電気工事会社の売却相場はいくら?建設業許可・経審評点・施工実績で変わる査定額の決まり方【2026年】
後継者がいない。職人も自分も歳をとった。元請の値下げ圧も、電線や機材の原価高騰も止まらない——。続けるのは先細り、でも畳むには工具・車両・計測器の処分も倉庫の原状回復もある。そこで頭をよぎるのが「売れるなら売って引退したい。でも、うちはいくらになるんだ?」という問いです。本記事は、電気工事会社の売却相場の「読み解き方」と、税引後に残る「手取り」を、一次統計と実務目線でお伝えします。
この記事の結論(先に要点だけ)
- 電気工事会社に「これが相場」という単一の金額は存在しません[C-02]。実務では年買法(時価純資産+営業利益の概ね2〜4年分/案件により幅)で“目安”を置きます[C-02]。
- 価格を押し上げるのは、建設業許可(電気工事業=指定建設業)・電気工事業の登録/みなし登録・電気工事士(第一種/第二種)・1級/2級電気工事施工管理技士の在籍・経営事項審査(経審)の評点・公共/元請の施工実績・電気保安/メンテのストック収益・黒字低借入です[C-04]。
- 電気工事会社は「建設業許可(電気工事業=指定建設業)」と「電気工事業の登録/みなし登録」という二重の免許構造を持ち、それぞれ別系統の有資格者(専任技術者=施工管理技士等/主任電気工事士=第一種・第二種電気工事士)を要するため、有資格者が二重に希少な資産になります[C-11][C-12][C-14]。
- 株式譲渡なら、会社が持つ建設業許可・電気工事業の登録は原則そのまま引き継がれます(経管・専任技術者・主任電気工事士の体制維持が前提)[C-06]。一方事業譲渡では建設業許可を移転できず、事前の認可を受けなければ空白期間(無許可営業リスク)が生じます[C-06]。
- 廃業は工具・車両・計測器の処分、倉庫の原状回復、退職金で持ち出しになりがち。会社に値が付くなら、譲渡のほうが手元に残るお金が多い場合があります。
- 次の一手は、畳む前に自社の概算評価を一度知ること。仲介に営業される前に、無料で相場感をつかむのが安全です。
§1 電気工事業界とは — 「指定建設業×二重免許×有資格者」ビジネス
「電気工事業は地味な下請仕事だ」と思っていませんか。実は電気設備の更新・再エネ/GX・データセンター・EV充電需要に支えられ、許可と国家資格者が高い参入障壁になる、値の付きやすい業種です。
電気工事業とは、住宅・ビル・工場・公共施設の受変電設備や配線、照明、動力、通信・信号設備などの電気工作物を施工・更新する業種です。日本標準産業分類では、建設業>中分類08「設備工事業」のなかの「電気工事業(081)」に位置づけられます(管工事業083と同じ設備工事業の区分)[C-05]。建物や社会インフラの電気を支える「更新・保守メンテ需要」に立脚したビジネスです。
ここに本記事の最大の差別化点があります。電気工事会社は、建設業の許可と電気工事業の登録という「二重の免許構造」を持っています。
第一の免許が建設業許可(電気工事業)です。電気工事業は建設業法の「指定建設業」7業種(土木/建築/電気/管/鋼構造物/舗装/造園)の一つです[C-11]。指定建設業の特定建設業許可では、設置すべき専任技術者・監理技術者が国家資格者・国土交通大臣の特別認定者に限定され、指導監督的な実務経験のみでは要件を満たせません[C-11]。つまり電気工事は、実務経験10年でも専任技術者になれる業種(たとえば塗装工事業は指定建設業ではありません)とは異なり、国家資格者の在籍が許可維持に直結する業種なのです。その国家資格が1級・2級電気工事施工管理技士で、技術検定(建設業法第27条)に基づく国家資格です。指定建設業ゆえ、特定建設業の専任技術者・監理技術者になれるのは1級が必須で、2級は実務経験を積んでも特定建設業の専任技術者にはなれません[C-12]。
第二の免許が電気工事業の登録/みなし登録です。電気工事の施工には、建設業許可とは別に電気工事業法(電気工事業の業務の適正化に関する法律)に基づく登録・届出が必要で、各営業所に主任電気工事士を選任しなければなりません[C-14]。主任電気工事士になれるのは第一種電気工事士、または第二種電気工事士で免状取得後3年以上の実務経験を有する者に限られ、電気工事施工管理技士では主任電気工事士になれません(建設業許可の専任技術者要件とは別系統です)[C-14]。建設業許可を受けた事業者が電気工事業を営む場合は「みなし登録電気工事業者」として届出を行います[C-14]。つまり電気工事会社は、専任技術者(施工管理技士等)と主任電気工事士(第一種/第二種電気工事士)という別系統の有資格者を二重に抱える必要があり、ここが価格に効きます。
収益構造を一次統計で見ると、興味深い二面性があります。電気工事(電気工事業)を含む「設備工事業」の売上高総利益率(粗利率)は29.46%で、建設業5区分のなかで最も高い水準です[C-05]。一方で売上高営業利益率は0.35%(令和4年度・黒字/建設業全体は0.33%)[C-05]と薄い。粗利は厚いのに営業利益が薄いのは、労働集約で販管費・労務負担が重い構造を示しています——つまり「人と段取り」が収益の鍵であり、有資格者と継続取引・施工実績こそが値段の源泉になるわけです。
注:電気工事業単独の財務統計は公的区分がないため、これを含む「設備工事業」ベースの近似値(令和4年度)を用いています[C-05]。
PESTで見れば、政策=脱炭素・GX投資・再エネ拡大、経済=電線・銅・機材の原価高騰、社会=職人の高齢化と採用難・いわゆる2024年問題後の労務環境、技術=データセンター・EV充電インフラの拡大と電気設備の高度化。需要はあるのに続ける体力が削られ、後継者問題が重なる構図です。
電気工事業界の需要動向や将来性の全体像は、電気工事業界の将来性・需要動向はこちらで俯瞰しています。本記事(相場・売却価格)と併せてご覧ください。なお、そもそも電気工事業へ独立開業で参入するか既存会社をM&Aで買収するかを費用と時間で比較したい方は、電気工事業の参入は独立開業かM&A買収かもご覧ください。実際に「誰が・なぜ電気工事会社を買うのか」を公表事例で知りたい方は、電気工事会社のM&A・事業承継 成約事例(誰が・なぜ買うのか)もご覧ください。
§2 電気工事業界の動向と将来性 — なぜ今、M&A出口が増えているのか
需要が堅調でも、すべての電気工事会社が安泰ではありません。「小規模ほど詰む」構図が進み、出口としてM&A(譲渡)が現実的な選択肢になっています。
最大の背景は後継者問題です。建設業の後継者不在率は57.3%(2025年)で全業種最高水準[C-01](全国平均は50.1%)。ただしピークの71.4%(2018年)から14.1ポイント低下し、改善傾向にあり[C-01]、「譲渡という出口を選ぶ会社が増えた」と読めます。
市場そのものは底堅く推移しています。建設業許可業者数は令和7年3月末で48万3,700業者(前年同月比0.9%増)と微増[C-10]。電気設備の更新需要、脱炭素・GX省エネ改修、再エネ・データセンター・EV充電インフラの投資拡大は中長期で堅調な方向にあり[C-10]、「需要が消える業種」ではありません。
注:電気工事(電気工事業)単独の市場規模(金額)は公的な統計区分がないため、許可業者数・建設投資の方向性で「中長期堅調」までを示しています[C-10]。
買い手の動きも活発です。サブコン大手・ビル管理会社・電気保安/設備系ファンドが、施工キャパシティと有資格者・元請取引枠・施工実績を取り込む「面取り」、小規模事業者のロールアップなど、許可・登録・人材・経審評点・継続取引を一括で取得できるM&Aを求める買い手が実在します。指定建設業ゆえに有資格者を新規採用で揃えるのは時間がかかり、しかも電気工事業の登録には主任電気工事士まで要るため、人手と後継者が足りない今、「許可も登録も有資格者も経審も施工実績も健在なうち」の譲渡が、買い手の好機であり、売り手の売り時です。
業界全体の将来予測や二極化のシナリオは、電気工事業界の将来性・需要動向はこちらで整理しています。本記事は「M&A出口が増える文脈」に絞っています。
§3 電気工事会社の生き残り戦略 — 続ける/譲る/畳むの3択
続ける現実は、利益率の薄さとの戦いです。前述のとおり設備工事業の粗利率は29.46%と5区分で最も高い一方[C-05]、営業利益率は0.35%と薄い[C-05]。薄利を変える「自走」(下請依存からの脱却、元請化・直需開拓、電気保安/メンテ契約のストック化、再エネ・GX・EV充電などの高付加価値化、有資格者の採用・育成、経審評点の改善)には投資と時間、担い手が要ります。
なお、電気工事会社の利益率や社長年収の「儲かる/儲からない」の深掘りは本記事の範囲外です。利益率・年収の実態と「薄利でも高く売れる会社の財務」は別記事で扱います。
畳む(廃業)は、工具・車両・計測器・在庫の処分、倉庫の原状回復、退職金など、出ていくお金が想像より大きくなりがちです。指定建設業ゆえ、有資格者が離散すれば許可も、電気工事業の登録も、価値ゼロで消えます。
そして譲る(M&A・譲渡)。「買われる強み」(建設業許可・電気工事業の登録・電気工事士/施工管理技士・経審評点・安定した元請取引・公共/保守メンテのストック・自社車両/工具/計測器・低借入)が揃うなら、あなたの会社は「畳むしかない事業」ではなく「買われる資産」です。SWOTで自社の「買われる強み」を棚卸しすることが、3択を見極める出発点になります。
§3.5 廃業 vs 売却 — 手取りで比べると見え方が変わる
廃業は工具・車両・計測器・在庫の処分、倉庫の原状回復、退職金など「持ち出し」になりやすく、許可・登録・取引・有資格者・職人も価値ゼロで消えます。売却なら条件次第で創業者利益が残り、個人保証の解除や雇用維持も交渉できます。
判断軸は「廃業して出ていくお金」と「売却して手元に残るお金(税引後の手取り)」を同じものさしで比べること。処分価格だけを見ていた方が、査定で「会社ごと売るほうが手取りが多い」と気づくことも少なくありません。
廃業と売却の手取りをより詳しく比べたい方は、電気工事業の廃業と売却の手取り徹底比較をご覧ください(深掘りは別記事に分けています)。
▶ 廃業を決める前に、まず手取りを試算しませんか
「畳むといくら持ち出しか」「売るといくら残るか」を同じ土俵で比べると、結論が変わることがあります(売り手は完全無料)。 → 廃業前に手取りを試算する/譲渡を相談する
§4【M&A・投資視点】電気工事会社の売却相場と営業権の決まり方
「うちはいくらで売れるのか」を、相場の見方と評価の仕組みから解きます。同じ年商でも値段が大きく違うことがある——その差を生むのは、電気工事士・施工管理技士・経審評点・施工実績といった“数字に出ない資産”=営業権の厚みです。とりわけ電気工事は指定建設業であるうえに電気工事業の登録も要する二重免許ゆえ、許可と登録を支える有資格者が二重に希少で、ここが価格を分けます。
まず大前提:電気工事会社に「明確な相場」は存在しない
電気工事会社に「相場はこの金額」という単一の数字は存在しません[C-02]。仲介サイトに並ぶ譲渡額は、売り手の「希望額」であって成約額ではないからです。同じ売上規模でも、許可・登録・有資格者・経審・取引先・施工実績の状態でつく値段はまるで変わります。実務では次の式で“目安”を置きます。
算定式①:年買法(中小M&Aの定番)
中小M&Aの定番が年買法です。
株式価値 = 時価純資産 + 営業権(=営業利益の概ね2〜4年分/案件により幅)[C-02]
この上乗せ部分が「営業権(のれん)」——許可・登録・有資格者・取引先・施工実績など帳簿に出ない収益力を金額化したものです。ただし年買法には確たる理論的な裏付けはなく、あくまで交渉のたたき台で、年数(2〜4年)も案件によってばらつきます(出典によっては2〜5年とするものもあります)[C-02]。
中小では数千万円〜数億円規模が一つの目安になりますが、これは時価純資産と営業権の積み上がり方しだいで、金額そのものを断定できる「相場」ではありません[C-02]。

図解F1:企業価値=時価純資産+営業権(営業利益×2〜4年分・年買法の目安)。数値は本文・Claims Ledger準拠。
注:「EV/EBITDA倍率(例 3〜5倍)」を相場として目にすることがありますが、これは全業界の平均的な参考値で、電気工事(設備工事業)特化の数字ではありません[C-03]。電気工事に固有の一次データは存在しないため、本記事では年買法の補助的な参考にとどめ、金額の根拠としては用いません。
営業権を動かす「加点」と「減点」(電気工事固有・ここが主役)
年買法の営業権(営業利益の何年分か)を厚くするか薄くするかは、電気工事会社に固有の“数字に出ない資産”が決めます[C-04]。電気工事が指定建設業であるうえに電気工事業の登録も要するがゆえに、ここでの有資格者・経審・施工実績の重みは特に大きくなります。
加点される要素[C-04]
- 建設業許可(電気工事業=指定建設業)の保有、および電気工事業の登録/みなし登録
- 電気工事士(第一種/第二種)・1級/2級電気工事施工管理技士の在籍数と年齢構成——施工管理技士は指定建設業ゆえ専任技術者・監理技術者の要件を満たせる希少な人材で[C-11][C-12]、電気工事士は実作業と主任電気工事士の選任に直結します[C-14]。有資格者が二重に効くのが電気工事の特徴です
- 経営事項審査(経審)の高評点——公共工事直接請負の必須要件で、評点(特に技術力=有資格者数・元請完成工事高)が高いほど大型公共・元請取引の入口になります[C-13]
- ゼネコン・サブコン・ビル管理会社・自治体との安定した継続取引、高い元請比率、公共/民間の施工実績
- 電気保安・保守メンテナンス契約のストック収益(更新需要の継続キャッシュフロー)
- 自社車両・工具・計測器・倉庫などの設備、黒字継続・低借入
減点される要素[C-04]
- 特定取引先(一社)への過度な依存
- 社長の現場属人化(社長が抜けると回らない)
- 有資格者(電気工事士・施工管理技士)の不在——指定建設業の許可維持に加え、電気工事業登録の主任電気工事士維持にも直結するため致命的になりやすい[C-11][C-14]
- 簿外債務・過大なリース
- 安値・低粗利の受注体質、元請からの値下げ常態化

図解F2:営業権を押し上げる要素(左)と引き下げる要素(右)。有資格者の在籍や経審評点・施工実績が“数字に出ない資産”として価格を動かします。
編集部より:現場で「価格を分ける」のは、決算書に出ない部分です
電気工事会社の評価は、売上の大小だけでは決まりません。最後に効くのは、電気工事士(第一種/第二種)・1級/2級電気工事施工管理技士が何人いて、何歳で、定着しているか、経審の評点はどうか、ゼネコン・サブコン・自治体・ビル管理会社との継続取引や公共/元請の施工実績があるか、元請比率と電気保安・メンテ契約のストック、車両・工具・計測器の状態、そして社長が現場に張り付いていないか——いずれも帳簿に表れにくい要素ばかりです。とりわけ電気工事は指定建設業であるうえに電気工事業の登録も要しますから、有資格者が抜けると許可維持と登録維持の両方に直結します。ここを整えるだけで買い手の見る目は変わり、価格にも交渉のしやすさにも直結します。(※本コラムは当社の建設・電気/設備領域におけるM&A実務での知見に基づく一般的な所感です)
有資格者の在籍数や経審評点が査定額をどの程度動かすか、建設業許可・電気工事業の登録承継・専任技術者/主任電気工事士要件の手続詳細を知りたい方は、電気工事業(指定建設業)の許可承継・登録・専任技術者要件の詳細はこちらをご覧ください。本記事では「有資格者・経審・施工実績が営業権を上げる構造」の説明にとどめています。
3Cで見る:買い手は何を狙っているか
買い手(同業・サブコン大手・ビル管理会社・ファンド)が欲しいのは、ゼロから揃えると時間のかかる建設業許可(電気工事)・電気工事業の登録・電気工事士/施工管理技士・施工エリア・元請枠・経審評点・公共/保守契約のストックと施工実績・職人の採用代替です。指定建設業ゆえ有資格者の確保には特に時間がかかり、さらに登録には主任電気工事士まで要するため、許可・登録と人材を「会社ごと」得られるM&Aの効率は内製化や自前拡大には代えがたく、自社の強みを言語化できれば価値が明確になります。
許認可の承継 — ここがスキーム選択の分かれ目
株式譲渡は株主が変わるだけで法人格は変わらず、会社が持つ建設業許可(電気工事業)と電気工事業の登録/みなし登録は会社に残り、原則として継続します(経営業務管理責任者・専任技術者・主任電気工事士の体制維持が前提)。指定建設業ゆえ、専任技術者となる電気工事施工管理技士が引き続き在籍していること、主任電気工事士となる第一種/第二種電気工事士が在籍していることが、許可・登録維持の前提になります[C-11][C-14]。
事業譲渡は異なります。建設業許可は、令和2年(2020年)10月施行の改正建設業法で、事前の認可による地位承継の制度が新設されました(17条の2・3)[C-06]。従前は廃業+新規申請で空白期間が生じましたが、改正後は承継予定日の90日前までの認可で、地位を空白なく承継できます。ただし承継は建設業の「全部」が対象で、一部のみの承継はできず、承継者が許可要件(経管・専任技術者)を満たすことが前提です[C-06]。指定建設業の電気工事では、専任技術者になれる電気工事施工管理技士を承継側で確保できなければ承継できません。さらに電気工事業の登録/みなし登録も承継先で別途対応が必要です[C-14]。認可を受けずに事業譲渡だけ進めると、許可の空白=無許可営業のリスクが生じます。

図解F3:スキーム別の許可・登録承継。電気工事は指定建設業かつ電気工事業の登録も要するため、いずれも専任技術者(施工管理技士)と主任電気工事士(電気工事士)の確保が前提になります。
建設業のM&Aと許可承継の総論(経審・各種スキームの全体像)は、建設業のM&A・許可承継の全体像で解説しています。本記事は電気工事業に絞っています。
手取り(税引後)の考え方
個人株主が株式売却で得た利益には、申告分離課税で税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)が課されます[C-08](実際の税額は取得費等で変わるため、計算は税理士へ)。「いくら売れる」を「いくら残る」に翻訳して考えることが、廃業との損得比較の出発点になります。
ここで重要な注意点があります。「M&Aで事業承継税制を使って節税できる」は正しくありません。事業承継税制(贈与・相続による株式取得の納税猶予制度)は親族内・社内承継のための制度で、第三者へのM&A売却(株式譲渡所得課税=20.315%の世界)とは別物です[C-08]。(参考までに、法人版・特例措置の適用期限は令和9年〔2027年〕12月31日です[C-07]。特例承継計画の提出期限についても、検討される際は中小企業庁・国税庁の最新情報をご確認ください。)
価格を上げる事前準備 — 売却前に整えると営業権が上がる10項目
次の項目を点検すると、買い手の評価と交渉のしやすさが変わります。自社に当てはめてください。
- ☐ 建設業許可(電気工事業)の有効期限・更新状況、および電気工事業の登録/みなし登録の有効性
- ☐ 電気工事士(第一種/第二種)・1級/2級電気工事施工管理技士の在籍数・年齢構成と継続雇用
- ☐ 専任技術者・経営業務管理責任者・主任電気工事士の体制(指定建設業=国家資格者要件/登録=主任電気工事士要件の維持)
- ☐ 経営事項審査(経審)の評点と改善余地
- ☐ ゼネコン・サブコン・自治体・ビル管理会社との継続取引の文書化と特定取引先への依存度、公共/元請の施工実績
- ☐ 電気保安・保守メンテナンス契約のストック化・更新条件の整備
- ☐ 直近3期分の決算書の整備(見え方の改善)
- ☐ 簿外債務・未払残業・倉庫の原状回復責任など隠れ負債の有無
- ☐ 車両・工具・計測器・倉庫の台帳と所有/リースの区分・名義
- ☐ 社長の現場属人化の解消、会社資産と個人資産の分離・反社チェック
▶ 「自社だといくらになる?」をまず知る
“数字に出ない資産”(電気工事士・施工管理技士・経審評点・施工実績・保守ストック)を踏まえた概算評価を、売り手は完全無料でお出しします。承継スキーム(株式か事業譲渡か)も含めてご相談ください。 → 電気工事会社の無料売却査定を相談する
掲載中の案件は掲載中の建設・電気/設備関連のM&A案件を見るからご覧いただけます(買い手が実在することは、売り手にとっての安心材料でもあります)。
§5 よくある質問(FAQ)
Q1. 電気工事会社のM&A・売却相場はいくらですか? A. 電気工事会社に「明確な相場」は存在しません[C-02]。実務では年買法(時価純資産+営業利益の概ね2〜4年分/案件により幅)を目安にします[C-02]。中小では数千万円〜数億円規模が一つの目安ですが、許可・登録・有資格者・経審・取引先・施工実績の状態で大きく変わります。仲介サイトの金額は希望額で成約額ではありません。目安は無料査定が近道です。
Q2. 電気工事会社の売却価格(営業権)はどうやって決まりますか? A. 時価純資産に営業権(営業利益の数年分)を上乗せする年買法が基本です[C-02]。営業権は、建設業許可(電気工事=指定建設業)・電気工事業の登録・電気工事士/施工管理技士・経審の高評点・継続取引・元請比率・施工実績・保守ストック・黒字低借入で加点され[C-04]、一社依存・社長属人化・有資格者不在・簿外債務・安値受注で減点されます[C-04]。
Q3. 電気工事士や電気工事施工管理技士が在籍すると売却価格は上がりますか? A. 上がる方向に働きます。電気工事は指定建設業であるうえに電気工事業の登録も要する二重免許のため、有資格者が二重に効きます。1級/2級電気工事施工管理技士は技術検定(建設業法第27条)に基づく国家資格で、特定建設業の専任技術者・監理技術者は1級が必須です[C-12]。実務経験のみでは要件を満たせず[C-11]、有資格者そのものが希少です。加えて電気工事業の登録には主任電気工事士(第一種電気工事士、または第二種+実務3年)の選任が必要で[C-14]、電気工事士も価値を押し上げます。在籍数が査定額をどの程度動かすかの定量は電気工事業(指定建設業)の許可承継・登録・専任技術者要件の詳細はこちらで扱います。
Q4. 後継者がいない電気工事会社でも売れますか? A. 可能性は十分あります。建設業の後継者不在率は57.3%と全業種で最も高く[C-01]、買い手は許可・登録・有資格者・経審評点・元請枠・施工実績・職人を一括取得できるM&Aを求めています。許可も登録も有資格者も継続取引も健在なうちほど、営業権が乗って評価が上がります。
Q5. 電気工事業(指定建設業)の建設業許可と電気工事業の登録はM&Aで引き継げますか? A. スキームによります。株式譲渡なら法人格が変わらず、許可も電気工事業の登録も会社に残って原則継続します(経管・専任技術者・主任電気工事士の体制維持が前提)。事業譲渡では建設業許可を移転できず、令和2年改正で新設された事前認可(承継予定日の90日前まで・建設業の全部承継が前提)を受ける必要があり、電気工事業の登録も承継先で別途対応が必要です[C-06][C-14]。いずれの場合も電気工事は指定建設業のため、専任技術者となる電気工事施工管理技士の確保が前提になります[C-11]。可否は行政書士・行政庁・産業保安監督部にご確認ください。
Q6. 株式譲渡と事業譲渡、どちらがいいですか? A. 許可・登録を持つ電気工事会社では、許可と登録が会社に残る株式譲渡が選ばれやすい傾向があります。事業譲渡だと建設業許可は事前認可(全部承継が前提・専任技術者の確保が前提)が必要で[C-06]、電気工事業の登録も承継先で対応が要り[C-14]、簿外債務の扱いなど他の論点もあります。指定建設業ゆえ有資格者の引き継ぎが特に重要になります。専門家を交えた検討をおすすめします。
Q7. 電気工事業は廃業と売却、どちらが得ですか? A. 廃業は工具・車両・計測器の処分、倉庫の原状回復、退職金で持ち出しになりやすく、売却なら創業者利益や雇用維持・保証解除が残せます。「出ていくお金」と「手元に残るお金(税引後)」を同じものさしで比べてください(→§3.5・廃業と売却の手取り比較)。
Q8. 電気工事会社のM&A・売却にかかる費用はどのくらいですか? A. M&A仲介の成功報酬はレーマン方式が一般的です(具体的な料率や最低報酬は仲介会社により異なります)[C-09]。個人株主の株式譲渡益には申告分離課税で20.315%が課されます[C-08]。費用や手取りの試算は、無料相談で個別にご確認ください。
§6 まとめ — 廃業前に、まず査定を
- 電気工事会社に「明確な相場」はありません[C-02]が、年買法(時価純資産+営業利益の概ね2〜4年分/案件により幅)で目安は置けます[C-02]。
- 値段を作るのは建設業許可(電気工事=指定建設業)・電気工事業の登録・電気工事士/施工管理技士・経審の評点・継続取引・施工実績・保守ストック・低借入という“数字に出ない資産”=営業権です[C-04][C-11][C-12][C-13][C-14]。
- 株式譲渡なら建設業許可も電気工事業の登録も会社に残って継続(経管・専任技術者・主任電気工事士の維持が前提)。事業譲渡では許可を移転できず事前認可が必要で、いずれも専任技術者=施工管理技士と主任電気工事士=電気工事士の確保が前提です[C-06][C-14]。
- 後継者不在率は57.3%と高い一方[C-01]、電気設備更新・GX改修・再エネ・データセンター・EV充電需要は中長期堅調で[C-10]、買い手は許可・登録と有資格者・経審・継続取引・施工実績を求めています。許可も登録も有資格者も継続取引も健在な「今」が売り時です。
買い手向け:電気工事の許可・登録・有資格者・経審・元請枠・施工エリアを会社ごと取得したい方は、掲載中の建設・電気/設備関連のM&A案件を見るをご覧ください。
売り手向けチェックリスト:①後継者がいない/体力的に限界 ②電気工事士・1級/2級電気工事施工管理技士が在籍している ③経審の評点がある/公共・元請取引が安定している ④電気保安・保守メンテ契約や自社車両・工具・計測器を保有 ⑤畳むと工具・計測器処分や原状回復で持ち出しになりそう——一つでも当てはまるなら、畳む前に自社の値段を知る価値があります。
許可・登録・有資格者・取引は、廃業すれば価値ゼロで消えますが、譲渡なら次の担い手に引き継がれ、対価が残ります。指定建設業かつ電気工事業の登録も要する二重免許ゆえ希少な有資格者を抱える会社であればなおさら、自社の値段を知ることが、後悔しない出口選びの第一歩です。
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相場の前提となる継続収益力(粗利率29.46%/営業利益率約0.35%という電気工事業の利益率)と電気工事士・一人親方の独立年収の実態は電気工事業の利益率と年収はこちらで解説しています。
免責
本記事は電気工事会社のM&Aに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の査定額や成約・売却を保証するものではありません。記載した相場・算定式・倍率はあくまで目安・レンジであり、実際の成約価格を保証するものではありません。財務指標は電気工事(電気工事業)単独ではなく、これを含む「設備工事業」ベースの近似値(令和4年度)です。個別の税務の取り扱いは税理士、許認可(建設業許可・電気工事業=指定建設業/電気工事業の登録)の承継可否は行政書士・行政庁・産業保安監督部、契約・法務に関する事項は弁護士へご相談ください。本記事には当社サービス(無料売却相談)へのご案内を含みます。
価格や倍率の前提となる業界全体の足元の動向(後継者不在57.3%・倒産/休廃業の最多水準・有資格者の希少化・原価高)を中立に押さえたい方は、電気工事業界の最新動向(後継者不在・2024年問題・倒産動向)をご覧ください。
出典
- [C-01] 建設業の後継者不在率57.3%(2025・全業種最高/ピーク71.4%(2018)から改善・全国50.1%)— 帝国データバンク「後継者不在率動向調査2025」: https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
- [C-02] 年買法(株式価値=時価純資産+営業利益×概ね2〜4年/年数は案件により幅・理論的裏付けは弱く明確な相場は存在しない)— 中小M&A実務解説(T3・attributed): https://www.maxus.co.jp/columns/3725
- [C-03] EBITDA倍率(例3〜5倍)は補助的な参考で全業界平均=電気工事(設備工事業)特化値ではない — 中小M&A実務解説(T3・attributed)
- [C-04] 電気工事会社の営業権の加点/減点要素(許可・登録・電気工事士/施工管理技士・経審評点・継続取引・元請比率・施工実績・保守ストック・黒字低借入で加点/一社依存・社長属人化・有資格者不在・簿外債務・安値受注で減点)— 当社の建設・電気/設備領域M&A実務知見(定性)。制度部分は[C-06][C-11][C-12][C-13][C-14]で一次裏取り
- [C-05] 設備工事業(電気工事業を含む近似)の売上高営業利益率0.35%(令和4年度・黒字/建設業全体0.33%)・売上高総利益率(粗利率)29.46%(5区分で最も高い)・自己資本比率42.64%(全体39.00%)。電気工事業は日本標準産業分類で建設業>設備工事業>電気工事業(081) — 建設業情報管理センター(CIIC)「建設業の経営分析(令和4年度)」: https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/bunseki_R04.pdf / 産業分類: https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10/03/081
- [C-06] 改正建設業法(令和2年10月施行)による事業承継・地位承継認可制度(17条の2・3/事前認可・承継予定日90日前まで・全部承継が前提・承継者は許可要件を具備)— 国土交通省: https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf / 関東地方整備局: https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000877209.pdf
- [C-07] 事業承継税制(法人版・特例措置)の適用期限 令和9年(2027)12/31 — 国税庁 No.4148: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm (提出期限は税制改正で変更されており、本文では断定せず中小企業庁・国税庁の最新情報を要確認とした。適用期限 令和9年12/31 は原文一致で確定)
- [C-08] 個人の株式譲渡益は申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税+住民税5%)/事業承継税制とは別物 — 国税庁 タックスアンサー No.1463: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- [C-09] M&A仲介の成功報酬はレーマン方式が一般的(具体料率は断定回避)— 中小M&A実務解説(T3・attributed)
- [C-10] 建設業許可業者数 令和7年3月末48万3,700業者(前年同月比+0.9%)/電気設備更新・GX省エネ改修・再エネ・データセンター・EV充電需要は中長期堅調(方向性)— 国土交通省「建設業許可業者数調査(令和7年3月末)」: https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001889275.pdf
- [C-11] 電気工事業は「指定建設業」7業種の一つ(土木/建築/電気/管/鋼構造物/舗装/造園)で、特定建設業の専任技術者・監理技術者は国家資格者・大臣特別認定者に限定され実務経験のみでは不可(建設業法15条2号・施行令5条の2)。塗装工事業は指定建設業でない点と対照的 — 国土交通省 許可の要件: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html
- [C-12] 1級/2級電気工事施工管理技士は技術検定(建設業法第27条)に基づく国家資格で、1級=特定建設業の専任技術者・監理技術者/2級=一般建設業の専任技術者・主任技術者。指定建設業ゆえ特定建設業の専任技術者・監理技術者は1級が必須 — 一般財団法人建設業振興基金 電気工事施工管理技術検定: https://www.fcip-shiken.jp/den1/
- [C-13] 経営事項審査(経審)は建設業法27条の23の客観的評価制度(P点=経営状況/規模/技術力/社会性)で公共工事直接請負の必須要件。技術力評点は許可業種別の技術職員数・元請完成工事高等を反映 — 建設業情報管理センター(CIIC)「許可・経審制度の概要」: https://www.ciic.or.jp/kyoka/keiei/
- [C-14] 電気工事業法(電気工事業の業務の適正化に関する法律)により電気工事の施工には電気工事業の登録/みなし登録が必要で、各営業所に主任電気工事士の選任が必要。主任電気工事士は第一種電気工事士、または第二種電気工事士で免状取得後3年以上の実務経験を有する者に限定(電気工事施工管理技士では主任電気工事士になれない)。建設業許可業者が電気工事業を営む場合はみなし登録電気工事業者として届出(法第34条)— 経済産業省 関東東北産業保安監督部: https://www.safety-kanto.meti.go.jp/electric/kojigyo/e_minashi_touroku01.html