法人成りしても個人事業を廃業しない選択は可能?廃業届の要否と判断基準を解説
法人成りしても個人事業を廃業しない選択は可能?廃業届の要否と判断基準を解説
法人成りした後も個人事業を「廃業しない」選択は、条件次第で可能です。 判断の核心は「法人化した後も、個人事業主としての所得が残るかどうか」の一点に集約されます。残るなら廃業届を出さずに個人事業を続けることになり、残らないなら廃業届を提出して法人へ一本化することになります。
「法人成りしたら、個人事業は必ず廃業届を出してやめなければいけないの?」——そんな疑問から検索された方も多いはずです。「一部の事業や不動産収入は、個人のまま残せないだろうか」と考える方もいるでしょう。廃業届を出さずに個人事業を続ける典型例は次の2つです。複数事業の一部だけを法人化する場合、そして法人へ自宅・店舗を貸して不動産所得が発生する場合です。
本記事は中小企業のM&A仲介プラットフォームM&A-WEBの編集視点から、以下の4点を順に整理します。
- 法人成り後も個人事業を廃業しない選択は可能か
- 廃業届を出す/出さないの判断軸
- 残す場合のメリット・デメリットと必要な手続き
- 同一事業の重複やみなし譲渡など「やってはいけないこと」
スコープと前提:本記事は一般的な解説です。個別の税務判断は税理士や所轄税務署にご相談ください。法人設立登記など法的手続きは司法書士の領域です。記述は2026年5月時点の公開情報に基づきます。最新の取り扱いは国税庁・所轄税務署で必ずご確認ください。
§1 結論:法人成りしても個人事業を「廃業しない」選択は可能か
法人成り後も個人事業を廃業しない選択は可能です。 ただし可能なのは、個人事業主としての所得が残るケースに限られます。複数事業の一部だけを法人化する場合や、法人へ不動産を貸して不動産所得が残る場合などが代表例です。
通常の「法人成り」とは、個人事業として営んできた事業を法人へ引き継ぎ、個人事業主としての活動を終える形を指します。この場合は個人事業主ではなくなります。よって所轄税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」(いわゆる廃業届)を提出するのが基本です(国税庁 A1-5)。
一方、個人事業主としての所得が法人化後も残るケースでは、個人事業を続けることになります。例えば次のようなケースです。
- 飲食店と物販を営んでいたが、飲食店だけを法人化し物販は個人で残す
- 自宅の一部を法人へ貸し、家賃(不動産所得)が個人に発生する
- 副業として始めた別事業を個人事業として継続する
これらは個人事業が終わっていないため、廃業届の提出は不要です。
ここで重要なのは、「廃業しない=何もしなくてよい」ではないという点です。残す場合でも、確定申告は引き続き必要となります。青色申告・消費税・地方税については別途要否を判断します。逆に「本来は出すべきなのに廃業届を放置する」のは別問題です。これは未申告・脱税の疑いにつながり得ます。要否はきちんと切り分ける必要があります(廃業届を出さないとどうなるかで詳述)。
判断軸の詳細は§2で、残す場合のメリット・デメリットは§5で、注意点(同一事業の重複NGなど)は§6で順に整理します。まずは「廃業届の要否は、個人で残る所得があるかどうかで決まる」という骨格を押さえてください。
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§2 廃業届を「出す/出さない」の判断軸(個人で残る所得があるか)
廃業届を出すか出さないかは「法人化した後も、個人事業主としての所得が残るかどうか」で決まります。 残らない(すべて法人へ移す)なら廃業届を提出します。残る(個人の事業や不動産所得がある)なら廃業届は出さず個人事業を続けます。
ここでは典型的な3つのケースで、出す/出さないの分かれ目を見ていきましょう。判断フローを表で俯瞰すると、自分のケースに当てはめやすくなります。
廃業届の要否 早見表
| ケース | 個人で残る所得 | 廃業届 | 想定される届出(廃業届以外) |
|---|---|---|---|
| A:全事業を法人へ一本化 | なし | 必要(提出する) | 青色取りやめ・消費税事業廃止・給与支払事務所廃止 等を該当に応じて判断 |
| B:複数事業の一部だけ法人化 | 残る事業の所得あり | 不要(個人事業継続) | 残す所得の種類に応じて個別判断 |
| C:法人へ不動産を貸す(不動産所得が残る) | 不動産所得あり | 不要(個人事業継続) | 課税売上が残れば消費税事業廃止届は不要、契約・賃料は別途設計 |
なお、廃業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」、提出先は所轄税務署です(国税庁 A1-5)。書式・記入例は廃業届の書き方ガイド、e-Tax提出実務は個人事業の廃業届 提出実務に分けています。本記事では「出す/出さないの判断」に絞ります。
また、廃業しない場合でも、法人を新設するための設立登記(定款認証・登記申請)は別途必要です。登記実務は司法書士の領域であり、本記事は税務上の届出を扱う範囲にとどめます。
§2-1 個人事業を全て法人へ一本化する場合 → 廃業届が必要
Q:法人成りしたら廃業届は必要? A:個人事業をすべて法人へ移す場合は、個人事業主ではなくなるため必要です。
これがいわゆる典型的な「法人成り」です。個人事業の売上・資産・契約・従業員などをまるごと法人へ引き継ぎ、以後は法人として活動します。個人事業主としての所得は発生しないため、所轄税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」(廃業届)を提出します。
併せて、状況に応じて以下の届出を判断します(詳細は§3)。
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書(青色を継続する所得が個人に残らない場合)
- 消費税の事業廃止届出書(課税事業者で、廃止する事業以外に課税売上に当たる所得が残らない場合)
- 給与支払事務所等の廃止届出書(個人事業で従業員への給与支払いがなくなる場合)
- 都道府県税事務所への廃業の届出(自治体差あり)
書式・記入例・期限の詳細は廃業届の書き方ガイドへ。
§2-2 一部の事業を個人に残す場合 → 廃業届は不要
Q:法人成り後に廃業届を出さなくてよいのはどんな場合? A:複数事業の一部だけを法人化し、残りを個人事業として続ける場合は不要です。
例えば、飲食店と小売業を兼業していた個人事業主が、飲食店事業だけを切り出して法人化するケース。法人成り後も小売業は個人事業として残るため、個人事業主としての立場は継続し、廃業届は不要です。小売業から生じる事業所得は引き続き個人で確定申告を行います。
この場合、青色申告特別控除も残る個人事業(小売業)で引き続き活用できる余地があります。個人で青色申告承認を取りやめない限り継続します(詳細は§3-1)。
ただし、後述(§6-1)のとおり、個人と法人で「同一事業」を営むのはNGです。法人化する事業と個人に残す事業は、業種・取引先・契約名義などで明確に分ける必要があります。
§2-3 法人へ不動産を貸し不動産所得が残る場合 → 廃業届は不要
Q:自宅や店舗を法人へ貸して家賃を受け取る場合の廃業届は? A:個人に不動産所得が残るなら、廃業届は不要です。
例えば、自宅の一部を店舗にしていた個人事業主が法人成りする場合。店舗部分を法人へ賃貸すれば、個人は法人から賃料(不動産所得)を受け取ることになります。事業所得は発生しなくなります。一方で不動産所得が新たに発生するため、個人の確定申告は継続することになります。
不動産所得も青色申告特別控除の対象となり得ますが、控除額は「事業的規模」かどうかで変わります。国税庁の取扱いでは、事業的規模と認められる目安は次のとおりです(5棟10室基準、国税庁タックスアンサー No.1373)。
- 独立家屋でおおむね5棟以上
- アパート・貸間等でおおむね10室以上
事業的規模に満たない場合、青色申告特別控除は10万円が上限となるなど、適用は条件依存です。
なお、法人と個人の間で結ぶ賃貸借契約では、適正賃料の設定や利益相反取引の手続きなどに注意が必要です(詳細は§6-3)。
§3 廃業しない(残す)場合に必要・不要な届出の整理
「廃業届を出さない=何も手続きしなくてよい」ではありません。 法人成りでは、廃業届の要否とは別に、青色申告・消費税・給与・地方税の各届出をそれぞれ判断する必要があります。
残す所得の種類や課税事業者かどうかで要否が変わるため、自分に該当するものを以下の3つの観点でチェックしてください。各届出書の記入方法・提出方法の詳細は、廃業届の書き方ガイド・個人事業の廃業届 提出実務に分けて解説しています。
なお、繰り返しになりますが、廃業届を出さない場合でも法人設立登記(定款認証・登記申請)は必要です。登記手続きは司法書士の領域です。
§3-1 青色申告は続けられる?取りやめ届出書は要る?
Q:法人成り後も個人で青色申告は続けられる? A:個人事業の所得(一部事業・不動産所得)が残るなら継続できます。「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は不要です。
不動産所得や、個人に残す事業所得で引き続き青色申告(青色申告特別控除・純損失の繰越控除など)を活用できます。青色申告承認は所得の種類ごとではなく個人単位で受けるため、対象となる所得が一つでも残っていれば、青色申告は途切れません。
一方、すべて法人へ一本化して個人所得がなくなる場合を考えます。青色を取りやめるなら「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します。提出期限は「取りやめようとする年の翌年3月15日まで」です(国税庁 A1-10)。
ただし、所得が残らない見込みでも、形式的に青色承認が残っているだけでは罰則はありません。取りやめるかどうかの個別判断は税理士や所轄税務署にご相談ください。
§3-2 消費税の事業廃止届出書は必要?(課税事業者・インボイス)
Q:法人成りで消費税の事業廃止届出書は要る? A:廃止する事業のほかに課税売上に当たる所得が残るなら不要、残らないなら提出が必要です。
国税庁タックスアンサー No.6603(個人事業者が事業を廃止した場合)を見てみましょう。課税事業者が事業を廃止する際の取扱いはこうです。廃止する事業以外に課税売上が残らない場合、「事業廃止届出書」を所轄税務署へ提出します。不動産所得などの課税売上が残る場合は別の取扱いとなります。逆に、課税売上に当たる所得が残るなら、消費税の納税義務は継続します。よって事業廃止届出書は提出しません。
インボイス制度の論点も重要です。個人事業者と新設法人は別の事業者として扱われます。よって、個人で取得した適格請求書発行事業者の登録番号は法人に引き継がれません。法人でインボイス登録が必要な場合は、法人として新たに登録申請を行います。個人側でインボイス登録を取り消す場合の届出も別途必要です。原則として「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出します(事業廃止届出書とは別書類)。
なお、課税事業者が事業を廃止する場合、廃止課税期間の消費税申告と、後述(§6-2)のみなし譲渡課税の論点が生じ得ます。インボイス・消費税の取扱いは複雑なため、個別判断は税理士や所轄税務署にご相談ください。
§3-3 給与支払事務所等の廃止届・都道府県への届出
Q:従業員への給与支払い・地方税の届出はどうする? A:個人事業で給与支払いがなくなるなら廃止届を提出、地方税は一本化の有無で都道府県への届出を判断します。
個人事業で従業員への給与支払いを行ってきた場合を考えます。法人成りで給与支払事務所が個人から法人へ移り、個人での給与支払いがなくなった場合の取扱いを見ます。この場合、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を所轄税務署へ提出します。提出期限は「廃止した日から1か月以内」が原則です。残す事業で雇用が継続するなら、個人側での廃止届は不要です。
地方税については、すべて法人へ一本化して個人事業を廃業するなら、都道府県税事務所への「個人事業の廃業」届出も必要です。書式・期限は自治体により異なります。お住まいの都道府県税事務所のWebサイト等でご確認ください。個人事業が残るなら、こちらの届出も不要です。
これらの届出書の記入例・e-Taxでの提出手順は、個人事業の廃業届 提出実務にまとめています。
§4 「二刀流」とは|法人成りと個人事業の併存スタイル
「二刀流」とは、個人事業を続けながら別に法人を設立し、両方を並行して運営するスタイルを指します。 個人事業を廃業して法人へ一本化する通常の法人成りと異なり、個人事業を残す点が特徴です。
「法人成り 二刀流」というキーワードで検索する方の多くは、以下のような関心を持っています。
- 法人成りした後も個人事業を残せるか
- 残すと税金や社会保険を最適化できる余地があるのか
- 残す場合のリスク・注意点は何か
法人成りと二刀流の違いは、本質的には「個人事業を残すかどうか」の一点です。手続き上は「廃業届を出すか出さないか」に集約されます。出さなければ個人事業は継続、出せば終わります。
二刀流は、いわゆるマイクロ法人(小規模な合同会社・株式会社)を活用するスタイルです。社会保険料や所得税の設計を最適化する文脈で語られることが多いものです。例えば、個人事業で所得を確保しつつ、別事業をマイクロ法人で運営する形が知られています。法人から最低限の役員報酬を取り、社会保険を設計するパターンです。
ただし、後述(§6-1)の「同一事業はNG」が大前提です。個人事業と法人で同じ事業を営むと、税負担を意図的に分散させる目的とみなされ、否認・追徴課税のリスクを抱えます。二刀流は、業種・取引先・契約名義を明確に分け、それぞれの事業実態を客観的に証明できる体制が前提となります。
「二刀流」の制度設計を個別に検討する場合は、必ず税理士に相談したうえで、実態に即したスキームを構築してください。
§5 個人事業を残す(廃業しない)メリット・デメリット
個人事業を残すかどうかは、損得だけでなく事業規模や将来像によって向き・不向きがあります。 「必ず得をする」わけではないため、メリットとデメリットの両方を踏まえて判断することが大切です。
まず全体像を比較表で俯瞰します。
残す(廃業しない)/一本化する(廃業する)の比較
| 比較項目 | 残す(廃業しない) | 一本化する(廃業する) |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除(個人側) | 残る所得で継続できる | 個人所得がなくなり活用余地が縮小 |
| 損益通算の余地 | 個人事業の赤字を一定の所得と通算できる場合がある(役員報酬等を除く) | 個人で完結する所得が減るため余地が小さい |
| 経理・申告の負担 | 法人決算 + 個人確定申告の二重 | 法人決算に集約 |
| 税理士費用 | 個人・法人の両方で発生する傾向 | 法人の決算費用が中心 |
| 法人住民税均等割 | 法人側で発生(赤字でも課税)※自治体・資本金で異なる | 法人側で発生(赤字でも課税)※同上 |
| 融資審査・取引先評価 | 売上分散で法人単体が小さく見える場合がある | 売上が法人に集約され実績を作りやすい |
| リスク分散 | 事業ごとに法人・個人で切り分け可能 | 法人で一元管理 |
本表は一般的な傾向の整理であり、税負担の最適化や実際の判断は事業規模・所得構成・自治体により異なります。最終判断は税金シミュレーションのうえ税理士にご相談ください。
§5-1 メリット(青色申告控除・損益通算・不動産所得・リスク分散)
Q:法人成りで個人事業を残す主なメリットは? A:青色申告特別控除の継続、損益通算の余地、不動産所得の活用、リスク分散の4つが代表的です。
- 青色申告特別控除の継続:残る個人事業(事業所得・不動産所得)で青色申告を続けられます。電子申告等の要件を満たせば最大65万円の特別控除、純損失の3年繰越控除なども引き続き活用できる余地があります。
- 損益通算の余地:個人事業の赤字を、ほかの所得と一定範囲で損益通算できる場合があります。ただし法人から受け取る役員報酬は給与所得に該当し、個人事業の赤字との損益通算の対象にはなりません。「個人で赤字を出して法人の役員報酬と相殺する」設計はできない点に注意してください(誤解の多い論点です)。
- 不動産所得の活用:法人成りに合わせて自宅・店舗を法人へ貸す形にすると、個人で不動産所得を青色申告できる可能性があります。事業的規模(5棟10室基準)に達すれば特別控除額も大きくなる場合があります。
- リスク分散・柔軟な経営判断:事業ごとに法人と個人を切り分けることで、特定事業のリスクが他に波及しにくくなる場合があります。マイクロ法人を活用し、社会保険料の負担を年単位で見直す設計も語られますが、これは制度設計・実態次第で必ずしも得とは限りません。
いずれも「条件が揃った場合に活用できる可能性がある」メリットです。「絶対に節税できる」「必ず得をする」と断定できる組み合わせは存在しません。税金シミュレーションのうえ、税理士への相談を前提に検討してください。
§5-2 デメリット(二重の経理/申告・融資審査・税理士費用・均等割)
Q:個人事業を残すデメリットは? A:経理・申告の二重負担、融資審査での見え方、税理士費用、法人住民税均等割の4点が現実的な負担になります。
- 法人決算 + 個人確定申告の二重負担:法人は決算書・法人税申告書の作成、個人は確定申告書の作成と、年間の事務負担が単純に増えます。経理を法人・個人で明確に分けて記帳する必要もあります。
- 融資審査・取引先評価:売上・利益が法人と個人に分散すると、法人単体の事業規模が小さく見え、金融機関からの融資審査や取引先の与信評価で不利になる場合があります。法人で資金調達を計画している場合は、事業集約の検討も視野に入れてください。
- 税理士費用が2系統:法人の決算申告と個人の確定申告で、税理士に依頼する場合の顧問料・スポット報酬が両方で発生する傾向があります。年間トータルの専門家コストが増える点はあらかじめ織り込む必要があります。
- 法人住民税均等割は赤字でも発生:法人住民税の均等割は、法人が存在する限り赤字でも課されます。資本金1,000万円以下・従業者50人以下の法人で年間最低約7万円が目安とされますが、自治体・資本金・従業者数によって異なります(最新額・適用条件は所在自治体の税務担当へご確認ください)。マイクロ法人を持つ以上避けられない固定コストです。
- 手続き忘れ・放置のリスク:「残す」と判断したつもりが、本来出すべき廃業届を出さずに個人事業を放置する形になっていた、というケースは要注意です。所得が残らないのに届出を放置すると、未申告・脱税の疑いにつながり得ます(出さない放置の論点は廃業届を出さないとどうなるかで詳述)。
「残すべきか、畳むべきか」迷うなら:専門家への相談を検討する。畳むつもりの事業がある場合、廃業より譲渡で手元に残る可能性もあります。
§6 残す前に知っておくべき注意点(やってはいけないこと)
個人事業を残す選択にはメリットがある一方、進め方を誤るとリスクもあります。 税務署から否認されたり、思わぬ税負担が生じたりする可能性があるためです。特に重要な3つの注意点を押さえておきましょう。
いずれも判断を誤ると追徴課税につながる場合があるため、実行前に必ず税理士へ相談することをおすすめします。本記事は一般的な解説であり、個別の課税判定を断定するものではありません。
§6-1 個人と法人で「同一事業」を重複させるのはNG
Q:法人と個人事業で同じ事業をしてもいい? A:同一事業の重複は否認リスクが高く、避けるべきです。業種・契約・実態を明確に分ける必要があります。
個人事業と法人で同じ事業(同一業種・同一顧客・同一実態)を営むのはNGです。税負担や社会保険負担を意図的に調整する目的とみなされ、税務調査・否認・追徴課税の対象になり得ます。
その根拠の一つが、所得税法第12条が定める「実質所得者課税の原則」です。条文の趣旨を簡潔に言えば、こうなります——「資産・事業から生ずる収益は、実際にそれを享受する者に帰属する」。形だけ法人に売上を計上していても、実態が個人事業と同一の場合の取扱いに注意が必要です。所得は個人に帰属するものとして課税し直される可能性があります。
実態として注意すべきポイントは次のとおりです。
- 業種を明確に分ける:例えば「個人=物販、法人=コンサルティング」のように、事業内容・サービス内容で線引きする。
- 定款の事業目的・契約書の名義を分ける:法人の事業目的が個人事業と同じになっていないか、取引先との契約名義が混在していないかを確認する。
- 顧客・取引先を分ける:同じ顧客に同じサービスを個人と法人で交互に請求するような形は否認リスクが高い。
- 証拠書類を整える:受発注の記録、入出金、帳簿、契約書を法人・個人で明確に分け、別ビジネスの実態を客観的に説明できるようにする。
二刀流を検討する場合、SNS・動画・記事の知識だけで設計してはいけません。必ず税理士に相談し、事業実態に即した合理的な切り分けが可能かを確認してください。
§6-2 資産を法人へ引き継ぐ際のみなし譲渡・消費税
Q:個人事業の資産を法人へ引き継ぐとき、税金はどうなる? A:原則として「売却(譲渡)」で引き継ぐ扱いとなり、課税事業者なら消費税の対象、廃止時はみなし譲渡課税の論点もあります。
個人事業で使っていた資産(在庫・設備・車両など)を法人へ引き継ぐ場合、原則として法人へ「売却」する形になります。無償譲渡や著しく低い価格での譲渡は、税務上の問題が生じる可能性があります。
主な論点は以下のとおりです。
- 消費税の課税:個人が課税事業者の場合、資産の譲渡には消費税が課されます(土地等の非課税取引を除く)。
- みなし譲渡課税:国税庁タックスアンサー No.6603 によれば、課税事業者である個人事業者が事業を廃止する際、棚卸資産・事業用資産のうち時点で残っているものは、自家消費・贈与等として「みなし譲渡」とされ、時価で消費税の課税対象になり得ます。廃止課税期間の消費税申告でこれを反映する必要があります。
- 低額譲渡の論点:通常取引価格の概ね50%(個人→法人の場合は時価の概ね2分の1未満)に満たない譲渡は、時価で譲渡があったものとみなされる場合があります(所得税法59条、みなし譲渡)。低額譲渡には所得税・法人税の両面で論点が生じます。
- 役員賞与認定のリスク:法人が個人から資産を時価より高く買い取ると、差額が役員賞与とみなされる可能性があります。
この論点は主に「全部一本化(廃業)」のケースで問題になります。ただし「資産だけ法人へ移すが事業の一部は個人で残す」混在ケースでも生じ得ます。引き継ぎ価格の設定は、税理士に相談のうえ適正な時価で行ってください。
§6-3 不動産貸付の利益相反取引・適正賃料
Q:自分の不動産を自分の法人に貸すとき、注意点は? A:相場と異なる賃料設定は利益相反取引に該当し得るため、会社法上の承認手続きと適正賃料の設定が必要です。
個人が所有する不動産を、自身が代表を務める法人に貸すような取引は、会社法上の「利益相反取引」に該当する場合があります。利益相反取引は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認が必要です(会社法356条・365条)。
また、賃料が相場より高いと個人に有利・法人に不利となります。税務上は法人側で過大な賃料が損金不算入とされたり、差額が役員給与とされたりするリスクがあります。逆に相場より低いと、法人に経済的利益が移転したものとみなされ得ます。賃料は周辺相場・不動産鑑定・固定資産税評価額などを参考に、適正な水準で設定することが基本です。
留意すべきポイントを整理します。
- 会社法上の手続き:株主総会または取締役会の承認決議を取り、議事録に残す(登記実務・会社法手続きは司法書士の領域)。
- 適正賃料の根拠:周辺相場・近隣の賃貸事例・不動産業者の査定・固定資産税評価額などを根拠資料として保管する。
- 賃貸借契約書:契約期間・賃料・更新条件などを書面で明確化する。
- 税務上の論点:賃料設定・契約形態の妥当性は、税理士へ事前に確認する。
このように、不動産貸付を絡める二刀流・残し方は、会社法・税法の両面で慎重な設計が必要です。実行前に必ず専門家へ相談してください。
§7 廃業も法人化も決める前に|「譲渡(M&A)」という選択肢
法人成りや事業整理を決める前に、もう一つ確認しておきたい選択肢があります。それは、採算の合わない/畳むつもりの事業を「廃業」ではなく「譲渡(M&A)」する道です。
法人成りを検討する方の多くは「事業を続けたい」という継続志向です。ただし複数事業のうち一部だけを法人化したい場合、「個人で残す事業」と「畳む事業」が混在することがあります。畳む事業をそのまま廃業すると、在庫処分・原状回復・解約違約金などのコストが発生します。手元に残るキャッシュが目減りすることも珍しくありません。
一方、第三者承継(事業譲渡・株式譲渡)が成立すれば、譲渡代金が手元に残る可能性があります。従業員・取引先・許認可・顧客基盤も次の事業者へ引き継がれ得ます。譲渡が現実的に見込めるケースの特徴は次のとおりです(一般的な傾向であり、個別の譲渡可否は事業内容の精査が必要です)。
- 継続的に収益が出ているWeb事業・EC事業
- 固定客・常連客が定着している店舗
- 立地・商圏・地域シェアに価値がある事業
- 取得が難しい許認可・免許を保有する事業
逆に、譲渡が成立しないケースもあります。属人性が極めて高い/設備が老朽化している/継続赤字で再生の見通しが立たない、などのケースです。「畳む事業=必ず譲渡できる」とは言えないため、まずは無料相談で譲渡可能性を診断するのが現実的です。
廃業と譲渡の比較(手取り・税負担・期間)の詳細は廃業 vs 譲渡|手取り・税負担・期間 比較へ。個人事業主の廃業の全体像は親記事個人事業主の廃業と譲渡 完全ガイドをご覧ください。
無料診断(売り手):畳む事業があるなら、廃業より譲渡で手元に残るか無料相談で試算。
§8 よくある質問(FAQ)
法人成りと個人事業の廃業しない選択について、検索でよく見かける疑問を7つにまとめて回答します。 個別の課税判定は税理士や所轄税務署へご相談ください。
- 法人成りしても個人事業は廃業しなくていいですか?
条件次第で可能です。法人化した後も個人事業主としての所得が残るなら、廃業届を出さずに個人事業を続けることになります。具体的には、一部事業の事業所得や、法人へ不動産を貸して受け取る不動産所得などです。すべて法人へ一本化する場合は廃業届の提出が必要です(国税庁 A1-5)。
- 法人成りしたら廃業届は必ず必要ですか?
すべての場合に必要というわけではありません。「個人事業主としての所得が残るかどうか」で判断します。残らない場合は提出、残る場合は不要です。詳しくは§2の判断軸をご確認ください。
- 法人成り後に廃業届を出さなくてよいのはどんな場合ですか?
主に以下の3パターンです。①複数事業の一部だけを法人化し、残りを個人事業として続ける場合。②法人へ不動産を貸して個人に不動産所得が発生する場合。③副業など別事業を個人事業として継続する場合。共通点は「個人事業主としての所得が法人化後も残ること」です。
- 法人成りで個人事業を残すメリット・デメリットは?
メリットは4つあります。青色申告特別控除の継続、損益通算の余地、不動産所得の活用、リスク分散です。デメリットも4つです。法人決算と個人確定申告の二重負担、税理士費用の増加、融資審査での見え方、赤字でも発生する法人住民税の均等割。詳しくは§5をご覧ください。
- 法人と個人事業で同じ事業をしてもいいですか?
同一事業の重複は否認リスクが高く、避けるべきとされています。根拠は所得税法第12条の実質所得者課税の原則です。形だけ法人に売上を計上していても、実態が個人事業と同一なら課税し直される可能性があります。所得は個人に帰属するものとして取り扱われます。業種・契約・取引先を明確に分け、それぞれの事業実態を証明できる体制が前提です。
- 法人成り後も青色申告は続けられますか?
個人事業の所得(一部事業・不動産所得)が残るなら、青色申告は継続できます。「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も不要です。すべて法人へ一本化して個人所得がなくなる場合は、取りやめ届出書を翌年3月15日までに提出します(国税庁 A1-10)。
- 法人成りで個人事業を残すと税務調査されやすいですか?
「残すと必ず税務調査が来る」とは言えません。ただし、個人と法人で同一事業を営んでいる場合、取引が混在している場合、賃料・引継ぎ価格が不自然である場合は、実態確認を受けやすくなる可能性があります。業種・取引・契約・経理を明確に分け、根拠資料を保管しておくことが大切です。
§9 まとめ|「廃業しない」は可能、判断軸は”個人で残る所得”。迷ったら専門家へ
法人成りした後も個人事業を「廃業しない」選択は、条件次第で可能です。 判断軸はシンプルで、「法人化した後も個人事業主としての所得が残るか」の一点に集約されます。
要点を整理します。
- 可否の結論:個人事業の所得(事業所得・不動産所得)が残るなら廃業届は不要、残らないなら廃業届を提出して一本化。
- 残す場合の手続き:青色申告・消費税・給与・地方税の届出は、残す所得や課税事業者か否かで個別に要否を判断。
- メリット・デメリット:青色控除の継続・損益通算・リスク分散などのメリットがある一方、経理・申告の二重負担、税理士費用、融資審査での見え方、法人住民税の均等割などのデメリットもある。
- 注意点:個人と法人で同一事業を営むのはNG(所得税法第12条 実質所得者課税の原則)。資産引継ぎ時のみなし譲渡・消費税、不動産貸付の利益相反取引・適正賃料にも要注意。
判断に迷う場合は、税金シミュレーションのうえ税理士へご相談ください。法人設立登記や利益相反取引の会社法手続きは司法書士の領域です。本記事は2026年5月時点の一般的な解説です。最新の取扱いは国税庁・所轄税務署で必ずご確認ください。
そして最後にもう一点。畳むつもりの事業があるなら、廃業よりも譲渡(M&A)で手元に残る可能性もあります。「本当に廃業すべきか」を確かめたい方は、無料相談で譲渡の選択肢を試算してみてください。
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- 提出実務・e-Tax:個人事業の廃業届 提出実務
無料診断(売り手):本当に廃業すべきか、無料相談で譲渡の選択肢を確認する(完全無料)。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の一次情報・専門家解説を参考にしました(2026年5月26日時点)。
国税庁(一次情報)
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
- 国税庁「A1-10 所得税の青色申告の取りやめ手続」
- 国税庁タックスアンサー「No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合」
- 国税庁タックスアンサー「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外のものとの区分」(5棟10室基準)
法令・公的支援
- 所得税法第12条(実質所得者課税の原則)
- 所得税法第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例、低額譲渡)
- 会社法第356条・第365条(利益相反取引)
- 中小機構「事業承継・引継ぎ支援センター」
税理士法人・専門家解説
- 税理士法人植村会計事務所「法人成り時の廃業届の提出について」「法人成りで個人事業主を廃業しないデメリット・メリット」「マイクロ法人のデメリット」
- 小谷野税理士法人「法人成りで個人事業主を廃業しないのはあり?」
- 税理士法人松本「法人成り後に個人事業主を廃業しないメリット・デメリット・注意点」
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- SOVA「マイクロ法人と個人事業主の二刀流・注意点」
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会計ベンダー・メディア
- 経理ドリブン(MJS)「法人化時の廃業届と手続き」
- 起業の窓口「法人成りすると個人事業は廃業する/しない」「マイクロ法人と個人事業主を二刀流するメリット・デメリット・注意点」
- マネーフォワード「法人成りの仕訳・資産負債の引継ぎ・税務処理」
- freee「廃業届の出し方・併せ届出」
- 全力経理部「マイクロ法人と個人事業主の二刀流 完全ガイド」
- L&Bヨシダ税理士法人「法人成り時の会計処理・提出書類」