EC・ネットショップ実質利益の見方

ECサイト 買収 利益|広告・返品・物流費を引き直す5つの調整と、利益が4分の1になる試算例

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 買い手が見るのは、決算書の利益ではなく、買収後も続く実質利益
  3. 粗利から引く費用は、売上の入り口から出口へ順にたどる
  4. 返品は、売上から差し引かれているかを確かめる
  5. 広告費は、新規とリピートに分け、止めたときの利益を試算する
  6. キャンペーンと季節性は、12か月で並べて外す
  7. 在庫の評価とオーナーの作業は、決算書の利益の外にある
  8. 決算書の利益から実質利益まで、仮の数字で5つの調整を引く
  9. 売り手に求める資料と、利益の引き直しの進め方
  10. まとめ
  11. よくある質問(FAQ)
  12. 出典

「月商は1,000万円、利益は毎月出ています」。ECサイト・ネットショップの売却では、売り手からこうした説明を受ける場面があります。ただ、買い手が知りたいのは、広告費・手数料・配送費・返品まで引いたあとに、買収後も毎月残る利益があるかどうかです。この記事は、売り手の利益をどう引き直し、どの資料で確かめ、価格の話にどうつなげるかを、仮の数字で整理します。

この記事の結論

  • 決算書の利益は、そのまま買収後の利益ではありません。 返品・広告費・オーナーの作業・在庫・一時的な売上の5つを引き直すと、利益は大きく変わりえます。
  • 広告で買った売上は、広告が効かなくなれば減ります。 広告をやめたとき、広告単価が上がったときの利益を、先に試算します。
  • 引き直しには、月次損益・広告明細・精算書・配送請求書・返品一覧が要ります。 契約前に売り手へ求めます。

この記事の対象:ECサイト・ネットショップ(自社EC、モール出店とも)の買収を検討している方。売り手として、買い手に何を問われるかを知りたい方にも使えます。

EC事業のM&A全体の見方は、EC・ネットショップのM&A DATAにまとめています。この記事は、そのうち「利益が本当に残るか」だけを扱います。モールのアカウントを引き継げるかは、Amazon セラーアカウント 譲渡で扱っています。

買い手が見るのは、決算書の利益ではなく、買収後も続く実質利益

結論: 価格を将来の利益から考える方法があります。その場合、過去の利益のうち、買収後に続くものと続かないものを分けるのが、利益の見方の出発点です。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、企業価値・事業価値の評価手法の一つに、将来期待されるキャッシュフローや利益から価値を算定する「インカムアプローチ」を挙げています。また、財務DD(デューデリジェンス)の目的を、譲り渡し側の過去の実績の把握、現在の財務状態の調査による財務リスクの特定、将来の事業計画の基礎となる情報の入手と説明しています。EC事業の買い手が利益を引き直すのは、この「過去の実績を、将来の事業計画の基礎に使える形に直す」作業にあたります。

本記事では、決算書の営業利益から出発して、買収後も続く利益に近づける作業を「引き直し」と呼びます。

避けたい判断 こうすればOK
売上が伸びているので、利益も続くと見る 売上から、変動する費用(原価・手数料・配送・返品・広告)を引いた利益の推移を見る
決算書の営業利益をそのまま基準にする 決算書に入っていない費用や、一時的な売上を洗い出し、引き直した利益を基準にする
売り手の説明する「広告費は絞れる」を前提にする 広告を止めた・絞った期間の実績があるかを確かめる

粗利から引く費用は、売上の入り口から出口へ順にたどる

結論: 売上総利益(粗利)の下に、広告費・手数料・配送費・返品がある構造のEC事業では、どれか一つの見落としで利益が大きく変わります。費用ごとに、資料を決めて突き合わせます。

費用 突き合わせる資料 見落としやすい点
広告費 広告アカウントの請求・明細、月次損益の広告費 請求と計上の月がずれていないか。決算書に載っていない広告枠(アフィリエイト報酬、インフルエンサーへの支払い)がないか
モール手数料・決済手数料 モールの精算書、決済事業者の入金明細 売上に比例して増える費用なので、売上が増えると費用も増える。月次損益で売上と別に取り出せているか
配送費・梱包費・倉庫費 配送業者・倉庫の請求書 送料を顧客から受け取っている場合、その売上と配送費を別に取り出して比べる
返品・返金 返品・返金の一覧、返品された商品の状態 売上から差し引かれて月次損益に反映されているか。返品された商品を再び売れるか
値引き・クーポン・ポイント 販売データ、月次損益 売上が値引き後の金額で計上されているか、費用として別に計上されているか

配送の扱いは、決算書によって違うことがあります。企業会計基準適用指針第30号は、顧客が商品の支配を獲得した後に行う出荷・配送活動について、履行義務として識別しないことができるとしています(第94項)。この定めにより、配送を商品の販売とは別の履行義務として扱うか、商品を届けるための活動として扱うかは、会社によって分かれえます。送料の売上と配送費が月次損益のどこに入っているかも会社ごとに違うため、本記事の整理では、送料の売上と配送費を別々に取り出して、比べられる形にそろえます。

手数料・決済手数料の料率は、モールや決済事業者・契約内容で変わるため、本記事では数字を書きません。売り手の精算書の実額で確かめてください。

返品は、売上から差し引かれているかを確かめる

結論: 返品は、売上が立ったあとに利益を削る費用です。返品が決算書に反映されているか、返品された商品が売れる状態かの2点を見ます。

返品の根拠になる法律は、特定商取引に関する法律(特定商取引法)の第15条の3です。通信販売で、広告に返品についての特約を表示していない場合、購入者は商品の引渡しを受けた日から8日を経過するまでの間、申込みの撤回または契約の解除ができます。この場合の返送などに要する費用は購入者の負担です。ただし、事業者が返品の特約を広告に表示していた場合は、その特約が優先します。インターネット通販のような電子消費者契約などでは、広告への表示に加えて、主務省令で定める方法での表示も要件になります。条文は、e-Gov法令検索で2026年10月18日に確認しました。

つまり、返品の条件はショップごとに違います。返品を無料で受け付けているショップは、返品の送料を事業者が負担します。本記事の整理では、売り手の返品ポリシーと、返品・返金の一覧(件数・金額・理由)を並べて、返品が利益に与える影響を計算し直します。

会計の面では、収益認識の適用指針が、返品権付きの販売の処理を定めています(第85項〜第88項)。

  • 返品されると見込まれる商品は、収益を認識せず、受け取った(または受け取る)対価の額で返金負債を認識する。
  • 返金負債の決済時に商品を回収する権利は、資産として認識する。その額は、商品の従前の帳簿価額から、予想される回収費用(商品の価値の潜在的な下落の見積額を含む)を引いた額とする。
  • 返金負債や認識した収益の額は、各決算日に見直す。

決算書がこの基準で作られているかは、会社によって違います。そこで買い手は、月次損益が返品の見込みを反映しているか、返品された商品が実際に再販できているか(再販できない商品が回収資産として残っていないか)を、売り手に確かめます。

避けたい判断 こうすればOK
決算書の売上を、返品後の売上とみなす 返品・返金の一覧と月次損益を突き合わせ、売上から返品が引かれているか確かめる
返品率が低いので問題ないと見る 返品の理由(サイズ違い・不良・イメージ違い)を分けて、改善できる返品かどうかを見る
返品された商品の価値を、定価のまま見る 返品商品の再販可否と、再販にかかる費用を確かめる

広告費は、新規とリピートに分け、止めたときの利益を試算する

結論: 広告で買った売上は、広告をやめると減ります。広告費を引いた利益を、新規とリピートに分けて見たうえで、広告が効かなくなったときの利益を先に試算します。

まず、顧客1人あたりの採算を、初回とリピートに分けます。次は仮の数字での例です。

仮の前提:1回の注文の売上が5,000円、原価・手数料・配送・返品見込みを合わせた変動費が3,500円(貢献利益1,500円)、新規顧客を1人獲得する広告費が2,000円。リピート購入に広告費はかからない。

1人あたりの購入回数 貢献利益の合計 広告費 差し引き
1回で終わる 1,500円 2,000円 −500円
2回購入する 3,000円 2,000円 +1,000円
3回購入する 4,500円 2,000円 +2,500円

この前提では、初回の購入だけでは赤字で、2回目の購入で利益が出ます。リピート率が見込みどおりに続くかどうかが利益を決めるため、過去の購入データで、初めて買った月ごとの2回目以降の購入の推移を確かめます。リピートが今後も続く保証はありません。

次に、事業全体で、広告が効かなくなったときの利益を試算します。やはり仮の数字です。

仮の前提:月の売上1,000万円、うち広告経由が600万円、広告以外(自然検索・指名・リピートなど)が400万円。売上に対する変動費(原価・手数料・配送・返品)が70%(貢献利益率30%)、広告費が150万円、その他の固定費が30万円。

シナリオ 売上 貢献利益 広告費 固定費 月の利益
現状 1,000万円 300万円 150万円 30万円 120万円
同じ広告費で、獲得単価が20%上がる 900万円 270万円 150万円 30万円 90万円
同じ広告費で、獲得単価が50%上がる 800万円 240万円 150万円 30万円 60万円
広告経由の売上がすべてなくなる(広告費もゼロ) 400万円 120万円 0円 30万円 90万円

獲得単価が上がると、同じ広告費で買える売上が減ります(600万円÷1.2=500万円、600万円÷1.5=400万円と置きました)。広告をやめた場合の利益が最も読みにくいのは、広告以外の売上がそのまま残るとは限らないためです。広告が検索や指名の流入を押し上げている場合、広告をやめると広告以外の売上も減ります。広告を止めた期間や、広告費を大きく絞った月があれば、その実績で確かめます。

キャンペーンと季節性は、12か月で並べて外す

結論: 利益が出ている月が、大型セールやモールの販促の月だけだったということがあります。月ごとに並べて、一時的な要因を外します。

月次損益を12か月以上並べ、次を確認します。

  • 大型セール・モールのキャンペーンの月に、売上と利益が突出していないか。
  • 季節商品や、特定の月に集中する商品の比率はどのくらいか。
  • 売上を押し上げた値引きやクーポンの費用が、同じ月の損益に入っているか。
  • 新商品の発売、特定の広告施策、取材・紹介など、再現できない要因がないか。

一時的な要因は、実質利益から外して見ます。外すかどうかの線引きは、本記事の整理では、「買収後の1年で、同じ条件で再現できると言えるか」です。

在庫の評価とオーナーの作業は、決算書の利益の外にある

結論: 決算書に出てこない費用が2つあります。売れ残る在庫の損失と、オーナーが無償で担っている作業の人件費です。

在庫は、売上原価の裏側にあります。法人税基本通達は、法人税法上、棚卸資産の評価損を計上できる場合の例として、著しい陳腐化(9-1-4)や、破損・型崩れ・たなざらし・品質変化などで通常の方法では販売できなくなった場合(9-1-5)を挙げています。単に物価の変動や過剰生産、建値の変更で時価が下がっただけでは、評価損を計上できる事実にあたりません(9-1-6)。ここから、売れ残りが長い在庫がそのまま帳簿に残っていると、損失が先送りされ、決算書の利益が実態より大きく見えることがありえます。これは本記事の整理で、通達が直接述べていることではありません。在庫の評価と価格の扱いは、別の論点として整理が必要です。

オーナーの作業は、たとえばオーナー自身が商品の撮影・出荷・問い合わせ対応・広告運用を行い、その分の給与が費用に入っていない場合に問題になります。買い手が自分で運営するなら、その作業を担う人件費が必要になります。本記事の整理では、オーナーの作業時間を確認し、同じ作業を外部に頼んだ場合の費用を、実質利益から引きます。

決算書の利益から実質利益まで、仮の数字で5つの調整を引く

結論: 5つの調整を引くと、決算書の利益が120万円でも、実質利益は30万円まで下がることがあります。調整のそれぞれに、売り手の資料での裏づけが必要です。

次は仮の数字での月次の引き直しです。実際のEC事業の水準を示すものではありません。

調整 内容 月の利益への影響
決算書の営業利益 売り手が示した利益 120万円
① 返品・返金の反映漏れ 返品・返金が売上から引かれておらず、年間で月平均30万円分が未反映 −30万円
② 広告費の計上の時期のずれ 広告の請求が翌月計上で、月平均15万円分が前月の損益に入っていない −15万円
③ オーナーの作業の人件費 無償で担っている作業を、外部に頼むと月25万円かかる −25万円
④ 一時的な売上 大型セールの月の利益のうち、再現できない分を月平均20万円と見る −20万円
⑤ 在庫の評価 売れ残りが長い在庫の損失を、この例では月に均して0円と置く 0円
引き直した実質利益 30万円

在庫の調整⑤は、この例では0円と置いています。在庫の損失があれば、その分をさらに引きます。

同じ倍率で価格をつけると仮定すると、基準にする利益が120万円か30万円かで、価格は4倍違います(倍率そのものは本記事では示しません)。どの利益を価格の基準にするかは、買い手と売り手の話し合いになります。

売り手に求める資料と、利益の引き直しの進め方

結論: 引き直しは、資料がそろわないと始まりません。契約前に、次の資料を売り手に求めます。

資料 引き直しで確かめること
月次損益(直近12〜24か月) 利益の推移、一時的な月、費用の計上の時期
広告アカウントの請求・明細 広告費の実額、広告経由の売上、獲得単価の推移
モールの精算書・決済事業者の入金明細 手数料の実額、返金・返品の差し引き
配送業者・倉庫の請求書 配送費・保管費の実額
返品・返金の一覧 返品の件数・金額・理由
販売データ(注文別または商品別) 新規とリピートの内訳、商品別の利益
在庫の一覧(数量・仕入日・状態) 売れ残り在庫の有無
オーナーの作業の一覧 買収後に必要な人件費

中小M&Aガイドラインは、財務DDの調査範囲や調査手法が、依頼者(主に譲り受け側)がどの譲渡スキームを前提に、どの程度のリスクを容認できるか、DDにどの程度の時間とコストを掛けられるかで異なるとしています。株式譲渡を前提にする場合は、簿外債務・偶発債務を含む全般的な調査を要することが多いとも説明しています。返金負債や未払いの広告費のように、決算書に載っていない債務が見つかる可能性もあります。調査の範囲は、依頼者と公認会計士などの専門家が事前に合意して決めます。

引き直した利益をもとに、価格や支払い条件を決めます。ガイドラインは、財務DDの結果が、譲渡対価や譲渡スキームを修正したり、取引そのものを取りやめたりする判断の材料になると説明しています。調整額の判断や契約への落とし込みは、個別の事情で変わります。公認会計士・税理士・弁護士などの専門家に確認してください。

まとめ

  • ECサイトの買収で見るのは、決算書の利益ではなく、広告費・手数料・配送費・返品まで引いたあとに続く実質利益です。
  • 返品・広告費の時期・オーナーの作業・在庫・一時的な売上の5つを、月次損益・広告明細・精算書・請求書・返品一覧で引き直します。
  • 広告の獲得単価が上がる、または広告が効かなくなる場合の利益を先に試算し、価格の議論に持ち込みます。

自社の場合を確認する 売却を考えているEC事業の事業価値を、自社の数字で確かめたいとき → 事業価値を確認する

よくある質問(FAQ)

Q1. ECサイトを買うとき、利益は何を見て判断しますか? A. 売上や決算書の利益そのものではなく、広告費・モールと決済の手数料・配送費・返品を引いたあとに、買収後も続く利益を見ます。月次の損益、広告アカウントの明細、精算書、配送の請求書、返品・返金の一覧を突き合わせて引き直し、一時的な要因は除きます。

Q2. 決算書の利益と実質利益は、なぜ食い違うのですか? A. 本記事の整理では、食い違いの主な原因は5つです。返品・返金の反映漏れ、広告費などの計上の時期のずれ、オーナー自身の作業が費用に入っていないこと、在庫の評価、大型セールなど一時的な売上です。どれが当てはまるかは、売り手の資料で一つずつ確かめます。

Q3. 返品が多いEC事業は、利益をどう見ればよいですか? A. 返品見込みの売上を差し引いて見ます。収益認識の適用指針は、返品権付きの商品を売ったとき、返品されると見込まれる分は収益を認識せず、返金負債を計上するとしています。ただし、決算書がこの基準で作られているかは会社によって違うため、返品・返金の一覧と月次損益を突き合わせて確認します。

Q4. 広告をやめても売上が残るかは、どう確かめますか? A. 広告経由の売上と、自然検索・指名検索・リピートなど広告以外の売上を、販売データで分けます。広告費を止めたときの利益は、広告以外の売上だけで計算します。ただし、広告が検索や指名の流入を押し上げている場合は分けきれないため、広告を止めた期間があれば、その期間の実績で確かめます。

Q5. 利益の引き直しは、買い手と売り手のどちらが行いますか? A. 中小M&Aガイドラインは、財務DDを主に譲り受け側が公認会計士などの専門家に依頼して行うものとして説明しています。売り手が事前に整理しておけば、資料の提出と質疑が早く進みます。調査の範囲は、依頼者と専門家が事前に合意して決めます。

Q6. 引き直した結果、利益が小さくなったら価格はどうなりますか? A. 中小M&Aガイドラインは、財務DDの結果が、譲渡対価や譲渡スキームを修正したり、取引そのものを取りやめたりする判断の材料になると説明しています。引き直した利益をもとに価格や支払い条件を話し合います。どう織り込むかは個別の事情で変わるため、公認会計士・税理士・弁護士に確認してください。

出典

  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(取得日 2026年10月18日)https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
  • 企業会計基準委員会(ASBJ)企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(会計基準詳細|会計基準検索システム・取得日 2026年10月18日)https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=14
  • e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」第15条の3(取得日 2026年10月18日)https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057
  • 国税庁「第2款 棚卸資産の評価損」(法人税基本通達 9-1-4〜9-1-6・取得日 2026年10月18日)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm

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