バー・スナック常連客の維持

スナック 買収 常連客|店主交代で離れる売上を、買う前に3つに分けて見積もる

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 見積もる対象は現在の売上ではなく、店主が抜けた後も来る客の売上
  3. 常連の来店理由は「店」「スタッフ」「店主個人」の3つに分けて見る
  4. 売上台帳と来店記録で確かめられること、記録が無くて確かめられないこと
  5. 交代の告知は成立前に売り手と決め、引継ぎ期間と役割を書面に残す
  6. 売り手が近所で店を出し直すと、常連ごと戻る。競業避止の有無と範囲を契約で確かめる
  7. 離れが出る場合は、価格と支払いの条件で受ける。成果連動の支払いを使うなら、測る方法を先に決める
  8. 買う・見送る・条件を付けるの判断は、記録と売り手の関わりで決まる
  9. まとめ
  10. よくある質問(FAQ)
  11. 出典

この記事の結論

  • 買う前に見る数字は、いまの売上ではありません。ママ・マスターが店に立たなくなった後も来る客の売上です。現在の売上を「店につく客」「スタッフにつく客」「店主個人につく客」に分けて見積もります。
  • 離れる割合を示す一次資料は、本記事で確認した範囲にはありません。割合を当てずに、離れた場合の売上を複数のケースで置き、価格と引継ぎ条件で受けられるかを決めます。
  • 離れへの備えは、引継ぎ期間と役割の書面化、売り手の近隣での再開に対する競業避止の確認、成果に連動する支払い(アーンアウト)の検討の3つです。

この記事の対象: ママ・マスターの常連で成り立つバー・スナックを、居抜きや事業譲渡で買おうとする買い手。業種全体の判断はバー・スナックのM&A DATAで扱っているので、ここでは「店主交代で落ちる売上をどう見積もるか」だけを扱います。

見積もる対象は現在の売上ではなく、店主が抜けた後も来る客の売上

結論: 売上の高さは、買った後も続く売上の高さではありません。店主個人に付いた客の売上は、交代で変わりうる部分として別に置きます。

バー・スナックのオーナー年収と利益率で見たとおり、評価では役員報酬や私的費用を戻した実態の利益を見ます。ここで足す視点は、その利益を生んだ売上が誰に付いていたかです。

中小企業庁の「中小PMIガイドライン」は、取引先への対応の失敗例として、「譲渡側経営者が譲渡側を経営しているからこそ取引してもらっていた取引先について、M&A成立後に少しずつ疎遠になり、半年後取引を停止された」ことを挙げています。これは企業間取引の例で、スナックの常連客の例ではありません。ただ、経営者個人との関係で成り立つ取引が、交代後に細ることがあるという構造は、店主の接客で来る客にも当てはめて考えられます(当てはめは本記事の整理です)。

避けたい判断 こうすればOK
直近の売上が高いので、そのまま続くと見込む 売上を、店主が抜けても残る部分と、交代で変わりうる部分に分けて見積もる
売り手の「常連は新しいママにも付く」という説明を、そのまま受ける 説明を、来店記録やボトルキープ台帳など、確認できる記録と突き合わせる
「離れ率は何割」という数字を探して置く 本記事で確認した資料に離れ率の数字はない。割合を決め打たず、複数のケースで置く

常連の来店理由は「店」「スタッフ」「店主個人」の3つに分けて見る

結論: どれに付いた客かで、交代後に残る見込みが変わります。買い手が確かめるのは、売上の合計ではなく、この内訳です。

分類は、本記事の整理です。一次資料に定めがあるものではありません。

付いている先 例 交代後の見方 確かめる方法
店・立地 近所の勤め先の帰りに寄る。団体の二次会で使う。内装や音響、カラオケ目当て 店ごと買う買い手に残りやすい部分。ただし、本記事の整理であり、残る割合は示せない 来店の時間帯、曜日、団体の予約記録。近隣の勤務先や取引先との関係
スタッフ 特定のスタッフを目当てに来る。ヘルプのスタッフ経由で来る スタッフが残るかどうかで決まる。退職や引き抜きがあれば一緒に動く部分 スタッフごとの指名や同伴の記録。スタッフの雇用継続の意向
店主個人 ママ・マスターを目当てに来る。ボトルが店主の名で入っている 交代で最も動く可能性がある部分。引継ぎ期間での顔つなぎと、売り手の動きに左右される 店主指名の売上、ボトルキープ台帳の名義、店主の個人の連絡先で来る客の数

「スタッフ経由」と「店主個人経由」は、同じ「人に付いた客」でも、スタッフが雇用を続けるかどうかで残り方が変わります。分けて見ておくと、スタッフの処遇を買う条件に入れるべきかが決められます。

売上台帳と来店記録で確かめられること、記録が無くて確かめられないこと

結論: 確かめられる範囲は、売り手が持つ記録で決まります。記録が無い部分は「見積もれない」と書いて価格と条件で受けます。

バー・スナックの許認可の引き継ぎや売却相場の確認と並べて、買う前に次を求めます。

求める記録 見ること 記録が無い・粗いとき
月別・曜日別の売上、客単価 店主が不在だった時期(休み、病気など)の売上が落ちたか 不在期間が無ければ、店主不在時の売上は確認できない
常連名簿、ボトルキープ台帳 ボトルの名義、最後の来店日、キープ本数の厚み 名簿が無ければ、常連の人数と固定度は売り手の説明だけになる
スタッフごとの指名・同伴の記録 売上のうち特定のスタッフに寄る部分 記録が無ければ、スタッフの退職の影響は見積もれない
団体・予約の履歴 店や立地で入る団体の売上 履歴が無ければ、店につく部分は推測になる

個人情報の扱いにも注意します。常連の氏名や連絡先が入った名簿は、受け渡しの範囲と方法を、売り手と取り決めてから見ます。個別の法的な判断が要る箇所は、弁護士などの専門家に確認してください。

交代の告知は成立前に売り手と決め、引継ぎ期間と役割を書面に残す

結論: 交代を誰が、いつ、どう伝えるかは、買う前に決めておく項目です。売り手が残る期間と役割は、口約束にしません。

中小PMIガイドラインは、取引先への対応について、説明や挨拶を取引先の重要度や関係性に応じて速やかに行うこと、主要取引先と最も強い関係性を持つ譲渡側の人物(例として譲渡側経営者)の協力を得ることを、取組のポイントに挙げています。また、主要取引先との継続取引が解消されて事業継続に影響する可能性があるときは、譲渡側経営者とよく相談したうえで、必要に応じて成立前(基本合意後からクロージング前)に訪問して説明するとしています。一方で、成立前の訪問には、情報流出のリスクや信用不安を招くおそれがあるため、時期は譲渡側経営者とよく相談するとも書いています。

譲渡側経営者の処遇については、同ガイドラインが次のように書いています。

  • 成立後の関係性や引継ぎでの役割を、成立前に明確にする
  • 経営者が引継ぎ後に退任する場合、引継ぎに必要な期間を前もって見積もる。合理的に見積もれないときは、例として半年更新の契約を挙げている
  • 処遇(役職・役割、報酬、在籍期間など)は、合意のうえで覚書などの書面に明記する
  • 経営者が顧問などで残ることを従業員に伝えると、安心感につながることもある

これらは会社の経営者と従業員に向けた記述です。スナックの常連への告知にそのまま当てはまるかは、本記事では確認できていません。ただ、「誰が、いつ、どの順で伝えるか」と「売り手の役割と期間を書面にする」ことは、店主個人に付いた客を見積もる買い手にも使える考え方です(当てはめは本記事の整理です)。

決めること 避けたい判断 こうすればOK
告知の時期 成立後に、常連が噂で知る 常連への伝え方と順番を、成立前に売り手と決める。ただし、成立前の告知は情報の漏れにも注意する
売り手の関わり方 「しばらく顔を出す」と口頭で済ませる 立つ日数・時間帯・報酬・終わる時期を、覚書に書く
終わらせ方 売り手がいつまでも店に出て、新しい店主の立場が曖昧になる 引継ぎ期間を区切る。見積もれないときは、更新できる短い期間にする(ガイドラインの考え方)

売り手が近所で店を出し直すと、常連ごと戻る。競業避止の有無と範囲を契約で確かめる

結論: 店主個人に付いた客は、店主が別の店を出せば、そちらへ動きえます。買う前に、売り手が同じ営業をできる範囲を確認します。

会社法21条は、事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含む。政令指定都市では区または総合区)の区域内とこれに隣接する市町村の区域内では、譲渡した日から20年間は同一の事業を行ってはならないと定めています。条文上この義務を負うのは譲渡した会社で、代表者であるママ・マスター個人を名指しする定めではありません。同じ営業を行わない旨の特約は、譲渡の日から30年の期間内に限って効力があります。また、不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことは、これらの規定にかかわらず禁止されています(同条3項)。個人事業の営業の譲渡については、商法16条が同じ趣旨を定めています。

譲渡の形 競業の考え方 買い手が確認すること
事業譲渡(会社が店を譲る) 会社法21条の規律がある(義務を負うのは譲渡した会社)。ただし、当事者の別段の意思表示で変えられる 契約書で、競業を制限する範囲・期間を変えていないか。代表者個人も競業避止の当事者に入っているか
営業譲渡(個人が店を譲る) 商法16条に同じ趣旨の定めがある。別段の意思表示で変えられる 同上
株式譲渡 会社そのものが残るので、事業譲渡の規定の場面とは異なる。株主だった売り手が何をできるかは、契約で決める 売り手が近隣で同じ業態の店を出せないかを、株式譲渡契約の競業避止義務で確かめる

中小M&Aガイドライン(第3版)は、最終契約で確認する項目の例として、経営者による引継ぎ期間と、競業避止義務(譲渡後に競合する事業を行うことがどの程度禁止されているか)を挙げています。市町村や期間の範囲が実際の商圏に合うか、売り手の家族や元スタッフが近くで開く場合までどう扱うかは、契約書ごとの確認と、弁護士など専門家の判断が要ります。

離れが出る場合は、価格と支払いの条件で受ける。成果連動の支払いを使うなら、測る方法を先に決める

結論: 離れる割合を当てずに、売上が落ちたケースでも買えるかを見ます。そのうえで、価格を下げるか、支払いの一部を後ろに回す条件を検討します。

仮の数字で試算します。実際の店の数字ではなく、離れ率を示す根拠もありません。月の売上が平均200万円で、そのうち店主指名の客の分を80万円とします。

ケース(仮) 店主指名の客の残り方 月の売上 現在との差
A すべて残る 200万円 0円
B 半分が離れる 160万円 月40万円減
C すべて離れる 120万円 月80万円減

売上の落ちがそのまま利益の落ちになるわけではありません。家賃や人件費など、売上が減っても変わらない費用があるためです。利益への影響は、売り手の損益の内訳(変動する費用と固定の費用)に当てはめて、ケースごとに見ます。このケースの置き方は本記事の整理で、実際の離れ率は店ごとに違います。

価格と支払いの受け方は、次の選択肢が考えられます。

受け方 内容 注意すること
価格を下げる ケースBやCでも元が取れる価格にする 売り手が受け入れるかは交渉次第
支払いを分ける 一部を、交代から一定期間後の売上に応じて払う 測る数字・時期・計算方法を、契約に書いておく
売り手の関与を条件にする 引継ぎ期間の関与を契約の条件にする 関与の中身を書面で具体化する

支払いを後ろに回す方法として、中小M&Aガイドライン(第3版)は、アーンアウト条項を説明しています。クロージング後の一定期間(3年以内が多いと書かれています)に、売上や利益などの目標を設け、達成されたときに追加の対価を支払う条項で、譲り受け側にとっては、クロージング時の支払額を抑え、業績が悪化するリスクを避ける手段になりうるとされています。同じ箇所で、調整が発生する条件や方法の解釈の違いで争いになるリスクがあるため、明確で詳細な内容にする必要があること、確定していない具体的なリスクに対応して設定すべきで、調整が十分でない段階で評価額の差を埋める目的だけで設けることは慎重に検討すべきと書かれています。

小さな店では、売上の記録が手書きや現金中心のことがあり、成果を測る数字そのものの信頼性が問題になります。条項を置くなら、何の記録で、誰が確認するかを先に決めます。条項の設計は、弁護士や税理士などの専門家に確認してください。

買う・見送る・条件を付けるの判断は、記録と売り手の関わりで決まる

結論: 内訳が確かめられ、売り手の関与が書面にできるなら、買える見込みがあります。記録が無く、売り手が早く抜けるなら、見送るか、価格と条件で大きく受ける判断になります。

状況 判断の方向(本記事の整理)
来店記録と台帳があり、店・立地に付く部分が大きい。売り手も一定期間残る 買う方向で検討する。引継ぎ期間と競業避止を書面にする
店主指名の部分が大きいが、売り手が一定期間残り、書面にできる 価格や支払いの条件で受ける(支払いを分ける、価格を下げる)
記録が無く、売り手がすぐ抜ける。店主指名の部分が大きそう 見送るか、最悪のケース(ケースC)でも成り立つ価格にする
売り手が近所で出し直す意向がある 競業避止の範囲が合意できなければ、見送る

廃業と比べるならバー・スナックは廃業と売却どっちが得か、買い手側の初期費用と新規開業の比較はバー・スナックの新規開業と居抜き買収、買い手の類型と公表事例はバー・スナックの売却・第三者承継の事例傾向をご覧ください。賃貸借の引継ぎはスナック 店舗 譲渡 賃貸借契約で扱っています。

まとめ

  • 買う前に見るのは、店主が抜けた後も来る客の売上です。現在の売上を、店・スタッフ・店主個人の3つに分けて見積もります。
  • 離れ率の数字は、本記事で確認した資料にはありません。割合を決め打たず、複数のケースを置き、最悪のケースでも成り立つかを見ます。
  • 引継ぎ期間と売り手の役割の書面化、競業避止の範囲の確認、成果連動の支払いの検討で、離れへの備えを契約に落とします。法的な判断が要る箇所は専門家に確認してください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 常連客頼みのスナックを買うと、店主が替わった後に売上はどれくらい落ちますか? A. 落ちる割合を示す一次資料は、本記事で確認した範囲にはありません。店ごとに、店主指名の客の割合、スタッフの残り方、売り手の関わり方が違うためです。割合を決め打たず、売上を「店」「スタッフ」「店主個人」に分け、残り方を複数のケースで置いて、価格と条件で受けられるかを見ます。

Q2. 店主が替わると、常連が離れるかどうかは、買う前に分かりますか? A. 離れるかどうかを事前に確定することはできません。確かめられるのは、店主が不在だった時期の売上、ボトルキープ台帳の名義と最終来店日、スタッフごとの指名の記録など、売り手が持つ記録の範囲です。記録が無い部分は見積もれないものとして、価格と契約条件で受けます。

Q3. 売り手がしばらく店に残れば、常連は離れませんか? A. 離れないと言い切れる根拠は確認できていません。中小PMIガイドラインは、経営者が顧問などで残ることを伝えると従業員の安心感につながることもあるとしていますが、これは従業員への説明の例です。残る期間と役割は、覚書などの書面で具体的に決めます。見積もれないときは、更新できる短い期間にする考え方もガイドラインに示されています。

Q4. 売り手が近所で別のスナックを開くのを止められますか? A. 会社が事業を譲渡した場合、会社法21条は、当事者の別段の意思表示がない限り、譲渡した会社は同一の市町村(政令指定都市では区)と隣接する市町村で、譲渡の日から20年間は同一の事業を行えないと定めています。条文上この義務を負うのは譲渡した会社で、代表者のママ・マスター個人を名指しする定めではありません。個人の営業の譲渡は商法16条に同じ趣旨の定めがあり、こちらは譲った本人が対象です。契約でこの範囲を変えていることもあるため、契約書と、代表者個人が競業避止の当事者に入っているかを確認し、専門家に相談してください。株式譲渡では、契約の競業避止義務で決めます。

Q5. アーンアウト(成果連動の支払い)は、小さなスナックの買収で使えますか? A. 使える形にできるかは、売上の記録の信頼性しだいです。中小M&Aガイドライン(第3版)は、クロージング後の一定期間の売上などの目標が達成されたときに追加対価を支払う条項と説明し、条件や方法の解釈で争いになるリスクがあるため、明確で詳細な内容にする必要があるとしています。測る数字と確認する人を先に決め、専門家に条項を確認してもらってください。

Q6. 離れが心配なとき、買わないほうがよいのはどんな場合ですか? A. 本記事の整理では、来店記録や台帳が無く、売り手がすぐ抜け、店主指名の部分が大きそうな場合や、売り手が近所で出し直す意向があり競業避止の範囲が合意できない場合は、見送りも含めて検討する場面です。条件が合うかどうかは、最悪のケースでも成り立つ価格かどうかで確かめます。

出典

  • 中小企業庁「中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~」(令和4年3月) https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(令和6年8月) https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
  • 会社法(平成十七年法律第八十六号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
  • 商法(明治三十二年法律第四十八号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/132AC0000000048

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