システム開発事例・買い手

システム開発会社 M&A 事例|適時開示で確認した10件でわかる、買い手が値をつけた5つのもの

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 公表事例10件で、買われたものは5種類に分かれます
  3. エンジニア組織は、赤字でも、利益が薄くても、人数と技術で買われています
  4. 顧客基盤・取引口座は、新しく開けない相手との長期取引ごと買われています
  5. 地域は、その地域で積んだ実績と取引先を買い手の営業網につなぐために買われています
  6. AI・特定技術は、その技術を実務で使えるチームごと取り込まれています
  7. 業界ノウハウは、金融のように参入に専門知識が要る領域で値がつきます
  8. 買い手のタイプで、見るものと値段をつけるものが違います
  9. 事例の金額は成約相場ではなく、自社の価格づけには使えません
  10. 自社の売り先を考えるなら、まず「何を渡せるか」と「すでに取引のある相手」を書き出します
  11. まとめ
  12. よくある質問(FAQ)

この記事の結論

  • 買い手が対価を払っているのは「会社」ではなく、エンジニア・顧客との取引・地域の営業基盤・特定の技術・業界の業務知識のどれかです。 適時開示と公式リリースで原本を確認できた10件は、この5つに分けられます。
  • 小さくても、赤字でも買われています。 人員25名・3期連続の営業赤字の会社が株式67.4%で普通株式4百万円(アドバイザリー費用等を含め31百万円)、エンジニア約30名の会社が1億円、売上2.7億円・営業利益2百万円の会社が買い手の連結純資産の1%未満の価額でした。
  • 10件のうち5件は、買い手と先に取引があった相手です。 外注先・協力会社・共同でプロジェクトを進めていた会社が、そのまま買収対象になっています。
  • この記事の対象: システム開発会社(SES・受託・SI)の経営者で、「どんな会社が、何を見て買うのか」を実例で知りたい方。

※公表事例は、上場会社など開示義務のある買い手が出した案件に偏っています。成約全体の相場ではありません。


公表事例10件で、買われたものは5種類に分かれます

章結論:買い手の目的は「エンジニア」「顧客基盤・取引口座」「地域」「AI・特定技術」「業界ノウハウ」のいずれかで、売上規模はほとんど理由に書かれていません。

この記事の事例は、次の条件で選んでいます。

  • 買い手の適時開示(東証への開示資料)か、買い手・対象会社の公式リリースの原本を実際に開いて確認できたものだけ。仲介会社の事例ページやまとめ記事は出典にしていません
  • 2024〜2026年の案件。社員数十人以下、売上数億円以下の会社を優先
  • 確認できなかった案件は載せていません。その結果、業界ノウハウの欄は1件だけです

相場の考え方はシステム開発会社の売却相場、知的財産の扱いはシステム開発会社の知的財産承継に分けています。業界全体の評価軸はシステム開発会社のM&A DATAにあります。


エンジニア組織は、赤字でも、利益が薄くても、人数と技術で買われています

章結論:人材の確保が目的の案件では、買い手は直近の利益よりも「何人が、どんな領域で、すでに一緒に働いているか」を見ています。

日付・買い手→対象(スキーム) 買い手が開示した目的 対象の規模・価額 出典
2025年1月22日 ティアンドエスグループ→エクステージ(全株式取得) 半導体・重電・社会インフラ向けの開発需要が強く、「優秀なエンジニアリソースの確保拡充が不可欠」。すでに半導体関連の開発で協業していた エンジニア約30名、設立2008年。財務は非開示。価額は普通株式100百万円+費用等2百万円。開示は「当初想定した純資産の15%未満」 適時開示PDF
2026年7月29日 システムソフト→日本クラウド(株式67.4%取得) SES中心の開発事業の規模・領域を広げ、AIなど新しい技術を使った事業を進める 人員25名(2026年4月末)、売上276百万円、営業利益▲26百万円(直近3期連続で赤字)。価額は普通株式4百万円+アドバイザリー費用等27百万円=31百万円 適時開示PDF
2025年12月19日 TDCソフトウェアエンジニアリング→コモドシステム(株式51.2%取得) 「経験豊富な人材とノウハウの獲得」。業務システム構築の実績が豊富 売上267百万円、営業利益2百万円、純資産38百万円(2025年3月期)。価額は非開示だが「連結純資産の1%未満」 開示PDF

この3件から言えるのは次の2点です。

  • 価額の開きは大きく、開示された範囲では「利益×倍率」では説明できません。 営業赤字の会社に4百万円、営業利益2百万円の会社に連結純資産の1%未満、エンジニア約30名の会社に1億円がついています。算定の根拠は開示されていません。
  • 買い手の側も、売り手の人材を買うことを理由に書いています。 売上や利益の拡大ではなく、人材と領域を挙げている点が共通です。

顧客基盤・取引口座は、新しく開けない相手との長期取引ごと買われています

章結論:開示された事例では、買い手は対象会社が長く取引している顧客と、その顧客に提案できる技術力を、自社の顧客基盤とつなげることを理由に挙げています。

日付・買い手→対象(スキーム) 買い手が開示した目的 対象の規模・価額 出典
2025年12月24日 Sun Asterisk→MIXENSE(全株式取得) 業務系・制御系の受託開発で「大手通信キャリア企業を始めとした顧客と長期間に渡り取引を継続」。顧客基盤の連携や経営リソースの相互活用を期待する 売上585百万円、営業利益89百万円、純資産234百万円(2025年3月期)。価額9億円(DCF法・類似会社比較法の評価額を踏まえて決定) 適時開示PDF
2025年8月7日 JR九州システムソリューションズ→ESSホールディングス(全株式取得) 九州と関東、「両社それぞれが持つ顧客基盤を活かした事業拡大」と、数多くの若手エンジニアによる組織強化 業歴45年以上の独立系システム会社(子会社2社を含む)、資本金100百万円。売上・価額の記載なし 公式リリース

MIXENSEの価額9億円を、開示された2025年3月期の営業利益89百万円で割ると約10倍になります(開示値からの計算)。ただし、これは個別案件の価額を1年分の利益で割っただけの数字で、他の案件に当てはめられる倍率ではありません。同じ表の中でも、価額が開示されているのはこの1件だけです。


地域は、その地域で積んだ実績と取引先を買い手の営業網につなぐために買われています

章結論:地域を狙った案件では、買い手は「その地域の顧客・自治体・業種の知識」と、自社の拠点網や取引先を組み合わせることを理由にしています。

日付・買い手→対象(スキーム) 買い手が開示した目的 対象の規模・価額 出典
2025年12月24日 コア→ソフト流通センター(全株式取得、子会社のシステムファクトリーかごしまは孫会社に) 公共・医療・IoT(AI)・半導体の市場で「九州エリアにおける強化」。新規ソリューションの共創、人材の確保・交流、事業地域の拡大を期待する 鹿児島県の会社。売上1,283,893千円、営業利益106,914千円(2025年3月期)。孫会社の売上は129,929千円。価額は非開示。買い手とはすでに外注委託の取引があった 適時開示PDF
2024年12月20日 扶桑電通→北海道システムエンジニアリング(全株式取得) 道内の自治体向け人事関連システムの「豊富な業務知識と技術力」を、買い手の全国54か所の拠点による販売網と組み合わせ、自治体ビジネスを拡大する 北海道帯広市、設立1984年、資本金10百万円。売上82,866千円、営業利益13,121千円、純資産143,881千円(2024年7月期)。価額は非開示。買い手が開発を委託していた協力企業 適時開示PDF

北海道の1件は、売上8千万円台の会社です。買い手が見ていたのは売上の大きさではなく、自治体向けの人事システムという業務知識と、それを全国に売る手段でした。


AI・特定技術は、その技術を実務で使えるチームごと取り込まれています

章結論:技術を目的にした案件でも、買い手が挙げるのは技術名そのものより、「その技術で案件を立ち上げた経験のある人材」と協業実績です。

日付・買い手→対象(スキーム) 買い手が開示した目的 対象の規模・価額 出典
2025年4月1日 イメージ情報開発→TENJIN SYSTEM CONSULTING(株式50.5%取得) 大規模Webサービス開発・AIを使ったデータ分析・自動制御システム開発など、新技術を使う案件の「企画・立ち上げから進行管理・品質向上」のノウハウ。独立後の優秀なエンジニア企業を支援し、グループのリソースを確保する 設立2024年2月、資本金2百万円。決算は事業開始2か月のため省略。価額は「僅少」として非開示。買い手とは業務委託契約があった 適時開示PDF
2024年7月12日 セラク→マインド(全株式取得) ローコード開発基盤「intra-mart」に精通した人材を迎え、開発元との協業をカスタマーサクセス支援から初期導入などのアプリケーション開発支援へ広げる SE・開発エンジニア約20名、設立1987年。売上167百万円、営業利益10百万円、純資産79百万円(2024年3月期)。価額は非公表(第三者機関の評価算定報告書を勘案して算定) 適時開示PDF・公式リリース

特定技術の価値は、技術が書けることではなく、その技術を使った案件を回せる人が社内にいることとして説明されています。設立から約1年で、開示された決算が事業開始2か月分しかない会社が対象になった例では、過去の財務ではなく、人と実績の見込みが評価されたと読めます。


業界ノウハウは、金融のように参入に専門知識が要る領域で値がつきます

章結論:業界向けの開発では、買い手は「その業界の顧客」と「その業界の言葉がわかる人材」を、採用では短期間に揃えられないものとして扱っています。

日付・買い手→対象(スキーム) 買い手が開示した目的 対象の規模・価額 出典
2024年6月18日 ソルクシーズ→エフ(全株式取得、実行は7月1日) 金融系システム開発のうち市場系に専門特化し、複数の大手金融機関を顧客に持つ。「昨今のDXエンジニアの採用が困難な状況下」、債券・デリバティブなどの専門領域に熟知した人材の増強を見込む 売上316,620千円、営業利益23,589千円、純資産195,050千円(2024年3月期)。価額は1株853,300円(300株、計算上は約2.56億円) 適時開示PDF

この領域で確認できたのは1件だけです。自治体向けの北海道システムエンジニアリングも、業務知識を目的に挙げていた点では同じ型です。


買い手のタイプで、見るものと値段をつけるものが違います

章結論:同じ会社でも、SIer・SES系は人材と拠点、DX・ITサービス系は技術と顧客、事業会社系は取引の安定を見ています。ただし、この記事の事例で裏づけられる型と、そうでない型があります。

買い手のタイプ 事例で確認できたこと 値段がつきやすいもの
SIer・ソフトウェア開発会社 エクステージ、コモドシステム、ソフト流通センター、北海道システムエンジニアリング、エフを買った買い手。協業・外注・営業上の取引が先にあった相手が多い 人材、地域の顧客、専門領域、すでに一緒に働けているかどうか
SES・開発会社(領域拡大型) 日本クラウドを買ったシステムソフト。SES中心の事業の規模・領域の拡大とAIなど新技術を挙げる 稼働できるエンジニアの人数と技術領域。利益は主因として書かれていない
DX・ITサービス会社 MIXENSE(Sun Asterisk)、マインド(セラク)。顧客基盤の連携、特定製品に強い人材 長期取引のある顧客、特定製品に精通した人材
事業会社グループのIT会社 ESSホールディングスを買ったJR九州システムソリューションズ。グループ外の事業拡大のためにM&Aを進めていると説明 別地域の顧客基盤、若手エンジニア
ITコンサル・SaaS/Web企業・異業種の事業会社・投資ファンド この記事で原本を確認できた事例にはありません。 システム開発会社のM&A DATAの「買い手像」にある見立てで、実例の裏づけはこの記事にはありません ―

買い手として探す方へ システム開発会社の売却案件を、エンジニア数・事業タイプで確認できます。→ 売却案件を見る


事例の金額は成約相場ではなく、自社の価格づけには使えません

章結論:10件のうち価額が読めるのは4件で、買う側の目的も持分割合も違うため、並べて平均を出すことはできません。

区分 件数 案件
金額が開示 4件 エクステージ(100百万円+費用等2百万円)、日本クラウド(4百万円+費用等27百万円)、MIXENSE(9億円)、エフ(1株853,300円×300株)
非開示・非公表・記載なし 6件 コモドシステム(連結純資産の1%未満とのみ記載)、ソフト流通センター、北海道システムエンジニアリング、TENJIN SYSTEM CONSULTING、マインド、ESSホールディングス

持分割合は50.5%から100%まで、買い手の位置づけも異なります。日本クラウドの4百万円は67.4%分の価額で、別に27百万円のアドバイザリー費用等が開示されています。「普通株式分」と「費用等を含む合計」は別の数字です。自社の価格を考えるときの手順はシステム開発会社の売却相場で扱っています。


自社の売り先を考えるなら、まず「何を渡せるか」と「すでに取引のある相手」を書き出します

章結論:10件のうち5件で買い手と先に取引があったため、売却先の候補は、エンジニア・顧客・地域・技術・業界知識のどれを渡せるかと、いまの取引先の中から考えるのが現実的です。

渡せるもの 開示事例から見て想定される買い手 先に確認すること
エンジニアの人数と領域 SIer、SES・開発会社 在籍者の領域・年齢・定着、キーパーソンへの依存
長期取引のある顧客 DX・ITサービス会社、事業会社グループのIT会社 顧客上位の売上比率、取引の契約形態
地域の顧客・自治体実績 他地域の開発会社 取引の継続性、買い手側の拠点との補完
特定技術・製品の知見 協業先や同じ製品を扱う会社 技術を使える人数、案件の実績
業界の業務知識 同業・その業界向けにIT提供する会社 業界知識を持つ人が複数いるか

取引のある会社が買い手になる例が実際に多いため、外注先・協力会社・共同で進めた案件の相手は、最初に洗い出す候補になります。知的財産(ソースコードの権利など)の整理は、システム開発会社の知的財産承継にまとめています。隣接する業種として、ウェブ制作のM&A事例も参考になります。


まとめ

システム開発会社のM&Aで買い手が値をつけているのは、売上の大きさよりも、エンジニア、長期取引の顧客、地域の実績、特定の技術、業界の業務知識です。原本を確認できた10件では、人員25名で3期連続の営業赤字の会社にも、売上8千万円台の会社にも買い手がついています。一方で、金額を読める事例は4件だけで、成約相場を示すものではありません。

次に確認するのは、自社が渡せるものはどれか、そしてすでに取引のある会社の中に買い手になりうる会社はないか、の2点です。


よくある質問(FAQ)

Q1. システム開発会社のM&A事例にはどんなものがありますか? A. 本記事では適時開示と公式リリースの原本で確認できた10件を挙げています。たとえば、ティアンドエスグループ×エクステージ(エンジニア約30名、2025年1月)、システムソフト×日本クラウド(2026年7月)、Sun Asterisk×MIXENSE(2025年12月)、コア×ソフト流通センター(2025年12月)、扶桑電通×北海道システムエンジニアリング(2024年12月)などです。いずれも上場会社など開示義務のある買い手の公表事例で、成約全体の相場ではありません。

Q2. システム開発会社を買う会社は、何を目的にしていますか? A. 開示された10件では、エンジニア・人材の確保、長期取引のある顧客基盤、地域での営業基盤、特定の技術や製品に強い人材、金融などの業界ノウハウの5つに分かれました。売上や利益の拡大そのものを主目的に挙げた案件は、確認した範囲にはありませんでした。

Q3. 社員が数十人以下の小さなシステム開発会社でも売れますか? A. 事例があります。エンジニア約30名のエクステージは1億円、人員25名で直近3期連続の営業赤字だった日本クラウドは株式67.4%が普通株式4百万円(費用等を含め31百万円)、売上8千万円台の北海道システムエンジニアリングも子会社化されています。ただし価額の決まり方は開示されておらず、同じ条件で売れるとは言えません。

Q4. 赤字のシステム開発会社でも買い手はつきますか? A. 日本クラウドは営業利益が2024年4月期▲17百万円、2025年4月期▲27百万円、2026年4月期▲26百万円でしたが、買い手はSES中心の開発事業の規模・領域の拡大と、AIなど新しい技術を使った事業展開を理由に挙げて子会社化しました(人員は2026年4月末で25名)。1件だけでは一般化できませんが、赤字だけで対象外になるとは限りません。

Q5. 売却先はどんな会社から探すのがよいですか? A. 開示事例では、10件のうち5件(エクステージ、TENJIN SYSTEM CONSULTING、北海道システムエンジニアリング、ソフト流通センター、コモドシステム)で、買い手と先に営業上の取引・委託・協業がありました。外注先・協力会社・共同プロジェクトの相手が、最初の候補になりやすいと言えます。

Q6. 事例に出ている金額は、売却価格の目安になりますか? A. なりません。10件のうち金額が読めるのは4件で、持分割合(50.5%〜100%)も目的も違います。日本クラウドのように「普通株式分」と「アドバイザリー費用等」が別に開示される場合もあります。価格の考え方はシステム開発会社の売却相場をご覧ください。

Q7. ITコンサル、SaaS企業、投資ファンドは買い手になりますか? A. 本記事で原本を確認できた10件には、これらの買い手による案件は含まれていません。なる可能性は否定できませんが、この記事では実例の裏づけがないため、断定していません。

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