管工事の建設業許可はM&Aで残る?消える?|株式譲渡vs事業譲渡で許可・経審・専任技術者を引き継ぐ実務
会社をたためば、長年の建設業許可(管工事業)も、積み上げた経営事項審査(経審)の評点も施工実績も、長く支えてくれた専任技術者も——すべてゼロに戻ります。後継者がいないから出口を探す。でも「許可・有資格者ごと誰かに引き継げないか」と頭をよぎる。あるいは買い手側として「許可・経審・有資格者ごと取り込めるなら買いたい」と考える。本記事は、空調設備(管工事)会社の建設業許可・経審・専任技術者(管工事施工管理技士)を、株式譲渡と事業譲渡でどう承継・維持・消滅するかをスキーム別に整理します。許可の「取り方」ではなく、M&A・事業承継で「許可・経審・有資格者ごと引き継ぐ/維持する」実務に絞ってお伝えします。
この記事の結論(先に要点だけ)
- 管工事業は「指定建設業」7業種の一つで、特定建設業の専任技術者・監理技術者は国家資格者(管工事施工管理技士1級/2級等)・技術士・大臣特別認定者に限定され、指導監督的な実務経験のみでは要件を満たせません[C-01][C-02]。塗装工事業(指定建設業ではない)とは対照的で、管工事は有資格者そのものが希少な資産です。
- 株式譲渡なら法人格が存続するため、建設業許可・許可番号・経審評点・施工実績は会社に帰属したまま原則継続します(経管・専技の兼務者が退任する場合は変更届などの対応)[C-05]。
- 事業譲渡・合併・分割では、建設業許可は当然には移転できません。令和2年(2020年)10月施行の「事前認可」(建設業法17条の2)を承継日より前に受ければ、許可・許可番号・経審結果ごと地位を引き継げます[C-04]。認可を受けない/要件を満たさない場合は買い手の再取得まで無許可の空白が生じ、経審の受審し直し・施工実績の積み直しになり得ます[C-04b]。
- ★いずれのスキームでも、指定建設業ゆえ専任技術者=管工事施工管理技士を承継後も確保できることが許可維持の前提です[C-02]。
- 許可・経審・専任技術者は廃業すればゼロ、承継すれば値が付く“見えない資産”。可否や申請期限は許可行政庁で異なるため、個別は行政書士・許可行政庁へ確認のうえ、まずは自社の出口を整理することから始めましょう。
§1 管工事の建設業許可とは — 指定建設業・経審・専任技術者(管工事施工管理技士)の3点
承継の話に入る前に、管工事の許可が「何で構成され、なぜ希少性が高いのか」を3点で押さえておきます。ここを混同すると、承継ミスの元になるからです。
管工事の建設業許可とは、空調・給排水などの配管・据付工事を一定規模以上で請け負うために必要な、指定建設業「管工事業」の建設業許可をいい、その維持には経営事項審査(経審)と国家資格を持つ専任技術者が深く関わります。まずはこの3点を分けて理解しておきます。
第1点は、建設業許可「管工事業」が「指定建設業」7業種の一つだということです。指定建設業は、土木工事業・建築工事業・電気工事業・管工事業・鋼構造物工事業・舗装工事業・造園工事業の7業種で(建設業法施行令第5条の2)、施工技術の総合性などから特に施工の適正を確保すべきとされています[C-01]。この指定建設業について特定建設業の許可を受けようとする場合、設置しなければならない専任技術者は、一級の国家資格者または国土交通大臣の特別認定者に限定され、指導監督的な実務経験のみでは要件を満たせません[C-01]。ここが塗装工事業との決定的な違いです。塗装工事業は指定建設業ではないため、実務経験を積み重ねた者でも専任技術者になり得ますが、管工事はそれが認められません。だからこそ管工事は、有資格者そのものが希少で、参入障壁=“見えない資産”になりやすいのです。
第2点は、経営事項審査(経審)です。経審は、公共性のある施設・工作物の建設工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が受けなければならない、建設業法第27条の23に基づく客観的事項の審査制度です[C-03]。経営状況・経営規模・技術力(Z=技術職員数や有資格者数等)・社会性などを点数化(P点)したもので、公共工事やゼネコン・サブコンとの元請取引の「入口」になります。後述するとおり、この経審評点が承継でどう扱われるかが、買い手にとって大きな関心事になります。
第3点は、専任技術者=管工事施工管理技士です。1級・2級管工事施工管理技士は、技術検定(建設業法第27条)に基づく国家資格で、国土交通省の「専任技術者となり得る国家資格一覧」にも明記され、管工事業の専任技術者・監理技術者・主任技術者になり得ます(1級=特定建設業の専任技術者・監理技術者/2級=一般建設業の専任技術者・主任技術者)[C-02]。なお、1件の請負代金が500万円未満の軽微な工事(建築一式は1,500万円未満等/いずれも消費税込み)は建設業許可なしでも施工できますが[C-06]、一定規模以上を請け負う管工事会社にとっては、許可・経審・有資格者の3点が事業の土台になります。
このように管工事は、指定建設業ゆえに有資格者の確保が許可維持に直結し、経審評点・施工実績が公共・元請取引の入口になる「許認可ビジネス」です。新規参入では一朝一夕に揃わないこれらの蓄積が、承継時には“見えない資産”として評価の土台になります。
空調設備(管工事)業界の需要動向や将来性の全体像は、空調設備工事の将来性 — 需要は堅調、それでも二極化して残るで俯瞰しています。本記事(許可の承継実務)と併せてご覧ください。 独立で一から建てるかM&Aで買って時間を買うかの比較は空調設備工事で独立開業すべきか会社を買収すべきか(費用と時間で比較)で扱います。
注:管工事の許可要件(経営業務管理責任者・専任技術者など)や経審の細目は、許可行政庁で運用が異なる場合があります。個別の要件・手続きは行政書士・許可行政庁へご確認ください。
§2 なぜ今「許可ごと承継」が増えているか — 指定建設業の希少性・人手不足が生む買い手
承継スキームの各論に入る前に、なぜ「許可・有資格者ごと譲る/買う」需要が高まっているのかを整理します。
第一に、指定建設業の希少性が参入障壁=価値になっています。管工事は指定建設業ゆえ、特定建設業の専任技術者・監理技術者が国家資格者(管工事施工管理技士1級等)に限定され、実務経験のみでは要件を満たせません[C-01][C-02]。ゼロから許可・経審・有資格者を揃えるには時間がかかります。だからこそ「会社ごと(=許可・有資格者ごと)取り込みたい」買い手が動きやすくなっています。
第二に、後継者問題と人手不足です。建設業の後継者不在率は57.3%(2025年)で、全業種のなかでも最も高い水準にあります(ピークの71.4%(2018年)からは改善傾向/全国平均は50.1%)[C-07]。職人の高齢化と採用難も重なり、「人材・許可・経審ごと買う」動機が買い手側に生まれています。建設業許可業者数自体は令和7年(2025年)3月末で483,700業者(前年同月比+0.9%)と底堅く推移しており[C-08]、需要そのものが細っているわけではありません。
第三に、買い手のタイプの広がりです。空調更新・GX(省エネ)改修・データセンターの空調需要は中長期で堅調とみられ、こうした需要を取り込みたい同業・サブコン・ビル管理・電気/建築設備の隣接事業者・ゼネコンなどが、管工事会社を「許可・有資格者ごと」欲しがる傾向があります(将来の件数増を断定するものではなく、あくまで足元の方向性です)[C-08]。誰が・なぜ空調設備(管工事)会社を買うのかは、空調設備(管工事)会社のM&A事例集 — 買い手タイプ別で整理しています。
需要は堅調でも続ける体力が削られ、後継者問題が重なる——許可・有資格者が健在なうちに「許可ごと譲る」需要と「許可ごと買う」需要が、同時に高まっている地合いといえます。
§3 株式譲渡 vs 事業譲渡 — スキーム別・許可/経審/実績/専任技術者はどう残る・消えるか
ここが本記事の中核です。管工事の許可・経審・施工実績・専任技術者が、M&Aのスキーム別にどう動くのかを整理します。金額や相場の話ではなく、「何がどのスキームで残り、どのスキームで手続きが要るか」をマトリクスで逆引きできるようにします。
株式譲渡 — 法人格が変わらないので許可も経審も実績も原則そのまま残る
株式譲渡は、株主(オーナー)が交代するだけで会社そのものは存続します。法人格が変わらないため、建設業許可も許可番号も、会社に蓄積された経審評点も、施工実績も、会社に帰属したまま原則として継続します[C-05]。買い手から見れば、許可・経審・実績をまとめて取り込めるのが株式譲渡の大きな利点で、事業譲渡より高値・短期になりやすい構造的理由がここにあります。
ただし、許可の「要件」は維持し続ける必要があります。たとえば経営業務管理責任者(経管)や専任技術者(専技)を旧オーナーが兼務していた場合、その人が退任すると要件が欠けかねません。役員変更・経管/専技の変更などは別途、変更届などの対応が必要です[C-05]。とくに管工事は指定建設業ゆえ、専任技術者=管工事施工管理技士の常勤性維持が許可維持の前提になります。有資格者が一斉に退職すれば、株式譲渡で許可が会社に残っていても許可維持に支障が生じうる点には注意が必要です[C-02]。
事業譲渡・合併・分割 — 許可は移転できず、事前認可or再取得=空白・経審/実績の再構築リスク
事業譲渡・合併・分割では、会社の器が変わるため、許可は当然には移りません。ここで使えるのが、令和2年(2020年)10月1日施行の「事業承継等に関する認可制度」(建設業法17条の2)です[C-04]。
この制度では、譲渡人と譲受人があらかじめ(承継日より前に)許可行政庁の認可を受けたとき、承継日に譲受人が譲渡人の「建設業者としての地位の全部」を承継できます[C-04]。改正前は、いったん新規に許可を取り直す必要があり、新しい許可が下りるまでの間に無許可の空白期間が生じて不利益が出ていました。事前認可を受けることで、許可番号や経審の結果も含めて、空白を生じることなく地位を引き継げるようになっています[C-04]。
逆にいえば、事前認可を受けない/要件を満たさない場合は、買い手が新規に許可を取得することになり得ます。その場合、許可が下りるまでの無許可の空白に加え、経審を受審し直し、施工実績もゼロから積み直すことになり得るため、これが大きな値引き要因になります[C-04b]。
事前認可には、いくつかの制約があります。
- 全部承継が原則です。承継者は被承継者の建設業の「全て」を承継する必要があり、一部の業種だけを承継することはできません(不要な業種は承継日より前に一部廃業届を出すなどの対応が必要です)[C-04b]。
- 一般・特定の組合せ制約があります。承継は、同一業種で一般・特定の区分が同一であれば可能ですが、区分が異なる場合は承継できません(異業種間の承継は可能です)[C-04b]。
- 承継者・相続人が許可要件等を備えていることが必要です。承継される業種の営業所技術者などは、承継予定日に原則として業種ごとに引き続き常勤している必要があります[C-04b]。★管工事は指定建設業ゆえ、承継先(買い手)が専任技術者=管工事施工管理技士(国家資格者)を具備していることが、事前認可の前提になります[C-01][C-04b]。
- 承継者は許可番号を引き継げる(無許可業者へ承継される場合は従前の許可番号が引き継がれる)ほか、被承継者の決算報告(事業年度終了届)の提出義務も承継します[C-04b]。
申請期限には注意が必要です。事前認可の申請受付期限は許可行政庁によって異なります。関東地方整備局の手引では、事業承継の事前認可申請は「承継予定日の90日前まで」(標準処理期間90日)とされています[C-04c]。これはあくまで大臣許可窓口の一例で、都道府県知事許可や他の地方整備局では期限・運用が異なります。「実行してから手続き」では間に合わないため、スケジュールの逆算と、許可行政庁・行政書士への個別確認が欠かせません。
相続・法人成り — 17条の3(相続は死後30日以内)
個人事業として管工事業を営んでいた方が亡くなった場合は、建設業法17条の3により、その相続人が死亡後30日以内に認可を申請し、認可を受けることで建設業者としての地位を承継できます[C-04d]。個人事業の法人成り(法人化)も、事業譲渡と同様に事前認可の枠組みで許可番号・経審結果を移行できる場合があります(個別の扱いは許可行政庁へ)[C-04d]。
スキーム別 承継マトリクス(本記事の中核)
管工事の許可・経審・実績・専任技術者が、スキーム別にどう動くかをまとめると次のようになります。自社のケースを当てはめて逆引きしてください。
| 承継される要素 \ スキーム | 株式譲渡(法人格存続) | 事業譲渡 | 合併・分割 | 相続(個人事業) | |—————————|———————-|———-|————|——————| | ① 建設業許可「管工事業」(指定建設業)・許可番号 | 会社に帰属したまま原則継続。経管/専技兼務者の退任時は変更届[C-05][C-04b] | 17条の2の事前認可(あらかじめ)で許可番号ごと全部承継可/認可を受けなければ買い手の新規取得=空白[C-04][C-04b] | 17条の2の事前認可で全部承継可[C-04] | 17条の3:死亡後30日以内の認可で承継[C-04d] | | ② 経審評点(27条の23・P点) | 会社に蓄積されたまま原則継続(買い手は経審ごと取り込める)[C-03][C-05] | 事前認可で地位の全部を承継すれば引き継げる/認可を受けなければ受審し直しになり得る[C-04][C-04b] | 同左[C-04b] | 同左(認可で承継)[C-04d] | | ③ 施工実績・元請継続取引 | 会社に蓄積されたまま原則継続[C-05] | 事前認可で地位を承継すれば原則引継/認可を受けなければゼロから積み直しになり得る[C-04b] | 同左[C-04b] | 認可で承継[C-04d] | | ④ 専任技術者(管工事施工管理技士=国家資格者) | 会社に残るが、兼務退任・高齢有資格者の引退で常勤性が揺らぐ=常勤性維持が前提[C-02][C-04b] | ★承継先(買い手)が国家資格者を具備していることが事前認可の前提[C-01][C-04b] | 同左[C-01][C-04b] | 相続人が許可要件を具備していること[C-04b] |

図解F1:管工事の許可・経審・実績・専任技術者×M&Aスキーム別の承継分岐。株式譲渡=会社に残り原則継続/事業譲渡=許可は移転不可・事前認可or再取得・専任技術者の確保が前提。可否・期限は許可行政庁により異なります。

図解F2:承継で残るもの/消えるもの。株式譲渡なら許可番号・経審評点・施工実績・専任技術者が会社に残り、事業譲渡で事前認可を受けなければ許可空白・経審受審し直し・実績積み直しになり得ます。
なお、ここでは管工事に特化して整理しています。建設業全般のM&A・建設業許可承継(株式譲渡と事業譲渡の汎用的な違い、デューデリジェンス(DD)、基本合意などの全体像)は、建設業のM&A・許可承継の全体像で詳しく解説しています。
§3.5 指定建設業ゆえの落とし穴 — 専任技術者(管工事施工管理技士)が承継できなければ許可は維持できない
管工事M&Aで最も見落とされやすいのが、ここです。許可“だけ”を引き継げても、専任技術者=国家資格者を承継後に確保できなければ、許可は維持できず、承継の前提そのものが崩れかねません。
繰り返しになりますが、管工事は指定建設業ゆえ、特定建設業の専任技術者・監理技術者は一級の国家資格者・技術士・大臣特別認定者に限定され、指導監督的な実務経験のみでは要件を満たせません[C-01]。塗装工事業のように「実務経験を積めば専任技術者になれる」業種とは異なり、管工事は管工事施工管理技士という国家資格者の確保が許可維持に直結する——これが管工事固有の希少性であり、承継の最大の論点です。
スキーム別に見ると、次のようになります。
株式譲渡の場合は、許可・経審・実績・有資格者が会社にまとめて残ります。ただし、旧経営者が専任技術者を兼務していた場合の退任や、高齢の有資格者の引退によって、許可維持が揺らぎかねません。専任技術者の常勤性維持が前提であり、有資格者が抜けて要件を欠けば、許可の維持に支障が生じうる点に注意が必要です[C-02][C-05]。
事業譲渡・合併・分割の場合は、より直接的です。前述のとおり、承継者(買い手)が許可要件を備えていることが事前認可の前提であり、管工事については承継先が専任技術者=管工事施工管理技士(国家資格者)を具備していることが求められます[C-04b]。これを確保できなければ、そもそも事前認可の前提を満たせず、承継できない・再取得になり得るということです[C-01][C-04b]。
ここから、売り手・買い手それぞれに示唆があります。
売り手の方への示唆。株式譲渡を選ぶ動機の一つが、「許可・経審・実績・有資格者をまとめて維持できる」点にあります。そして、専任技術者となり得る有資格者の人数・級・年齢構成・常勤性を“見える化”しておくと、買い手の評価が上がりやすくなります。「許可があります」だけでなく、「許可を支える有資格者が承継後も残る体制です」と示せることが大切です。
買い手の方への示唆。名義借り運用・有資格者の属人化・有資格者の退職予定は、致命的な減点要因になり得ます。許可・経審の数字だけを見て安心せず、early DD(初期の精査)の段階で、専任技術者を承継後も確保できるか、その人が承継後も常勤を続けるかを早期に確認しておくことが欠かせません。
「許可は引き継げる」と決めつけず、「許可を維持できる有資格者を承継後も確保できるか」まで踏み込むこと。それが管工事M&Aの成否を分けます(具体的な要件・手続きは許可行政庁・行政書士へご確認ください)。

図解F3:許可を残して高く売る逆算。専任技術者(管工事施工管理技士)の確保を起点に、株式譲渡で許可・経審・施工実績を温存すれば査定が向上します。廃業すればゼロ、承継すれば値が付く“見えない資産”です。
▶ 許可・専任技術者をまとめて承継できるか、無料で相談する
「どのスキームなら許可・経審・専任技術者を守れるか」「有資格者の承継をどう逆算するか」を、許可の棚卸しを含めてご相談いただけます(個別の申請手続き・可否は行政書士・許可行政庁への確認が前提です)。 → 許可・専任技術者をまとめて承継できるか無料で相談する
§4【M&A・投資視点】許可・経審・専任技術者という“見えない資産”の価値と、承継させる準備
ここからは、許可を「資産」として見る視点です。許可(指定建設業)・経審評点・施工実績・専任技術者は、決算書に金額では載りません。けれど廃業すればゼロになり、承継すれば買い手が欲しがる価値になる“見えない資産”です。だからこそ出口は、「たたむ」より先に「許可・経審・有資格者ごと譲る」を検討する価値があります。
買い手は許可をどう見るか — チェックポイント3つ
1. 許認可の質と承継可否。建設業許可(管工事業=指定建設業)・経審評点・施工実績がそろっているか、そして承継可能か。株式譲渡なら許可・経審・実績ごと原則継続、事業譲渡なら事前認可+専任技術者の確保が前提——承継可否がスキーム設計に直結します[C-01][C-04][C-05]。 2. 経審評点・施工実績・元請継続取引。経審の技術力Z(有資格者数等)の評点や、公共・ゼネコン/サブコン取引の実績は、公共・元請取引の入口です。株式譲渡なら会社に蓄積されたまま丸ごと取り込めるかが評価のポイントになります[C-03]。 3. 専任技術者(管工事施工管理技士)の定着・年齢構成・常勤性。指定建設業ゆえ、有資格者の確保は許可維持に直結します。属人化や名義借りに頼った運用、有資格者の退職予定は、それだけで評価を下げる要因になります[C-02]。
編集部より:買い手が最初に確認するのは“許可・経審・専任技術者が承継できるか”です
実際の建設・管工事領域のM&Aで、買い手が最初に確認するのは、まず「許可・経審評点・施工実績・専任技術者(管工事施工管理技士)を、選んだスキームで承継できるか」です。株式譲渡なら許可も経審も実績も会社に残って丸ごと取り込めるため、事業譲渡より高値・短期になりやすい一方、事業譲渡を選ぶ場面では、事前認可と専任技術者の確保を逆算しておかないと、承継後に許可維持ができず、経審も実績も積み直しになりかねません。とくに管工事は指定建設業ゆえ、有資格者の年齢構成・常勤性・名義借り運用の有無が評価を大きく左右します。許可の「取り方」だけ読んでも、この“買い手が許可と有資格者をどう見るか”は見えてこないのです。(※本コラムは当社の建設・管工事領域におけるM&A実務での一般的な所感です)
売り手が承継前に整える準備3つ
1. 許可・経審・実績・専任技術者を棚卸しする。建設業許可(管工事業)の有効期限・一般/特定、経審の受審状況・評点・有効期間、施工実績・元請継続取引、そして専任技術者となり得る有資格者の人数・級・年齢構成・常勤性を一覧にして「見える化」します。“まとめて承継できる状態”ほど高く評価されます。 2. スキーム選択を早期に決める。許可・経審・実績・有資格者をまとめて維持したいなら株式譲渡が有利な場面が多く、事業譲渡を選ぶなら事前認可と専任技術者の確保(承継先の具備)を逆算しておきます[C-04b]。 3. 申請期限から逆算する。事業譲渡の事前認可は行政庁により申請期限が異なります(関東地方整備局の手引では承継予定日の90日前など)[C-04c]。「実行してから手続き」では間に合わないため、早めに許可行政庁・行政書士へ相談しておきます。
相場・評価の決まり方は別記事へ
許可・経審・有資格者が承継できる前提なら、それらの有無が評価を大きく左右します。参考までに、空調設備工事(管工事)を含む「設備工事業」の売上高営業利益率は0.35%(令和4年度・黒字/建設業全体は0.33%)と薄い一方、売上高総利益率(粗利率)は29.46%で建設業5区分のなかで最も高く、自己資本比率も42.64%です[C-09]。粗利は厚いのに営業利益が薄いのは、労働集約で販管費・労務負担が重い構造を示しており、だからこそ「人(有資格者)と段取り(許可・経審・継続取引)」が値段の源泉になります(これは設備工事業ベースの近似値です)。ただし、具体的な相場の算定式(年買法やEBITDA倍率)と税引後の手取りは、空調設備工事会社の売却相場・評価額の目安で詳しく解説しています。本記事では「許可・経審・専任技術者の有無と承継スキームが評価を左右する」という定性的な整理に留めます。
なお税務について。個人株主が株式売却で得た利益には、申告分離課税で20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)が課されます。事業譲渡は課税の入口が異なるため、個別の税額は税理士へご確認ください[C-10]。
ひとつ注意点があります。「M&Aで事業承継税制を使って節税できる」という理解は正しくありません。事業承継税制(贈与・相続による株式取得の納税猶予制度)は親族内・社内承継の制度であり、第三者へのM&A売却とは別物です(特例承継計画の提出期限は令和9年(2027年)9月30日、適用期限は令和9年(2027年)12月31日)[C-11]。混同しないようにしてください。
買い手側の動きや、廃業との損得は、空調設備(管工事)会社のM&A事例集や空調設備工事会社の売却相場・評価額の目安も参考になります。掲載中の案件は建設・設備関連のM&A案件一覧(「空調設備」で検索)からご覧いただけます。
▶ 許可・経審・有資格者ごと、出口を相談する
売り手の方は「許可・経審ごと残す出口」を、買い手の方は「許可・有資格者ごと取り込める案件」を、それぞれ無料でご相談いただけます。 → 売り手の方:許可・経審ごと残す出口を無料相談する → 買い手の方:許可・有資格者ごと取り込める案件を相談する
§5 よくある質問(FAQ)
Q1. 管工事の建設業許可は、M&A・事業承継で引き継げますか? A. スキームによります。株式譲渡なら、許可は会社に帰属したまま原則として継続します[C-05]。事業譲渡・合併・分割では、令和2年改正の事前認可(建設業法17条の2)を承継日より前に受ければ、許可・許可番号・経審結果ごと地位を承継できます(全部承継が原則)[C-04]。認可を受けない/要件を満たさない場合は、買い手の新規取得=無許可の空白・経審の受審し直し・実績の積み直しになり得ます[C-04b]。可否・手続きは許可行政庁・行政書士へご確認ください。
Q2. 株式譲渡と事業譲渡で、管工事の許可・経審・実績の扱いはどう違いますか? A. 株式譲渡は法人格が変わらないため、建設業許可・許可番号・経審評点・施工実績が会社に残り原則維持されます[C-05]。事業譲渡は会社の器が変わるため、許可は当然には移転できず、事前認可を受ければ承継可・受けなければ買い手の新規取得(再取得)になります[C-04][C-04b]。許可・経審・実績をまとめて維持したい場合に株式譲渡が選ばれやすいのはこのためです。
Q3. 事業譲渡で建設業許可を引き継ぐ手続きと期限は?(事前認可制度) A. 建設業法17条の2の事前認可を、承継日より前にあらかじめ許可行政庁へ申請し、認可を受けてから承継を実行します[C-04]。申請期限は許可行政庁により異なり、関東地方整備局の手引では承継予定日の90日前まで(標準処理期間90日)とされています[C-04c]。都道府県知事許可など他の行政庁では期限が異なるため、早めに確認してスケジュールを逆算してください。
Q4. 管工事は指定建設業とのことですが、専任技術者には誰がなれますか? A. 管工事業は指定建設業7業種の一つで、特定建設業の専任技術者・監理技術者は国家資格者(管工事施工管理技士1級等)・技術士・大臣特別認定者に限定され、指導監督的な実務経験のみでは要件を満たせません[C-01]。1級管工事施工管理技士は特定建設業の専任技術者・監理技術者に、2級は一般建設業の専任技術者・主任技術者になり得ます[C-02]。塗装工事業(指定建設業ではない)とは異なり、管工事は国家資格者の確保が許可維持に直結する点が特徴です。
Q5. 経営事項審査(経審)の評点や施工実績は、M&Aで承継されますか? A. 経審は建設業法27条の23の客観的評価制度です[C-03]。株式譲渡なら、会社に蓄積された経審評点・施工実績はそのまま会社に残り原則継続します[C-05]。事業譲渡・合併・分割では、事前認可を受けて「地位の全部」を承継すれば経審結果・実績も引き継げますが、認可を受けなければ受審し直し・実績の積み直しになり得ます[C-04][C-04b]。
Q6. 許可を引き継がずに廃業すると、どうなりますか? A. 会社をたためば、管工事の建設業許可も、積み上げた経審評点も施工実績も、有資格者も、価値ゼロで消えます。承継すれば次の担い手に引き継がれ、対価が残ります。廃業と売却の損得は廃業と売却どちらが得かで比較しています。「たたむしかない」と決める前に、許可・経審・有資格者ごと譲れないかを確認するのが安全です。
Q7. 専任技術者(管工事施工管理技士)が承継後にいなくなると、許可はどうなりますか? A. 専任技術者は建設業許可の要件です。株式譲渡で許可が会社に残る場合でも、旧経営者が兼務していた有資格者の退任や高齢有資格者の引退で要件を欠くと、許可の維持に支障が生じうるため、退任に伴う変更届などの対応が必要になります[C-02][C-05]。指定建設業ゆえ、承継後も有資格者を確保できる体制かを事前に確認してください。具体的な要件・手続きは許可行政庁・行政書士へご確認ください。
§6 まとめ — 続ける/継がせる/売る、どの出口でも許可を守る一手
最後に要点を3つ。
- 管工事は指定建設業で、特定建設業の専任技術者・監理技術者は国家資格者(管工事施工管理技士1級等)に限定され、実務経験のみでは要件を満たせません(塗装工事業とは対照的)[C-01][C-02]。
- 株式譲渡なら法人格が存続するため、許可・許可番号・経審評点・施工実績は原則維持。事業譲渡・合併・分割では許可は移転できず、事前認可(17条の2)を受ければ承継可・受けなければ再取得=空白・再構築。相続は死亡後30日以内の認可(17条の3)[C-04][C-04b][C-04d][C-05]。
- ★いずれのスキームでも専任技術者=管工事施工管理技士を承継後に確保できることが許可維持の前提で、申請期限など可否は許可行政庁で異なります[C-02][C-04c]。
出口別のチェックリストにすると、こうなります。
売り手の方
- ☐ 建設業許可(管工事業)・経審の有効期限・評点と、専任技術者となり得る有資格者の人数・級・年齢構成・常勤性を棚卸ししたか
- ☐ 想定スキーム(株式譲渡/事業譲渡)を早期に決めたか
- ☐ 事業譲渡なら申請期限(行政庁差・90日前など)から逆算したか/承継先の専任技術者確保を確認したか
- ☐ 廃業する前に、許可・経審・有資格者ごと譲れないかを確認したか
買い手の方
- ☐ 許可・経審・施工実績・専任技術者が、選んだスキームで承継できるかをearly DDで確認したか
- ☐ 事業譲渡で再取得になる場合の審査期間・経審の受審し直しを逆算したか/専任技術者を承継後も確保できるか確認したか
会社をたためば、長年の許可も経審も実績も有資格者もゼロに戻ります。でも管工事は指定建設業——許可・経審・有資格者は“見えない資産”です。株式譲渡なら法人格ごと許可・経審・実績が原則維持でき、事業譲渡でも承継日より前に事前認可を受ければ許可番号ごと引き継げます。ただし事業譲渡で事前認可を受けない/要件を満たさなければ、買い手の再取得まで無許可の空白が生じ、経審も実績も積み直しになり得ます。そして指定建設業ゆえ、いずれのスキームでも専任技術者=管工事施工管理技士を承継後に確保できることが許可維持の前提です。続ける・継がせる・売る、どの出口でも、まずは自社の許可・経審・専任技術者をどう守れるかを確認することから始めましょう。
▶ たたむ前に、許可・経審・有資格者ごと残せるか確認する
「許可・経審・専任技術者をまとめて承継できるか」「どのスキームが合うか」を、売り手の方は完全無料でご相談いただけます(個別の可否・期限は許可行政庁・行政書士への確認が前提です)。 → たたむ前に、許可ごと残せるか無料相談する
相場は空調設備工事会社の売却相場・評価額の目安、誰が買うのかは空調設備(管工事)会社のM&A事例集、業界の将来性は空調設備工事の将来性、建設業全般の許可承継・DD・基本合意は建設業のM&A・許可承継の全体像をご覧ください。
免責
本記事は管工事(空調設備工事)の建設業許可承継・M&A・事業承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の許可の承継可否・申請期限・承継成否を保証するものではありません。許可の承継可否・申請期限・運用は、許可行政庁(国土交通大臣=地方整備局/都道府県知事)および許可の種類により異なります。許認可の承継申請・個別の可否判断は行政書士・許可行政庁へ、法務に関する事項は弁護士へ、税務の取り扱いは税理士へご相談ください。本記事の内容は当社が許認可の代理・代行を行うことを示すものではありません。また、本記事には当社サービス(無料相談)へのご案内を含みます。
出典
- [C-01] 管工事業は指定建設業7業種の一つ(土木/建築/電気/管/鋼構造物/舗装/造園・建設業法施行令5条の2)。指定建設業の特定建設業許可で設置する専任技術者・監理技術者は国家資格者または大臣特別認定者に限定され、指導監督的実務経験のみでは不可(建設業法15条2号)。塗装工事業は指定建設業でない点と対照 — 国土交通省「許可の要件」: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html / 建設業法(e-Gov): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- [C-02] 1級・2級管工事施工管理技士は技術検定(建設業法27条)に基づく国家資格で管工事業の専任技術者・監理技術者・主任技術者になり得る(1級=特定の専技/監理・2級=一般の専技/主任)。承継後の常勤確保が許可維持の前提 — 国土交通省「専任技術者となり得る国家資格一覧」: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001619998.pdf
- [C-03] 経営事項審査(経審)は建設業法27条の23の客観的評価制度(P点・技術力Z=有資格者数等)で公共工事直接請負の必須要件・元請評価の入口 — e-Gov 建設業法27条の23: https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100 / CIIC 経審制度: https://www.ciic.or.jp/kyoka/keiei/
- [C-04] 事業譲渡・合併・分割は建設業法17条の2の事前認可(あらかじめ・承継日より前)で被承継者の建設業者としての地位の全部を承継できる(令和2年(2020年)10月1日施行・改正前は新規許可取り直しで空白期間が発生)。相続は17条の3 — e-Gov 建設業法17条の2/17条の3: https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100 / 国土交通省 建設業者の地位の承継: https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
- [C-04b] 事前認可を受けない/要件を満たさない場合は買い手の新規取得=許可空白・経審受審し直し・実績積み直しになり得る。全部承継が原則(一部業種のみ不可)/同一業種で一般・特定区分が異なると承継不可(異業種間は可)/承継者・相続人が許可要件等(営業所技術者の常勤等)を具備/許可番号引継/決算報告の提出義務も承継。★承継先も指定建設業の専任技術者を具備が事前認可の前提 — 関東地方整備局 建設業者の地位の承継(手引): https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000877209.pdf / 国土交通省: https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
- [C-04c] 事前認可申請の受付期限は行政庁差(関東地方整備局=承継予定日の90日前まで・標準処理期間90日。大臣許可/知事許可・地方整備局で運用が異なる)— 関東地方整備局 建設業者の地位の承継(手引): https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000877209.pdf
- [C-04d] 相続は建設業法17条の3により死亡後30日以内に認可申請し承継/法人成りも事前認可で番号・経審を移行可 — e-Gov 建設業法17条の3: https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100 / 国土交通省: https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
- [C-05] 株式譲渡は法人格存続のため建設業許可・許可番号・経審評点・施工実績が会社に帰属したまま原則継続(経管/専技兼務者の退任時は変更届。指定建設業ゆえ専任技術者の常勤性維持が前提。事業譲渡=事前認可が必要との対比。継続の明文ワンライナーは省庁になく一般法理として記述)— 国土交通省 建設業者の地位の承継 ほか: https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
- [C-06] 軽微な建設工事(建設業許可不要)は1件の請負代金500万円未満(建築一式は1,500万円未満又は延べ面積150㎡未満の木造住宅/消費税込み)— 国土交通省「建設業の許可とは」: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000080.html
- [C-07] 建設業の後継者不在率57.3%(2025年・全業種最高/ピーク71.4%(2018年)から改善/全国平均50.1%)— 帝国データバンク「後継者不在率動向調査2025」: https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
- [C-08] 建設業許可業者数は令和7年(2025年)3月末で483,700業者(前年同月比+0.9%)と底堅い(空調更新・GX省エネ改修・データセンター需要は中長期堅調の方向性。管工事/空調単独の市場金額は示さない)— 国土交通省「建設業許可業者数調査(令和7年3月末)」: https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001889275.pdf
- [C-09] 設備工事業(管工事=空調設備を含む近似)の売上高営業利益率0.35%(令和4年度・黒字/建設業全体0.33%)・売上高総利益率(粗利率)29.46%(5区分最高)・自己資本比率42.64% — CIIC「建設業の経営分析(令和4年度)」: https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/bunseki_R04.pdf
- [C-10] 個人の株式譲渡益は申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)。事業譲渡は課税の入口が異なる(個別は税理士へ)— 国税庁 タックスアンサー No.1463: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- [C-11] 事業承継税制(特例措置)は親族内・社内承継の納税猶予制度で第三者M&A売却とは別物(特例承継計画 提出期限=令和9年(2027年)9/30/適用期限=令和9年(2027年)12/31)— 国税庁 No.4148: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm / 中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置): https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html