株式譲渡承認請求とは|中小M&Aの実務でどこまで求められるか

更新: 2026年8月21日

株式譲渡承認請求とは|中小M&Aの実務でどこまで求められるか

株式譲渡承認請求とは、譲渡制限が付された株式を他人に譲り渡そうとする株主(または取得した者)が、会社に対して「その者が株式を取得することを承認するかどうか」の決定を求める手続きのことです。 会社法第136条・第137条に定められています。

結論先出し:中小企業の株式はほぼ例外なく譲渡制限株式であり、M&A で株式譲渡を行うならこの手続きは必ず通ります。実務上の落とし穴は 期限を過ぎると「承認したものとみなされる」(みなし承認) 点です。請求を受けてから2週間以内に通知しなければ、会社が望まない相手への譲渡が承認されたことになります。

本記事は M&A 仲介プラットフォーム M&A-WEB の編集視点から、株式譲渡承認請求の流れと期限を用語解説として整理します。個別案件での手続の進め方は弁護士・司法書士へご相談ください。

株式譲渡承認請求とは何か — なぜ必要か

株式会社は、定款で「株式を譲渡するには会社の承認を要する」と定めることができます。これが譲渡制限株式です。中小企業では、望まない第三者が株主として入り込むことを防ぐため、ほぼ標準的に設定されています。

このため、中小M&Aで株式譲渡のスキームを選ぶ場合、売り手が株式を売る前に、会社の承認を得る手続きが必要になります。オーナーが100%株主で自ら代表者を務めている場合でも、手続そのものは省略できません。

なお、承認機関は定款の定めによります。取締役会設置会社では取締役会、それ以外では株主総会が原則ですが、定款で別段の定めを置くこともできます。自社の定款がどちらを承認機関としているかは、着手前に確認すべき最初の項目です。

手続には一般的に何が求められるか

会社法が定める流れは次のとおりです。

段階 内容 根拠
① 譲渡承認請求 株主または株式取得者が、承認の可否を決定するよう会社に請求する(取得者からの請求は原則として株主名簿上の株主等と共同で行う) 136条・137条
② 会社の決定・通知 承認機関で決議し、請求者へ通知する 139条
③ 不承認の場合の買取 会社自ら買い取るか、指定買取人を指定する 140条
④ 売買価格の決定 当事者の協議、調わなければ裁判所への申立て 144条

請求時に明らかにする事項としては、譲り渡そうとする株式の種類・数、譲り受ける者の氏名または名称などがあります。

中小M&Aの実務でどこまで求められるか — 4つの期限

この手続の実質は 期限管理 です。会社法は各段階に期限を置き、徒過すると原則として「承認したものとみなす」効果を与えています(145条)。

場面 期限 徒過した場合 根拠
承認可否の決定・通知 請求の日から2週間(定款で短縮可) みなし承認 139条2項、145条1号
会社が買い取る旨の通知+供託を証する書面の交付 不承認通知から40日 みなし承認 141条、145条2号・3号
指定買取人による買取通知+供託を証する書面の交付 不承認通知から10日(定款で短縮可) みなし承認 142条、145条2号・3号
売買価格決定の裁判所への申立て 買取通知の日から20日 1株当たり純資産額×株式数が売買価格に 144条2項・7項

会社が買い取る場合は株主総会の特別決議が必要であり(140条2項、309条2項1号)、買取通知に際しては1株当たり純資産額に買取株式数を乗じた金額の供託と、供託を証する書面の交付が求められます(141条2項、施行規則25条)。

なお「請求の日」の起算点について会社法に特段の定めはなく、一般規定である到達時(民法97条1項)が基準になると解されています。

具体例:2週間の期限を落とすと何が起きるか

オーナー株主 A(60%)と少数株主 B(40%)で構成される会社を想定します(説明のための仮定です)。

経過 会社が期限内に通知した場合 通知を失念した場合
B が競合他社 C への譲渡について承認請求
請求から2週間 取締役会で不承認を決議し、B へ通知 何もしないまま2週間経過
その効果 不承認。会社または指定買取人が買い取る手続へ 会社法145条1号によりみなし承認。C への譲渡が承認された扱いになる
40日以内 会社が買い取る旨の通知+供託書面を交付(怠ればみなし承認)
20日以内 価格協議が調わなければ裁判所へ申立て。しなければ1株純資産額×株式数が価格に
結果 株主構成を維持 競合他社が40%の株主として入る

2週間は、取締役会の招集・決議・通知までを終える期間としては短いという点が実務上の要点です。手続を知らずに放置した結果、意図しない株主異動が確定する——これが最も典型的な失敗です。

株式譲渡承認請求で揉めやすい点

  • 口頭の請求でも期限が走り得る — 承認請求に必要な事項が交渉の過程で明らかになると、それが譲渡承認請求に該当し、2週間の経過でみなし承認となるリスクが指摘されています。「正式な書面が来ていないから大丈夫」とは限りません
  • 株式取得者からの請求は共同で行うのが原則 — 137条2項により、法務省令で定める場合を除き株主名簿上の株主等との共同請求が必要です。単独で請求しても要件を欠く場合があります
  • 供託と書面交付を忘れる — 買取通知だけでは足りず、供託を証する書面の交付まで揃わないとみなし承認事由になります
  • 価格が1株純資産額で確定してしまう — 20日以内に申立てをしないと、供託額(1株当たり純資産額×株式数)が売買価格になります。時価と乖離していても後から争えません
  • 株主名簿・定款が整備されていない — 中小企業では株主名簿が更新されていない、定款の所在が不明といった状態が珍しくありません。M&A の準備段階で最初に確認すべき書類です

次に読むべきもの

出典

  • 会社法 第136条〜第145条(譲渡等承認請求、承認の決定、買取り、売買価格の決定、みなし承認)
  • 会社法施行規則 第25条・第26条(供託を証する書面、みなし承認の事由)
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」令和6年8月 — https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html

本記事は一般的な情報を整理したものであり、個別の案件における判断を示すものではありません。契約書の作成および個別案件での手続の検討は、弁護士・司法書士へご相談ください。