空調設備工事保守契約の承継

空調設備会社 買収 保守契約|引き継げる契約と引き継げない契約を3つの軸で分け、継続売上を見積もる

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 保守契約は、承継できて履行できて、はじめて継続売上になる
  3. 単発工事と定期の保守を分けると、継続と見込める売上の範囲が見える
  4. 契約の地位は、相手方の承諾がなければ移らない。株式譲渡と事業譲渡で確認の範囲が変わる
  5. 解除・更新・譲渡制限の3つの条項を、顧客ごとに読む
  6. フロン排出抑制法の点検は機器の管理者の義務。保守会社が引き受けている範囲を確かめる
  7. 顧客別の更新予定・技術者の配置・作業履歴を一覧にする
  8. 更新率の低下と人手不足を想定して、承継の計画と価格を決める
  9. まとめ
  10. よくある質問(FAQ)
  11. 出典

空調設備工事会社の資料に「保守契約あり」「年間の保守売上○○万円」と書かれていても、それが買収後も入ってくる売上とは限りません。契約書の相手が誰か、相手が承諾するか、点検に行ける技術者が残るか、で結果が変わります。この記事は、保守契約を継続売上として見積もるときの確認の順番と、契約書で読む箇所を整理します。業種全体の判断材料は、空調設備工事会社のM&A DATAにまとめています。この記事は、そのうち保守契約の引き継ぎだけを深く扱います。

この記事の結論

  • 保守契約は「契約書がある」ではなく、「承継できる」と「履行できる体制が残る」の2つが揃って、はじめて継続売上と見込めます。
  • 株式譲渡か事業譲渡かで、確認する相手の数が変わります。 事業譲渡では、契約ごとに相手方の承諾が要ります。
  • 顧客別の更新予定・技術者の配置・作業履歴を一覧にして、継続しない場合の売上を先に試算し、価格に織り込みます。

この記事の対象:空調設備・管工事会社の買収を検討していて、保守・メンテナンス契約の売上をどう評価するか知りたい方。売り手として、買い手に問われる点を知りたい方にも使えます。

保守契約は、承継できて履行できて、はじめて継続売上になる

結論: 資料上の保守売上は「過去に入った売上」です。買収後に入る売上と見るには、契約が引き継げること、点検・修繕を続ける人と記録が残ることの両方を確かめます。

確認する順番は次のとおりです。

順番 確認すること 確かめる資料
1 その売上は単発工事か、定期の保守か 請求書、契約書、売上明細
2 契約の相手方と、譲渡の方法で承諾が要るか 契約書、譲渡のスキーム
3 解除・更新・譲渡制限の条項はどうなっているか 契約書の条項
4 点検で何を請け負っているか。誰が行っているか 仕様書、作業報告書、技術者の配置
5 顧客ごとの更新の見込み 顧客への聞き取り、更新の履歴
避けたい判断 こうすればOK
保守売上の合計額を、そのまま来期の売上と見る 顧客ごとに、契約の種類・承継の方法・更新の見込みを分けて見る
契約書が残っているので、引き継げると見る 契約書の譲渡・解除の条項と、相手方の承諾が要るかを確かめる
売上が続いているので、人が替わっても続くと見る 点検している技術者と、顧客との関係が誰に属しているかを確かめる

単発工事と定期の保守を分けると、継続と見込める売上の範囲が見える

結論: 空調設備会社の売上には、更新工事・修理のような単発の売上と、定期点検・メンテナンス契約のような継続の売上が混ざっています。まず分けます。

売上明細を、次のように分類します。分類の基準は本記事の整理で、公的な基準ではありません。

区分 例 継続売上としての見方
定期の保守 年間契約の点検、定期メンテナンス、フィルター清掃などの定額の契約 契約の期間・更新条件・承継の可否を確かめたうえで、継続の対象に含める
随時の修理 故障時の呼び出し、部品交換 契約がなくても発生しうるが、依頼先を替えられる。保守契約の顧客からの発注かどうかを分けて見る
更新・改修工事 機器の入れ替え、設備の更新 保守の顧客が次の工事の発注元になることがある。ただし毎年同じ額が入るとは限らず、単発として扱う

見落としやすいのは、定期の保守の顧客からの修理・更新工事の売上です。保守契約の価値は、定額の契約料だけでなく、その顧客から次の工事の話が来る関係にもあります。ただし、この関係が契約で約束されているわけではないので、契約料と分け、見込みの根拠(過去の発注の履歴)を確かめます。

売上の分類にあたり、1つの請求書に点検料と部品代が混ざっていることがあります。契約書の対象範囲と照らして分けます。

契約の地位は、相手方の承諾がなければ移らない。株式譲渡と事業譲渡で確認の範囲が変わる

結論: 事業譲渡では、保守契約ごとに相手方の承諾を得る作業が発生します。株式譲渡では契約の当事者は変わらないので、承諾の要否は契約書の条項を確かめます。

民法は、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位がその第三者に移転すると定めています(民法 第539条の2)。条文に沿えば、契約上の地位の移転には、契約の相手方の承諾が関わります。

スキーム 契約の当事者 確認の範囲(本記事の整理)
事業譲渡 譲り受ける会社に変わる。契約上の地位の移転が必要 保守契約ごとに、相手方の承諾を得る手順と時期を決める
株式譲渡 契約の当事者である会社は変わらない 契約書に、会社の支配権が変わる場合の通知や解除の条項(支配権変更条項)がないかを確かめる

上の「株式譲渡では当事者は変わらない」は、会社そのものが売買の対象にならず、株主が替わるという仕組みから整理したものです。実際の取り扱いは契約書の文言で変わるため、弁護士に確認してください。許可の扱いが違う点は、管工事の建設業許可の記事で扱っています。

避けたい判断 こうすればOK
事業譲渡なのに、契約書の移転手続きを成約後に始める 承諾を取る契約の一覧と順番を、契約前に決めておく
承諾の依頼を、顧客への案内と一緒に済ませたつもりになる 契約書の様式で、承諾の記録を残す。誰が顧客に伝えるかも決めておく
株式譲渡なので契約書は見なくてよいと考える 通知・解除・支配権変更の条項がないかを、主要な顧客の分だけでも確かめる

解除・更新・譲渡制限の3つの条項を、顧客ごとに読む

結論: 保守契約の継続性は、期間の長さよりも、いつ誰がやめられるかで決まります。条項は顧客ごとに違うので、一覧にして読み比べます。

読む条項と、見るポイントは次のとおりです。

条項 見るポイント
契約期間・自動更新 期間の定めがあるか。更新の方法(自動か、都度の合意か)と、更新しない場合の通知の期限
解除・中途解約 いつでも解約できるか。予告の期間と、違約金の有無
譲渡制限・承諾 契約上の地位や権利の譲渡に承諾が要る旨の条項があるか。支配権の変更に関する条項があるか
対象範囲 点検の頻度・対象機器・緊急時の対応の範囲。台数や機器の入れ替えで変わるか
報酬 定額か、点検ごとの請求か。値上げの条件

保守契約は、点検や調整といった事務の委託の性格を持つことがあります。民法は、委任について、各当事者がいつでもその解除をすることができると定め(民法 第651条)、法律行為でない事務の委託にこの節の規定を準用します(民法 第656条)。契約が委任(準委任)にあたるかは、契約の内容で決まります。当たる場合は、条項で別の定めがなければ、相手方がいつでも解除できる可能性があることを前提に見ます。どの契約がどれにあたるかは、弁護士に確認してください。

条項の読み方で見落としやすいのは、契約書の無い顧客です。長く続いている付き合いで、見積書と請求書だけのやり取りという場合もあります。この場合は、契約上の継続の約束がないものとして、継続の見込みは別の根拠で確かめます。

フロン排出抑制法の点検は機器の管理者の義務。保守会社が引き受けている範囲を確かめる

結論: 点検の法的な責任は原則として機器の管理者(所有者)にあり、保守会社は委託を受けて行います。受けている範囲が点検のどこまでかを、契約書と作業履歴で確かめます。

環境省・経済産業省の資料によると、業務用の空調機器・冷凍冷蔵機器でフロン類を冷媒に使うもの(第一種特定製品)の管理者には、次の点検が義務付けられています。

点検の種類 対象 頻度 実施者
簡易点検 すべての機器 3か月に1回以上(常時監視システムを用いた措置を行う場合を除く) 具体的な限定なし
定期点検 圧縮機の電動機の定格出力7.5kW以上の冷凍冷蔵機器 1年に1回以上 十分な知見を有する者が自ら行うか立ち会う
定期点検 エアコンディショナーで定格出力50kW以上 1年に1回以上 同上
定期点検 エアコンディショナーで定格出力7.5kW以上50kW未満 3年に1回以上 同上

また、管理者は点検・整備の記録を、機器を廃棄するためのフロン類の引渡しが完了した日から3年間保存することとされています。フロン類の充塡・回収は、都道府県に登録された第一種フロン類充塡回収業者に委託する必要があります(自らが登録を受けた業者である場合を除く)。

「管理者」は、原則として製品の所有者です。例外として、契約書等の書面で保守・修繕の責務を所有者以外が負うとされているリース契約等の場合は、その者が管理者になります。保守・点検を業者に委託している場合は、委託先の業者ではなく、委託元の所有者等が管理者にあたる、とされています。

買収の確認に置き換えると、次のとおりです。

確認する点 理由
契約の相手方は機器の所有者か。契約書で責務を誰が負うことになっているか 管理者が誰かで、保守会社の責任の範囲が変わる
点検の契約が、簡易点検・定期点検のどちらを含むか 契約の対象と頻度が、次の更新の話の前提になる
点検・整備の記録を誰が持っているか。引き継げる形か 記録は、管理者が保存する義務を負うものとされている。保守会社が作成・保管している場合、引継ぎの対象を決めておく
登録を受けた充塡回収業者を自社が兼ねているか 兼ねている場合の登録の扱いは、都道府県など所管に確認する

点検の義務自体は管理者にありますが、保守会社が点検の記録を作成して預かっている場合や、点検の対応が契約に含まれる場合は、引き継ぐときに履行の体制が問われます。点検が滞ると、顧客が義務を果たせなくなるため、更新の判断に響くおそれがあります。

顧客別の更新予定・技術者の配置・作業履歴を一覧にする

結論: 売り手から集める資料は、契約書の束ではなく、顧客ごとに1行でそろった一覧です。この一覧が、継続売上の見積もりの元になります。

項目 内容 使い方
顧客と契約の種類 契約の相手方、契約の有無、保守の範囲 継続の対象かを分ける
契約期間・更新日・解除の条件 次の更新日、予告期間、自動更新の有無 更新が集中する時期の確認
譲渡・支配権変更の条項 承諾の要否、通知の要否 承諾を取る契約の一覧にする
年間の売上と請求の内訳 定額の点検料、随時の修理、部品 継続の対象と単発を分ける
担当した技術者と資格 点検に行っている人、資格、雇用の形 退職や定着の見込みと重ねる
作業履歴 点検の実施日、指摘事項、未対応の修繕提案 履行の実態と、顧客対応の課題を確かめる
顧客との関係 窓口は誰か、社長が直接対応しているか 属人化の度合いを確かめる

売り手側の準備としても、この一覧は役に立ちます。買い手に問われる前に作っておくと、確認が早く進みます。

作業履歴で確かめるのは、実施の有無だけではありません。指摘したが顧客が対応していない修繕、更新を提案している機器、故障が続いている顧客は、更新の判断や顧客との関係に関わります。作業報告書の様式がそろっていない場合は、そろっていないこと自体を確認事項として残します。

更新率の低下と人手不足を想定して、承継の計画と価格を決める

結論: 保守契約が全部続く前提の見積もりは作りません。承諾が得られない顧客と、技術者の退職で対応が落ちる顧客を想定し、継続しない場合の売上を先に試算します。

保守契約の更新率や解約率について、本記事では根拠のある標準的な数字を示せません。そのため、下は仮の数字での試算です。実際の更新率や価格を示すものではありません。

仮の前提:定期保守の顧客が12社、1社あたりの年間売上は100万円。合計で年1,200万円。

シナリオ 想定 継続する顧客 保守の年間売上 現在との差
全員が継続 承継の承諾がすべて得られる 12社 1,200万円 -
承諾が得られない顧客が出る 2社が承継を断る 10社 1,000万円 200万円減
さらに対応が落ちる 技術者の退職で、4社が契約を見直す 8社 800万円 400万円減

この表の使い方は2つあります。

  • 買い手: 継続する顧客の数に応じた売上で、投資の回収を見積もる。承諾を得る手順と、技術者の確保を、計画に組み込む。
  • 売り手: 買い手がこの試算をすることを前提に、顧客ごとの一覧と、技術者の配置、承継の段取りを先に用意する。

承継の計画には、顧客への案内の時期、同行訪問、技術者の引継ぎと定着の条件を含めます。契約の移転や価格への反映、表明保証などの条件は個別の事情で変わるため、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

価格全体の考え方は、空調設備工事会社の売却相場で、保守ストックが営業権にどう関わるかを扱っています。

まとめ

  • 保守契約は、承継できることと、履行できる体制が残ることの2つが揃って、継続売上と見込めます。
  • 単発工事・随時の修理と、定期の保守を分け、契約の承継・解除・更新の条項を顧客ごとに読みます。
  • 点検の義務は機器の管理者にあり、保守会社は委託を受けます。受けている範囲を、契約書と作業履歴で確かめます。
  • 顧客別の一覧を作り、承諾が得られない場合と、技術者が減る場合の売上を試算して、価格と承継の計画に反映します。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 空調設備会社の保守契約は、買収後もそのまま続きますか? A. 続くとは限りません。事業譲渡では契約上の地位の移転に相手方の承諾が関わり、株式譲渡でも契約書の解除や支配権の変更に関する条項で扱いが変わります。契約ごとに、承継の方法と条項を確かめます。

Q2. 事業譲渡と株式譲渡で、保守契約の引き継ぎはどう違いますか? A. 民法は、契約上の地位を譲渡する合意があり、契約の相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位が移転すると定めています。本記事の整理では、事業譲渡は契約ごとに相手方の承諾を取る前提で進め、株式譲渡は契約の当事者である会社が変わらないため、契約書の通知・解除・支配権変更の条項を確かめます。個別の契約の扱いは弁護士に確認してください。

Q3. 保守契約の売上のうち、継続売上とみなせる部分はどう分けますか? A. 売上明細を、定期の保守、随時の修理、更新・改修工事に分けます。本記事の整理では、契約期間・更新条件・承継の可否を確かめられた定期の保守を継続の対象とし、修理や工事は、過去の発注の履歴を根拠に別に見込みます。

Q4. 契約書にどんな条項があると要注意ですか? A. 契約期間と自動更新の有無、中途解約と予告の期間、譲渡や承諾に関する条項、支配権の変更に関する条項、点検の対象範囲と報酬です。契約の性質が委任(準委任)にあたる場合、民法は各当事者がいつでも解除できると定めているため、条項で別の定めがあるかを確かめます。契約ごとの判断は弁護士に確認してください。

Q5. フロン排出抑制法の点検の責任は、保守会社にありますか? A. 環境省・経済産業省の資料では、点検は第一種特定製品の管理者に義務付けられていて、管理者は原則として製品の所有者です。保守・点検を業者に委託している場合は、委託先の業者ではなく委託元の所有者等が管理者にあたるとされています。ただし、契約書で保守・修繕の責務を所有者以外が負うとされているリース契約等の場合は、その者が管理者になります。契約書で責務の所在を確かめます。

Q6. 買収前に、売り手からどんな資料を集めればよいですか? A. 顧客ごとの契約の種類・期間・更新日、解除と譲渡の条項、年間の売上の内訳、担当した技術者と資格、点検の作業履歴と記録の保管状況、窓口が誰かをまとめた一覧です。契約書の写しもあわせて確かめます。

Q7. 保守契約の更新率は、どれくらいで見ればよいですか? A. 本記事では根拠のある標準的な数字を示せません。そのため、自社の顧客ごとの過去の更新の履歴を根拠にします。数字を置いて試算する場合は、全員が継続する場合、一部が離れる場合、技術者の退職で見直される場合のように、幅を持たせて価格に織り込みます。

出典

  • 環境省・経済産業省「フロン排出抑制法の概要【機器ユーザー編】」 https://www.env.go.jp/earth/furon/files/outline_02.pdf
  • e-Gov 法令検索「民法」(第539条の2、第651条、第656条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

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