この記事の目次
「Amazonのアカウントごと売れるのか」「楽天の店舗の評価やランキングは買い手に残るのか」。EC事業の売却で、買い手が最初に聞く質問の一つです。この記事は、モールの規約と民法で確認できた範囲で、引き継げるものと引き継げないものを分けて書きます。
この記事の結論
- アカウントや店舗は、売り手と買い手の合意だけでは動かせません。 土台は出店者とモールの契約で、Amazonは書面同意のない譲渡を禁じ、楽天は事前承諾がある場合に限り契約者変更を認めています。
- 会社ごと譲渡する株式譲渡は、契約の当事者が変わらない点で事業譲渡と構造が違います。ただし登録情報の変更にはモールの確認が要ります。
- レビューや販売実績が引き継がれるかは、取得できた公式ページでは確認できませんでした。承認が出なかったときの扱いを、売買契約で先に決めてください。
この記事の対象:Amazon・楽天市場などのモールで売上を立てているEC事業のオーナーと、その事業の買収を検討している方。
EC事業のM&A全体の見方は、EC・ネットショップのM&A DATAにまとめています。この記事は、そのうち「モールのアカウントを引き継げるか」だけを扱います。規約は改定されるため、以下は2026年10月18日に確認した内容です。
アカウントは「売り物」ではなく、モールとの契約でできている
結論: 譲渡できるかを決めるのは、売り手と買い手ではなくモールです。民法でも、契約上の地位の移転には相手方の承諾が要ります。
民法第539条の2は、契約の当事者の一方が第三者と契約上の地位を譲渡する合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位がその第三者に移転すると定めています。アカウントや店舗は、出店者とモールの間の契約に基づいて使えている状態です。売買契約でアカウントを「渡す」と書いても、モールが承諾しなければ、モールとの契約は動きません。
| 避けたい判断 | こうすればOK |
|---|---|
| 売買契約書に「アカウントを譲渡する」と書けば、引き継げると考える | モールの承諾を得る手続きと、得られなかった場合の扱いを、契約書に書く |
| ログイン情報や登録情報を、モールに伝えずに買い手へ渡す | 譲渡の形(株式譲渡か事業譲渡か)を先に決め、その形で必要な確認をモールに取る |
| Amazonと楽天の条件を同じものとして一括で扱う | モールごとに、契約主体と手続きを別に確認する |
Amazonは書面同意なしの契約譲渡を禁じ、違反する譲渡は無効としている
結論: Amazonでアカウントを事業ごと移す形は、Amazonの同意が前提です。同意なしに進めた場合、譲渡は無効になるとされています。
Amazonセラーセントラルのお知らせ(Seller Central ニュースとお知らせ「Amazonサービスビジネスソリューション契約の改定について」)は、日本向けの契約の第18条第2項について、次の文言を掲載しています。
- 改定前:「出品者様は、Amazonの事前の書面による同意なしに、法律の施行またはその他によっても、本契約を譲渡することはできません。本条に違反するような譲渡やその他の移転の試行は無効となります。」
- 2026年8月24日以降の改定後は、上記に加えて「本契約上の、または本契約に基づいて生じる権利または義務の全部または一部を譲渡したり、担保に供したりすることはできません。」が入る
つまり、契約が一括で移る事業譲渡のほか、契約上の権利の一部だけを移す形も、禁止の対象として、改定後の条文で明記されています。告知どおり改定されたかは、契約画面の最新の文言で確かめてください。
なお、非公式のブログや掲示板には「Amazonの担当部署の承認を取って名義を変えた」という体験談もあります。しかし、取得できたAmazonの公式ページに、承認の窓口や条件を示す記載は見つけられませんでした。承認が取れるか、取れる条件は何かは、個別に事前確認が必要です。
楽天は、事前に承諾した場合に限り契約者変更を認めている
結論: 楽天には「契約者変更」という正規の手続きがあります。ただし承諾が前提で、承諾の可否は事前には決まっていません。
楽天の「楽天事業承継アシスト」のページは、楽天市場出店規約に基づき、楽天が事前に承諾した場合に限り、別法人へ契約を変更できると説明しています。譲渡先がすでに決まっている場合は、相談フォームではなく、「契約者変更(事業譲渡、合併、会社分割)」の申請をするか、企業情報変更係に問い合わせるよう案内しています。手続きの詳細は、RMSにログインして見る店舗運営Naviの「企業情報変更」のページに載っているとされ、本記事では取得できていません。
譲渡先がまだ決まっていない場合は、同ページの窓口(楽天事業承継アシスト)が使えます。仲介会社を紹介する流れになっており、仲介会社とのアドバイザリー契約の費用は契約内容によって発生すると書かれています。これは楽天の窓口の案内であり、M&A-WEBが提供するサービスではありません。
株式譲渡は契約の当事者が変わらないが、登録情報の変更は確認が要る
結論: 会社ごと売る株式譲渡は、モールとの契約を移す手続きそのものを避けられる形です。ただし、アカウントがそのまま使えると決まるわけではありません。
| 譲渡の形 | モールとの契約 | Amazonで確認すること | 楽天で確認すること |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 出店者の法人は同じ。契約の当事者は変わらない | 運営責任者や口座など登録情報を変えるときの手続き。運営責任者の本人確認書類が必要になる場合がある | 代表者などの企業情報を変える場合の手続き。個別に事前確認が必要 |
| 事業譲渡(既存アカウントを引き継ぐ) | 契約の移転にモールの承諾が必要 | 書面同意の可否と窓口。個別に事前確認が必要 | 「契約者変更」の申請。楽天の事前承諾が前提 |
| 事業譲渡(買い手が新規に出店する) | 買い手が新しい契約を結ぶ | 新規登録の審査。旧アカウントの評価や履歴の扱いは別途確認 | 新規出店の審査。旧店舗の実績の扱いは別途確認 |
表のうち「確認すること」の欄は、モールが規約や案内で示している手続きと、確認できなかった点を分けて書いたものです。
Amazonは、アカウントを実際に運営・操作する人を運営責任者として登録し、その人の運転免許証かパスポートと、法人への帰属を確認できる書類(給与明細書、委任状、定款など)を提出する仕組みを示しています(運転免許証は有効期間内、それ以外の書類は発行日から180日以内のものが対象)。株式譲渡で運営の担い手が替わる場合は、この登録の更新が必要かどうかを確かめておく必要があります。
レビュー・販売実績は、引き継げる前提で価格をつけない
結論: 評価の引き継ぎは、確認できた公式ページに記載がありませんでした。価格の根拠にするなら、モールへの確認結果を書面で残してからにします。
買い手にとってアカウントの価値は、アカウントの箱ではなく、その上に積み上がった評価・販売実績・ランキングにあります。しかし、取得できたAmazonの契約告知にも、楽天の事業承継の案内ページにも、事業譲渡や契約者変更のときにレビューや販売実績が引き継がれるかの記載は確認できませんでした。
| 避けたい判断 | こうすればOK |
|---|---|
| 「評価が付いているから高い」と、引き継がれる前提で価格に上乗せする | 引き継がれる範囲をモールに確認し、確認できない部分は価格に織り込まない |
| 評価やランキングが残る前提で、買収後の売上計画を立てる | 評価が残らない場合の売上も計画に入れる |
| 商品ページ・ブランド・商標の権利と、アカウントの扱いを同じ話として進める | 商標・ブランドの権利や、顧客に見える商品情報は、アカウントとは別に買い手へ移す方法を決める |
承認が出ない場合に備えて、売買契約にあらかじめ書いておく
結論: 承認が出ないときの扱いを決めないまま契約すると、損を誰が負うかで揉めます。最低限、次の4点を契約前に決めます。
| 決めておくこと | 書き方の例(考え方) |
|---|---|
| 承認が出なかったときの価格 | 承認が前提の部分を、全額返金・減額・解除のどれにするか |
| 承認までの運営の主体 | 承認が出るまでの間、誰の名義で、誰が運営するか |
| 入金・未発送・返品の精算 | モールの売上金、未発送の注文、返品の取り扱いを、いつの時点で売り手と買い手に分けるか |
| 利用停止になった場合 | 譲渡の過程でアカウントが止まったときの責任と補償 |
入金・未発送・返品・利用停止の具体的な扱いは、モールごとに異なるため、取得できた公式ページには記載がありません。個別に事前確認が必要です。契約条項の書き方は、事案によって変わります。弁護士などの専門家に確認してください。
自社の場合を確認する 売却の準備として自社の事業価値を見たいとき → 事業価値を確認する
まとめ
- アカウントや店舗は、モールとの契約でできています。Amazonは書面同意なしの契約譲渡を禁じ、楽天は事前承諾がある場合に限り契約者変更を認めています。
- 株式譲渡は契約の当事者が変わらない点で事業譲渡と構造が違いますが、運営責任者などの登録情報の変更は確認が要ります。
- レビューや販売実績が引き継がれるかは確認できませんでした。引き継げる前提で価格をつけず、承認が出なかったときの扱いを契約で決めておきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. Amazonのセラーアカウントは売却できますか? A. アカウントそのものを売買の対象にすることは、Amazonの事前の書面による同意がない限り、規約上できません。Amazonサービスビジネスソリューション契約(日本)の第18条は、Amazonの事前の書面による同意なしに契約を譲渡することを禁じ、違反する譲渡は無効としています。会社ごと譲渡する株式譲渡は契約の当事者が変わらないため構造が異なりますが、運営責任者の変更などの扱いはAmazonに個別に確認する必要があります。
Q2. 楽天市場の店舗は売却できますか? A. 楽天は、楽天市場出店規約に基づき、楽天が事前に承諾した場合に限り別法人へ契約を変更できるとしています。譲渡先が決まっている場合は、「契約者変更(事業譲渡、合併、会社分割)」の申請をします。承諾が得られるかは個別に決まるため、買い手との合意の前提にしないでください。
Q3. レビューや販売実績も一緒に引き継げますか? A. Amazon・楽天とも、取得できた公式ページには、事業譲渡のときにレビューや販売実績が引き継がれるかの記載を確認できませんでした。引き継げる前提で価格をつけず、モールごとに事前に確認してください。
Q4. 株式譲渡なら、アカウントは必ずそのまま使えますか? A. 必ずとは言えません。出店者が同じ法人のままなので契約の当事者は変わりませんが、運営責任者や口座などの登録情報を変える場合、モール側が本人確認や書類の提出を求めることがあります。Amazonは、アカウントを実際に運営する人を運営責任者として登録し、本人確認書類を提出する仕組みを示しています。
Q5. 承認が取れなかったら、売買はどうなりますか? A. 承認が取れなかった場合に、価格の調整、契約の解除、買い手が新規に出店する形への切り替えのどれにするかを、契約の締結前に決めておきます。決めずに進めると、売り手と買い手のどちらが損を負うかで揉める原因になります。条項の書き方は、弁護士などの専門家に確認してください。
Q6. 譲渡の話はモールに先に伝えるべきですか? A. Amazonは書面による同意を、楽天は事前の承諾を要件としているため、無断で名義や登録情報を変えるのではなく、先に確認するのが原則です。確認する窓口や必要書類は、モールの最新の案内で確かめてください。
出典
- Amazonセラーセントラル「Amazonサービスビジネスソリューション契約の改定について」(News_Amazon・取得日 2026年10月18日)https://sellercentral.amazon.co.jp/seller-forums/discussions/t/c10b1f68-2f39-45a5-b5f4-f00bbf4c7b10
- Amazon「Identity verification for your Amazon seller account」(取得日 2026年10月18日)https://sell.amazon.co.jp/sell/identity-verification
- 楽天「楽天事業承継アシスト」(取得日 2026年10月18日)https://service.rms.rakuten.co.jp/bma
- e-Gov法令検索「民法」第539条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089