Web制作 M&A 事業承継 売却事例

Web制作会社の売却・第三者承継 事例傾向2026|技術者を残して売れた条件

更新: 2026年8月4日

「社長が手を動かしている数名のWeb制作会社を、いったい誰が買うのか」——後継者がおらず、単価も下がり、生成AIとノーコードの逆風のなかで出口を探すオーナーは少なくありません。けれど、Web制作会社を買いに来る側は実在します。しかも上場会社の適時開示には、買収理由として「エンジニアの採用実績」「ソフトウエアエンジニアの獲得」とはっきり書かれています。本記事は、公表されているWeb制作会社のM&A事例を買い手タイプ別に整理し、「誰が・なぜ買うのか」「自社のどの資産が評価されるのか」を実在事例で示します。そして本題は金額ではなく、技術者(エンジニア・デザイナー・ディレクター)を残したまま売るために、事例では何が約束されていたのかです。相場の算定式は別記事に譲り、ここでは買い手の事情と成約の条件から逆引きします。

本記事は「Web制作会社という“法人”を売る」話です。 Webサイト1個・SNSアカウント1個・ECサイト1個といったアセット単位の売買事例は対象が違います。アセット売買で何が起きるかは「サイト売買の失敗事例と教訓」を、会社売却そのものの流れは「会社売却の流れ・期間・価格」をご覧ください。

この記事の結論(先に要点だけ)

  • Web制作会社の主な買い手は5タイプ——①同業(Web制作・デジタルマーケティングの上場/大手)②広告・PR・マーケティング会社(制作機能の内製化)③SIer・受託開発(フロントエンド/UI領域の補完)④事業会社のDX内製化・AI/DX企業(技術者の獲得そのものが目的)⑤ホールディングス/ロールアップ(連続買収)。本記事では5類型すべてを実名の公表事例で接地できました[C-J01]。
  • 買い手が見ているのは「人・契約・知的財産」です。 IT・Webには事業許可が原則として存在せず、建設業許可や飲食店営業許可のような「承継すれば価値が残る」制度的な下駄がありません。価値の全量が、技術者・顧客との保守契約・ソースコードとドメインの帰属に乗っています[C-J02]。
  • 小規模でも、直近が赤字でも、債務超過でも、買い手はついています。年商7,767万円・直近営業損益△127千円の会社が上場会社に67%取得された例(Wur)[C-J05b]、債務超過の会社の株式80%分に208百万円が付いた例(ドコドア)[C-J05a]が、いずれも適時開示で確認できます。
  • だから成約条件は「技術者が残る設計」です。退職後の競業避止で縛る発想には法的な限界があり(概ね1年以内は肯定的、近時は2年に否定的な判断例)[C-J07]、代わりに使われているのがキーマンの残留・アーンアウト・段階取得です。アイデミー×まぼろしの適時開示には「クロージング対価」と「アーンアウト対価」の二段構成、そして「引き続き業務に従事する売主へのインセンティブ効果」が明記されています[C-J04]。
  • 金額は当てにしないでください。中小Web制作会社のM&Aは取得価額の非開示・非公表が通例で[C-11][C-J09]、公表されているのは上場買い手が開示した個別の価額だけです。しかもその額は「取得した持分割合」と「アドバイザリー費用の内外」で意味が変わります[C-J08]。事例から倍率を逆算することはできません[C-J11]。
  • 次の一手は、事例の平均を探すことではなく、自社が「技術者が残る形」になっているかを診ることです。

※本記事は公表資料に基づく一般的な情報提供です。個別の契約の有効性判断や税額計算は行いません。法務は弁護士、税務は税理士へご相談ください。


§1 Web制作会社のM&Aとは — 「サイト1個の譲渡」ではなく「会社ごと」の話

まず、言葉の範囲をそろえます。

Web制作会社のM&Aとは、コーポレートサイト・LP・EC構築などの受託制作と月額保守を担う「法人そのもの」を、株式譲渡または事業譲渡で第三者へ引き継ぐことをいいます。 サイト1個・アカウント1個を売買する「サイト売買」とは、対象も、値の付き方も、引き継ぐ相手も違います。

この違いは実務では決定的です。サイト売買で移るのは、ドメインとコンテンツと(あれば)収益です。会社の譲渡で移るのは、そこに加えて従業員・顧客との契約・受注残・ノウハウ・取引信用の全部です。本記事が扱うのは後者で、事例に登場するのもすべて法人の株式譲渡です。

Web制作会社の収益構造 — 受託フローと保守ストックの二階建て

Web制作会社の売上は、制作案件ごとのフロー収益と、月額の保守・運用によるストック収益の二階建てになっているのが一般的です。原価の中心は人件費と外注費で、設備投資はほとんど要りません。装置産業ではなく、労働集約です。

収益性の水準は、情報サービス産業協会(JISA)の基本統計調査が参考になります。同調査2025年版(2024年度実績)によると、情報サービス業の売上高営業利益率は加重平均10.79%、中央値6.79%です[C-01]。加重平均と中央値の差が大きいことに注目してください。規模の大きい会社が全体の平均を押し上げており、分布のばらつきが大きいことを示しています。自社を「業界平均」と比べるより、自社の受託とストックの構成比を見たほうが実態に近いはずです(利益率と社長年収の読み方はWeb制作会社の利益率と社長年収へ)。

事業許可が存在しない、という出発点

そして、この業種を語るうえで最も重要な事実があります。IT・Webには事業許可が原則として存在しません。

建設業なら建設業許可、飲食店なら営業許可が必要で、それは「持っていないと事業ができない」代わりに「承継できれば価値が残る」制度的な資産でもあります。Web制作会社にはそれがありません。ホームページを作ることにも、システムを受託開発することにも、免許は要らないからです。

参入障壁が低いという意味であり、同時に——M&Aの文脈ではこちらが重要です——制度が守ってくれる価値もないという意味でもあります。だから買い手は、許可証ではなく人(技術者)・契約(顧客と保守)・知的財産(ソースコード/Git/ドメイン)を直接見に来ます[C-J02]。本記事の事例も、成約条件も、すべてこの一点から派生します。

業界そのものの見通し・二極化の構造はWeb制作会社の将来性で扱っています。本記事は、その先の「では、誰が買うのか」に絞ります。


§2 なぜ今、Web制作会社が売られ・買われるのか — 後継者不在と人材ギャップの非対称

売り手が増えていることと、買い手が増えていることは、別々の理由で同時に起きています。

売り手側の圧力:後継者不在率も市場退出率も、産業別で最も高い

東京商工リサーチ(TSR)の2025年調査では、情報通信業の後継者不在率は77.06%で産業別の最高でした(前年77.32%)。同調査の全産業は62.60%です[C-06]。なお帝国データバンク(TDB)の2025年調査では全業種の後継者不在率は50.1%とされていますが、これは調査主体も集計対象も異なる別の数字で、TDBは情報サービス業の単独値を公表していません[C-06]。数字を引くときは、どちらの集計かを必ず添えてください。

退出の側も同様です。TSRの集計では、2025年の市場退出率は情報通信業の4.98%が全産業で最も高く、同社は「ソフトウェア開発やホームページ制作などの『情報サービス業』の退出法人数が特に増加」と記述しています[C-H13]。ここでいう退出は倒産(再建型を除く)+休廃業・解散を指します。

倒産だけを見ると、情報通信業は2025年(暦年)438件で前年比+3.0%、2024年(暦年)は425件でした。年度ベースでは2025年度432件(▲6.0%)です[C-05]。暦年と年度で集計期間が違うため、方向感が逆に見えることがあります。並べるときは必ず期間を書いてください。

買い手側の吸引力:採用できないから、チームごと買う

一方、買い手側の事情は人材です。経済産業省の試算では、2030年時点のIT人材の需給ギャップは高位シナリオで約78.7万人(中位44.9万人・低位16.4万人)とされています[C-07]。※これは2019年公表の報告書に基づく試算で、生成AI普及前の前提です。数値そのものより、「採用市場からエンジニアを集める難易度が構造的に高い」という背景として読んでください。

M&Aの実件数も、公表ベースでは厚みがあります。日本M&Aセンターの集計では、2024年のIT・情報サービス業界のM&Aは377件(前年342件)とされています[C-04]。ただし同社自身が「買手企業が開示義務を負っている上場企業などの場合の件数を集計したのみ」と限界を明記しており、中小同士の相対取引はこの件数にほぼ現れません。実際の取引はこれより多いと考えるのが自然です。

なお、国内のM&A総件数は2024年に4,700件で過去最多(前年比+17.1%)と報告されていますが(レコフデータ/MARR)[C-04b]、これは全産業・全業種の集計であり、上記377件とは母数が異なります。両者を並べて割り算し「IT業界のシェアは◯%」と述べることはできません。

後継者がいない会社を第三者が引き継ぐ仕組みそのものは「後継者のいない会社を買う仕組み」で整理しています。

非対称が意味すること

売り手の圧力と買い手の吸引力が、同じ業種の中で同時に最大化している。これが今のWeb制作業界の状況です。畳めば技術者は散り、顧客は他社に流れ、コードは誰も引き継ぎません。譲れば、そのすべてが次の担い手に渡り、対価が残ります。次章では、その「渡せるもの」を4つに分解します。


§3 事例を読む前に — 「売れる会社」と「売れない会社」を分ける4資産

Web制作会社は、参入障壁が低く(許認可ゼロ)、元請・広告代理店への依存が起きやすく、単価競争にさらされ、生成AI・ノーコードによる代替圧も受けます。構造的には楽な業種ではありません。これから参入する側から見た「ゼロから起業するか、会社ごと買うか」の比較はWeb制作会社は起業と買収どっちをご覧ください。

それでも買い手がつく会社と、つかない会社があります。分けているのは、次の4つの資産の状態です。許認可という下駄がないぶん、この4つがそのまま評価になります。

① 人(技術者)— 最大の資産であり、最大のリスク

エンジニア・デザイナー・ディレクターの人数、スキル領域、年齢構成、勤続年数、そして代表への属人度。買い手が最初に見るのはここです。

同時に、これは最大のリスクでもあります。買収後に技術者が流出すれば、取得した価値の相当部分は失われ、しかも流出した技術者は独立して競合になりうる。設備も許可も残らない業種では、人がいなくなることが、そのまま資産がなくなることを意味します[C-J02]。§4で扱う「技術者を残す設計」が成約条件になるのは、この一点によります。

② 顧客契約・保守ストック — 書面になっているか

月額保守・運用の契約件数と売上比、書面化・自動更新の有無、受注残、一社依存度。そしてチェンジオブコントロール(COC)条項や再委託制限の有無です[C-C13]。COC条項があれば、支配権が変わるときに顧客の同意や通知が必要になることがあり、譲渡前の確認対象になります。

なお、スキームによって人の扱いが変わる点も押さえてください。事業譲渡では労働契約を移すのに労働者一人ひとりの承諾が必要(民法625条1項)ですが、株式譲渡なら法人格が変わらないため雇用契約はそのまま残ります[C-H08]。本記事で扱う実在8件は、すべて株式譲渡です。

③ 知的財産 — ソースコード・Git・ドメインの帰属

受託開発の成果物の著作権が誰に帰属するかは契約次第で、譲渡時にはデューデリジェンス(DD)の対象になります(プログラムの著作物の職務著作は著作権法15条2項。同条1項は「プログラムの著作物を除く」と明記しています)[C-H06]。

もう一つ、実務で頻出するのが名義です。Gitリポジトリの所有権はアカウント(法人のOrganizationか、個人か)に帰属します[C-H09]。創業者の個人アカウント配下にリポジトリが残っている、ドメインが個人名義のまま——というケースは珍しくありません。DDで発覚すると「それは会社の資産ではない」という話になります。

著作権・保守契約・ドメイン・顧客データの承継実務はWeb制作会社のM&Aで著作権とソースコードは引き継げる?で条文まで踏み込んで扱っています。

④ コンプライアンス — 2026年1月、下請法は「取適法」になりました

Web制作会社は外注(フリーランス)に発注する側にも回ります。2026年1月1日施行の改正により、旧・下請法は題名が変わり、略称は「中小受託取引適正化法(取適法)」となりました(2026年8月時点)[C-C06]。Web制作・システム開発の外注は「情報成果物作成委託」として対象になりえます。

ただし、すべてのWeb制作会社が「委託事業者」になるわけではありません。適用は①取引の内容と②資本金基準または従業員基準で決まり、プログラム作成等なら資本金3億円超/資本金1千万円超3億円以下/従業員300人超、それ以外の情報成果物作成委託(デザイン・コンテンツ制作等)なら資本金5千万円超/資本金1千万円超5千万円以下/従業員100人超が委託事業者側の目安です(従業員基準は2026年1月施行の改正で追加)[C-C08]。資本金1千万円以下で従業員数も基準以下なら取適法の委託事業者には当たらず、外注先が個人の場合はフリーランス法の側で見ることになります。適用区分と新旧の対照はWeb制作会社のM&Aで著作権とソースコードは引き継げる?で詳しく整理しています。発注書面(明示)の交付や支払期日の体裁は、買収後ではなくDDの段階で見られます。

そして「続ける/譲る/畳む」の3択へ

この4資産の状態を見たうえで、続けるのか、譲るのか、畳むのかを決めることになります。畳んだ場合との手取りの比較はWeb制作会社は廃業と売却どっちが得?をご覧ください。ここからは「譲る」を選んだ会社に、実際に何が起きたのかを見ていきます。


§3.5 買い手タイプ別 Web制作会社のM&A・第三者承継 事例ギャラリー — 誰が・なぜ買ったのか

ここからが本記事の核です。

金額についての前提(先にお読みください) 以下の事例は、買い手の適時開示PDF原本または会社プレスリリース原文で確認できたものだけを掲載しています。掲載した金額は開示された取得価額であり、成約相場ではありません。しかも適時開示の「取得価額」は、①株式そのものの価額と②アドバイザリー費用等の合計として書かれることが多く、さらに③取得した持分割合(100%/80%/70%/追加40%)によって意味がまったく変わります[C-J08]。本章の各事例には、この3点を必ず併記します。中小Web制作会社のM&Aでは、そもそも取得価額が非開示・非公表であることが通例です[C-11][C-J09]。件数を水増しするために裏取りできない社名を並べることはしていません。

買い手タイプ① 同業(Web制作・デジタルマーケティングの上場/大手)— 専門領域と実績の面取り

自社で採用・育成すると時間のかかる制作・SEO・運用の専門性を、会社ごと取り込む動きです。

  • デジタリフト(東証グロース9244・デジタル広告運用)× ウェブココル(福岡市中央区高砂・2020年7月2日設立・資本金300千円・SEOコンサル/SEOメディア/ホームページ制作/地域情報メディア/広告運用):デジタリフトは、持分法適用関連会社だったウェブココルの株式を追加取得し、議決権比率を40%から80%へ引き上げて連結子会社化しました(決議・契約・株式譲渡実行はいずれも2025年1月31日)。取得価額は普通株式68百万円+アドバイザリー費用等(概算額)4百万円=合計(概算額)72百万円で、これは追加取得した40%分の価額です。開示には「第三者算定機関によるDCF法等も勘案した算出結果を当社にて精査」とあります。対象会社は2024年6月期 売上273,178千円・営業利益33,337千円・純資産157,397千円[C-J05f]。

この案件は、事例金額の読み方を学ぶ最良の教材でもあります。二次メディアの記事を見比べると「0.68億円」と「7,200万円」という一見食い違う数字が出てきますが、これは矛盾ではありません。前者は株式そのものの価額(68百万円)、後者は費用込みの合計額(72百万円)という、別の項目です[C-J08]。事例記事の金額を読むときは、必ず内訳を確認してください。

買い手タイプ② 広告・PR・マーケティング会社 — 制作機能の内製化・垂直統合

外注に出していた制作・運用を取り込み、企画から制作・運用・データまでを一社で回す動きです。

  • ラバブルマーケティンググループ(東証グロース9254・SNSマーケティング/DX支援)× ユニオンネット(大阪市中央区北浜東・2004年9月29日設立・資本金10百万円・Webサイト制作/学校・教育関連の取引実績多数・株主1名が100%保有)全株式を取得して完全子会社化(決議・契約2024年8月5日/株式譲渡実行2024年11月1日)。取得価額は普通株式125百万円+デューディリジェンス費用等(概算額)2百万円=合計(概算額)127百万円で、100%分です。対象会社は2024年5月期 売上628百万円・営業利益97百万円・純資産131百万円。3期の推移は売上425→471→628百万円、営業利益31→36→97百万円と伸びていました[C-J05e]。
  • クロス・マーケティンググループ(東証プライム3675・マーケティングリサーチ)× トラフィックス(大阪市西区土佐堀・BPO事業/WEB制作事業/クリエイティブ事業/システム開発事業)株式100%を取得(2024年1月18日の定時取締役会で決議、2024年1月31日に取得完了)。関西エリアのプロモーション支援事業の強化が狙いと説明されています。取得価額はプレスリリースに記載がなく、非公表です[C-J05h]。上場会社が関与する案件でも金額が出ないことがある、という実例です。

買い手タイプ③ SIer・受託開発 — フロントエンド/UI領域の補完(工程の一気通貫)

バックエンドに強い受託開発会社が、フロントエンドの技術と体制を取り込み、全工程を一貫提供できるようにする動きです。

  • ニーズウェル(東証プライム3992・業務系システムの受託開発)× ビー・オー・スタジオ(渋谷区南平台町・2003年10月10日設立・資本金13百万円・民間企業及び官公庁におけるデジタルマーケティング/Web制作/コンサルティング/システム開発/DX支援)全株式(260株)を取得して完全子会社化(決議・契約2022年9月15日/株式譲渡実行2022年10月3日予定)。取得価額は普通株式750百万円+アドバイザリー費用等(概算額)39百万円=合計(概算額)789百万円で、100%分です。会社リリースには「Web制作における全行程(フロントエンド~バックエンド~運用・保守)を一気通貫でお客様に提供することが可能になる」と買収理由が明記されています[C-J05g]。なお対象会社の業績(売上約2.2億円・営業利益約3,000万円)は報道による値で、原本では確認していません。

買い手タイプ④ 事業会社のDX内製化・AI/DX企業 — 技術者の獲得そのものが目的

本記事の主題を、最も直接に体現する類型です。買収理由に「エンジニアの獲得」が明記されています。

  • ハイブリッドテクノロジーズ(東証グロース4260)× ドコドア(新潟市中央区・2011年2月7日設立・資本金10百万円・従業員50名・Web開発/APP開発)発行済株式の80%を取得して子会社化(決議2024年7月16日/株式譲渡契約締結・実行2024年7月17日予定)。取得価額は株式取得208百万円+アドバイザリー費用等34百万円=合計(概算額)242百万円で、208百万円が80%分の価額です(242百万円は費用込みの合計であり、80%分の株式価額ではありません)。開示には、対象会社の強みとして「拠点を置く新潟県内における対象会社の知名度の高さを活かした新潟エリアのエンジニア採用実績、及びリモート開発体制の構築により新潟のみならず日本全国の優秀なエンジニアの採用実績」が挙げられ、「日本国内のエンジニアチームを強化する」と書かれています[C-J05a]。
  • 注目すべきは対象会社の財務です。2023年12月期は純資産△93,919千円=債務超過、営業利益1,617千円。ただし同年12月に不採算のSaaS事業を譲渡しており、その影響を除いた調整後営業利益は43,697千円、2024年12月期の営業利益見込は72,000千円と補足資料で開示されています[C-J05a2]。債務超過の会社でも、人と体制に値が付いたわけです(もちろん調整後の収益力が示されていた点は併せて読む必要があります)。
  • ハイブリッドテクノロジーズ(4260)× Wur(渋谷区・2019年2月6日設立・資本金3百万円・インターネットサービスの企画/開発/運営=Webシステム・アプリ開発)発行済株式の67%を取得(決議・契約2024年3月27日/実行2024年4月1日予定、残33%は別途協議)。買収理由には「代表者である閏間氏が、複数の事業会社での新規サービスの立ち上げ、プロダクトのマーケティング経験を有していることによる、ローンチ後のサービスのグロースハックに関する豊富な知見」と、代表個人の属人的な知見が明記されています。対象会社の2023年6月期は売上77,673千円・営業利益△127千円(赤字)・純資産6,300千円。そして取得価額は「当事者間の秘密保持の合意に基づき非開示」とされ、本件は適時開示基準に該当しない任意開示でした[C-J05b]。
  • 年商1億円に満たない規模でも、直近が営業赤字でも、上場会社が買う。「うちみたいな会社は売れない」という思い込みへの、最も直接的な反証がこれです。
  • アイデミー(東証グロース5577・AI/DX)× まぼろし(豊島区南池袋・2008年11月創立・資本金6,600千円・Webサイト/スマートフォンサイトの制作・実装・株主3名)発行済株式の70%を取得(決議2024年6月24日/契約・実行2024年6月25日予定)。取得価額は普通株式106,879千円+アドバイザリー費用等28,800千円=合計135,679千円で、70%分です。開示には「まぼろしはフロントエンドエンジニアとしての経験値が高いメンバーが、エンタープライズ企業の大型Webサイトの企画から構築・運用まで一気通貫したサービスで優位性を築いています。更に大手企業との長期取引に関して多数の実績があり、継続した受注により売り上げも安定しております」とあります[C-J05c]。人の質と、契約の継続性。評価されたものが、そのまま書かれています。
  • アイデミー(5577)× トゥーアール(渋谷区宇田川町・2016年設立・フロントエンド専門のWeb制作/モダンなWebアプリケーション開発)議決権の70%を取得(決議2024年11月15日/契約2024年11月29日予定/実行2024年12月2日予定)。取得価額は普通株式86,036千円+アドバイザリー費用等3,300千円=合計89,336千円で、70%分。買収目的は「ソフトウエアエンジニアの獲得と技術力の向上」と説明されています[C-J05d]。※本件のみ適時開示PDF原本を取得できず、適時開示を転載した仲介・専門メディアの記載で確認しています(内訳と合計額が複数媒体で一致・算術も整合)。

買い手タイプ⑤ ホールディングス/ロールアップ — 連続買収による規模化

同じ買い手が短期間に複数のWeb制作・開発会社を取得する動きです。中小の受け皿として、現実的な出口の一つになります。

  • ハイブリッドテクノロジーズ(4260):Wur(2024年4月)→ ドコドア(2024年7月)と、3か月あまりの間に2社を取得しています[C-J05a][C-J05b]。
  • アイデミー(5577):まぼろし(2024年6月)→ トゥーアール(2024年12月)と、半年で2社、いずれもフロントエンド系の制作・開発会社を取得しています[C-J05c][C-J05d]。

「1社目が売れたから2社目も」という連鎖は、売り手から見れば買い手候補が継続的に存在するということです。

完全零細(従業員数名)の場合 — 実名事例ではなく「よくある構図」として

従業員数名・年商数千万円規模の相対取引は、適時開示に乗りません。したがって、この規模の実名の成約事例を提示することはできません。以下は実在企業を指さない、一般化した典型パターンです(※特定の企業ではありません。社名・地名・金額は創作していません)。

  • 従業員数名・月額保守を数十社・年商数千万円のWeb制作会社が、同業のデジタルマーケティング会社へ株式譲渡。代表は一定期間残り、中核の技術者にはリテンション(在籍のインセンティブ)を設計する——という形。
  • 代表が設計・実装・顧客折衝を一人で回していた会社が、業務のマニュアル化と第二の担当者の育成を進め、口約束だった保守契約を書面化してから買い手の土俵に乗った——という整え方。

この規模で「買い手がつく」ことの実証は、匿名パターンではなくWurの実例(年商7,767万円・直近営業赤字で67%取得)が担っています[C-J05b]。

公表事例8件の一覧(持分・金額の内訳つき)

| # | 売り手(Web制作/開発) | 買い手 | タイプ | 持分 | 株式そのものの価額 | 費用等 | 合計 | |—|—|—|—|—|—|—|—| | 1 | ドコドア(新潟・従業員50名) | ハイブリッドテクノロジーズ(4260) | ④ | 80% | 208百万円 | 34百万円 | 242百万円[C-J05a] | | 2 | Wur(渋谷・年商7,767万円) | ハイブリッドテクノロジーズ(4260) | ④ | 67% | 非開示(秘密保持の合意) | — | —[C-J05b] | | 3 | まぼろし(豊島区) | アイデミー(5577) | ④ | 70% | 106,879千円 | 28,800千円 | 135,679千円[C-J05c] | | 4 | トゥーアール(渋谷) | アイデミー(5577) | ④ | 70% | 86,036千円 | 3,300千円 | 89,336千円[C-J05d] | | 5 | ユニオンネット(大阪) | ラバブルマーケティンググループ(9254) | ② | 100% | 125百万円 | 2百万円 | 127百万円[C-J05e] | | 6 | ウェブココル(福岡) | デジタリフト(9244) | ① | 追加40%(40→80%) | 68百万円 | 4百万円 | 72百万円[C-J05f] | | 7 | ビー・オー・スタジオ(渋谷) | ニーズウェル(3992) | ③ | 100% | 750百万円 | 39百万円 | 789百万円[C-J05g] | | 8 | トラフィックス(大阪) | クロス・マーケティンググループ(3675) | ② | 100% | 非公表(記載なし) | — | —[C-J05h] |

この表を「相場表」として読まないでください。持分割合が40%・67%・70%・80%・100%とバラバラで、8件中2件は金額そのものが出ていません。株式の価額だけを見ても68百万円(追加40%分)から750百万円(100%分)まで開いています[C-J06]。

さらに、100%取得の2件を比べると、業績の大小と価額の大小が一致しません。ユニオンネットは売上628百万円・営業利益97百万円で株式125百万円、ビー・オー・スタジオは売上約2.2億円・営業利益約3,000万円(報道値)で株式750百万円です[C-J11]。算定根拠(第三者評価の前提、役員退職金の扱い、純有利子負債、アーンアウト条件など)は開示されないため、事例から倍率を逆算することはできません。相場の考え方はWeb制作会社の売却相場2026へ譲ります。

なお、上場会社同士の巨額TOB(住友商事によるSCSKの完全子会社化 約8,820億円[C-09]、NTTによるNTTデータグループの完全子会社化 約2兆3,700億円[C-10])は、中小Web制作会社の参考には一切なりません。同じ「IT業界のM&A」という言葉でくくられているだけです。

買い手タイプ別 比較表(本章の要約)

| 買い手タイプ | 主な買収動機 | 特に評価する資産 | 売り手側の注意点 | |—|—|—|—| | ① 同業(Web制作・デジタルマーケの上場/大手) | 専門領域(SEO・EC・特定業界)と実績の取り込み[C-J05f] | 領域特化の専門性・メディア運営力・成長実績 | 段階取得(持分の一部取得)から始まることがある | | ② 広告・PR・マーケティング会社 | 制作機能の内製化・垂直統合・エリア補完[C-J05e][C-J05h] | 特定業界の取引実績・エリアの制作/ディレクション体制 | 取得価額が非公表になることがある | | ③ SIer・受託開発 | フロントエンド/UIの補完=全工程の一気通貫[C-J05g] | フロントエンド技術・官公庁/大手の実績 | 技術領域が買い手と重複しないほど評価されやすい | | ④ 事業会社のDX内製化・AI/DX企業 | エンジニアの獲得そのもの[C-J05a][C-J05d] | 技術者の人数・採用力・代表個人の知見 | キーマンの残留条件が交渉の中心になりやすい | | ⑤ ホールディングス/ロールアップ | 連続買収による規模化[C-J05a][C-J05c] | 統合しやすい規模・領域の近さ | グループ方針への統合が前提になる |

Web制作会社の買い手5タイプ(3列の表:買い手タイプ/主な買収動機/原本で確認できた公表事例〈持分・株式の価額〉)。①同業(Web制作・デジタルマーケ)=専門領域(SEO・EC等)と実績の面取り/デジタリフト(9244)×ウェブココル(福岡)、追加40%取得で議決権40→80%、株式68百万円。②広告・PR・マーケティング会社=制作機能の内製化・垂直統合・エリア補完/ラバブルMG×ユニオンネット(100%・株式125百万円)、クロス・マーケティンググループ×トラフィックス(100%・非公表)。③SIer・受託開発(業務系システム)=フロントエンド/UIの補完=全工程の一気通貫/ニーズウェル(3992)×ビー・オー・スタジオ(渋谷)、100%取得・株式750百万円。④事業会社のDX内製化・AI/DX企業=エンジニアの獲得そのものが目的/ハイブリッドテクノロジーズ×ドコドア(80%・株式208百万円)、同×Wur(67%・非開示)、アイデミー×トゥーアール(70%)。開示の文言は「エンジニア採用実績」「ソフトウエアエンジニアの獲得」。⑤ホールディングス/ロールアップ=連続買収による規模化(同一年に複数社)/ハイブリッドテクノロジーズは2024年4月・7月に2社、アイデミーは2024年6月・12月に2社。注記:5類型すべてを実名の公表事例で接地。金額は上場買い手が開示した個別案件の価額であり成約相場ではない(持分割合と費用の内外で意味が変わる)

図解F1:Web制作会社の買い手5タイプと買収動機。本記事では5類型すべてを実名の公表事例で接地しています。掲載金額は開示額であり、持分割合とアドバイザリー費用の内外を必ず併記しています。

事例金額の読み方 — 「取得価額」は3つの前提で意味が変わる。適時開示の「取得価額」の分解(例:デジタリフト×ウェブココル・2025年1月31日)=①株式そのものの価額 68百万円(普通株式)+②アドバイザリー費用等 4百万円(概算額)=取得価額(合計・概算額)72百万円。いずれも「追加取得40%分」の価額。二次メディアの「0.68億円」と「7,200万円」は矛盾ではなく別項目で、事例の金額は必ず内訳を確認する。③さらに「取得した持分割合」で意味が変わる(原本で確認できた公表8件)=追加40%(株式68百万円)/67%(非開示)/70%2件(86,036・106,879千円)/80%(株式208百万円)/100%2件(株式125・750百万円)。8件中2件は取得価額そのものが非開示・非公表(Wur=当事者間の秘密保持の合意/トラフィックス=記載なし)。結論:株式の価額は68百万円(追加40%分)〜750百万円(100%分)で、このレンジは「相場」ではない。100%取得の2件は売上・営業利益の大小と価額の大小が一致しない(ユニオンネット=売上628百万円/株式125百万円、ビー・オー・スタジオ=売上約2.2億円〔報道値〕/株式750百万円)。算定根拠は開示されず、事例から倍率は逆算できない。中小Web制作会社のM&Aは取得価額の非開示・非公表が通例で、上場会社同士の巨額TOB(住友商事×SCSK 約8,820億円/NTT×NTTデータグループ 約2兆3,700億円)は参考にならない。自社の値は事例の平均ではなく個別査定でしか分からない

図解F3:事例金額の読み方。中小Web制作会社のM&Aは取得価額の非開示・非公表が通例で、公表されているのは上場買い手が開示した個別の価額だけです。自社の値は個別査定でしか分かりません。

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§4【M&A・投資視点】事例から帰納する「技術者を残して売れた条件」

事例の金額をうらやんでも、自社の値段は1円も動きません。読むべきは、買い手がなぜその会社を選び、何を約束させたかのほうです。

繰り返しになりますが、IT・Webには事業許可がありません。建設業なら「許可を承継できれば価値が残る」と言えますが、Web制作会社は対極で、技術者のナレッジ・顧客との関係・コードの帰属だけが資産であり、それらは譲渡と同時に消えうる[C-J02]。だから成約した案件には、例外なく「技術者が残る設計」が入っています。

買い手が見る順番(チェックポイント3つ)

1. — 技術者の人数・スキル領域・年齢構成・勤続年数、代表への属人度、キーマンの残留意思。代表が最上位のエンジニアである会社ほど、残留条件が交渉の中心になります。事例の開示にも「エンジニア採用実績」(ドコドア)[C-J05a]、「代表者である閏間氏の…豊富な知見」(Wur)[C-J05b]、「フロントエンドエンジニアとしての経験値が高いメンバー」(まぼろし)[C-J05c]、「ソフトウエアエンジニアの獲得」(トゥーアール)[C-J05d]と、人の話しか書かれていません。 2. 契約 — 月額保守・運用の契約件数と書面化・自動更新、受注残、一社依存度、COC条項や再委託制限[C-C13]。まぼろしの開示にある「大手企業との長期取引に関して多数の実績があり、継続した受注により売り上げも安定」[C-J05c]は、契約の継続性がそのまま評価対象になることを示しています。 3. 知的財産・コンプライアンス — 受託成果物の著作権の帰属(契約次第・DD対象)[C-H06]、Git/ドメイン/クラウドが法人名義か[C-H09]、外注取引の書面整備(取適法の委託事業者に当たるかは資本金・従業員基準次第。当たらない場合もフリーランス法の側で見られます。2026年8月時点)[C-C06][C-C08]。DD全般の流れは「デューデリジェンス(DD)とは」をご覧ください。

「辞めさせない」を縛りで作ることには、法的な限界がある

まず、順番として押さえておきたい前提があります。退職後の競業避止義務は、労働契約法に明文規定がありません。個別の合意を前提に、民法90条(公序良俗)との関係で、①守るべき企業の利益 ②従業員の地位 ③地域的限定 ④存続期間 ⑤禁止行為の範囲 ⑥代償措置——を総合考慮して有効性が判断される、というのが経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」の整理です[C-J07]。

同資料は期間についても、「概して1年以内の期間については肯定的に捉えられているが、特に近時の事案においては、2年の競業避止義務期間については、否定的な判断がなされる例が見られる」とし、ソフトウェアの販売・導入支援事業の事案で「禁止期間は5年間と長期」として有効性を否定した例(東京地判 平成24年1月23日)を挙げています[C-J07]。一般的・抽象的に競業企業への転職を禁止する規定は、合理性が認められないことが多いとも述べられています。

つまり——技術者を「縛って残す」ことはできない。だから、実際の案件で使われているのは、縛りではなく残る理由を設計する方法です(個別の合意の有効性は事案ごとの判断になります。自社の規定については弁護士へご確認ください)。

事例に現れた「残る設計」4つ

① キーマンの残留(キーマン条項・ロックアップ) M&A後も一定期間、キーマン(多くは売り手代表、場合により中核技術者)に在籍してもらう取り決めです。期間は仲介・専門メディアの解説では「2〜3年程度が目安」「1〜3年で設定するのが望ましい」「長くても5年以内」とされることが多いようです[C-J03]。ただしこれは実務解説の相場観であって統計ではありません。同じ解説は、長すぎる拘束がモチベーションの低下を招き、かえって承継の足かせになりうるとも指摘しています。「長く縛るほど安心」ではないということです。

② アーンアウト(成果連動の追加対価) 譲渡後の一定期間の業績に応じて、追加の対価を支払う設計です。これは仲介の一般論ではなく、適時開示の原文で確認できます。アイデミー×まぼろしの開示には、「本件に係る対価は、①本株式取得時に支払う一時金(クロージング対価)と、②まぼろしが将来得る収益に基づく支払(アーンアウト対価)で構成されます」とあり、続けて「本件に伴い当社が相当でない対価を支払うリスクを軽減するとともに、引き続きまぼろしでの業務に従事する売主においては事業活動及び収益の拡大へのインセンティブ効果が働くこととなります」と説明されています[C-J04]。

買い手のリスクを下げつつ、売主が残る動機を作る。これが、縛りの代わりに置かれている仕組みです。ただし「アーンアウトなら高く売れる」という話ではありません。条件を達成できなければ追加対価は入りませんし、達成の判定基準をめぐる交渉が必要になります。

③ リテンション(キーマン以外の技術者の定着策) 中核技術者の離職防止です。実務解説では、残留を求める対象者の選定を誤ると——本人が望んでいないのに拘束すると——かえってトラブルの原因になりうると指摘されています[C-J03]。買収後の統合と人の定着については「PMI 100日プラン」もあわせてご覧ください。

④ 段階取得(一括で全部を渡さない) そして、売り手の心理的な障壁を最も下げるのがこれです。一括で100%を譲渡して終わり、という案件ばかりではありません。

  • ドコドア:80%(2024年7月17日)→ 90%(2025年3月予定)→ 100%(2027年12月予定)の3段階[C-J10]
  • Wur:67%(2024年4月1日)→ 残33%は別途協議[C-J10]
  • まぼろし:70%取得+2年を通じて100%取得[C-J04][C-J10]

売った瞬間に他人の会社になるわけではない、という設計が現実に使われています(もっとも、段階取得が常に有利という意味ではありません。残りの持分の評価方法や、その間の経営の裁量は交渉事項です)。

「技術者を残して売れる会社」に整える順序(縛らず、残る理由を設計する)。①代表依存を解く=業務のマニュアル化・権限委譲・第二の担当者を育てる(求められるロックアップ〈残留〉期間を短くできる=売却後の自分の時間に直結)。②キーマンの残留条件を握る=残留期間と処遇を先に決める(キーマン条項・ロックアップ。実務解説では「2〜3年が目安・長くても5年以内」とされるが統計ではない。長い拘束は逆効果)。③リテンションを設計する=キーマン以外の中核技術者にも定着策を用意する(残留を求める対象者の選定を誤ると、かえってトラブルの原因になりうる)。④保守・顧客契約を書面化=口約束を書面へ/月額を自動更新へ/顧客カルテを整備(チェンジオブコントロール〈COC〉条項と再委託制限の有無を、譲渡の前に確認する)。⑤コード・Git・ドメインを法人へ=個人アカウント配下のリポジトリ・個人名義のドメインを移管(DDで発覚すると「会社の資産ではない」という話になる。帰属は契約次第)。⑥買い手の土俵に乗る=「人と契約が残る会社」として評価される状態へ。前提:退職後の競業避止で「縛って残す」ことには法的な限界がある(概ね1年以内は肯定的/近時は2年に否定的な判断例/ソフトウェア事案で5年は長期と判断。経産省ハンドブックの整理)。注記:整えれば必ず高く売れるという意味ではなく、整っていないと評価の土俵に乗りにくいという趣旨で、付け焼き刃はDDで見える

図解F2:「技術者を残して売れる会社」に整えるまでの順序。整えれば必ず高く売れるという意味ではなく、整っていないと評価の土俵に乗りにくい、という趣旨です。

売り手が整えておく準備ポイント3つ

1. 代表依存の解消 — 業務のマニュアル化、権限委譲、第二の担当者の育成。これは査定のためだけではありません。残留を求められる期間を短くできる=売却後の自分の時間に直結します。 2. 保守・顧客契約の書面化と長期化 — 口約束を書面へ、月額を自動更新へ、顧客カルテを整備。ストック収益は「あります」ではなく「この契約書の束です」と出せる状態が理想です。 3. IPハイジーン — 個人GitHubアカウント配下のリポジトリ、個人名義のドメイン、個人メールに紐づくクラウド/SaaSを、法人のOrganization・法人名義へ移す[C-H09]。

なお、これらは「整えれば必ず高く売れる」ものではありません。整っていないと、評価の土俵に乗りにくい——という言い方が実態に近いはずです。勤続年数や契約の継続実績が伴わない付け焼き刃は、DDで見えてしまいます。

現役視点 — 買い手が最初に見るのは、決算書ではありません

デジタルアセットとWeb領域のM&Aを扱っていて感じるのは、買い手が最初に手を伸ばすのが決算書ではなく、技術者の顔ぶれと保守契約書の束だということです。技術者が3名でも、勤続が長く、保守契約が書面で継続していれば、買い手は前向きになります。逆に、代表が最上位のエンジニアで、設計も実装も顧客折衝も一人で回している会社は——数字が良くても——「代表が抜けたら何が残るのか」で交渉が止まります。そこで出てくるのがロックアップの期間で、ここが実質的に条件交渉の中心になることが少なくありません。 もう一つ、意外に多いのがGitとドメインが創業者個人のアカウントに紐づいたままというケースです。DDで発覚すると「会社の資産ではなかった」という話になり、譲渡の前提そのものが揺らぎます。事例の金額を眺めていても、その裏で何が買われ、何を約束したのかは見えません。(M&A-WEB編集部/デジタルアセット・Web領域担当)

「いくら残るか」の話

売却対価そのものより、手取りが気になる方も多いはずです。個人株主が株式を譲渡した場合の譲渡所得は申告分離課税で、税率は20%(所得税15%・住民税5%)に復興特別所得税が加わります[C-H11]。役員退職金との組み合わせなど、実際の設計は個別事情で変わりますので、具体的な試算は税理士へご相談ください(本記事では税額計算は行いません)。

なお、当社が運営する案件掲載面(/malist)に掲載中のIT/Web系の売り案件は92件です(当社調べ・2026年8月3日にWP RESTで実計数)[C-08]。掲載は希望額であって成約額ではなく、内訳もアセット・システムの譲渡案件が大半で、Web制作会社(法人)の株式譲渡の件数ではありません。市場の流動性の目安としてお読みください。

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§5 よくある質問(FAQ)

Q1. Web制作会社のM&A・売却事例にはどんなものがありますか? A. 適時開示や会社プレスリリースの原文で確認できた事例として、デジタリフト×ウェブココル(同業による追加40%取得・株式68百万円)[C-J05f]、ラバブルマーケティンググループ×ユニオンネット(100%・株式125百万円)[C-J05e]、クロス・マーケティンググループ×トラフィックス(100%・取得価額非公表)[C-J05h]、ニーズウェル×ビー・オー・スタジオ(100%・株式750百万円)[C-J05g]、ハイブリッドテクノロジーズ×ドコドア(80%・株式208百万円)[C-J05a]と×Wur(67%・取得価額非開示)[C-J05b]、アイデミー×まぼろし(70%・株式106,879千円)[C-J05c]と×トゥーアール(70%・株式86,036千円)[C-J05d]があります。いずれも上場買い手による公表事例で、成約相場ではありません

Q2. Web制作会社を買うのはどんな会社ですか(買い手のタイプは)? A. 主に5タイプです——①同業(Web制作・デジタルマーケの上場/大手)②広告・PR・マーケティング会社 ③SIer・受託開発 ④事業会社のDX内製化・AI/DX企業 ⑤ホールディングス/ロールアップ[C-J01]。本記事では5類型すべてを実名の公表事例で接地しています。

Q3. なぜ広告・マーケティング会社やSIerがWeb制作会社を買収するのですか? A. 広告・マーケティング会社は、外注していた制作・運用を取り込んで企画から運用までを一社で回すため、またエリアや業界の制作体制を補うためです(ラバブル×ユニオンネット=学校・教育分野の取引実績、クロス・マーケティング×トラフィックス=関西エリアの強化)[C-J05e][C-J05h]。SIer・受託開発は、バックエンドに強い自社にフロントエンド/UIの技術を足して「全行程を一気通貫」で提供するためです(ニーズウェル×ビー・オー・スタジオ)[C-J05g]。いずれも「採用・育成の時間を買う」動機です。

Q4. 従業員が少ない小さなWeb制作会社でも売れますか? A. 実例があります。Wur(2023年6月期 売上77,673千円・営業利益△127千円・純資産6,300千円)は、年商1億円に満たない規模で、直近が営業赤字でも、上場会社に発行済株式の67%を取得されています[C-J05b]。またドコドアは2023年12月期が債務超過(純資産△93,919千円)でしたが、株式80%分に208百万円が付きました(同社は不採算SaaS事業の譲渡影響を除いた調整後営業利益43,697千円も開示しています)[C-J05a][C-J05a2]。規模や直近の赤字だけで「売れない」と決まるわけではありません。

Q5. 売却後に技術者(エンジニア)が辞めてしまうリスクはどう扱われますか? A. まず前提として、退職後の競業避止で縛る方法には法的な限界があります。労働契約法に明文規定はなく、個別合意を前提に民法90条(公序良俗)との関係で有効性が審査され、期間についても「概ね1年以内は肯定的、近時は2年に否定的な判断例」があるとされています[C-J07]。そのため実務では、縛るのではなく残る理由を作る設計——キーマンの残留、アーンアウト(成果連動の追加対価)、リテンション、段階取得——が使われます[C-J03][C-J04][C-J10]。個別の条項の有効性判断は弁護士へご相談ください。

Q6. 社長自身が制作の主力ですが、売却後も残る必要がありますか(期間の目安は)? A. 残留を求められることは多いです。仲介・専門メディアの実務解説では「2〜3年程度が目安」「1〜3年で設定するのが望ましい」「長くても5年以内」と説明されることが多いものの、これは統計ではなく相場観です[C-J03]。同じ解説は、長すぎる拘束がモチベーション低下を招くリスクにも触れています。代表依存を事前に解いておくほど、この期間は短く交渉しやすくなります。また、まぼろしの事例のように2年を通じて段階的に100%取得という設計もあります[C-J04][C-J10]。

Q7. Web制作会社のM&Aで売却価格はいくらくらいですか? A. 事例から相場は出せません。原本で確認できた株式そのものの価額は68百万円(追加40%分)から750百万円(100%分)まで開いており、持分割合も40%・67%・70%・80%・100%とバラバラで、8件中2件は金額そのものが非開示・非公表です[C-J06][C-J09]。さらに100%取得の2件では、売上・営業利益の大小と価額の大小が一致していません[C-J11]。算定根拠は開示されないため、倍率の逆算もできません。評価の考え方はWeb制作会社の売却相場2026をご覧ください。

Q8. 事例に出ている譲渡金額は、実際の成約額ですか? A. 上場買い手が開示した個別案件の取得価額です。そして読み方に注意が要ります。適時開示の「取得価額」は①株式そのものの価額と②アドバイザリー費用等の合計で書かれることが多く、③取得した持分割合によって意味が変わります[C-J08]。たとえばデジタリフト×ウェブココルは「普通株式68百万円/アドバイザリー費用等(概算額)4百万円/合計(概算額)72百万円」で、二次メディアの「0.68億円」と「7,200万円」はどちらも正しく、指している項目が違うだけです。また中小Web制作会社のM&Aは取得価額の非開示・非公表が通例です[C-11][C-J09]。マッチングプラットフォームの掲載額も希望額であって成約額ではありません[C-08]。


§6 まとめ — 「誰に売れるか」が分かったら、まず自社の状態を診る

要点を3つに絞ります。

  • 買い手は実在し、5タイプに分かれます。同業、広告・マーケティング会社、SIer・受託開発、DX内製化・AI/DX企業、ホールディングス/ロールアップ——本記事では5類型すべてを実名の公表事例で接地できました[C-J01]。しかも買収理由に書かれているのは、設備でも許可でもなく「エンジニアの採用実績」「ソフトウエアエンジニアの獲得」です[C-J05a][C-J05d]。買い手は、人を買いに来ています。
  • 値が付くのは「人・契約・知的財産」です。IT・Webには事業許可という下駄がないぶん、技術者と、月額保守を含む顧客契約と、法人に帰属したソースコード/Git/ドメインが、そのまま資産です[C-J02]。逆に言えば、技術者が辞めればその価値は消えます。だから成約案件には、キーマンの残留、アーンアウト、リテンション、そして段階取得という「残る設計」が伴っています[C-J03][C-J04][C-J10]。
  • 金額は当てにしないでください。中小Web制作会社のM&Aは取得価額の非開示・非公表が通例で[C-11][C-J09]、公表額も持分割合と費用の内外で意味が変わります[C-J08]。自社の値は、事例の平均ではなく個別査定でしか分かりません[C-J11]。

「技術者を残して売れる会社か」自己診断12項目

  • ☐ 技術者(エンジニア・デザイナー・ディレクター)の人数とスキル領域・年齢構成を書き出せるか
  • ☐ 各人の勤続年数と、直近2年の離職状況を把握しているか
  • ☐ 代表の稼働割合(制作/営業/経営)の内訳を説明できるか
  • ☐ 代表が不在でも回る業務は、全体の何割か
  • ☐ 月額保守・運用の契約件数と、売上に占める比率を出せるか
  • ☐ 保守契約は書面化されているか。自動更新・解約予告の条件は明記されているか
  • ☐ 顧客の一社依存度と受注残(バックログ)を数字で示せるか
  • ☐ 主要契約にチェンジオブコントロール(COC)条項・再委託制限があるか確認したか
  • ☐ 受託成果物の著作権の帰属が、契約書で確認できるか
  • ☐ Git・ドメイン・クラウド・SaaSが法人名義(Organization)になっているか
  • ☐ 外注(フリーランス)への発注書面が、自社が取適法の委託事業者に当たるか(資本金・従業員基準)を確認したうえで整っているか。当たらない場合もフリーランス法の側で整っているか(2026年8月時点)
  • ☐ キーマン(自分を含む)に、一定期間残る意思があるか

チェックが埋まらない項目こそ、そのまま準備の順番です。決算書を磨く前に、人と契約とコードの所在を書き出す。それが最初の一手になります。

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Webサイト1個・SNSアカウント1個の譲渡でつまずく典型は「サイト売買の失敗事例と教訓」に、会社売却全体の流れは「会社売却の流れ・期間・価格」にまとめています。対象が「会社まるごと」か「アセット1個」かで、読むべき記事が変わります。


免責

本記事は、Web制作会社のM&A・売却・第三者承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の査定額・成約・売却を保証するものではありません。掲載した事例は、買い手の適時開示または会社プレスリリースで公表された内容に基づくもので、取得価額は開示された個別案件の価額であり、成約相場を示すものではありません。取得価額には持分割合の違い(100%/80%/70%/67%/追加40%)とアドバイザリー費用等の内外の違いがあり、事例から倍率を逆算することはできません。8件中2件は取得価額が非開示・非公表です。キーマンの残留・アーンアウト・リテンション・段階取得といった契約設計は事例に現れた一例であり、査定額の向上や成約を保証するものではありません。退職後の競業避止義務に関する記載は経済産業省資料に基づく一般的な整理であり、個別の合意の有効性を判断するものではありません。法令・制度は2026年8月時点で確認したものです(取適法は2026年1月1日施行の直後であり、公正取引委員会の運用基準等は今後更新されうるほか、令和8年改正個人情報保護法は公布済み・未施行です)。契約・著作権・労務に関する個別の判断は弁護士、税務の取り扱いは税理士へご相談ください。本記事には当社サービス(無料売却相談・案件掲載面)へのご案内を含みます。


出典

  • [C-J01] Web制作会社の主な買い手は ①同業(Web制作・デジタルマーケの上場/大手)②広告・PR・マーケティング会社 ③SIer・受託開発 ④事業会社のDX内製化・AI/DX企業 ⑤ホールディングス/ロールアップ の5タイプ(本記事では5類型すべてを下記 C-J05 群の公表事例で接地)— 下記 C-J05 群の適時開示・会社プレスリリース(T1/T3)
  • [C-J02] IT・Webには事業許可が原則として存在せず、価値の全量が「人(技術者)×顧客・保守契約×知的財産(ソースコード/Git/ドメイン)」に乗る。技術者の流出は買収価値を毀損しうる(定性。制度部分は[C-H06][C-H09]で一次裏取り)— 当社のデジタルアセット・Web領域M&A実務知見(proprietary・attributed)
  • [C-J03] キーマン条項(ロックアップ)=M&A後も一定期間キーマンを在籍させる取り決め。「ロックアップ期間は2〜3年程度がめやす」「最長でも5年ほどで期間終了となるよう交渉を進めたほうが良いでしょう」「長すぎると、キーマンのモチベーションの低下が事業承継の足かせとなってしまうリスクがある」/「一般的に5年以内に定められることが多い」「1〜3年で設定するのが望ましい」。※仲介・専門メディアの実務解説であり統計ではありません — パラダイムシフト(T4・attributed): https://paradigm-shift.co.jp/column/255/detail / M&A総合研究所(T4・attributed): https://masouken.com/キーマン条項ロックアップとは
  • [C-J04] 「本件に係る対価は、①本株式取得時に支払う一時金(以下「クロージング対価」)と、②まぼろしが将来得る収益に基づく支払(以下「アーンアウト対価」)で構成されます」「本件に伴い当社が相当でない対価を支払うリスクを軽減するとともに、引き続きまぼろしでの業務に従事する売主においては事業活動及び収益の拡大へのインセンティブ効果が働くこととなります」「2年を通じて 100%取得をする旨、本売主との協議・交渉を経て本件買収の対価を最終決定しております」— アイデミー 適時開示(2024年6月24日・PDF原本)(T1): https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240624/20240624534815.pdf
  • [C-J05a] ハイブリッドテクノロジーズ(4260)がドコドア(新潟市中央区・2011年2月7日設立・資本金10百万円・従業員50名・Web開発/APP開発)の発行済株式80%を取得し子会社化(決議2024年7月16日/株式譲渡契約締結・実行2024年7月17日予定)。「(3)取得価額 対象会社の株式取得 208 百万円/アドバイザリー費用等 34 百万円/合計(概算額)242 百万円」「記載されている取得価額は 2024 年 7 月 17 日の株式譲渡実行日に取得する対象会社の発行済株式の 80%の取得価額であり、将来的に取得する予定の残る 20%の取得価額は別途協議にて決定いたします」「①拠点を置く新潟県内における対象会社の知名度の高さを活かした新潟エリアのエンジニア採用実績、及びリモート開発体制の構築により新潟のみならず日本全国の優秀なエンジニアの採用実績」「日本国内のエンジニアチームを強化する」— 適時開示PDF原本(T1): https://ssl4.eir-parts.net/doc/4260/tdnet/2475220/00.pdf / 補足資料: https://ssl4.eir-parts.net/doc/4260/tdnet/2475223/00.pdf / 会社掲載(T3): https://hybrid-technologies.co.jp/20240716_1/
  • [C-J05a2] 同案件の対象会社(ドコドア)の2023年12月期は「売上高 342,017 千円」「営業利益 1,617 千円」「純資産 △93,919 千円」。「対象会社は、2023 年 12 月に不採算であった SaaS 事業の譲渡を完了しております」。補足資料に「調整後営業利益 43,697千円(2023年12月期)」「2024年12月期(見込)営業利益 72,000千円」— 適時開示PDF原本+補足資料(T1): https://ssl4.eir-parts.net/doc/4260/tdnet/2475220/00.pdf / https://ssl4.eir-parts.net/doc/4260/tdnet/2475223/00.pdf
  • [C-J05b] ハイブリッドテクノロジーズ(4260)がWur株式会社(渋谷区・2019年2月6日設立・資本金3百万円・インターネットサービスの企画/開発/運営)の発行済株式67%を取得(決議・契約2024年3月27日/実行2024年4月1日予定・残33%は別途協議)。「(3)取得価額 当事者間の秘密保持の合意に基づき非開示とさせていただきますが、適切なデューディリジェンスを実施の上、公正妥当と考えられる金額にて取得しています。」「②代表者である閏間氏が、複数の事業会社での新規サービスの立ち上げ、プロダクトのマーケティング経験を有していることによる、ローンチ後のサービスのグロースハックに関する豊富な知見」「売上高 77,673 千円」「営業利益 △127 千円」「純資産 6,300 千円」「本件は適時開示基準には該当しておりませんが、有用な情報と判断して任意開示を行うものでございます」※従業員数は開示に記載がありません — 適時開示PDF原本(T1): https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240327/20240327560859.pdf / 会社掲載(T3): https://hybrid-technologies.co.jp/20240328_1/
  • [C-J05c] アイデミー(5577)がまぼろし(豊島区南池袋・2008年11月創立・資本金6,600千円・Webサイト/スマートフォンサイトの制作・実装・株主3名)の発行済株式70%を取得し子会社化(決議2024年6月24日/契約・実行2024年6月25日予定)。「(2)取得価額 株式会社まぼろしの普通株式 106,879 千円/アドバイザリー費用等 28,800 千円/合計 135,679 千円」「(4)異動後の所有株式数 92 株(議決権所有割合:70%)」「まぼろしはフロントエンドエンジニアとしての経験値が高いメンバーが、エンタープライズ企業の大型 Web サイトの企画から構築・運用まで一気通貫したサービスで優位性を築いています。更に大手企業との長期取引に関して多数の実績があり、継続した受注により売り上げも安定しております」。2023年7月期 売上204,181千円/営業利益21,683千円/純資産148,909千円 — 適時開示PDF原本(T1): https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240624/20240624534815.pdf
  • [C-J05d] アイデミー(5577)がトゥーアール(渋谷区宇田川町・2016年設立・フロントエンド専門のWeb制作/モダンなWebアプリケーション開発)の議決権70%を取得し子会社化(決議2024年11月15日/契約2024年11月29日予定/実行2024年12月2日予定)。「トゥーアールの普通株式86,036千円、アドバイザリー費用等3,300千円、合計89,336千円」「異動後70%」「ソフトウエアエンジニアの獲得と技術力の向上を図る」。対象会社は売上151百万円/営業利益12.3百万円/純資産109百万円。※本件のみ適時開示PDF原本を取得できず、適時開示を転載した仲介・専門メディアで確認(内訳と合計額が複数媒体で一致・算術も整合)※設立年(2016年2月)と「フロントエンド専門のWeb制作」は上記3媒体には記載がなく、対象会社の公式サイト(T3)で確認 — 日本M&Aセンター/ストライク/Media IR(T4・attributed): https://www.nihon-ma.co.jp/news/20241115_5577-2/ / https://www.strike.co.jp/ma_news/detail.html?id=20241115a / https://www.media-ir.com/news/?p=128659 / 対象会社公式(T3): https://www.to-r.net/about/
  • [C-J05e] ラバブルマーケティンググループ(9254)がユニオンネット(大阪市中央区北浜東・2004年9月29日設立・資本金10百万円・Webサイト制作/学校・教育関連の取引実績多数・株主1名が100%保有)の全株式を取得し完全子会社化(決議・契約2024年8月5日/株式譲渡実行2024年11月1日)。「(3)取得価額 株式会社ユニオンネットの普通株式 125百万円/デューディリジェンス費用等(概算額) 2百万円/合計(概算額) 127百万円」「(4)異動後の所有株式数 1,000株(議決権所有割合:100.0%)」。2022〜2024年5月期の推移は 売上425/471/628百万円、営業利益31/36/97百万円、純資産31/62/131百万円 — 適時開示PDF原本(T1): https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240805/20240805562481.pdf / 会社リリース(T3): https://lmg.co.jp/news/information_20240805/ / 完了開示「(開示事項の経過)株式会社ユニオンネットの株式の取得(子会社化)完了のお知らせ」適時開示PDF原本(2024年11月1日・T1): https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20241101/20241101509320.pdf
  • [C-J05f] デジタリフト(9244)が持分法適用関連会社ウェブココル(福岡市中央区高砂・2020年7月2日設立・資本金300千円・SEOコンサル/SEOメディア/ホームページ制作/地域情報メディア/広告運用)の株式を追加取得し、議決権40%→80%へ引き上げて連結子会社化(決議・契約・株式譲渡実行いずれも2025年1月31日)。「(3)取得価額 普通株式 68 百万円/アドバイザリー費用等(概算額) 4 百万円/合計(概算額) 72 百万円」「上記の取得価額の算出にあたっては、直近の経営成績、各種デュー・ディリジェンス等の結果を踏まえ当社にて策定した事業計画を基に、公平性及び妥当性を確保するために第三者算定機関による DCF 法等も勘案した算出結果を当社にて精査、相手方との協議の上、決定いたしました」「(1)異動前の所有株式数 120株(議決権所有割合:40.00%)」「(4)異動後の所有株式数 240株(議決権所有割合:80.00%)」。2024年6月期 売上273,178千円/営業利益33,337千円/純資産157,397千円 — 適時開示PDF原本(MARR添付・T1): https://www.marr.jp/shared_files/contents/manews/57/57636/57636.pdf / 報道(T4): https://maonline.jp/news/20250131h / 対象会社公表(T3): https://cocol.co.jp/digitalift/
  • [C-J05g] ニーズウェル(3992)がビー・オー・スタジオ(渋谷区南平台町・2003年10月10日設立・資本金13百万円・民間企業及び官公庁におけるデジタルマーケティング/Web制作/コンサルティング/システム開発/DX支援)の全株式(260株)を取得し完全子会社化(決議・契約2022年9月15日/株式譲渡実行2022年10月3日予定)。「(3)取得価額 株式会社ビー・オー・スタジオの普通株式 750百万円/アドバイザリー費用等(概算額) 39百万円/合計(概算額) 789百万円」「(2)取得株式数 260株(議決権の数:260個)」「(4)異動後の所有株式数 260株(議決権の数:260個、議決権所有割合:100.0%)」「ビー・オー・スタジオが当社のグループ企業として協業することにより、当社グループとしてWeb制作における全行程(フロントエンド~バックエンド~運用・保守)を一気通貫でお客様に提供することが可能になる」。※対象会社の事業内容の原文は「民間企業及び官公庁におけるデジタルマーケティング、Web制作、コンサルティング、システム開発、DX支援」であり、「フロントエンドが強み」とは書かれていない(フロントエンドの補完は買い手側の説明)。※対象会社の業績(売上約2.2億円・営業利益約3,000万円)は報道値(T4)で原本未確認 — 会社プレスリリース原文(T3): https://www.value-press.com/pressrelease/304245 / 報道(T4): https://maonline.jp/news/20220915f
  • [C-J05h] クロス・マーケティンググループ(3675)がトラフィックス(大阪市西区土佐堀・BPO事業/WEB制作事業/クリエイティブ事業/システム開発事業)の株式100%を取得(2024年1月31日に取得完了)。目的は関西エリアにおけるプロモーション支援事業の強化。取得価額の記載はなく非公表。※取締役会決議日(2024年1月18日)は会社プレスリリースには記載がなく、仲介メディア掲載(T4)で確認 — 会社プレスリリース(T3): https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000104.000071371.html / 日本M&Aセンター(T4): https://www.nihon-ma.co.jp/news/20240201_3675-7/
  • [C-J06] 原本または会社プレスリリース原文で確定できた「株式そのものの取得価額」は68百万円(追加40%分)〜750百万円(100%分)に分布。ただし取得持分割合は案件ごとに40%/67%/70%/80%/100%と異なり、8件中2件は非開示・非公表。これは上場買い手が開示した個別案件の価額であって相場ではない — 上記 C-J05a〜h の集合(T1/T3)
  • [C-J07] 「退職後について競業避止義務を課すことについては、職業選択の自由を侵害し得ること等から、制限的に解されている」「企業側に守るべき利益があることを前提として、競業避止義務契約が過度に職業選択の自由を制約しないための配慮を行い、企業側の守るべき利益を保全するために必要最小限度の制約を従業員に課すものであれば、当該競業避止義務契約の有効性自体は認められると考えられる」「概して 1 年以内の期間については肯定的に捉えられているが、特に近時の事案においては、2 年の競業避止義務期間については、否定的な判断がなされる例が見られる」「ソフトウェアの販売・導入支援事業における事案で『禁止期間は 5 年間と長期』と判断。(東京地判 H24.1.23)」「一般的・抽象的に競業企業への転職を禁止するような規定は合理性が認められないことが多い」。※有効性は①守るべき企業の利益 ②従業員の地位 ③地域的限定 ④存続期間 ⑤禁止行為の範囲 ⑥代償措置 の総合考慮による。退職後の競業避止義務の根拠条文として労働契約法16条(解雇権濫用)を用いていません — 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5 競業避止義務契約の有効性について(T1): https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference5.pdf
  • [C-J08] 適時開示の「取得価額」は①株式そのものの価額と②アドバイザリー費用等の合計として記載されることが多く、③取得する持分割合(100%/80%/70%/追加40%等)によって意味が変わる。二次メディアの金額が食い違うのは、このどちらを取ったかの違いであることがある(例:ウェブココル「普通株式 68 百万円/アドバイザリー費用等(概算額) 4 百万円/合計(概算額) 72 百万円」=「0.68億円」と「7,200万円」は両方とも正しい)— 上記 C-J05a/c/d/e/f/g の各原文(T1/T3)
  • [C-J09] 中小・非上場のWeb制作/開発会社の取得価額は非開示・非公表となることが実在する(Wur=「当事者間の秘密保持の合意に基づき非開示」かつ「適時開示基準には該当しておりません」/トラフィックス=記載なし)— 適時開示PDF原本・会社プレスリリース(T1/T3): https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240327/20240327560859.pdf / https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000104.000071371.html
  • [C-J10] 段階取得の実例:ドコドア「対象会社の株主である本間 孝之氏より、3段階に分けて株式譲渡を実行し、将来的に100%子会社化。」「株式取得日(効力発生日)2024年7月17日/2025年3月(予定)/2027年12月(予定)」「取得後の対象会社の持分 当社 80%/90%/100%」/Wur「株式取得の相手先保有株式の67%を2024年4月1日に取得し、将来的に100%を当社が取得する予定です」/まぼろし「2年を通じて 100%取得をする旨」— 各適時開示PDF原本(T1): https://ssl4.eir-parts.net/doc/4260/tdnet/2475223/00.pdf / https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240327/20240327560859.pdf / https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240624/20240624534815.pdf
  • [C-J11] 原本で確認できた100%取得の2件を比べると、売上・営業利益の大小と取得価額の大小が一致しない(ユニオンネット=売上628百万円・営業利益97百万円で株式125百万円/ビー・オー・スタジオ=売上約2.2億円・営業利益約3,000万円〔報道値・T4〕で株式750百万円)。算定根拠は開示されないため、事例から倍率を逆算することはできない — [C-J05e]/[C-J05g](T1/T3/T4)
  • [C-01] 情報サービス業の売上高営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%(2024年度実績・回答300社/加重平均の母数286社)。※同調査に粗利率(売上総利益率)の項目はありません。2026年版は本稿執筆時点で未公表 — 情報サービス産業協会(JISA)「情報サービス産業 基本統計調査」2025年版 図表2-39(T2・attributed): https://www.jisa.or.jp/Portals/0/report/basic2025report.pdf
  • [C-04] 2024年のIT・情報サービス業界のM&Aは377件(前年342件/レコフM&Aデータベースより同社集計・マール40分類「ソフト・情報」・経営権移転ベース)。原文は「買手企業が開示義務を負っている上場企業などの場合の件数を集計したのみ」と限界を明記 — 日本M&Aセンター(T2): https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2024/x20241227-1/
  • [C-04b] 2024年の国内M&A総件数は4,700件で過去最多(前年比+17.1%)。※全産業の集計であり[C-04]の377件とは母数が異なります(両者の除算・シェア算出は行っていません)— MARR(レコフデータ)(T2): https://www.marr.jp/marr/marr202502/entry/56991
  • [C-05] 情報通信業の倒産は2025年(暦年)438件で前年比+3.0%(2024年暦年425件)/2025年度は432件で▲6.0%。※暦年と年度は集計期間が異なります — 東京商工リサーチ(T2): https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1202288_1610.html / https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1202724_1610.html
  • [C-06] 情報通信業の後継者不在率77.06%(2025年・産業別最高/前年77.32%)、同調査の全産業62.60%(東京商工リサーチ)/全業種50.1%(帝国データバンク・別調査。同社は情報サービス業の単独値を公表していません)— 東京商工リサーチ/帝国データバンク(T2・attributed): https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201982_1527.html / https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
  • [C-07] 2030年のIT人材の需給ギャップは高位78.7万人/中位44.9万人/低位16.4万人。※2019年公表の報告書に基づく試算で、生成AI普及前の前提です — 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(T1・attributed+range): https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
  • [C-08] ma-platform /malist に掲載中のIT/Web系の売り案件は92件(当社調べ・2026年8月3日実計数)。数え方=`/wp-json/wp/v2/malist?industry=<業種ID>&status=publish` の重複排除後の実数(ECサイト・WEBショップ57/WEBサービス・アプリ・システム35/WEBサイト・WEBメディア18/WEB制作・デザイン・システム12 のユニオン)。※掲載は希望額であり成約額ではありません。※内訳はアセット・システムの譲渡案件が大半で、Web制作会社(法人)の株式譲渡の件数ではありません — 自社データ(proprietary・attributed)
  • [C-09] 住友商事によるSCSKの完全子会社化(TOB・2025年10月29日公表)は約8,820億円。「買付け期間 2025年10月30日(木)〜12月12日(金)(30営業日)」「買付け価格 一株当たり5,700円」「買付け予定数 154,701,633株」「買付け代金の総額 約8,820億円」。※上場会社へのTOBであり中小Web制作会社の参考にはなりません — 住友商事「SCSKに対する公開買付け開始について」2025年10月29日 説明資料PDF原本(T1): https://www.sumitomocorp.com/-/media/Files/hq/ir/explain/business/20251029Presentation_SC.pdf?sc_lang=ja
  • [C-10] NTTによるNTTデータグループの完全子会社化(TOB・2025年5月8日公表)は約2兆3,700億円。※同上 — NTT ニュースリリース(T1): https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/05/08/250508b.html
  • [C-11] 中小IT/Web系の買収では取得価額が非開示となることが通例(上場会社のTOBと異なり公開義務がない)— 日本M&Aセンター(T2・attributed): https://www.nihon-ma.co.jp/news/20240112_4324-85/
  • [C-H06] 受託開発の成果物・ソースコードの著作権が誰に帰属するかは契約次第で、譲渡時にDDの対象となる。プログラムの著作物の職務著作は著作権法15条2項(同条1項は「プログラムの著作物を除く。」と明記)— e-Gov 著作権法(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
  • [C-H08] 「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」(民法625条1項)=事業譲渡では労働契約の移転に労働者の個別同意が必要。株式譲渡なら法人格が変わらず雇用契約はそのまま — e-Gov 民法(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • [C-H09] Gitリポジトリの所有権はアカウント(法人のOrganizationか個人か)に帰属する — GitHub「GitHubのサービス使用条件」(T2・attributed): https://docs.github.com/ja/site-policy/github-terms/github-terms-of-service
  • [C-H11] 個人株主が株式を譲渡した場合の譲渡所得は申告分離課税で、税率は20%(所得税15%・住民税5%)+復興特別所得税。※個別の税額計算は税理士へ — 国税庁 タックスアンサー No.1463(T1): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
  • [C-H13] 2025年の市場退出率は情報通信業の4.98%が全産業で最高(次点は卸売業3.06%/退出=倒産〔再建型を除く〕+休廃業・解散)。「ソフトウェア開発やホームページ制作などの『情報サービス業』の退出法人数が特に増加」— 東京商工リサーチ(T2): https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203057_1527.html
  • [C-C06] 旧・下請代金支払遅延等防止法は2026年1月1日施行の改正により題名が変更され、e-Gov登録の略称は「中小受託取引適正化法」「取適法」。Web制作・システム開発の受託は「情報成果物作成委託」として対象になりうる(2026年8月時点。運用基準等は更新されうる)— e-Gov(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/331AC0000000120 / 公正取引委員会: https://www.jftc.go.jp/
  • [C-C08] 取適法の適用は「①取引の内容と②資本金基準又は従業員基準から定めています」。「情報成果物作成委託」「役務提供委託」(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る)=委託事業者「資本金3億円超」「資本金1千万円超3億円以下」「従業員300人超」/同(プログラム作成等を除く)=委託事業者「資本金5千万円超」「資本金1千万円超5千万円以下」「従業員100人超」。「適用基準に『従業員基準』を追加 従来の資本金基準に加え、従業員基準(300人、100人)が追加され、規制及び保護の対象が拡充されます」(2026年1月1日施行)— 公正取引委員会「取適法リーフレットNo.01」(令和7年8月)(T1): https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf
  • [C-C13] 顧客契約にはチェンジオブコントロール(COC)条項や再委託制限が置かれることがあり、譲渡時の確認対象となる — 実務解説(T3・attributed・一般論。条文レベルの整理は兄弟spoke `web-seisaku-chitekizaisan-shokei`〔民法539条の2/467条〕を参照)