この記事の目次
- この記事の結論
- 株式譲渡なら契約の当事者は変わらず、事業譲渡なら契約は自動では移らない。手法で承継の作業が変わる
- 利用者の承諾は、契約の形ごとに取り方が違う。規約で足りるかは条項を読んで専門家に確認する
- 年払い・前受料金は、売り手が負う「まだ提供していないサービス」。買い手が引き受けるなら、残高と資金を一緒に決める
- SLA・返金・障害対応は、書面にある約束と、書かずに続けてきた約束を分けて引き継ぐ
- 決済代行・クラウド・APIの契約は、利用者契約とは別に、名義と請求先の付け替えを計画する
- 利用者の個人情報は、承継前の利用目的の範囲で引き継げる。範囲を超えて使うなら事前に同意を取り直す
- 移行計画は、承諾→前受料金→SLA→外部契約→利用者への通知の順に、クロージング前から組む
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- 出典
SaaSを事業譲渡で売ると、買い手が受け取るのはソースコードや顧客リストだけではありません。利用者との契約、年額で先にもらった料金、障害時の約束、決済やクラウドの契約が付いてきます。ところが事業譲渡では、これらは譲渡契約書に書くだけでは移りません。この記事は、SaaS 事業譲渡 契約のうち「利用者との契約、前受料金、SLA、外部の契約」を、移す前に何を確かめればよいかの順に書きます。
この記事の結論
- 事業譲渡では、利用者との契約は自動では買い手に移りません。 契約上の地位を移すには、相手方(利用者)の承諾が要ります。株式譲渡なら契約の当事者は変わりませんが、支配権の変動で解除権が生じる条項は別に確認します。
- 年払いなどで先にもらった料金は、売り手が負う「まだ提供していないサービス」の義務です。 買い手が引き受けるなら、残高と、それに見合う資金の動かし方を一緒に決めます。
- SLA・返金・障害対応と、決済代行・クラウド・APIの契約は、利用者契約とは別に棚卸しします。 契約書に書いてある約束と、書かずに続けてきた約束を分けて一覧にします。
この記事の対象:月額・年額課金のSaaSを事業譲渡や株式譲渡で売ることを考えている方、または買うことを検討している方。
SaaSのM&A全体の見方(主要KPI・価値の源泉・DD)は、SaaSのM&A DATAにまとめています。ハブの「DD」で触れた「利用規約と顧客との契約(譲渡・承継の可否)」を、承諾の取り方と前受料金の扱いまで掘り下げるのがこの記事です。
株式譲渡なら契約の当事者は変わらず、事業譲渡なら契約は自動では移らない。手法で承継の作業が変わる
結論: 利用者との契約の当事者は、今は売り手の法人です。株式譲渡ならそのままですが、事業譲渡では買い手を当事者にするための手続が要ります。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、中小M&Aで選ばれることが多い手法として株式譲渡と事業譲渡を挙げています。株式譲渡は、譲り渡し側の株主が株式を譲る手法で、譲り渡し側の法人格に変動はありません。事業譲渡は、承継対象の財産を選べて、譲り渡し側の法人格から切り離せる一方、財産の特定、対抗要件の具備、許認可の取得などの作業が必要になる、と説明しています。
利用者との契約にあてはめると、本記事の整理では次のようになります。
| 株式譲渡 | 事業譲渡 | |
|---|---|---|
| 利用者契約の当事者 | 売り手の法人のまま | 買い手に移すには、契約ごとに契約上の地位の移転が要る |
| 前受料金(未提供のサービスを提供する義務) | 法人に残る。価格や条件で調整する | 買い手が引き受けるか、売り手に残すかを決める |
| 決済代行・クラウド・APIの契約 | 名義は法人のまま。支配権の変動に関する条項を確認する | 名義変更か新規契約が要る。契約ごとに確認する |
| 最初に見るもの | 主要な契約のチェンジ・オブ・コントロール条項 | 契約ごとの承諾の取り方 |
チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項とは、ガイドラインの用語集によると、企業が結んでいる契約について、株主の異動や支配権の変動などで相手方に解除権が発生することなどを定める条項です。株式譲渡で契約の当事者が変わらなくても、この条項があれば、主要な顧客や外部の契約が解除できる状態になることがあります。
事業譲渡で契約を移す根拠は、民法第539条の2です。契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位はその第三者に移転すると定めています。つまり、売り手と買い手が合意しただけでは足りず、利用者の承諾が条件になります。
利用者の承諾は、契約の形ごとに取り方が違う。規約で足りるかは条項を読んで専門家に確認する
結論: 規約にうたう型の利用者と、個別に契約書を交わした利用者では、承諾の取り方が違います。譲渡の条項を契約ごとに読み、承諾が要る契約を先に分けます。
| 契約の形 | 本記事の整理 | 確認すること |
|---|---|---|
| ウェブ申込で利用規約に同意する形 | 規約が契約の内容になっている。規約が定型約款に当たるかは個別に判断 | 事業譲渡に伴う地位の移転を認める条項があるか。規約を変えるときの周知など、変更の手続の要件 |
| 個別に契約書を交わした法人との契約 | 契約ごとに相手方の承諾を取る | 譲渡を禁止・制限する条項、承諾の方法、COC条項、解約条件 |
| 専用環境・個別の値引き・個別のSLAがある契約 | 上と同じ。加えて個別の約束を引き継ぐ | 個別の約束が契約書に書かれているか、請求の備考やメールにしかないか |
規約型の利用者について、民法は、定型取引を行う合意をした者が、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたときなどに、個別の条項にも合意したものとみなすと定めています(第548条の2)。また、定型約款の準備者が約款を変更するには、相手方の一般の利益に適合するときなどの要件があり、効力発生時期を定めて周知することが必要です(第548条の4)。規約に「事業譲渡の場合は契約上の地位を移転できる」と書いてあれば承諾が不要になるのか、その条項が有効に働くのかは、条項ごとの判断になります。ここは弁護士に確認してください。
契約書での書き方の例として、IPA(情報処理推進機構)の「情報システム・モデル取引・契約書」(パッケージ、SaaS/ASP活用、保守・運用の第二版追補版)の基本契約は、第12条で、互いに相手方の事前の書面による同意なく、契約上の地位を第三者に承継させ、権利義務を譲渡し、引き受けさせ、または担保に供してはならないと定めています。このモデルの解説は、民法上、債権の譲渡を禁止・制限する意思表示があっても債権譲渡の効力は妨げられない(第466条第2項)一方、譲渡制限を知っていたか重大な過失で知らなかった譲受人に対しては、債務者が履行を拒めること(同条第3項)にも触れています。利用料を受け取る権利だけを譲る場合は債権の話、契約を丸ごと移す場合は契約上の地位の話で、根拠となる条文が違います。
| 避けたい判断 | こうすればOK |
|---|---|
| 「規約に書いてあるはず」と考え、規約を読まずに通知だけで済ませる | 規約と個別契約を読み、地位の移転、事業譲渡時の通知・承諾の定めを一覧にする |
| 利用者全員に、同じ時期に同じ文面で承諾を求める | 承諾が要る契約(個別契約の法人など)を先に分け、影響の大きい利用者から相談する |
| 承諾が取れていない契約も含めて継続売上を数え、価格を決める | 承諾が取れていない契約の継続売上を別の欄に分け、価格や譲渡の条件に反映する(継続売上の数え方はSaaS ARR 企業価値) |
年払い・前受料金は、売り手が負う「まだ提供していないサービス」。買い手が引き受けるなら、残高と資金を一緒に決める
結論: 先にもらった料金は、売り手の手元にあっても、サービスを提供する義務とセットです。事業譲渡で買い手が提供を続けるなら、その義務と、見合う資金をどう動かすかを決めます。
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」は、財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、受け取った時か受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、その対価について契約負債を貸借対照表に計上すると定めています(第78項)。契約負債は、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、顧客から対価を受け取ったもの又は受け取る期限が到来しているものです(第11項)。年払いの入金は、サービスの提供前であれば、収益ではなく契約負債として計上されます。入金額と、その期の売上は一致しません。
まず、契約ごとの未提供分を出します。仮の数字で示します。実際の事業や相場を示すものではありません。
| 項目 | 仮の数字 |
|---|---|
| 年額払いの契約数 | 200件 |
| 1件あたりの年額 | 6万円 |
| 年額で受け取った合計 | 1,200万円(6万円×200件) |
| 平均して、あと何か月分が未提供か | 6か月 |
| 1件あたりの未提供分 | 3万円(6万円×6か月÷12か月) |
| 未提供分の合計(前受料金の残高) | 600万円(3万円×200件) |
| 仮に20件が返金を求めた場合 | 60万円(3万円×20件) |
月払いの契約は、この計算に入れていません。請求の時期(前払いか後払いか)で扱いが変わるため、契約ごとに確認が必要です。
この600万円の動かし方は、本記事の整理では3つに分かれます。
| 進め方 | 内容 | 決めること |
|---|---|---|
| 買い手が提供を引き受ける | 買い手が残りの期間のサービスを提供する。入金は売り手が受けているので、買い手は新たな入金なしで提供する | 残高分を譲渡対価から差し引くか、資金を買い手に渡すか。契約負債の残高と契約別の未提供分が合っているか |
| 売り手が残りの期間を提供する | 契約は移さず、期間が終わるまで売り手が提供する。買い手は更新から新しい契約にする | 移行期間中の運用を誰が担うか。売り手の法人が続くか |
| 利用者に返金して、買い手と契約し直す | 未提供分を返し、買い手が新規に契約する | 返金の資金。返金を受けた利用者が買い手と再契約するかは分からない |
契約は移さず、提供の義務だけを買い手が引き受ける場合の法的な形は、債務引受です(契約ごと移すなら、前述の契約上の地位の移転になります)。免責的債務引受(引受人が同じ内容の債務を負い、債務者は免れる)は、債権者(利用者)と引受人の契約によってでき、債権者が債務者にその契約をした旨を通知した時に効力が生じます。債務者と引受人の契約によるなら、債権者の承諾が必要です(民法第472条)。併存的債務引受(引受人が債務者と連帯して同じ債務を負う)にも、同じように債権者の承諾が要る形があります(第470条)。どちらの形にするかで売り手に責任が残るかが変わるため、弁護士に確認してください。
債務を引き受けないと決めても、買い手が売り手の債務を弁済する責任を負う場面があります。会社法第22条は、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うと定めています。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社の本店の所在地で責任を負わない旨を登記した場合は、この責任は生じません。譲受会社と譲渡会社が遅滞なく第三者にその旨を通知した場合も、通知を受けた第三者に対しては同じです。条文が定めるのは商号の続用です。サービス名を続ける場合の扱いや、利用者への見え方と法的な責任の線引きは、個別に確認が必要なので、事前に弁護士へ相談してください。
SLA・返金・障害対応は、書面にある約束と、書かずに続けてきた約束を分けて引き継ぐ
結論: 買い手が引き継ぐのは、契約書に書かれた約束だけではありません。実績と、個別に口頭やメールで約束した対応を、先に一覧にします。
IPAの追補版は、SaaS/ASPが自社の財務データや顧客データをサービス提供者に預けることになるため、利用者とサービス提供者の間でサービスレベルの取り決めが重要だとしています(経済産業省の「SaaS向けSLAガイドライン」の指摘を引用)。同追補版が載せるサービスレベル項目の例には、次のようなものがあります。
| 項目 | 内容(追補版の記載) | 引き継ぐときの確認 |
|---|---|---|
| サービス時間 | サービスを提供する時間帯(計画停止時間の記述を含む) | 契約書の記載と、実際の運用が合っているか |
| 計画停止予定通知 | 定期的な保守停止の事前連絡(タイミングと方法) | 約束した通知を、直近で実際に出してきたか |
| サービス稼働率 | (計画サービス時間−停止時間)÷計画サービス時間 | 契約書の数値と、過去の実績の両方 |
| ディザスタリカバリ | 災害時のシステム復旧・サポート体制 | バックアップの保管場所と復旧の手順が文書にあるか |
設定値は、業務の重大性に応じて個別に決めるものと追補版は説明しています。SaaSの利用規約や契約書で稼働率や返金の条件がどう書かれているかは、会社ごとに違うため、本記事では数値を示しません。
次の3つに分けて棚卸しすると、引き継ぎ漏れが減ります。ここは本記事の整理です。
| 区分 | 例 | 引き継ぐときの扱い |
|---|---|---|
| 契約書・規約に書いた約束 | 稼働率の目標、障害時の連絡、返金やサービス提供の停止に関する条項 | 契約上の地位とあわせて引き継ぐ。条項どおりに運用できる体制かを確かめる |
| 個別の契約・覚書の約束 | 専用環境、個別の値引き、個別のSLA | 契約ごとに承諾を取る際に、内容を買い手が把握しているか確認する |
| 書面にない約束 | 障害のときに返金やクレジットで対応した前例、担当者が口頭で約束した対応 | 一覧にして、買い手が続けるか、続けないと利用者に伝えるかを決める |
引き継ぐ前に起きた障害に対する利用者からの請求を、誰が負担するかは、譲渡契約で決めておくことが必要です。過去12か月の障害の記録(発生日・時間・影響した利用者・対応の内容)を売り手が出せる状態にしておくと、買い手が何を引き継ぐかを判断できます。
決済代行・クラウド・APIの契約は、利用者契約とは別に、名義と請求先の付け替えを計画する
結論: 利用者契約を移しても、裏で動く外部の契約が売り手の名義のままなら、サービスは続きません。契約ごとに、移せるか、新しく結ぶかを分けます。
ガイドラインは、事業譲渡の場合の引継ぎ作業として、売掛金の振込先口座の変更と、クロージング後の売掛金の入金・買掛金の出金の清算を挙げています。リース契約・賃貸借契約・金銭消費貸借契約などの名義変更については、COC条項がある場合に事前の協議や交渉が必要になることがあると注意しています。ガイドラインが挙げるのはこれらで、SaaSの決済代行・クラウド・APIの契約そのものについての記述はありません。個々の契約は、契約書・規約で確認が必要です。
| 契約 | 確認すること | 本記事の整理 |
|---|---|---|
| 決済代行・課金の仕組み | 契約の名義、譲渡や名義変更の可否、利用者の決済情報を移せるか | 移せるかは事業者の規約による。個別に確認が必要。入金先の口座も変わる |
| クラウド(サーバー・データベース) | アカウントの名義、請求先、データのバックアップと移し方 | 名義をそろえるか、買い手のアカウントに構築し直すか。費用と期間を比べる |
| 外部API・ライブラリ・ツール | 利用規約の譲渡制限、キーの発行名義、ライセンス | 再取得や再契約が要るものを一覧にする |
| ドメイン・メール配信 | 登録名義、認証の設定 | 切り替えの順番を決める |
ソースコードや使っている外部のライセンス、インフラの構成を調べる方法は、SaaS 買収 技術DDで扱います。ここでは、契約の名義と請求先の付け替えを、利用者契約の承諾と同じスケジュールの表に載せることが要点です。
利用者の個人情報は、承継前の利用目的の範囲で引き継げる。範囲を超えて使うなら事前に同意を取り直す
結論: 事業譲渡で個人データが買い手に渡ること自体は、第三者提供の同意の対象外です。ただし、買い手が使えるのは、承継前の利用目的の範囲までです。
個人情報保護法第27条第5項第2号は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合、提供を受ける者は第三者に該当しないと定めています。第18条第2項は、事業の承継に伴って個人情報を取得した場合、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないとしています。個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(3-1-4)も、承継前の利用目的の範囲内であれば目的外利用にあたらず、範囲を超えて取り扱う場合は事前の同意が必要としています。
SaaSでは、利用者の登録情報、利用ログ、決済関連の情報が混ざっています。これらの区分と、承継後に使い道を変えるときの手順は、Webサービス 売却 個人情報で詳しく扱っています。本記事の整理では、利用者契約の承諾を取る連絡と、個人データの引き継ぎは、別の手続として進めます。
移行計画は、承諾→前受料金→SLA→外部契約→利用者への通知の順に、クロージング前から組む
結論: 利用者契約の承諾も、前受料金の資金の動きも、外部契約の付け替えも、時間がかかります。契約の棚卸しは、最終契約の前に終えておきます。
ガイドラインは、クロージング後の引継ぎ等の作業に3か月〜1年程度の時間を要することが多いが、個別のケースにより異なるとしています。次のように、時期ごとに分けると進めやすくなります。時期の区切りは本記事の整理です。
| 時期 | やること | 出すもの |
|---|---|---|
| 最終契約の前 | 利用者契約・規約・外部契約の棚卸し。承諾が要る契約の分類。前受料金の契約別の残高。SLAの実績と、書面にない約束の一覧 | 契約一覧、前受料金の残高表、障害の記録 |
| 最終契約〜クロージング | 承諾を取る契約への連絡。前受料金の扱い(引受・提供・返金)の合意。決済代行・クラウドの名義変更の手続 | 承諾の記録、前受料金の資金の動きの取り決め |
| クロージング後 | 利用者への通知。請求先・問い合わせ窓口の切り替え。承諾が取れなかった契約への対応 | 通知文、切り替えの記録 |
承諾が取れなかった契約がある場合は、その契約の継続売上と前受料金を別に管理し、期間が終わるまで売り手が提供を続けるのか、解約を受け付けるのかを決めておきます。
自社の場合を確認する 契約の棚卸しの前に、自社の事業の価値の見え方を確かめたいとき → 事業価値を確認する
まとめ
- 株式譲渡は契約の当事者が変わらず、事業譲渡は契約上の地位の移転に利用者の承諾が要ります(民法第539条の2)。規約で足りるかは、条項ごとに専門家へ確認します。
- 前受料金は、未提供のサービスを提供する義務です。契約別の残高を出し、買い手が引き受けるか、売り手が提供するか、返金するかを、資金の動かし方と一緒に決めます。
- SLA・返金・障害対応は書面にある約束と書面にない約束を分けて、決済代行・クラウド・APIの契約は名義と請求先の付け替えを計画します。個別の法律・税務の判断は、弁護士・税理士に確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. SaaSを事業譲渡で売ると、利用者との契約は自動で買い手に移りますか? A. 自動では移りません。民法第539条の2は、契約の当事者の一方が第三者と契約上の地位を譲渡する合意をし、相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位が第三者に移転すると定めています。利用者が相手方なので、売り手と買い手の合意だけでなく、利用者の承諾が条件になります。規約に地位の移転を定めた条項がある場合の扱いは、条項ごとに弁護士へ確認してください。
Q2. 株式譲渡なら、利用者との契約はそのまま続きますか? A. 株式譲渡は、中小M&Aガイドライン(第3版)によると、譲り渡し側の法人格に変動がない手法です。そのため、利用者との契約の当事者は売り手の法人のまま変わりません。ただし、株主の異動や支配権の変動で相手方に解除権が生じるチェンジ・オブ・コントロール条項が契約にあれば、その契約は個別に確認が必要です。
Q3. 利用規約に「事業譲渡の場合は契約上の地位を移転できる」とあれば、利用者の承諾は不要ですか? A. 条項ごとの判断になり、本記事では結論を示しません。民法は、定型約款について、合意があったとみなす場合(第548条の2)と、準備者が変更できる場合(第548条の4)を定めています。規約の条項が地位の移転にどう働くかは、条項の文言と利用者の種類によって変わるため、弁護士に確認してください。
Q4. 年払いで先にもらった料金は、買い手に引き継ぐ必要がありますか? A. 買い手が利用者へのサービス提供を続けるなら、残りの期間のサービスを提供する義務を、誰が負うかを決める必要があります。会計では、サービスの提供前に受け取った対価は契約負債として計上されます(企業会計基準第29号 第11項、第78項)。本記事の整理では、契約別の未提供分を出し、買い手の引受・売り手の提供・利用者への返金のどれにするかを、資金の動かし方とあわせて合意します。
Q5. SLAを満たせなかったとき、返金はどう決まりますか? A. 契約書や利用規約にどう書かれているかで決まります。IPAの追補版は、稼働率などのサービスレベル項目の例を示していますが、設定値や未達のときの扱いは個別の契約で決めるものです。返金やクレジットの条件に相場を示す資料は確認できていないため、数値は示しません。引き継ぐ前に、規約・個別契約・過去の対応の前例を一覧にします。
Q6. 決済代行やクラウドの契約も、事業譲渡で買い手に移せますか? A. 契約ごとの規約によるため、個別に確認が必要です。中小M&Aガイドラインは、事業譲渡の引継ぎ作業として売掛金の振込先口座の変更などを挙げていますが、SaaSの決済代行・クラウド・APIの契約そのものには触れていません。名義変更ができるか、新規契約が要るかを、事業者の規約と窓口で確かめます。
Q7. 利用者の個人情報は、事業譲渡で買い手に渡してよいですか? A. 事業の承継に伴って個人データが提供される場合、提供を受ける者は第三者提供の規制の適用上、第三者に該当しません(個人情報保護法第27条第5項第2号)。ただし、買い手が使えるのは承継前の利用目的の範囲までで、超えて使うには事前に本人の同意が必要です(同法第18条第2項)。個別の判断は弁護士に確認してください。
出典
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月) https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
- 「民法」(明治二十九年法律第八十九号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 「会社法」(平成十七年法律第八十六号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 「個人情報の保護に関する法律」(平成十五年法律第五十七号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」 https://www.ipa.go.jp/digital/model/model20201222.html
- 同 情報システム・モデル取引・契約書(パッケージ、SaaS/ASP活用、保守・運用)<第二版追補版> https://www.ipa.go.jp/digital/model/ug65p90000001ljh-att/000087452.docx
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準」 https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_36.pdf
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報保護委員会「このたび他社の事業を承継することとなり、これに伴って当該他社が保有していた個人情報も譲り受けることになりました。当社は、当該他社が保有していた個人情報を自社サービスに利用することができますか。」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q2-10/