【サイト売買と法律】譲渡契約書を作成する4つのポイント

サイトの売買(M&A)には、不動産取引や通信販売などのように、取引に関する法律がありません。そこで重要となるのが、売買時に交わす譲渡契約書と契約書の条項に関連する法律を理解して、譲渡契約を結ぶことです。 この記事では、サイト売買を成功させるのに欠かせない譲渡契約書の基本と、契約に際して覚えておきたい法律を解説します。

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【サイト売買】サイト譲渡契約に関する法律

通常、事業譲渡や株式譲渡などのM&Aは、法律に則って売買します。しかし、M&Aとしては新しい『サイト売買』には適用される法律があいまいです 。

無形資産であるサイトの売買には、HPやECサイトの本体だけではなく、運営のノウハウやサイトの会員(ユーザー)情報など、さまざまな要素が付随します。魅力ある要素が多いからこそ、法律に守られない取引は、時としてトラブルを招きます。

トラブルを回避するには、譲渡内容や売買条件を記した譲渡契約書が非常に重要です。取引成功のためにも、譲渡契約書には以下のような法律に則った条項を加えましょう。

契約不適合責任

契約不適合責任とは譲渡した資産に対して、売り手が負う責任のことです。

民法562~565条、559条に記載されており、2020年の民法改正以前は瑕疵担保責任と呼ばれていました。瑕疵(かし)、つまり譲渡された対象物に重要な欠陥や不具合が見つかったら、買い手は無料での補修、契約解除や損害賠償請求などで、売り手に対して責任を追及できます。

ただし、欠陥や不具合の発生した時期の特定が難しいケースは珍しくありません。無形資産であるインターネットサイトは時期の特定が困難といえます。そのため、契約不適合責任を「どの程度の期間」設けるのかが重要です。

個人情報保護

サイト売買には取引先を含めた様々な情報の譲渡が含まれます。なかでも、サイトに登録する会員(ユーザー)情報が譲渡の対象であるときには、個人情報の取り扱いについて注意が必要です。

個人情報は、個人情報保護法に基づいて適切に管理されなければなりません。サイトの譲渡によって第三者へ情報が提供されるときには、原則としてユーザー本人から承諾を得ることになります(個人情報保護法23条1項)。

しかし、事業の承継に伴う個人情報の提供は法的に認められています。つまり、サイト売買を事業として行えば、同意がなくともユーザー情報の譲渡が可能です。

ただし、売り手が運営していた際の利用目的以外の利用・提供をする場合は、個人情報を使用することはできません。

自身のサイト売買が事業譲渡に当たるかどうかについては、事前に専門家に相談しておくと良いでしょう。

競業避止義務

競業避止義務とは、労働者が競合先の会社や組織に所属したり、あるいは競合する会社を設立したりすることを禁ずる義務をいいます。入社時の契約書に記載されることの多い条項です。

競業避止義務に当たるかどうかは、主に以下のように規定されています(※)

・守るべき企業の利益があるか
・従業員の地位
・地域的な限定があるか
・競業避止義務の存続期間
・禁止される競業行為の範囲に必要な制限がかけられているか
・代償措置が講じられているか

この規定をサイト売買に置き換えてみましょう。たとえば、売り手が譲渡したサイトとよく似たサイトを開設するケースが考えられます。そもそも売り手はサイト構築のノウハウを持っているうえ、売却資金も得られることから、瞬く間に強力なライバルになっても不思議ではありません。

買い取ったサイトを安定して運営したいなら、譲渡契約書で競業避止義務の条項を定めておくのがおすすめです。

とはいえ、売り手はサイト構築・運営という得意分野を奪われることになるため、競業避止義務の条項がサイト売買の障壁となる可能性もあります。特定のジャンルや技術のみを禁ずる、期間を設定するなど、売り手と買い手、双方が納得できる内容になるよう注意してください。

出典:「競業避止義務契約の有効性について」(経済産業省)

サイト譲渡契約書と商法第526条

商法526条は、民法の契約不適合責任についての特例を認めています。それはビジネスにおける売買での買い手による対象物の検査義務、さらに検査によって瑕疵がみつかったら売り手にすみやかに通知する責任です。

買い手がこの商法526条に定める検査や通知を怠ると、売り手に対して瑕疵を原因とする責任追及が行えなくなります(同条2項)。つまり、民法では買い手の立場を守る契約不適合責任が、商法においては売り手を保護する役割も果たしているといえるのです。

ただし、発見しづらい不具合で、サイト譲渡後6ヶ月以内であれば、民法に定められた契約解除や損害賠償請求といった権利を認められます(同条項)。

この6ヶ月という期間は売買を行う当事者間で任意に変更できます。サイト譲渡契約書を交わす際には瑕疵とする対象によっては無期限とする、逆に期間を短縮するなど、売り手と買い手がどちらも公平に権利を有するものとなるよう気をつけましょう。

サイト譲渡契約書で定めておくべき4つのポイント

サイト譲渡契約書には、後々のトラブルを避けるためにも、ぜひ記載しておきたい項目がいくつかあります。

最後に、スムーズな売買に向けて、サイト譲渡契約書で定めておくべきポイントを4つに絞って紹介します。

1.【契約不適合責任】売買契約について詳細に明記する

何より重要なポイントが、サイト売買に関する具体的な内容です。まずは譲渡予定のサイトを特定します。サイトに掲載されている画像や文章、利用するユーザーの情報、取引先との契約など、どこまでを売買の対象とするのかを明確に記載しましょう。

そして、売買されるサイトの内容を具体的かつ詳細に特定しておきます。売買契約を明確化すればするほど、いざというときに売り手に対する契約不適合責任を問いやすくなります。

逆に、曖昧な表現で売買契約書をつくると、譲渡後に以下のようなトラブルが起こっても、売り手に責任を問えなくなるリスクがあります。

・サイトのアクセス数やリンク数を偽装されていた
・利用目的に合わないサイト内容になっていた
・ブラックハットSEOによりペナルティを受けた
・売り手と連絡がつかなくなった

売買契約書で契約不適合責任について記載する場合、次のような文言が考えられます。

【サイト譲渡契約書 条項例】

甲は、乙に対し、以下の事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。

1. 甲は、譲渡を行う権限を有しており、第三者権利も付着していない。
2. 本契約に関して、訴訟、仲裁、調停、その他の法的手段も係属していない。
3. 対象資産に関する契約は全て有効に存続しており、甲にかかる契約の債務不履行は存在しない。
4. 甲が乙に対して開示した情報は真実かつ正確なものであり、重要な情報は本契約締結日前に全て乙に開示されている。また乙はそれを確認している。
ⅰ)●●
ⅱ)●●(以下略)

このように、わかりやすく具体的な売買契約とするために、条項を補足していく方法がよく用いられます。

2.【個人情報保護法】譲渡対象として個人情報を記載する

サイト売買にともなってユーザー情報も譲渡される契約なら、既存ユーザーに関する個人情報は譲渡の対象であること、個人情報は事業譲渡によるものであること、この2点をサイト譲渡契約書に定めておかなければなりません。

事業譲渡という例外をのぞき、個人情報の譲渡には本人の承諾が必要になるためです。

ただし、たとえ事業譲渡によって個人情報を得たとしても、情報を取得したときにサイトが提示していた利用目的から逸脱することはできません。個人情報はくれぐれも丁寧に扱いましょう。

【サイト譲渡契約書 条項例】
本件事業譲渡に際し,甲は乙に対し,第●条に定める譲渡基準日の時点で本件事業に属する以下の各資産を譲渡するものとする。
(1) 対象サイトに関し甲が所有する会員情報及びこれに係る資料一切
(2) 以下略

3.【競業避止義務】競合禁止条項を記載する

競業避止義務もサイト譲渡契約書に定めるべき事項のひとつです。せっかくサイトを買い取っても、すぐに競合サイトを構築されてしまっては、期待していたような収益を上げられない可能性があります。

サイト譲渡契約書に競業避止義務を載せれば、売り手側が義務に違反して新たなサイトを開設した場合でも、そのサイト閉鎖を要求したり、損害賠償を請求したりできる根拠となります。

競業避止義務は会社法が禁ずる行為ですが、サイト売買が事業譲渡に当たらなければ適用されません。そこで、競業避止義務を記載する際には、サイト売買が事業譲渡である旨を必ず入れてください。

【サイト譲渡契約書 条項例】
甲は、直接または間接的に(関連会社を通じて行う場合も含む)、本件事業譲渡後6ヶ月間は乙の承諾無く対象サイトと同趣旨のサイト、類似性を誤認させるようなサイトの運営を行わない。ただし、乙にその存在を通知済のものは除く。

4.協議事項

サイト譲渡契約書の最後に、サイト売買を交わす法人の代表者あるいは個人の署名や捺印をすれば、契約が成立します。

その署名や捺印の前に、ぜひ入れておきたいのが協議事項です。「本契約書に定めのない事項は甲乙ともに誠意をもって協議をして解決する」といったシンプルな一文ですが、この一文によって、契約後のトラブルを避けられる可能性が高まります。

競業避止義務が万能というわけではありませんが、突然の取引停止など、どちらかが一方的に損をする不公平な状況を避ける準備は大切です。

サイト売買を安全に行うなら

サイト売買に適用される法律は存在しません。そのため、商法や民法、会社法など様々な知識から、具体的かつ詳細なサイト譲渡契約書を作成することが大切です。

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まとめ

今回はサイト売買(M&A)における法律の重要性を紹介しました。サイトの売買は通常のM&Aよりも法律が定まっていません。そのため、契約書の作成には高度な専門知識が求められます。このことから、サイト売買を検討している場合は、常に相談ができる環境に身を置くことをおすすめします。

M&A-WEBは個人の方も、初めての方も安心して取引ができるように、サポート体制を整えています。電子契約書の作成も不明な部分があれば、すぐに手助けができる状態なので、安心安全に利用できるよう。