化粧品ECの最新動向
まずは、化粧品ECの市場規模やEC化率の現状を紹介します。
化粧品のEC市場規模
2020年の新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、日本国内におけるEC市場は大きく成長しました。化粧品業界におけるEC市場も同様で、前年比120.6%の3,757億円という規模になっています。
化粧品業界全体の市場規模が前年比85.5%と伸び悩んでいることからも、EC市場の拡大が伺えるのではないでしょうか。
調査結果が発表された2021年12月24日時点では、2021年も前年比110.9%の4,166億円と、引き続き高い伸び率が見込まれています。
出典:富士経済グループ「拡大する国内の化粧品EC市場を調査」
今後、新型コロナウィルス感染症が落ち着いていくと、EC市場の伸び率もゆるやかに下落するといわれています。
化粧品のEC化率
経産省の電子商取引実態調査によると、2020年の「化粧品、医薬品」のBtoC-EC 市場における、EC化率は6.72%でした。物販業界全体のEC化率8.08%と比較すると、割合はやや低いです。
物販業界全体と比較した場合、化粧品EC化率は低い水準にあるものの、2019年度と比較すると0.72%増となっていることから徐々に伸びてきています。
化粧品市場のEC化が進まない理由
ここからは、化粧品市場において、他業種と比較してEC化が進まない理由について解説します。
ECサイトより利便性の高い販売チャネルが複数ある
化粧品市場には、実店舗だけではなく百貨店やドラッグストアなど様々な販売経路があるのが特徴です。ECサイトよりも利便性が高い販売チャネルが複数あることも、EC化が進まない理由のひとつです。
百貨店で衣類や食料品を購入する際に立ち寄るなど、いわゆる「ついで買い」が多く、わざわざECサイトで購入しなくても便利な実店舗が多いのも化粧品業界の特徴です。
ECサイトでは現物を手に取ることができない
化粧品は、色味や肌馴染みなどを直接見て購入したいという消費者が多く、現物を確認してから購入する傾向にあります。
ECサイトの場合、サイト上の写真などでは自分に合うか判断することが難しいため、購入に踏み切りにくいのもEC化が進まない理由のひとつでしょう。
低価格商品はECサイトで購入しづらい
化粧品は、プチプラと呼ばれる数百円~3,000円程度の低価格帯商品も人気があります。
低価格帯の商品をECサイトで購入しようとすると送料や費用の方が高くなる可能性があるため、消費者にとっては購入するか悩む場合もあるでしょう。
結果的にドラッグストアなどの近隣にある実店舗での購入が増えるため、EC化する企業が増えない要因と考えられます。
化粧品をECで購入することへの不信感がある
消費者の中には化粧品をECサイトから購入するのに対して、心理的に抵抗する人が一定数いるのかもしれません。
非正規品がWEBで販売されていることもあるため、対面で信頼できる相手から購入したいというニーズが高いことも化粧品業界でEC化が進まない理由のひとつです。
化粧品ECの今後は
美容・コスメ業界のEC化は遅れていますが、今後はどのようなことが予想されているのでしょうか。この項目では、美容・コスメ業界の今後の動向やEC化促進につながるポイントを解説します。
百貨店系メーカーがECサイトへ注力
今後の美容・コスメ業界では、ECサイトに注力する企業が増えると予想されています。とくに、カウンセリングによる化粧品販売を行っているサロンや百貨店系の高級化粧品メーカーでは、EC化の流れが表れつつあるようです。
新型コロナウィルス感染症が流行する以前まで、高級化粧品メーカーはインバウンドによる売り上げの割合が大きく占めていたことが大きく影響しているでしょう。
感染症が流行して以降、インバウンド需要が落ち込んだことから、失った損失を埋める手段として人件費を省くことができるECサイトへの需要が高まると見られています。
ライフスタイル系メーカーの躍進
ライフスタイルを提案する化粧品販売メーカーが増加していることから、ライフスタイル系メーカーが先導する形でEC化が進むと予想できます。
ライフスタイル系の化粧品メーカーは、アパレルや雑貨などと一緒に、ライフスタイルに合わせた化粧品を提案、販売する業態です。
たとえば、シェアドコスメのようにパートナーや家族みんなで使えるものや、オーガニックコスメに代表される無添加製品の台頭、忙しい日々に便利なオールインワンコスメなどが挙げられます。
目新しく新規性の高いブランドへ人気が集まりつつありますが、有名ブランドと比べて知名度が低く販売チャネルも少ないため、ECサイトで展開する傾向があります。
シミュレーションツールの進化
化粧品のEC化が進まない理由のひとつに、ECサイト経由の購入は化粧品を購することへの不信感や不安感があると上述しました。
そのような中で、近年ではWEBサイト上でAIやVRなどの技術を用いて、化粧品を試すことができるバーチャルメイク技術が進歩しています。
Amazonや資生堂などの大手化粧品ECサイトも取り入れられており、実店舗へ足を運ばずに化粧品を試して購入できる方法として広まりつつあるのも現状です。
国内ブランドのカネボウ化粧品では、バーチャルメイクを取り入れたことで、PV数が11.4倍、平均滞在時間は2.48倍になったといわれています。
また、感染症予防の観点から、実店舗でもテスターの設置を取りやめている傾向にあることも追い風になっているのではないでしょうか。
今後、ECサイトで化粧品を購入しやすくなるバーチャルメイクなどITツールはますます進化していくなかで、EC化する企業も増加すると見込まれています。
クチコミやレビュー情報の重要性アップ
美容プラットフォーム「LIPS」のアンケートによると、ECサイトで化粧品を購入する際、最も重要視している情報に「クチコミやレビューの存在」があげられています。
ユーザーの約半分がECサイトで重視する点に、口コミやレビューを挙げていることから、化粧品のEC化に欠かせないポイントだといえるのではないでしょうか。
出典:PR TIMES「LIPSユーザーの約6割が意識してECサイトを使い分けている。ユーザーアンケートの調査結果を発表」
実際に手に取って試すことができないECサイトでは、実際に購入して使用したユーザーのクチコミやレビューが購入の動機になることが多くあります。
そのため、ECサイトの機能として、一般ユーザーのクチコミを充実させることが重要になっており、今後の化粧品EC化の流れに組み込まれてくる要素のひとつになるでしょう。
化粧品ECの成功ポイント
化粧品ECを成功させるには、どのような戦略を立てるべきでしょうか。今回は、化粧品ECを成功させるために意識しておきたいポイントを解説します。
ブランドから情報発信を続ける
ECサイトでは、商品を売ることだけではなくブランドからの情報発信を続けることが重要です。
情報発信の内容は、自社の商品の紹介だけではなくトレンドやライフスタイルの提案など、使用状況をイメージしやすいものも取り入れるといいでしょう。
とくに、化粧品のイメージ戦略として情報発信の内容を組み立て、ブランド力を上げる総合的なコンテンツに育てていくことが大切です。
マーケティングだけではなくブランド自体への信頼感が高まり、ブランディングに成功すればリピーター獲得や口コミによる広まりにもつながります。
ユーザーの声を受け止める
化粧品ECでクチコミやレビューが重要視されているなか、自社に不都合なクチコミやレビューであっても、消したりせずに公開することが誠実さにつながります。
ユーザーの声を受け止めて対策を講じながら、商品開発に生かすことも可能です。また、商品だけでなく、商品の探しやすさなどECサイトのレイアウトに関することや、サポートサービスに関する口コミがあれば、改善策を検討することが大切です。
ブランドのファンを育てる
消費者の中には、気に入った化粧品を何度も繰り返し購入し続ける人も多くいます。そのようなファン層の構築は、ブランドの安定的な収益化につながるため、ファンを増やす施策を考えることも重要です。
商品やブランドを評価してもらい、リピーターになってもらえば、持続的な購入や評判の高いクチコミの増加が期待できます。
ブランドのファンを育てるには、商品についての情報発信や、メールマガジン、割引クーポンの発行などによる顧客の囲い込みが必要です。
また、動画配信やSNSなどで積極的に消費者とコミュニケーションを取るなど、身近に感じてもらえる工夫をするといいでしょう。
まとめ
化粧品のEC化は、物販業界全体のEC化の流れや技術の進歩に後押しされ、今後も広まることが予想されています。
しかし、化粧品を購入する際に消費者はどのような基準で選択しているかなど、市場リサーチをしっかりと行わなければ競合の中に埋もれてしまうでしょう。
化粧品ECを自社の製品についての情報発信やブランディングなどを通じ、認知度拡大やファン層の構築につなげていく必要があります。