Web制作会社は起業と買収どっち?ゼロからと既存顧客ごと買う比較
「Web制作会社を作りたい」——そう思って最初に調べるのは、たいてい資格と設立費用でしょう。結論から言えば、Web制作業を営むための事業許可は、原則として必要ありません。建設業や飲食業のような業法上の参入規制が、この業種には見当たらない。個人事業なら届出1枚、法人でも設立登記だけで始められます[C-SN01]。開業のハードルは、全業種のなかでも最も低い部類です。ところが、裏を返せば同じことが誰にでもできる。情報サービス業の売上高営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%(JISA 2025年版=2024年度実績)で、加重平均より中央値のほうが低い=分布は下に厚い[C-01]。「開業は簡単だが、受注して食えるようになるのが難しい」——これが、他業種と逆になっているWeb制作の構造です。本記事は独立ノウハウではなく、「ゼロから起業する道」と「既存のWeb制作会社を買い、顧客・月額保守・技術者・制作実績ごと引き継ぐ道」を、初期費用・受注までの期間・リスクで正面から比べるための材料をお渡しします。
本記事は「Web制作会社という法人への参入」が主題です。 Webサイト・SNSアカウント・ECショップなどアセット1個を買う話(サイト売買)は対象が違います。そちらは「サイト売買の基本と進め方」「サイトの買取・売却の進め方」をご覧ください。なお「会社ではなくサイトだけ買う」は参入の第3の選択肢として§4で位置づけだけ触れます。
この記事の結論(先に要点だけ)
- Web制作での参入手段は大きく2つ。①ゼロから起業(事業許可は原則不要・個人事業は開業届のみ・法人でも登録免許税と定款認証という制度上の費用だけ。ただし実績・顧客・商流・保守契約・技術者はゼロから)と、②既存のWeb制作会社をM&Aで買収(顧客契約・月額保守・制作実績・技術者・商流を会社ごと引き継ぎ、立ち上げの時間を飛ばせる)です[C-SN01][C-SN02]。
- 開業が容易だということは、全員にとって容易だということでもあります。参入障壁がほとんど無いぶん競合は多く、情報サービス業の営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%(JISA・情報サービス業・2024年度実績)[C-01]、情報通信業の倒産は2025年暦年438件(前年比+3.0%・4年連続増)/2025年度432件(前年度比▲6.0%)[C-SN10]。
- だから本当の勝負どころは開業ではなく、①制作実績 ②顧客 ③商流 ④月額保守・運用契約 ⑤技術者・デザイナー(+⑥ソースコード等の知的財産)という時間でしか積み上がらない蓄積の側にあります[C-SN02]。ゼロから起業はこれを時間で払い、買収はカネで払う——両者は「安いか高いか」ではなく「時間で払うかカネで払うか」の選択です。
- 売り手側も存在します。情報通信業の後継者不在率は77.06%(東京商工リサーチ2025・産業別で最も高い/同調査の全産業は62.60%。帝国データバンクは全業種50.1%で情報サービス業の単独値を公表していません)[C-SN11]。買い手側の背景には、2030年時点のIT人材需給ギャップ高位78.7万人/中位44.9万人/低位16.4万人(経済産業省2019年公表・生成AI普及前の前提)という試算があります[C-SN09]。
- ただしIT・Webの買収には固有のリスクがあります。許可も店舗も設備も無いぶん、価値の全量が「人×顧客契約×知的財産」に載っている[C-SN03]。キーエンジニアの退職/顧客契約のチェンジオブコントロール(COC)条項による解約・再交渉[C-SN06]/受託成果物の著作権の帰属[C-SN05]/取適法(2026年1月1日施行・旧下請法)の運用[C-SN12]は、買う前に見る項目です。買った資産は、自分の足で歩いて出ていきます。
- 買収価格そのもの(年買法・EBITDA倍率の考え方)は本記事では扱いません。Web制作会社の売却相場2026へ譲ります[C-SN16]。
※本記事では、設立費用の「総額◯万円」や「受注が立つまで◯カ月」といった数値は書きません。前者は資本金を事業者が決める以上そもそも一意の総額が存在せず、後者はWeb制作について示す一次統計を確認できなかったためです[C-SN13a][C-SN14]。書けるのは制度上の額と、構造の説明までです。
§1 Web制作会社は「許可も設備も要らない」— だから難しいのは開業ではなく受注
Web制作会社とは、Webサイト・Webシステムの企画・デザイン・実装・運用を受託する法人・個人事業のことです。事業を営むための許認可は、原則として必要ありません。
まず、起業か買収かを比べる前に、この業種が「何を蓄積した者が続けて稼げる事業なのか」を押さえておきます。実質的な参入障壁がどこにあるかが分かれば、参入手段の選び方も自ずと決まるからです。
業法上の参入規制が見当たらない、という出発点
建設業や飲食業には、事業を始めるにあたって業法上の許可があり、M&Aでも「その許可を引き継げるか」が論点になります。Web制作・受託開発には、それに相当する参入規制が見当たりません[C-SN01]。必要なのは、個人事業なら税務署への開業届、法人なら設立登記という手続きと、PC・ソフトウェア・ドメイン程度の軽い初期投資だけ。固定資産も在庫も持たず、原価のほとんどが人件費と外注費という構造です[C-SN08]。
ただし、これを「一切不要」と言い切ることはできません。事業内容によっては、別の法律の側から規律が及ぶことがあるためです。実務で現実味があるのは次の2つです。
- 技術者を客先の指揮命令下で働かせる形態にすると、労働者派遣事業として厚生労働大臣の許可が必要になり得ます。労働者派遣法5条1項は「労働者派遣事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」と定め、同法2条1号は「労働者派遣」を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義しています[C-SN19]。請負・準委任なのか派遣なのかの判定は個別の事情によりますので、そうした働き方を採る場合は要否をご確認ください。
- 作ったサイトに「利用者どうしがやり取りする機能」を載せて自社で運営する場合、電気通信事業の登録・届出の対象になり得ます。総務省『電気通信事業参入マニュアル[追補版]』は、「自己の需要のために提供している例」として「個人や企業等の専ら自己の情報発信のためのホームページの開設」を挙げる一方、「『場』の提供を行う場合であっても、サービスの一部として利用者間のメッセージの媒介を行う機能を提供している場合は、登録又は届出が必要な電気通信事業と判断される」としています[C-SN20]。受託でコーポレートサイトを作るだけなら該当しない、という整理です。
このほか、顧客データを扱うなら個人情報保護法、ネット物販を併営するなら特定商取引法というように、事業内容次第の個別法はあります。「許可は原則要らない。ただし何をやるかで規律の側に入ることがある」——これが正確な言い方です。個別の判断は弁護士・所管官庁へご相談ください。
そもそも「Web制作会社」は、統計上ひとつの産業ではありません
もうひとつ、参入を考えるうえで知っておきたい事実があります。日本標準産業分類(令和5年7月改定)に「Web制作業」という産業はありません。 デザイン業〔7261〕の「含まれないもの」に「ホームページ作成業(プログラム設計を伴うもの)〔3911〕」が明記されており、プログラム設計を伴うWeb制作は受託開発ソフトウェア業〔3911・大分類G 情報通信業〕、デザイン制作が主体ならデザイン業〔7261・大分類L 学術研究、専門・技術サービス業〕というように、実態によって分類が分かれます[C-SN18]。
これは細かい話に見えて、「Web制作会社の平均利益率」「Web制作会社の開業費用」といった数字が官庁統計に存在しない構造的な理由です[C-SN08]。本記事がこの後に出す利益率も、母数は「情報サービス業」であってWeb制作会社ではありません。同業の平均値を探しても見つからない業種で参入判断をする——これ自体が、この業種の参入検討者が置かれている条件です。
参入が容易だと、何が起きるか
参入障壁がほとんど無いということは、供給が増えやすく、価格競争が構造的に起きやすいということです。情報サービス産業協会(JISA)の基本統計調査(2025年版=2024年度実績)によれば、情報サービス業の売上高営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%[C-01]。加重平均のほうが高いのは、規模の大きい会社に引き上げられているからで、分布は下に厚いと読めます。なお同調査の母集団はJISA正会員企業(有効回答300社・1社平均従業員932人)で、小規模なWeb制作会社をそのまま代表する数字ではありません。「Web制作会社の営業利益率は10.79%」と読み替えないでください。
倒産も増加基調です。情報通信業の倒産は2025年(暦年)438件(前年比+3.0%)で4年連続の増加、一方で2025年度は432件(前年度比▲6.0%)(東京商工リサーチ)[C-SN10]。暦年と年度で方向が逆になるのは集計期間が違うためで、どちらか片方だけを見ると景色が変わってしまいます。ここでは両方を並べておきます。
稼ぐ土台は、この5つの蓄積です
では、この業種で続けて稼げているのは何を持っている会社なのか。許可でも設備でもありません。
1. 制作実績(ポートフォリオ) — 提案時に見せられるもの 2. 顧客 — 発注してくれる相手 3. 商流 — 元請・代理店・紹介という受注の経路 4. 月額保守・運用契約 — 翌月も立つ継続収益(リカーリング) 5. 技術者・デザイナー — 受けられる量と質を決める人
これに⑥ソースコード/Gitリポジトリ/ドメイン/自社プロダクトといった知的財産が加わります。許可も設備も無いこの業種では、価値の全量がこの5+1に載っています[C-SN02][C-SN03]。そして5つのどれも、カネを出して即座に手に入るものではなく、時間でしか積み上がりません。

図解F2:許可も設備も無い業種では、価値は「5つの蓄積」に載ります。参入手段の選択とは、この5つを時間で積むか、会社ごと引き継ぐかの選択です。
そして供給側の話も、ここで押さえておきます。情報通信業の後継者不在率は77.06%で、東京商工リサーチの2025年調査では産業別で最も高い水準です(同調査の全産業は62.60%)。帝国データバンクの同年調査は全業種50.1%で、情報サービス業の単独値は公表されていません。集計主体が違えば母集団も定義も違うので、単純に比べられる数字ではありません[C-SN11]。それでも、すでに多数が参入している市場で、譲りたい会社が相当数あることは読み取れます。参入手段として「買う」が現実的な選択肢になるのは、この供給があるからです。
業界そのものの全体像(AIで何が変わり、どんな会社が残るのか)はWeb制作会社の将来性2026で扱っています。本記事は「参入手段をどう選ぶか」に絞ります。
§2 ゼロから起業して参入する道 — 手続き・費用と、本当に足りない5つ
まずは王道の「ゼロから起業」を、手続き・費用・そのあとに待っているものまで含めて、正直に描きます。
手続きと費用 — 個人事業は届出1枚、法人は登録免許税と定款認証
個人事業なら、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。法定の手数料はありません。提出期限は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までです(所得税法229条/国税庁タックスアンサーNo.2090・令和8年1月1日現在法令等)[C-SN22]。「開業から1か月以内」と書いている解説を見かけますが、それは現行の期限ではありません(「1月以内」は所得税法230条の給与支払事務所等の開設届の期限です)。提出の実務は開業届のオンライン提出(e-Tax)手順をご覧ください。
法人の場合、制度上かかるのは次のとおりです。いずれも法令原文で確認できる「制度上の額」です。
| 形態 | 費目 | 制度上の額 | 根拠 | |—|—|—|—| | 個人事業 | 開業届 | 法定の手数料なし | 所得税法229条/国税庁A1-5[C-SN22] | | 株式会社 | 登録免許税(設立登記) | 資本金の額 × 1000分の7(税額が15万円に満たないときは申請件数1件につき15万円) | 登録免許税法 別表第一 二十四号(一)イ[C-SN13a] | | 株式会社 | 定款認証(公証人手数料) | 資本金の額等が100万円未満=3万円(発起人全員が自然人かつ3人以下・発起人が設立時発行株式の全部を引受け・取締役会を置く旨の記載なし、のすべてに該当する場合は1万5千円)/100万円以上300万円未満=4万円/それ以外=5万円 | 公証人手数料令35条[C-SN13b] | | 株式会社 | 定款の印紙税 | 紙の定款の原本1通につき4万円(課税されるのは公証人が保存する1通)。電磁的記録(電子定款)は印紙税法上の「文書」に含まれず課税されない | 印紙税法 別表第一 第六号/国税庁 質疑応答事例[C-SN13d][C-SN13e] | | 合同会社 | 登録免許税(設立登記) | 資本金の額 × 1000分の7(税額が6万円に満たないときは1件につき6万円) | 登録免許税法 別表第一 二十四号(一)ハ[C-SN13a] | | 合同会社 | 定款認証 | 会社法30条1項の認証は株式会社の定款についての規定で、持分会社(合名・合資・合同)の設立を定める575条1項は定款の作成・署名のみを求めており、公証人の認証を要求していません | 会社法30条1項・575条1項[C-SN13c] |
つまり、制度上の最低ラインは、株式会社なら登録免許税15万円+定款認証手数料、合同会社なら登録免許税6万円で認証も不要、という並びになります。「会社設立は◯万円でできる」という合計額を本記事が書かないのは、資本金の額を決めるのは事業者自身であり、登録免許税がそれに連動する以上、一意の総額が存在しないからです(そこに専門家への代行報酬や電子定款対応の要否が乗ると、さらに幅が出ます)。
機材も軽い。PC・ソフトウェア・サーバ/ドメイン程度で、製造設備も店舗の内装も要りません。開業のハードルが全業種でも最も低い部類にあるという主張は、この制度上の額だけで十分に示せます。
問題はここから — ゼロから起業で本当に足りない5つ
手続きが終わった瞬間、あなたの会社にあるのは登記簿とPCです。§1で挙げた5つの蓄積は、すべてゼロから始まります。
- ①制作実績(ポートフォリオ)がない — 相見積もりの場で、見せられるものが無い。技術力ではなく「見せられる実績」で選ばれる場面は多くあります。
- ②顧客がいない — 0社スタート。技術の習熟と、仕事を頼まれることは別の能力です。
- ③商流がない — 元請・代理店・紹介の経路が無いと、単価の下がりやすい経路に寄りがちになります。
- ④月額保守・運用契約がない — 受託(フロー)は納品が終われば売上がゼロに戻りますが、月額保守・運用(ストック)は翌月も立ちます[C-SN08]。この差は決定的ですが、保守契約は運用実績と信頼の上にしか乗りません。
- ⑤技術者・デザイナーがいない — 1人で受けられる量には上限があります。そして採用は容易ではありません。経済産業省の委託調査(2019年公表)は、2030年時点のIT人材の需給ギャップを、需要の伸びが高位で約78.7万人/中位で約44.9万人/低位で約16.4万人と試算しています[C-SN09]。よく引かれる「最大約79万人不足」は高位シナリオの値で、生成AI普及前(生産性上昇率0.7%の前提)の2019年の試算ですから幅をもって読む必要はありますが、採用が売り手市場であるという方向感は変わっていません。
この5つは、いずれも時間でしか積み上がりません。 ゼロから起業のコストの本体は、設立費用ではなく時間とリスクです。
では、どれくらい時間がかかるのか — ここは正直に「分からない」と書きます
「Web制作でゼロから独立して、受注が立って食えるようになるまで何カ月か」。この問いに答える一次統計を、本調査では確認できませんでした[C-SN14]。JISAの基本統計調査にも、総務省・経済産業省・中小企業庁の統計にも、該当する項目がありません。開廃業率の統計はありますが、あれは事業所の出入りを測る指標で、「受注が立つまでの期間」を測るものではないため代替になりません。ですので本記事では「平均◯カ月」という数字を書きません。(そう書いている記事があれば、出典をご確認ください。)
近いものとしては、日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月公表)があります。同調査では、現在の採算状況が「黒字基調」67.0%/「赤字基調」33.0%(n=2,043)、予想月商達成率が100%以上は58.7%、売り上げ「増加傾向」60.1%。調査時点で開業からの経過月数は平均15.5カ月でした[C-SN21]。ただしこの調査の対象は、日本公庫国民生活事業が2024年4〜9月に融資した企業のうち融資時点で開業後1年以内の企業8,517社(不動産賃貸業を除く)/回収2,165社(回収率25.4%)であり、全業種・公的融資を受けた開業者に限られます。Web制作の数字ではありません。「開業からおおむね1年強が経った時点でも、なお約3社に1社は赤字基調である」という一般的な傾向として読む——それ以上には使えないデータです。
起業側の難易度とリスク — 競争、単価、そして生成AI
参入障壁がほとんど無いので、競合は多い。§1で見たとおり営業利益率の分布は下に厚く[C-01]、倒産件数も増加基調です[C-SN10]。収益性の中身(1人当たり営業利益や、社長がプレイヤーである場合の見え方)についてはWeb制作会社の年収と利益率で扱っています。
生成AIについても触れておきます。「生成AIでWeb制作の単価は下がった」という言説は広く見かけますが、それを示す一次統計を確認できていません[C-SN15]。制作会社の自社ブログや小規模なPR調査を一次統計として扱うことはできません。実務の感覚としては、コーディングやデザインの下流工程が効率化される一方で、要件定義・運用・保守・顧客との関係といった上流と継続の比重が上がるという見方もあり、両方の可能性を織り込んで判断するのが妥当だと考えています。この論点の深掘りはWeb制作会社の将来性2026へ譲ります。
§3 既存のWeb制作会社をM&Aで買う道 — 顧客・保守契約・技術者・実績を会社ごと引き継ぐ
ゼロから起業の対置として、「既存のWeb制作会社を買う」という道を見ていきます。何が手に入り、スキームで何が変わり、何に注意するのか。順に並べます。
買収で一括して引き継げるもの
買収で手に入るのは、§1で挙げた5+1の蓄積そのものです[C-SN02]。
- ①顧客(取引先) — 0社ではなく、既に発注してくれている相手がいる状態から始まります。
- ②月額保守・運用契約(継続収益) — 翌月も立つ売上。買い手にとっては将来キャッシュフローの予測可能性を上げる要素で、評価の軸になります[C-SN08]。
- ③制作実績・ポートフォリオ — 提案の場で見せられるものが最初からあります。
- ④技術者・デザイナーのチーム — 採用ゼロからではなく、稼働しているチームを引き継ぎます。
- ⑤商流 — 元請・代理店・紹介の経路。実は最も外から見えにくく、最も再現しにくい資産です。
- ⑥知的財産 — ソースコード/Gitリポジトリ/ドメイン/自社プロダクト。
つまり買収とは、ゼロから起業なら年単位でかかる立ち上げ(実績づくり・営業・採用)を飛ばすこと——「顧客と実績を作る時間を買う」行為です。採用市場でIT人材の需給が逼迫しているという背景[C-SN09]もあって、「人を採る」より「チームごと買う」が選ばれる場面が出てきています。
株式譲渡と事業譲渡で、引き継ぎ方が変わります(要点のみ)
同じ「買う」でも、スキームによって契約や知的財産の移り方が変わります。
| | 株式譲渡 | 事業譲渡 | |—|—|—| | 法人格 | 存続(株主が代わるだけ) | 事業を構成する資産・契約を個別に移転 | | 顧客契約・保守契約 | 原則として会社に残る。ただしCOC条項があれば解除・再交渉になり得ます[C-SN06] | 契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要(民法539条の2)/債権譲渡の対抗要件は民法467条[C-SN04] | | 従業員 | 会社に雇用されたまま | 移籍には労働者の承諾が必要(民法625条1項)[C-SN04] | | 著作権・ソースコード | 会社に帰属していれば会社に残る。ただし「会社に帰属しているか」自体が契約次第[C-SN05] | 個別の譲渡手続きが必要。27条・28条の権利を特掲しないと譲渡者に留保されたものと推定(著作権法61条2項)[C-SN05] |
「IT企業のM&Aは株式譲渡が多い」と言われる法務的な理由は、この表の左列にあります。ただし、個別の契約について移転できるかどうか、どんな手続が要るかは契約書の定めと事案によりますので、断定はできません。詳しい引継ぎ実務はWeb制作会社のM&Aで著作権とソースコードは引き継げる?にまとめています。
そして重要なのは、「株式譲渡なら安全」とは言えないことです。チェンジオブコントロール(COC)条項とは、M&Aの実行に伴い会社の支配権の変動等が生じる場合に、その変動が契約の解除事由となる条項をいいます。通知や承諾を求める形もあり、実務では「早い段階で重要な取引先との契約についてCOC条項の有無を確認することが必要」とされています[C-SN06]。株主が代わっただけでも、顧客契約が切れたり再交渉になったりし得る——ここがIT・Webの買収で最初に効いてくる論点です。
買収の注意点 — 人・契約・著作権・取適法
買収には当然デメリットもあります。しかもこの業種のリスクは、他業種とは形が違います。
①人(この業種で最大の変数)。 許可も店舗も設備も無いので、価値の全量が人・顧客契約・知的財産に載っています[C-SN03]。キーエンジニアやデザイナーが辞めれば、買収価値はその場で毀損し得ます。しかも辞めた本人が競合になり得る——建設なら許可が、飲食なら店と設備が残りますが、この業種には残るものがありません。実務ではキーマン条項・リテンション(残留)設計・アーンアウトで縛るのが定石です。
②顧客契約の質。 顧客集中度(特定1社への依存度)、COC条項、再委託制限、受注残(バックログ)の実在性。売上の見た目が同じでも、1社依存の受託と、分散した保守契約の束では、買った後の景色がまったく違います[C-SN06][C-SN08]。
③知的財産の帰属。 受託開発・受託制作の成果物の著作権が誰に帰属するかは、契約の定めによります。職務上作成するプログラムの著作物の著作者は「別段の定めがない限り」法人等とされますが(著作権法15条2項)、外注・委託した著作物は、料金を支払ったかどうかにかかわらず受注者側が著作者というのが原則です[C-SN05]。加えて、創業者個人のGitHubアカウント・ドメイン・クラウドアカウントに事業資産がぶら下がっているというケース(IPハイジーンの問題)は、買収後に判明しがちです。GitHubの利用規約でも、アカウントとその中のコンテンツに対する最終的な管理権はオーナーが保持するとされ、組織アカウントの所有者として少なくとも1つの個人アカウントを指定する必要があるとされています[C-SN07]。
④取引適正化の法令。 かつての下請法は、2026年1月1日施行の改正で「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改称されました(e-Gov登録の略称は「中小受託取引適正化法」「取適法」)。Web制作・システム開発は情報成果物作成委託として対象になります[C-SN12]。多重下請け構造が常態化しがちなIT受託では、書面の交付や支払期日の運用が整っていない場合、買収後の是正コストになり得ます。個別の判断は弁護士へご相談ください。
⑤価格。 当然ながら買収には対価が必要です。算定式(年買法・EBITDA倍率)や相場観は本記事では扱わず、Web制作会社の売却相場2026へ譲ります[C-SN16]。また、実際にどんな会社が売りに出て、何が評価されて成約に至るのかはWeb制作会社のM&A事例を、後継者不在の会社を買うという選択肢の一般論は後継者のいない会社を買うとはをご覧ください。
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§4【M&A・投資視点】ゼロから起業 vs 会社買収 — 「時間で払うか、カネで払うか」
ここが本記事の中心です。両者を、初期費用・受注までの期間・リスクという同じ軸で並べます。
M&Aの目線で見ると、こうなります
Web制作の起業は、費用だけ見ればどの業種よりも軽い。ただし安いのは「開業」であって「事業」ではありません。 この業種で価値があるのは実績・顧客・商流・保守契約・技術者の5つで、許可も設備も無いぶん、価値の全量がそこに載っています[C-SN02][C-SN03]。ゼロから起業はこの5つを時間で買い、会社買収はカネで買う。 その意味で、両者は「安いか高いか」の比較ではなく、「時間で払うか、カネで払うか」の選択です。
そして、この業種特有の続きがあります。買った資産は、自分の足で歩いて出ていきます。 人は辞め、契約はCOC条項で切れ、著作権は契約次第。だから買い手の勝負どころは、価格交渉よりも先に、「買った時間が逃げないように縛れているか」=キーマン条項・COC条項への事前の対応・知的財産の帰属確認にあります[C-SN03][C-SN06][C-SN07]。
ゼロから起業 vs 会社買収 比較表
| 比較軸 | ゼロから起業 | 既存Web制作会社の買収 | |—|—|—| | 参入時の許認可 | 原則不要(業法上の参入規制が見当たらない)。ただし事業内容次第で規律がありうる[C-SN01][C-SN19][C-SN20] | 同じ(許可を承継するという論点がそもそも存在しない) | | 初期費用 | 軽い(個人事業=開業届のみ・法定手数料なし/法人=登録免許税+定款認証という制度上の額+機材。総額の公的統計はなく、資本金次第で一意に定まらない)[C-SN13a][C-SN22] | 案件次第(買収対価が必要。算定式・相場は売却相場の記事へ)[C-SN16] | | 受注が立つまでの期間 | 長い(実績・顧客・商流・保守契約がゼロから。期間を示す一次統計は確認できていない)[C-SN14] | 短い(顧客・保守契約・実績・技術者・商流を引き継ぐため、初月から売上が立ち得る)[C-SN02] | | 難易度 | 高(参入障壁がほぼ無い=競合多数。営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%で分布は下方に厚い〔情報サービス業・JISA〕、倒産は暦年438件で4年連続増)[C-01][C-SN10] | 中(目利き=デューデリジェンス。人・契約・著作権・取適法を見る)[C-SN04][C-SN05][C-SN12] | | 主なリスク | 受注が立たない/単発依存で収入が不安定/採用難(2030年のIT人材ギャップ 高位78.7万人・経産省2019年公表)[C-SN09] | キーエンジニアの流出/COC条項での顧客離脱/著作権が自社に無い/取適法の是正コスト/簿外債務[C-SN03][C-SN05][C-SN06][C-SN12] | | 得られるもの | しがらみゼロ・方針100%・固定費を負わない | 顧客・月額保守(継続収益)・制作実績・技術者・商流・知的財産=“時間を買う”[C-SN02][C-SN08] | | 向く人 | 既に見込み顧客や紹介経路がある/小さく始めたい/時間に余裕がある/自分の色を出したい | スピード優先/既存の顧客基盤と月額保守が欲しい/営業と採用をゼロからやる時間や自信がない/資金を「顧客と人の取得」に充てたい |

図解F1:起業と買収は「安いか高いか」ではなく「時間で払うかカネで払うか」の比較です(金額は案件・会社により異なります。買収対価の算定は別記事へ)。
なお、「起業の初期費用」と「買収の対価」を並べて安い高いを論じることには、あまり意味がありません。 前者は制度上の額であって事業が立ち上がるまでの生活費・運転資金を含みませんし、後者は顧客・実績・保守契約・人という時間の蓄積そのものへの対価だからです。「何年で回収できる」といった投資利回りの見通しも、本記事では申し上げません。会社ごとに条件が違いすぎます。
買収を選ぶ買い手が、この順番で見る3点
1. 人(この業種で最大の変数) キーエンジニア・デザイナーの在籍年数、処遇、残留の意思。社長がトップ実務者かどうか(=社長が抜けた瞬間に消える売上がどれだけあるか)。そして残留の設計——キーマン条項、リテンション、アーンアウト。ここが詰められない案件は、価格が安くても慎重に見るべきです[C-SN03][C-SN08]。
2. 顧客契約と継続収益 月額保守・運用のMRRが月商のどれだけを占めるか。顧客集中度(特定1社依存)。主要顧客契約のCOC条項と再委託制限の有無。受注残の実在性と質[C-SN06][C-SN08]。
3. 知的財産と法令 ソースコード/Gitリポジトリ/ドメイン/クラウドアカウントが法人に帰属しているか。受託成果物の著作権の帰属。取適法(旧・下請法)の書面交付・支払運用[C-SN05][C-SN07][C-SN12]。実務の詳細は著作権とソースコードの引継ぎ実務へ。
なお、個人が会社を買うこと自体の流れ・費用感・注意点といった業種を問わない一般論は個人が会社を買う方法に、買う側・売る側それぞれのメリットとデメリットの整理はM&Aのメリット・デメリットにまとめています。
第3の選択肢:会社ではなく、サイト1個だけ買う
参入手段は2つではありません。サイトやメディアというアセット単体を買うという中間解があります。運営の手離れは良い一方で、それだけでは制作会社としての受注基盤(人・顧客契約・商流)にはなりません。 目的が「収益源を1つ持つ」ことなのか「制作事業を立ち上げる」ことなのかで、選ぶものが変わります。アセット売買の手順・相場・契約はサイト売買の基本と進め方とサイトの買取・売却の進め方にまとめていますので、そちらをご覧ください。
参考までに、当社が運営する /malist には、IT・Web領域の案件が181件掲載されています(当社調べ・2026-08-04時点/EC・WEBサービス/アプリ・WEBサイト/メディア・WEB制作/デザイン等、8つの業種タームを合算した口径です。うちWEB制作・デザイン・システムの業種ページは20件。掲載は希望額であり成約額ではありません)[C-SN17]。ただしその大半はアセットやシステムの譲渡案件で、「Web制作会社という法人の株式譲渡」は少数です。「181社が法人ごと売りに出ている」という意味ではありませんので、ご注意ください。
コピーして使えるチェックリスト
ゼロから起業する前に埋める10項目
- ☐ ① 見込み顧客・紹介経路が、開業前の時点で既にあるか
- ☐ ② 提案時に見せられる制作実績があるか(副業・社内案件・自主制作を含む)
- ☐ ③ 個人事業か法人か(制度上の費用の違いと、取引先の与信要件)を決めたか
- ☐ ④ 受注が立つまでの生活費・運転資金の見通しがあるか(期間の一次統計は無い=自分で幅を持って置くしかない)[C-SN14]
- ☐ ⑤ 単発案件だけでなく、月額保守・運用を初期から商品設計に入れているか[C-SN08]
- ☐ ⑥ 受けない仕事の下限(価格・条件)を決めたか
- ☐ ⑦ 自分が倒れたときの外注体制があるか
- ☐ ⑧ 契約書の雛形(著作権の帰属・検収・再委託)を用意したか[C-SN05]
- ☐ ⑨ 請求・入金サイトの管理方法を決めたか
- ☐ ⑩ 生成AIをどう使うか(下流の効率化か、上流の提案力か)を言語化したか[C-SN15]
Web制作会社を買う前に確認する10項目
- ☐ ① キーメンバーの在籍年数・処遇・残留意思(この業種で最大の変数)[C-SN03]
- ☐ ② 社長がトップ実務者か(抜けた後に残る売上はどれだけか)
- ☐ ③ 月額保守のMRRが月商のどれだけを占めるか[C-SN08]
- ☐ ④ 顧客集中度(特定1社への依存はないか)
- ☐ ⑤ 主要顧客契約のCOC条項・再委託制限の有無[C-SN06]
- ☐ ⑥ 受注残(バックログ)の実在性と質
- ☐ ⑦ ソースコード/Git/ドメイン/クラウドが法人に帰属しているか[C-SN07]
- ☐ ⑧ 受託成果物の著作権の帰属(契約書でどう定めているか)[C-SN05]
- ☐ ⑨ 取適法(旧・下請法)の書面交付・支払運用[C-SN12]
- ☐ ⑩ 決算3期の説明可能性(役員報酬・私的費用・一過性の損益)
編集部より:値がつく会社と、つかない会社の差
Web制作で独立した方がいちばん苦しむのは、技術ではなく最初の10社です。作れることと、頼まれることは別の能力で、後者は時間と信用の関数でしかありません。だからM&Aの案件を見ていても、値がつく会社とつかない会社の差は売上規模ではなく、「社長が抜けても回る受注経路と、月額で立ち続ける保守契約があるか」にほぼ集約されます[C-PROP-01]。 逆に、買い手側でよく聞く失敗は決まっています。「人と顧客を買ったつもりが、キーエンジニアの退職と顧客契約のCOC条項で、両方逃げた」。建設なら許可が、飲食なら店と設備が残ります。この業種には、残るものがありません。 ですから実務では、価格の交渉より先に、誰が残るのか(キーマン条項・残留期間・アーンアウト)と、主要顧客に支配権の移動を伝えられるのかを確認します。ここが詰められない案件は、安くても見送ったほうが良いことが多い、というのが率直なところです。(当社の実務知見に基づく見解であり、個別案件の結果を保証するものではありません。)
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§5 よくある質問(FAQ)
Q1. Web制作会社を作るのに、資格や許可は必要ですか? A. Web制作業を営むための事業許可は、原則として必要ありません[C-SN01]。ただし、これを「一切不要」と言い切ることはできません。技術者を客先の指揮命令下で働かせる形態を採るなら労働者派遣事業の許可(労働者派遣法5条1項)の要否を確認する必要がありますし[C-SN19]、作ったサイトに利用者どうしがやり取りする機能を載せて自社で運営する場合は電気通信事業の登録・届出の対象になり得ます[C-SN20]。顧客データを扱うなら個人情報保護法、ネット物販を併営するなら特定商取引法というように、事業内容次第の個別法もあります。個別の判断は弁護士・所管官庁へご相談ください。
Q2. Web制作会社の設立にはいくらかかりますか?個人事業と法人で何が違いますか? A. 個人事業なら開業届の提出だけで、法定の手数料はありません(提出期限は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで)[C-SN22]。法人で制度上かかるのは、株式会社なら登録免許税(資本金の額×1000分の7、15万円に満たないときは15万円)+定款認証手数料(資本金の額等に応じて3万円・4万円・5万円、一定要件をすべて満たす場合は1万5千円)[C-SN13a][C-SN13b]、合同会社なら登録免許税(同率、6万円に満たないときは6万円)で、定款認証は求められていません[C-SN13a][C-SN13c]。紙の定款には原本1通4万円の印紙税がかかりますが、電磁的記録は印紙税法上の「文書」に含まれないため課税されません[C-SN13d][C-SN13e]。「設立総額◯万円」という数字を本記事が出さないのは、資本金の額を決めるのが事業者自身であり、一意の総額が存在しないからです。
Q3. ゼロから独立して、受注できるようになるまでどれくらいかかりますか? A. Web制作について、この期間を示す一次統計を確認できませんでした[C-SN14]。ですので「平均◯カ月」とは申し上げません。参考として、日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、現在の採算状況が黒字基調67.0%/赤字基調33.0%(調査時点で開業からの経過月数は平均15.5カ月)という結果が出ています[C-SN21]。ただしこれは全業種かつ日本公庫の融資先という限られた母集団の数字で、Web制作の数字ではありません。「開業から1年強経っても、なお約3社に1社は赤字基調」という一般的な傾向として読んでください。実務的には、①実績 ②顧客 ③商流 ④保守契約 ⑤人という5つの蓄積が、どれも時間でしか積み上がらない——という構造で見積もるほうが現実的です[C-SN02]。
Q4. Web制作会社を買収すると、具体的に何を引き継げますか? A. ①顧客(取引先)②月額保守・運用契約という継続収益 ③制作実績・ポートフォリオ ④技術者・デザイナーのチーム ⑤商流(元請・代理店・紹介経路)、加えて⑥ソースコード/Gitリポジトリ/ドメイン/自社プロダクトといった知的財産です[C-SN02][C-SN08]。ゼロから起業なら年単位でかかる立ち上げを飛ばせる、という意味で「時間を買う」買い物になります。ただし株式譲渡か事業譲渡かで移り方が変わり(事業譲渡では契約上の地位の移転に相手方の承諾=民法539条の2、従業員の移籍に労働者の承諾=民法625条1項が必要です)[C-SN04]、株式譲渡であっても顧客契約にCOC条項があれば解除・再交渉になり得ます[C-SN06]。
Q5. 買収した後にエンジニアが辞めたら、どうなりますか? A. この業種で最大のリスクがそれです。 許可も店舗も設備も無いため、価値の全量が人・顧客契約・知的財産に載っています[C-SN03]。キーエンジニアが辞めれば買収価値はその場で毀損し得ますし、辞めた本人が競合になり得るという点でも他業種と性質が違います。実務ではキーマン条項(主要メンバーの残留を条件にする)・リテンション設計・アーンアウト(買収対価の一部を将来の業績に連動させる)といった手当てを組み合わせますが、これらを入れれば流出しないというものでもありません。だからこそ、価格交渉より先に「誰が、なぜ、どれくらい残るのか」を確認する必要があります。競業避止の取り決めについては、有効性が争われた裁判例の蓄積があり、個別の設計は弁護士へご相談ください。
Q6. 「Web制作で独立するのはやめとけ」と言われますが、今から参入して食べていけますか? A. 楽な業種だとは申し上げません。参入障壁がほとんど無いぶん競合は多く、情報サービス業の営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%で分布は下に厚い[C-01]。情報通信業の倒産も2025年暦年で438件(4年連続増)です[C-SN10]。ただし、その数字が示しているのは「この業種はダメだ」ということではなく、「開業できるかどうかでは差がつかない」ということだと考えています。差がつくのは、実績・顧客・商流・保守契約・人という5つの蓄積を、どれだけ早く、どういう手段で持つかです[C-SN02]。ゼロから積み上げる道もあれば、後継者不在で譲渡を検討している会社[C-SN11]から顧客と人ごと引き継ぐ道もあります。参入手段の設計こそが、この業種の勝負どころです。
§6 まとめ — あなたはゼロから起業向きか、買収向きか

図解F3:参入の分かれ道と、買う前に確認する4点。許可も設備も無い業種では、買った資産は歩いて出ていきます。
- Web制作に事業許可は原則要らず、開業は全業種でも最速・最安の部類です[C-SN01]。だからこそ参入障壁がほとんど無く、難しいのは開業ではなく受注でした。
- 稼ぐ土台は、制作実績・顧客・商流・月額保守・技術者という5つの蓄積[C-SN02]。ゼロから起業はこれを時間で払い、買収はカネで払う——両者は「安いか高いか」ではなく「時間で払うかカネで払うか」の選択です。
- 許可も設備も無い業種では、買った資産(人と顧客)は自分の足で歩いて出ていきます[C-SN03]。キーマンの残留設計・COC条項への事前の対応・知的財産の帰属確認が、買い手の勝負どころです[C-SN06][C-SN07]。
ゼロから起業が向いている方:既に見込み顧客や紹介経路がある/小さく始めたい/自分の方針を100%通したい/時間に余裕がある/人件費という固定費を背負いたくない。
買収が向いている方:スピードを優先したい/既存の顧客基盤と月額保守が欲しい/技術者チームを採用でゼロから作る時間や自信がない/資金を「顧客と人の取得」に充てたい/自分は経営と営業に回りたい。
どちらとも決めきれないなら、まず両方の条件を並べてみることをおすすめします。買収価格の考え方はWeb制作会社の売却相場2026、買った後にいくら残るのかはWeb制作会社の年収と利益率、引き継ぎの実務は著作権とソースコードの引継ぎ、業界の全体像はWeb制作会社の将来性2026、参入前に押さえたい業界の“今”の一次統計はWeb制作業界の最新動向2026にそれぞれまとめています。会社ではなくサイト1個を買うという第3の道はサイト売買の基本と進め方へ。
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免責
本記事は、Web制作会社の新規参入(独立開業)およびM&A(株式譲渡・事業譲渡)に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の参入可否・受注・成約・収益を保証するものではありません。記載した費用は制度上の額(登録免許税・定款認証手数料・印紙税)であり、実際に必要となる資金の総額ではありません(資本金の額は事業者が決めるものであり、専門家への報酬等も含みません)。利益率は情報サービス業(JISA正会員企業が母集団)の統計であって、Web制作会社単独の統計ではありません。「事業許可は原則として必要ない」という記載は、事業内容によって別途の規律が及ぶ可能性を排除するものではありません。許認可・契約・著作権・労務に関する個別の判断は弁護士へ、税務は税理士へ、登記は司法書士へ、労務手続は社会保険労務士へご相談ください。本記事には当社サービス(無料相談・M&A案件情報)へのご案内を含みます。
出典
- [C-01] 情報サービス業の売上高営業利益率は加重平均10.79%/中央値6.79%(2025年版=2024年度実績・単独決算ベース/有効回答300社・加重平均の母数は有効回答286社・1社平均従業員932人)。※原典の表記は「平均値(加重平均)」です。※同統計に粗利率の項目はなく、粗利率をJISAに帰属させることはできません。※母集団はJISA正会員企業であり、小規模なWeb制作会社をそのまま代表するものではありません — 情報サービス産業協会(JISA)「情報サービス産業 基本統計調査」2025年版 図表2-39(T2・attributed): https://www.jisa.or.jp/Portals/0/report/basic2025report.pdf
- [C-SN01] Web制作・受託開発それ自体の参入を規律する業法(許可・登録・免許)は、本調査の範囲では確認できませんでした。「無い」ことを直接証明する官庁文書は存在しないため、「原則として必要ない」という表現に留め、留保の実体を[C-SN19][C-SN20]および事業内容次第の個別法で担保しています(T1論理・asserted)
- [C-SN02]/[C-SN03] Web制作会社で稼ぐ土台は①制作実績 ②顧客 ③商流 ④月額保守・運用契約 ⑤技術者・デザイナー(+⑥知的財産)の蓄積であり、いずれも時間でしか積み上がらないこと。IT・Webには事業許可も固定資産も無いため価値の全量が「人×顧客契約×知的財産」に集中し、キーエンジニアの退職が買収価値をその場で毀損し得ること — 当社のIT/Web領域M&A実務知見および `RESEARCH_web-seisaku-nenshu-riekiritsu`(フロー/ストックの二層構造)(proprietary/T2・attributed)
- [C-SN04] 株式譲渡は法人格が存続するため契約・知的財産は会社に残る一方、事業譲渡は個別の移転が必要。契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要(民法539条の2)、債権譲渡の対抗要件は民法467条、使用者が労働者に対する権利(労務の提供を受ける権利)を第三者へ譲り渡すには労働者の承諾が必要(民法625条1項「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」)。※会社法467条(事業譲渡の特別決議)と民法467条は別条です — e-Gov 民法(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- [C-SN05] 職務上作成するプログラムの著作物の著作者は「別段の定めがない限り」法人等(著作権法15条2項)。他方、著作物の創作を他人・他社に委託した場合は、料金を支払ったかどうかにかかわらず実際に創作した側が著作者となるのが原則(文化庁「著作権テキスト」)。譲渡契約で27条・28条の権利が特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定される(61条2項)。※「プログラム」の定義は2条1項10号の2です — e-Gov 著作権法/文化庁(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
- [C-SN06] チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項=M&Aの実行に伴い会社の支配権の変動等が生じるような場合に、当該支配権の変動が契約の解除事由となる条項。通知または承諾を求める形もあり、早い段階で重要な取引先との契約についてCOC条項の有無を確認することが必要とされる。※契約上の条項であり法令に根拠を持つものではないため、「常に解除される」「常に承諾が必要になる」とは言えません — MARR(レコフデータ)M&A用語/日本M&Aセンター M&A用語集(T3・attributed): https://www.marr.jp/yougo/detail/131 / https://www.nihon-ma.co.jp/columns/glossary/changeofcontrol/
- [C-SN07] GitHubの利用規約は、個人アカウント・組織アカウントについて、そのアカウントおよびその中のコンテンツに対する最終的な管理権をオーナーが保持すること、組織アカウントの所有者として少なくとも1つの個人アカウントを指定する必要があることを定めている。ドメインの登録者名義・クラウドのルートアカウント名義も同様に「会社の資産か」を決める(IPハイジーン) — GitHub 利用規約(T2・attributed): https://docs.github.com/ja/site-policy/github-terms/github-terms-of-service
- [C-SN08] Web制作会社は固定資産・在庫を持たず原価のほぼ全量が人件費と外注費。受託(フロー)は納品が終われば売上がゼロに戻り、月額保守・運用(ストック)は翌月も立つため、買い手は保守MRR比率を継続的収益として評価する。※Web制作会社単独の財務を出す官庁統計は存在せず([C-SN18]が構造的理由)、保守比率の一次統計もありません — `RESEARCH_web-seisaku-nenshu-riekiritsu`(T2/T3・attributed)
- [C-SN09] 2030年時点のIT人材の需給ギャップは高位約78.7万人/中位約44.9万人/低位約16.4万人。※「最大約79万人」は高位シナリオの値であり、2019年公表の報告書=生成AI普及前の前提(生産性上昇率0.7%)に基づく試算です — 経済産業省「IT人材需給に関する調査」p.17 表3-5(T1・attributed+range): https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
- [C-SN10] 情報通信業の倒産は2025年(暦年)438件(前年比+3.0%)で4年連続の増加、2025年度は432件(前年度比▲6.0%)。※暦年と年度で集計期間が異なるため併記しています — 東京商工リサーチ(T2): https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1202288_1610.html / https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1202724_1610.html
- [C-SN11] 情報通信業の後継者不在率は77.06%で産業別トップ(前年77.32%/同調査の全産業は62.60%・2025年)。※帝国データバンクの2025年調査では全業種50.1%で、母集団・定義が異なり直接比較はできません(同社は情報サービス業単独値を公表していません) — 東京商工リサーチ/帝国データバンク(T2・attributed): https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201982_1527.html / https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
- [C-SN12] 旧・下請代金支払遅延等防止法は、2026年1月1日施行の改正により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改称(e-Gov登録の略称は「中小受託取引適正化法」「取適法」)。附則第一条「この法律は、令和八年一月一日から施行する。」。Web制作・システム開発は情報成果物作成委託として対象。※本記事は旧法の条番号を用いていません。※公正取引委員会の解説HTMLページには旧法名の記載が残っている箇所があるため、根拠にはe-Gov原文とリーフレットを用いています — e-Gov/公正取引委員会(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/331AC0000000120/ / https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf
- [C-SN13a] 登録免許税:株式会社の設立の登記=資本金の額の1000分の7(これによって計算した税額が15万円に満たないときは申請件数1件につき15万円)/合同会社の設立の登記=資本金の額の1000分の7(6万円に満たないときは1件につき6万円)/合名会社・合資会社等=1件につき6万円 — e-Gov 登録免許税法 別表第一 二十四号(一)イ・ロ・ハ(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- [C-SN13b] 定款認証の公証人手数料:株式会社で資本金の額等が100万円未満=3万円(①発起人の全員が自然人でありその数が3人以下 ②発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載・記録がある ③取締役会を置く旨の記載・記録がない、のいずれにも該当する場合は1万5千円)/100万円以上300万円未満=4万円/それ以外=5万円 — e-Gov 公証人手数料令35条(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/405CO0000000224
- [C-SN13c] 会社法30条1項「第二十六条第一項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。」は株式会社の定款に関する規定であり、持分会社(合名・合資・合同)の設立を定める575条1項は「その社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない」と定めるのみで、公証人の認証を要求していない — e-Gov 会社法(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- [C-SN13d]/[C-SN13e] 印紙税法 別表第一 第六号「定款」は一通につき4万円で、課税されるのは会社の設立のときに作成される定款の原本に限られる。非課税物件欄により、株式会社の定款のうち公証人法58条3項の規定により公証人が保存するもの以外は非課税。また電磁的記録は印紙税法上の「文書」に含まれないため、電磁的記録として作成した定款に印紙税は課税されない — e-Gov 印紙税法/国税庁 質疑応答事例(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000023 / https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/24/01.htm / https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/02/10.htm
- [C-SN14] 「Web制作でゼロから独立して受注が立つまでの期間」を示す一次統計は、本調査(JISA基本統計調査・経済産業省IT人材需給調査・日本政策金融公庫新規開業実態調査等の実査)では確認できませんでした。※開廃業率の統計は事業所の出入りを測る指標であり、「受注が立つまでの期間」の代替にはなりません。したがって本記事では期間を数値で示していません(注記・asserted)
- [C-SN15] 「生成AIによりWeb制作の単価が一律に下落した」ことを示す一次統計は確認できていません(制作会社の自社ブログ・小規模なPR調査は一次統計として扱っていません)。両論を併記しています — `RESEARCH_web-seisaku-shoraisei`(注記/T2・asserted)
- [C-SN16] 買収価格の算定式(年買法=時価純資産+営業利益の数年分/EBITDA倍率)は本記事では扱わず、Web制作会社の売却相場2026へ送っています。倍率等は仲介実務上の目安であり、理論的裏付けのある水準ではありません — `RESEARCH_web-seisaku-ma-souba`(T3・range/attributed)
- [C-SN17] ma-platform /malist のIT・Web系案件は181件(当社調べ・2026-08-04時点/WP REST `industry` タームの合算=ECサイト・WEBショップ75/WEBサービス・アプリ・システム41/WEBサイト・WEBメディア24/WEB制作・デザイン・システム20/インターネット・通信・AV機器8/プログラミング6/ソフトウェア開発5/自社開発システム2。SNS・YouTube 系は狭義から除外)。公開時(2026-08-04)に再カウントし同数であることを確認済み(件数は日次で変動します)。掲載は希望額であり成約額ではありません。※大半はアセット・システムの譲渡案件で、Web制作会社(法人)の株式譲渡は少数です — 自社データ(proprietary・attributed)
- [C-SN18] 日本標準産業分類(令和5年7月改定)では、デザイン業〔7261〕の「含まれないもの」に「ホームページ作成業(プログラム設計を伴うもの)〔3911〕」が明記されており、プログラム設計を伴うWeb制作は受託開発ソフトウェア業〔3911・大分類G 情報通信業〕、デザイン制作が主体ならデザイン業〔7261・大分類L〕に分かれる。※「Web制作業=3911」と単純化はできません — e-Stat 日本標準産業分類/総務省(T1): https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10/04/3911 / https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10/04/7261 / https://www.soumu.go.jp/main_content/000935533.pdf
- [C-SN19] 労働者派遣法5条1項「労働者派遣事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。」/2条1号は「労働者派遣」を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義。※請負・準委任か派遣かの判定は個別事情によります — e-Gov 労働者派遣法(T1): https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088
- [C-SN20] 総務省『電気通信事業参入マニュアル[追補版]』(令和5年1月改定)p.14は「自己の需要のために提供している例」として「個人や企業等の専ら自己の情報発信のためのホームページの開設」を挙げ、p.30は「『場』の提供を行う場合であっても、サービスの一部として利用者間のメッセージの媒介を行う機能を提供している場合は、登録又は届出が必要な電気通信事業と判断される」としている — 総務省(T1): https://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdf
- [C-SN21] 「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表)では、現在の採算状況は「黒字基調」67.0%/「赤字基調」33.0%(n=2,043)、予想月商達成率100%以上が58.7%、売り上げ「増加傾向」60.1%。調査時点(2025年8月)の開業からの経過月数は平均15.5カ月。※調査対象は日本公庫国民生活事業が2024年4〜9月に融資した企業のうち融資時点で開業後1年以内の企業8,517社(不動産賃貸業を除く)/回収2,165社(回収率25.4%)で、全業種・公的融資を受けた開業者に限られます。Web制作の数値ではありません — 日本政策金融公庫総合研究所(T2・attributed): https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_251205_1.pdf
- [C-SN22] 個人事業の開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)に法定の手数料はなく、提出期限は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」(所得税法229条/国税庁タックスアンサーNo.2090・令和8年1月1日現在法令等)。※「1月以内」は所得税法230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)の期限であり、開業届の期限ではありません — 国税庁/e-Gov 所得税法(T1): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2090.htm / https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm / https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- [C-PROP-01] 値がつく会社とつかない会社の差は売上規模ではなく「社長が抜けても回る受注経路と、月額で立ち続ける保守契約があるか」に集約されること、買い手側で多い失敗が「キーエンジニアの退職と顧客契約のCOC条項で人も顧客も逃げた」ケースであること — 当社のIT/Web領域M&A実務知見(proprietary・attributed/個別案件の結果を保証するものではありません)