述する補助金・融資制度の活用が検討されます。また、長年勤めた従業員が事業の一部やブランドを引き継いで独立する「のれん分け」や、社員独立制度を整えて承継につなげる方法もあります。経営者個人保証の引き継ぎは大きな負担となりやすく、その解除に向けた論点は§7で取り上げます。

§3-3 第三者承継(M&A)のメリット・デメリット

M&A(第三者承継)は、社外の企業や個人に事業を引き継ぐ方法です。親族や社内に後継者がいない場合でも、事業を存続させられる選択肢として、近年活用が広がっています。

メリット

  • 親族・社内に後継者がいなくても事業を残せる
  • 株式や事業の売却により、現経営者が創業者利益を得られる場合がある
  • 規模の大きな相手に承継できれば、従業員の雇用や取引関係を維持しやすい

デメリット

  • 希望する条件に合う相手(買い手)を探すのに時間がかかることがある
  • 譲渡価格や条件の交渉、デューデリジェンス(買収監査)など専門的なプロセスが必要
  • M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)への手数料が発生する

M&Aで用いられるスキーム(株式譲渡・事業譲渡)の違いは§4で、進め方は§5で解説します。M&Aの進め方は、中小企業庁が示す「中小M&Aガイドライン」に沿って進めるのが基本とされます。M&Aによる事業売却の全体像はM&Aによる事業売却の流れを、M&Aの相談先となる仲介会社の比較・選び方はM&A仲介会社のおすすめ比較ランキングもあわせてご覧ください。

後継者がいなくても、事業を残す選択肢があります。
親族・社内に後継者が見当たらない場合でも、M&Aによる第三者承継であれば、これまで築いてきた事業や従業員の雇用を次の経営者へ引き継げる可能性があります。まずは自社にどんな選択肢があるか、情報収集から始めてみませんか。

後継者不在でも事業を残す選択肢を相談する →

§4 事業承継の手段・スキーム|株式譲渡・事業譲渡・贈与・相続・売買

事業承継の「手段(スキーム)」とは、株式や事業をどのような法的手続きで移転するかの選択です。代表的な株式譲渡・事業譲渡・贈与・相続・売買を比較し、続いてスキームごとに必要な同意・手続きを確認します。

ここで押さえておきたいのは、「誰に承継するか(3つの方法)」と「どう移転するか(スキーム)」は別の軸であるという点です。たとえば同じ親族内承継でも、生前に株式を贈与する方法もあれば、相続によって引き継ぐ方法、有償で売買する方法もあります。一方、M&A(第三者承継)では、株式譲渡や事業譲渡が用いられます。

スキーム 移転対象 対価 主な税務論点 向くケース
株式譲渡 会社の株式(経営権ごと) 有償(売買) 譲渡所得課税 会社をまるごと第三者・従業員へ承継
事業譲渡 事業(資産・負債・契約を個別に) 有償(売買) 法人税・消費税等 一部事業のみを承継・切り出し
贈与 株式・事業用資産 無償 贈与税 親族へ生前に承継
相続 株式・事業用資産 無償(相続) 相続税 親族へ相続で承継
売買 株式・事業用資産 有償 譲渡所得課税等 親族・従業員へ有償で承継

おおまかには、親族内承継では贈与・相続・売買が、第三者承継(M&A)では株式譲渡・事業譲渡が用いられる傾向にあります。中小企業のM&Aでは、会社をまるごと引き継げる株式譲渡が用いられることが多いとされますが、どのスキームが適切かは、税負担・手続き・引き継ぐ範囲によって変わります。

なお、個人事業主の場合は、株式という概念がないため、事業用資産(設備・在庫・屋号・取引先など)を後継者へ承継し、現経営者は廃業届、後継者は開業届を提出するのが基本的な流れです。個人事業の承継・廃業に伴う手続きは個人事業の廃業届の書き方もあわせてご確認ください。株式譲渡と事業譲渡の違いをより詳しく知りたい方は、廃業と事業譲渡の比較も参考になります。

税務の取り扱いはスキームや個別事情によって大きく変わります。具体的な税額計算や、どのスキームが有利かの判断は、税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

§4-1 スキーム別に必要な同意・手続き

スキームによって、株主総会の決議や従業員の転籍同意など、必要な同意・手続きが異なります。ここでは会社法・民法の一般的な考え方を整理します。

スキーム 主に必要となる同意・手続き(一般的な例) 従業員の雇用関係
株式譲渡 株式の譲渡承認(譲渡制限株式の場合は取締役会または株主総会の承認)、株式譲渡契約 会社が雇用主のまま維持されるのが原則
事業譲渡 株主総会の特別決議(重要な事業の譲渡の場合)、取引先・契約の個別の承継手続き 従業員ごとの個別の転籍同意が必要
贈与・相続・売買 株式の移転手続き、(譲渡制限株式の場合)譲渡承認、贈与契約・遺言・売買契約等 会社が雇用主のまま維持されるのが原則

ポイントは、株式譲渡では会社そのものが存続し、従業員との雇用関係は原則として維持される一方、事業譲渡では事業が個別に移転するため、従業員一人ひとりの転籍同意(個別同意)が必要になるという点です。取引先との契約も、事業譲渡では個別に巻き直しが必要になることがあります。

これらの場面では、株主総会議事録、転籍同意書、基本合意書、株式譲渡契約書などの書類を整える必要があります。インターネット上で公開されている同意書のひな形をそのまま流用すると、自社の実態に合わず、後々のトラブルにつながるおそれがあります。書式を用意する際は「作成時の注意点」として内容を確認し、個別の法律判断が必要な場面では弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

Q. 事業承継に株主や従業員の同意は必要ですか?
A. スキームによって異なります。株式譲渡では原則として雇用関係が維持されますが、譲渡制限株式の場合は譲渡承認が必要です。事業譲渡では、重要な事業の譲渡には株主総会の特別決議が、従業員には個別の転籍同意が必要となるのが一般的です。

§5 事業承継の進め方|5ステップで分かる流れ

事業承継は、「いつ・何から・どの順で」進めるかをあらかじめ把握しておくことが大切です。中小企業庁のガイドラインで示される考え方をもとに、事業承継の進め方を5つのステップに整理します。準備には一般に5〜10年かかるとされるため、できるだけ早く着手することが要点です。

  1. 【ステップ1】事業承継の必要性を認識する
    まずは経営者自身が「いつ・誰に・どう引き継ぐか」を考え始めることがスタートです。引退時期から逆算すると、5〜10年前から準備を始めるのが望ましいとされます。

  2. 【ステップ2】経営状況・経営課題を見える化する
    自社の財務状況、事業の強み・弱み、知的資産(取引先・技術・人材)、株式の保有状況などを棚卸しし、現状を客観的に把握します。後継者候補の有無もこの段階で整理します。

  3. 【ステップ3】事業承継に向けて経営改善(磨き上げ)を行う
    把握した課題をもとに、収益力の改善、不要な資産の整理、財務体質の強化、経営者個人保証や個人資産との切り分けなど、引き継ぎやすい状態へと事業を「磨き上げ」ます。これは承継先の選択肢を広げ、M&Aの場合は企業価値を高めることにもつながります。

  4. 【ステップ4】事業承継計画の策定/M&Aの工程を進める
    親族内・従業員承継の場合は、後継者の育成や株式・資産の移転計画を盛り込んだ「事業承継計画」を策定します。M&A(第三者承継)の場合は、仲介会社・FAの選定、相手探し(マッチング)、交渉、デューデリジェンスといった工程を進めます。

  5. 【ステップ5】事業承継を実行する
    計画に沿って、株式・資産の移転、経営権の引き継ぎ、関係者への周知を実行します。M&Aの場合は契約締結とクロージング、承継後の統合(PMI)まで含めて完了を目指します。

承継方法によって工程が分岐する点に注意してください。親族内承継・従業員承継では後継者の育成(ステップ4)に時間をかける一方、M&Aでは相手探しと交渉(ステップ4)が中心になります。いずれの場合も、ステップ1〜3の現状把握と磨き上げは共通の土台です。

Q. 事業承継にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 後継者の育成や知的資産の引き継ぎに時間を要するため、準備期間は一般に5〜10年かかるとされます。M&Aの場合でも、相手探しから成約まで1年前後かかることが少なくありません。引退時期から逆算し、早めに着手することが大切です。

各ステップで具体的に何をすればよいかは、次の§6 やることチェックリストで一覧にまとめています。

§6 事業承継でやることチェックリスト

「結局、自分は何をすればよいのか」——そのための実務的なToDoを、チェックリストにまとめました。前述の5ステップが「進め方の順序」だとすれば、こちらは「具体的にやることの一覧」です。明日からの最初の一歩として活用してください。

事業承継でやることチェックリスト

  • [ ] 現状把握:財務状況・株式の保有状況・事業の強み弱み・知的資産を棚卸しする
  • [ ] 引退時期の設定:いつまでに承継を完了させたいか、目標時期を決める
  • [ ] 後継者の選定・意思確認:親族・社内・第三者のいずれかで後継者候補を検討し、本人の意思を確認する
  • [ ] 承継方法の決定:親族内・従業員・M&Aのどれを軸に進めるかを決める
  • [ ] 経営改善(磨き上げ):収益力・財務体質の改善、不要資産の整理、個人保証の整理を進める
  • [ ] 関係者への周知:適切なタイミングで、従業員・取引先・金融機関に承継の方針を伝える
  • [ ] 後継者の育成:経営に必要な知識・経験を計画的に引き継ぐ(親族内・従業員承継の場合)
  • [ ] 株式・資産の移転準備:株式の評価、移転スキーム(贈与・相続・売買・譲渡)の検討、税制の確認
  • [ ] 専門家・支援機関への相談:事業承継・引継ぎ支援センター、税理士、金融機関、M&A仲介などに相談する

法人か個人事業主かによって、やることには違いがあります。主な差分を以下にまとめます。

項目 法人の場合 個人事業主の場合
承継する中心 自社株式(経営権) 事業用資産(設備・在庫・屋号・取引先等)
主なスキーム 株式譲渡・贈与・相続・事業譲渡 事業用資産の譲渡・贈与・相続
行政手続き 役員変更登記など 現経営者の廃業届、後継者の開業届の提出
活用できる税制 法人版事業承継税制(特例措置)等 個人版事業承継税制等

個人事業の承継・廃業に伴う届出については、個人事業の廃業届の書き方で詳しく解説しています。やるべきことが多く感じられるかもしれませんが、すべてを一度に進める必要はありません。まずは「現状把握」と「相談」から着手するのが、現実的な第一歩です。

§7 事業承継の課題と後継者の悩み・解決策

事業承継では、現経営者も後継者も、さまざまな悩みや課題に直面します。ここでは課題を「ヒト・カネ・税・想い」の4つに分類し、それぞれの解決の方向性を整理します。一つひとつには対応策があり、決して特殊な悩みではないことを知っておいてください。

課題の分類 主な悩み・課題 解決の方向性
ヒト 後継者がいない、後継者の育成が進まない 従業員承継・M&Aの検討、後継者人材バンクの活用、計画的な育成
カネ 株式の買取資金がない、経営者個人保証を引き継げない 金融機関の融資、補助金の活用、経営者保証の解除に向けた交渉
相続税・贈与税の負担が重い 事業承継税制(納税猶予・免除)の活用、専門家による試算
想い 現経営者と後継者の意識のズレ、引退への迷い 早期からの対話、第三者(専門家・支援機関)を交えた話し合い

ヒト(後継者)の悩みは、事業承継で特に多い課題です。親族や社内に適任者がいない場合でも、後継者人材バンクの活用やM&Aによって、事業を引き継ぐ道があります。前述のとおり、後継者不在率は7年連続で改善しており(§2参照)、承継の選択肢は着実に広がっています。

カネ(資金)の悩みについては、従業員が株式を買い取る場合の資金や、現経営者の個人保証の引き継ぎが論点になります。金融機関の融資や、後述する補助金の活用、そして経営者保証の解除に向けた取り組みが解決の糸口です。

税の悩みには、事業承継税制という制度的な支援があります(詳しくは§8)。ただし適用には要件があり、有利不利の判断は個別事情によるため、税理士などの専門家への相談が不可欠です。

想い(意識)のズレは、数字では測れない難しさがあります。現経営者が「まだ任せられない」と感じる一方、後継者が「早く任せてほしい」と感じる、あるいはその逆——こうしたすれ違いは、多くの承継の現場で見られます。早い段階から率直に対話し、必要に応じて支援センターや専門家といった第三者を交えることが、円滑な承継につながります。

これらの課題は、後継者不在率が約2社に1社(50.1%、帝国データバンク2025年)という数字が示すとおり、多くの中小企業が共通して抱えるものです。一人で抱え込まず、早めに相談先を見つけることが、解決への近道です。

§8 事業承継で使える補助金・税制|事業承継・M&A補助金と事業承継税制

事業承継には費用や税負担が伴いますが、これを軽減する公的な支援制度があります。代表的なのが「事業承継・M&A補助金」と「事業承継税制」です。ただし、これらの制度は年度ごとに改正されるため、本記事の数値は目安とし、実際の申請時には最新の公募要領・国税庁等の公式情報をご確認ください。

事業承継・M&A補助金

「事業承継・M&A補助金」は、令和6年度補正予算より、旧「事業承継・引継ぎ補助金」から名称が変更された制度です。補助は「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」「PMI推進枠」の4つの枠で構成され、申請は電子申請(Jグランツ)のみで受け付けられます(中小企業庁)。

このうち、M&Aを検討する際に活用しやすいのが「専門家活用枠」です。専門家活用枠は、M&A支援機関登録制度に登録されたFA・M&A仲介への手数料、デューデリジェンス費用、セカンドオピニオン等が対象で、補助率は2/3または1/2、補助上限は原則600万円(デューデリジェンス費用を申請する場合は200万円上乗せで最大800万円)とされています。M&Aが未成約に終わった場合は上限300万円に減額されます(事業承継・M&A補助金 公式 https://shoukei-mahojokin.go.jp/ 、確認日2026-06-09)。 補助額・補助率・対象経費は公募回により変動するため、最新の公募要領で要確認です。

補助上限額・補助率・対象経費・公募回ごとの締切は改正されることがあります。事業承継促進枠や廃業・再チャレンジ枠の上限額なども含め、本文の金額はあくまで目安として、申請前に中小企業庁・事業承継・M&A補助金の公式サイト(最新の公募要領)でご確認ください。

事業承継税制(法人版・個人版)

事業承継税制は、後継者が取得した株式・事業用資産にかかる相続税・贈与税の納税を猶予・免除する制度です。

法人版事業承継税制(特例措置)では、対象となる株式数の上限が撤廃され、納税猶予割合が100%に拡大されています。先代経営者一人から後継者一人だけでなく、親族外を含むすべての株主から、最大3人の後継者への贈与・相続が対象となります。さらに、雇用要件(承継後5年平均で8割の雇用維持)を満たせなかった場合でも、一定の報告を行うことで猶予を継続できる仕組みになっています(中小企業庁)。

この特例措置を利用するには、「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。法人版の特例承継計画の提出期限は、令和9年(2027年)9月30日までに延長されています(令和8年度税制改正大綱・令和7年12月26日閣議決定で延長確定)。個人版(個人事業承継計画)の提出期限は令和10年(2028年)9月30日までです。一方、特例措置の適用期限(贈与・相続の「実行」期限)は令和9年(2027年)12月31日で変更ありません。 つまり「計画の提出期限」と「適用(実行)期限」は別物であり、計画は実行期限よりも前に提出しておく必要があります。出典は中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html )および令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日閣議決定)、確認日2026-06-09です。

期限は制度運用の重要な要素であり、年度依存のため最新は公式で要確認です。申請を検討される際は中小企業庁・国税庁の最新の一次情報を確認することをおすすめします。

このほか、個人事業主向けの「個人版事業承継税制」も用意されており、特定事業用資産にかかる相続税・贈与税の納税猶予が受けられる時限的な措置です。猶予割合や個人事業承継計画の提出期限などの具体的な数値は改正される可能性があるため、最新の内容は国税庁・中小企業庁の公式情報でご確認ください。

経営承継円滑化法による支援

これらの税制・金融支援の土台となるのが「経営承継円滑化法」です。「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」は、(1)税制支援(贈与税・相続税の納税猶予・免除)の前提となる認定、(2)金融支援、(3)遺留分に関する民法の特例、(4)所在不明株主に関する会社法の特例、の4つの支援を措置しています。このうち(1)(2)(4)は都道府県、(3)は中小企業庁が確認を行います(中小企業庁)。 たとえば、遺留分の特例を使えば、後継者へ集中させた自社株式が、ほかの相続人の遺留分によって分散してしまうリスクを抑えられる場合があります。

なお、相続税・贈与税の具体的な税額や、どの制度が自社に有利かの判断は、要件や個別事情によって大きく異なります。制度の適用可否を含め、税理士などの専門家に相談しながら検討することをおすすめします。

§9 事業承継の相談先と専門家の選び方

事業承継は、一人で抱え込まず専門家や公的窓口を活用することが円滑に進めるコツです。相談先にはそれぞれ役割があるため、自社の状況に合った相手を選びましょう。

相談先 主な役割 特徴
事業承継・引継ぎ支援センター 公的な相談窓口。承継全般の相談、M&Aのマッチング支援、後継者人材バンク 全国に設置された公的機関で、無料で相談できる
顧問税理士・公認会計士 株価評価、税務、事業承継税制の活用、財務面の助言 自社の財務を熟知している場合が多い
金融機関 株式買取資金の融資、M&Aの紹介・支援 取引のある金融機関に相談しやすい
弁護士 契約書の作成・確認、法務面のリスク確認、紛争対応 法的な論点が多い場合に有効
M&A仲介・FA 第三者承継(M&A)の相手探し、交渉、成約までの支援 M&Aを検討する場合の専門窓口

まず何から相談すればよいか迷う場合は、公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」に相談するのがおすすめです。承継全般について幅広く相談でき、後継者人材バンクの紹介やM&Aのマッチング支援も受けられます。

M&A(第三者承継)を選ぶ場合は、M&A仲介会社やFAを利用するのが一般的です。選ぶ際は、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」に沿った対応をしているか、手数料体系が明確で分かりやすいか、自社の業種・規模での支援実績があるか、といった観点で比較するとよいでしょう。M&A仲介会社・プラットフォームの選び方はM&A仲介・プラットフォームの比較で詳しく解説しています。

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§10 よくある質問(FAQ)

Q. 事業承継とは何ですか(わかりやすく言うと)?
A. 事業承継とは、会社や個人事業の「経営(人)」「資産(株式・事業用資産)」「知的資産(ノウハウ・取引先・信用)」を、現経営者から後継者へ引き継ぐことです。単に社長を交代するだけでなく、事業を総合的に次世代へつなぐ取り組みを指します。

Q. 「事業承継」と「事業継承」の違いは何ですか?
A. 公的文書では「事業承継」が用いられ、一般に正式な表記とされます。「承継」は地位・権利を引き継ぐ法的なニュアンス、「継承」は受け継ぐ一般語ですが、実務上はどちらも同義として通じます。

Q. 事業承継の3つの方法(種類)にはどんなものがありますか?
A. 「親族内承継」「従業員(社内)承継」「M&A(第三者承継)」の3つに大別されます。誰に引き継ぐかによって分類され、それぞれメリット・デメリットや向くケースが異なります。

Q. 事業承継はどうやって進めればよいですか(流れ・手順)?
A. 中小企業庁のガイドラインでは、①必要性の認識、②現状の見える化、③経営改善(磨き上げ)、④承継計画の策定/M&A工程、⑤承継の実行、という5ステップが基本とされます。早めの着手が重要です。

Q. 事業承継で何から始めればよいですか(やること)?
A. まずは財務・株式・知的資産の「現状把握」と、後継者候補の検討から始めるのが現実的です。並行して、事業承継・引継ぎ支援センターや税理士などの専門家に相談すると、進め方が整理されます。

Q. 事業承継にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 後継者の育成や知的資産の引き継ぎに時間を要するため、準備期間は一般に5〜10年かかるとされます。引退時期から逆算し、できるだけ早く準備を始めることが望ましいとされています。

Q. 事業承継はなぜ必要なのですか?
A. 経営者の高齢化が進む一方で、後継者不在の企業が依然として多いためです(2025年の後継者不在率は50.1%、帝国データバンク)。承継が進まず廃業すれば、雇用・技術・取引関係が失われるため、事業を次世代へつなぐ意義があります。

Q. 事業承継に株主や従業員の同意は必要ですか?
A. スキームによって異なります。株式譲渡では原則として雇用関係が維持されますが、事業譲渡では重要な事業の譲渡に株主総会の特別決議が、従業員には個別の転籍同意が必要となるのが一般的です。

Q. 事業承継・M&A補助金とは何ですか(いくらもらえますか)?
A. 旧「事業承継・引継ぎ補助金」が名称変更された制度で、4つの枠で構成されます。専門家活用枠では補助率2/3または1/2、補助上限は原則600万円(デューデリジェンス費用を申請する場合は200万円上乗せで最大800万円)とされ、M&Aが未成約に終わった場合は上限300万円に減額されます。補助額・補助率・対象経費は公募回ごとに変わるため、最新の公募要領でご確認ください(事業承継・M&A補助金 公式 https://shoukei-mahojokin.go.jp/ 、確認日2026-06-09)。

Q. 後継者がいない場合どうすればよいですか/相談先は?
A. 従業員への承継やM&A(第三者承継)、後継者人材バンクの活用といった選択肢があります。まずは公的な「事業承継・引継ぎ支援センター」に相談するのがおすすめで、無料で承継全般の相談ができます。

まとめ

事業承継とは、経営・資産・知的資産を後継者へ引き継ぐ取り組みであり、方法は「親族内承継」「従業員(社内)承継」「M&A(第三者承継)」の3つに大別されます。進め方は中小企業庁が示す5ステップが基本で、準備には一般に5〜10年を要するとされるため、早めの現状把握と相談が要点です。

本記事の要点を振り返ります。

  • 事業承継の3要素は「人(経営)・資産・知的資産」。目に見えない知的資産の承継に時間がかかる
  • 3つの方法は親族内・従業員・M&A。近年は脱ファミリー化が進み、選択肢が広がっている
  • スキーム(株式譲渡・事業譲渡・贈与・相続・売買)は「方法」とは別の軸で検討する
  • 進め方は5ステップ。現状把握と磨き上げが共通の土台
  • 補助金・税制は活用できるが年度ごとに改正されるため、最新の公式情報を確認する

まずは本記事のやることチェックリストに沿って自社の状況を整理し、迷う場合は事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口に相談することから始めましょう。後継者が見つからず第三者への承継(M&A)を検討する場合は、選択肢や条件を知るために専門家へ相談するのも一案です。

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