SNSメディア買収DD

SNSメディア事業を買収する前に確認すること|収益・権利・運営体制のDD

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 買収対象を、アカウントの利用権限・収益契約・制作物・運営体制に分ける
  3. アカウントの名義・権限・利用条件は、画面を一緒に開いて確かめる
  4. 収益は源泉ごとに分け、契約の相手方・入金先・承継の可否を資料で確かめる
  5. 投稿・動画の著作権、出演者の肖像、素材の使用許諾は、契約書で帰属と範囲を確かめる
  6. 運営者が変わると、プラットフォームの判断と人の離脱の両方が収益に響く
  7. DDの結果は、表明保証・クロージング条件・価格・見送りに振り分ける
  8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)
  10. 出典

「フォロワーが多く、PR案件の収益もある」。SNSメディアの売却話では、まずこの説明を聞きます。買い手が知りたいのは、その収益が買収後も続くのか、続かないなら何が原因になりうるのか、です。この記事は、SNS事業を買う前に求める資料と、契約前に確かめる主なリスクを、チェックリストと判断表にまとめます。アカウントの売買方法や各媒体の規約の解説はしません。

この記事の結論

  • 買収対象を、アカウントの利用権限・収益契約・制作物・運営体制に分けます。 アカウントも取引の対象になりえますが、それだけで価値が移るわけではありません。分けた一つずつについて「移るのか、残るのか」を確かめます。
  • アカウントの価値は、名義・権限・プラットフォームの規約で決まります。 規約で移転が認められていない、または確認できないものは、買収後も同じ状態で続く前提にしません。
  • DDで見つかった問題は、表明保証・クロージング条件・価格・見送りに振り分けます。 資料を揃えること自体が目的ではありません。

この記事の対象:SNSメディア(運営者や出演者の顔が見えるアカウント、テーマ特化の発信アカウントなど)を、事業として買収しようとしている方。売り手として、買い手に何を問われるかを知りたい方にも使えます。

SNSメディア事業のM&A全体の判断は、SNSメディア事業のM&A DATAにまとめています。この記事は、そのうち買収前のDD(デューデリジェンス)だけを扱います。アカウント売買の方法や規約の解説は、SNSアカウント販売・売買完全ガイドに任せます。

買収対象を、アカウントの利用権限・収益契約・制作物・運営体制に分ける

結論: 最初にやるのは、買収対象を分けることです。アカウントの利用権限も対象の一つですが、収益契約・制作物・運営体制は、それぞれ別の条件で移るかどうかが決まります。分けないままDDを始めると、資料は集まっても、何が移って何が残るのかが決まりません。

本記事の整理では、SNSメディアの買収対象は次のように分けられます。

取得するもの 中身の例 確認の中心
アカウントの利用権限 登録メール・電話番号、二段階認証、管理者権限、連携する広告・収益化アカウント 名義と権限、規約上の扱い
収益の元になる契約 PR・スポンサー契約、アフィリエイトの提携、プラットフォームからの分配、物販 契約の相手方、承継の可否、入金先
投稿・動画・素材 過去の投稿、動画の元データ、画像、音源、台本 著作権・肖像・使用許諾
人との契約 出演者、編集者、ライター、運営代行 業務内容、権利の帰属、継続の意思
顧客との接点 DM、問い合わせ、プレゼント企画の応募者リスト、メールマガジン 個人データの扱い
運営のしくみ 投稿のルール、外部ツール、連携サイトやドメイン 誰が持っているか、移せるか
負債・義務 未払いの制作費、返金対応、広告主への納品の残り 引き受ける範囲

取引の形でも、移るものが変わります。本記事の整理として、次のように考えます。

取引の形 契約の当事者 DDで特に見る点
株式譲渡(会社ごと買う) 会社が変わらない アカウントの名義が会社か、売り手個人か。会社に入っていない収益・資産はないか。契約に支配権の変更時の通知や解除の条項がないか
事業譲渡(事業の一部を個別に買う) 譲渡する契約を個別に指定する どの契約・資産を対象にするか。契約は相手方の承諾が要る(後述)。引き受けない負債の線引き

SNSアカウントが、売り手個人や出演者個人の名義のまま運営されている場合があります。会社を買ったのにアカウントは会社に入っていない、という事態は、名義の確認で防げます。

アカウントの名義・権限・利用条件は、画面を一緒に開いて確かめる

結論: 本記事の整理では、アカウントを、買い手が所有する財産ではなく、プラットフォームの規約のもとで使う権限として扱います。名義、権限、規約上の扱いを先に確かめ、規約で認められていない移転は価値の前提にしません。

法令上どう評価されるかと、プラットフォームの規約で許されているかは、別の問題です。この記事は、公式の規約とヘルプで確認できた範囲だけを書き、法令上の適法性は個別に弁護士へ確認する前提で進めます。規約に反する移転を実現する手順は、扱いません。

確認日(2026-10-23)時点で、公式ページを読んで確認できた内容は次のとおりです。どの地域の利用者向けの規約か、どこまで確認できたかを分けて書きます。

媒体・資料 どの利用者向けか 公式ページで確認できたこと 確認できていないこと
X「利用規約」(日本語版。発効日 2026年10月9日) EU・EFTA加盟国・英国以外に住む利用者(米国を含む) 本サービスを利用するためのライセンスは譲渡不能で、Xの明示的な書面による同意なしに他の個人・団体へ譲渡・贈与・販売・共有その他の方法で移転できない、とある アカウントの移転そのものを扱う条項は見当たらず、この条項だけでは可否を読み切れない
Instagram「利用規約」(日本語ページ。提供者 Meta Platforms, Inc.) ページ上で対象地域の明示はない 禁止事項に「自身のアカウント(ユーザー名を含む)のいずれかの部分を売買または譲渡しようとする試み」がある。利用者は Meta の同意なく規約上の権利・義務を譲渡できない、ともある ページに改定日の表示がなく、日本の利用者に適用される現行の版であることまでは確認できていない。アカウント譲渡の可否についての現行の適用規約は未確認として扱う
Meta「共有アクセス利用規約」(Instagram。2025年5月13日更新版) Instagram の共有アクセスの利用者 所有者が受任者に、所有者に代わって活動するためのアクセス権を付与でき、いつでも取り消せる。受任者の活動の最終的な責任は所有者が負う。共有アカウントで作成・投稿されたコンテンツの所有権は、適用される知的財産法で禁じられている場合を除き所有者に帰属する アカウントの所有権を移すことについては書かれていない。運営を任せる仕組みであって、所有権を移せる根拠にはならない
TikTok「サービス規約」(「その他の地域」向け) 日本語版(最終更新日 2020年2月)には日本向けの補足条項(東京地方裁判所の専属管轄など)がある。同じ地域向けの英語版(2025年12月1日最終更新)は、米国・EEA・英国・スイス・インド以外の利用者向けで、補足条項の一覧に日本はない どちらの版も、パスワードを他者に開示しないこと、アカウントで生じたことに利用者が単独で責任を負うこと、規約違反などの場合に TikTok がアカウントを無効にできることを定めている 日本の利用者に適用される現行の版がどちらかは確定できていない。どちらの版にも、アカウントの譲渡そのものを扱う条項は見当たらない
YouTube ヘルプ(ブランド アカウントのチャンネル所有者・管理者の変更) ヘルプ(地域の限定なし) ブランド アカウントにリンクされたチャンネルは、権限の設定でメインの所有者を変えられる。そのためには所有者になってから7日以上たっている必要がある。リンクされていないチャンネルは、管理者は変更できても所有者は変更できない。メインのオーナー アカウントを削除すると、チャンネルも削除される 所有者を変えたあとに収益化がどう扱われるか

この表からDDに使える点は3つです。

  • 媒体ごとに、仕組みも規約の文言も、確認できた範囲も違います。 YouTube のようにプラットフォームが所有者の変更の仕組みを用意している媒体もあれば、X や Instagram のように、同意のない移転や譲渡の試みを制限する文言がある媒体もあります。同じ「SNSアカウント」でも、一括りにして判断しません。
  • 「運営を任せる」ことと「アカウントを移す」ことは別です。 Instagram の共有アクセスは、所有者が受任者に活動を任せる仕組みで、所有者の責任は残ります。所有権を移すための規約ではありません。外注の運用者がいるメディアでは、誰が所有者で、誰が受任者なのかを確かめます。
  • 日本の利用者に適用される規約を確定できないものは、確定できないものとして扱います。 米国向けなど別の地域向けの規約を、日本の利用者に当てはめません。買収の候補が使う媒体の規約は、その日付の公式ページを自分で開いて確かめ、承継できるかを確定できない部分は、価格と契約条件の側で受け止めます。

確認する項目と、見立ては次のとおりです。

確認する点 確かめ方 見立て
アカウントの名義 売り手の画面で、プロフィール・ビジネスの設定を一緒に開く 売り手個人や出演者個人の名義なら、会社の資産に入っていない。その人との合意が別に要る
登録メール・電話・二段階認証 誰のメール・端末に紐づいているかを聞き、画面で確かめる 売り手が個人のメール・端末を握ったままなら、権限を渡した後も影響が残る
管理者・共有アクセスの一覧 管理者、受任者、外注の運用者の一覧 買収後に権限を外すべき人と、残す人を決める
連携する広告・収益化のアカウント 広告アカウント、ビジネス管理ツール、収益化の連携先 収益の入金先が、誰の名義の口座・アカウントか
警告・制限・停止の履歴 売り手の画面の通知やステータスの表示 過去に制限がある場合、同じ原因で再発しうるかを運用の実態から確かめる
ユーザー名の変更履歴 売り手の説明と、投稿やリンクの履歴 外部サイトや広告主の資料に、旧名が残っていないか
避けたい判断 こうすればOK
売り手の「アカウントは自分の名義で、問題なく渡せる」という説明をそのまま前提にする 画面で名義・権限・連携を確かめ、規約上の扱いを買収の対象媒体ごとに公式ページで確かめる
他の媒体で移せたから、今回も移せると見る 媒体ごとに規約と仕組みが違う前提で、一つずつ確かめる
規約で認められるか分からないまま、アカウントの価値を価格の中心に置く 認められない、または確認できないアカウントの価値は、前提から外した場合の価格も並べて試算する

収益は源泉ごとに分け、契約の相手方・入金先・承継の可否を資料で確かめる

結論: 「月の収益」という一つの数字では、買収後に何が残るか分かりません。収益を源泉ごとに分け、契約の相手方と入金先を資料で確かめます。収益源ごとの承継の詳しい整理は、SNSメディアの収益承継に譲ります。

DDでは、収益を次のように並べます。

収益源 求める資料 見る点
PR・スポンサー契約 契約書、発注書、請求書、広告主とのやり取り 契約の相手方(会社か運営者個人か)、契約期間、独占条項、解除条項、承継の条件
アフィリエイト 提携先の契約と規約、月次の成果レポート 提携が誰の名義か。名義変更や買い手の審査が要るか
プラットフォームからの分配・収益化 収益化の条件を満たしている画面、入金明細 収益化の条件と、停止されていないか
物販・自社サービス 売上台帳、仕入・在庫、返品・クレーム 運営者個人の信用で売れていないか

収益の資料では、次の3点を必ず突き合わせます。

  • 売上の入金先: 会社の口座か、運営者個人の口座か。個人の口座に入っているなら、会社の帳簿の売上と合っているか。
  • 契約の相手方: 契約書の当事者が、売却の対象になる主体か。
  • 広告の表示: 過去のPR投稿が、広告であることを分かるように表示されているか。消費者庁は、令和5年10月1日から、広告であることを隠すいわゆるステルスマーケティングが景品表示法違反になると案内しています。規制されるのは商品・サービスを供給する事業者(広告主)で、依頼を受けた第三者は規制対象になりません。売り手のPR案件で、広告主がどう表示を指示していたかを契約書とやり取りで確かめ、責任の所在は弁護士に確認します。

契約が買収後も続くかは、契約ごとに違います。民法第539条の2は、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位がその第三者に移転すると定めています。事業譲渡で契約を移すなら、広告主やアフィリエイト提携先の承諾が前提になります。 株式譲渡では契約の当事者(会社)は変わりませんが、本記事の整理として、支配権が変わるときに通知や解除を求める条項がないかを契約書で確かめます。

次は仮の数字での試算です。実際のメディアの価格や、契約が承継される確率を示すものではありません。

仮の前提:月の売上200万円(PR・スポンサー90万円、プラットフォームの分配50万円、アフィリエイト40万円、物販20万円)、費用120万円(出演者・編集者への支払い、外注費、ツール費など。売上が減っても同じだけかかると置く)、月の利益80万円。PR・スポンサーの契約は、広告主の承諾が取れた分だけ引き継げると置きます。

広告主の承諾が得られる割合 PR・スポンサーの売上 月の売上 月の利益 現在の利益との差
100%(全社が承諾) 90万円 200万円 80万円 -
50%(半分が承諾) 45万円 155万円 35万円 約56%減
0%(全社が承諾せず) 0円 110万円 −10万円 赤字

この前提では、PR・スポンサー収益の半分を失うだけで、利益は半分以下になります。費用が変わらないためです。売り手に、広告主ごとの契約の状況と、承諾を取れる見込みを、契約前に求める理由がここにあります。

投稿・動画の著作権、出演者の肖像、素材の使用許諾は、契約書で帰属と範囲を確かめる

結論: 事業を買っても、投稿や動画の権利が自動的に買い手に移るとは限りません。誰が作り、どの契約で、どこまで使えるかを、一覧にして確かめます。

著作権法の条文から、DDに使える点を整理します。

条文 内容 DDで確かめること
第15条(職務上作成する著作物の著作者) 法人等の発意に基づき業務に従事する者が職務上作成し、法人等が自己の著作の名義で公表する著作物の著作者は、契約や勤務規則に別段の定めがない限り、法人等 運営会社の社員が作った投稿・動画か、契約や就業規則の定めはどうか
第61条第1項 著作権は、全部または一部を譲渡できる 外注の制作者から運営側に、権利が譲渡されているか
第61条第2項 著作権を譲渡する契約で、第27条(翻訳・翻案など)または第28条(二次的著作物の利用)の権利が特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定 譲渡契約に、翻案・二次利用の権利が書かれているか
第59条 著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡できない 買収後の編集や、制作者名の表示を省く運用に支障がないか。契約で人格権の扱いを定めているか

DD対象の資産ごとに、確認する点は次のとおりです。

対象 確認する点 契約書にないとき
外注した動画・画像・文章 発注書や契約書での権利の帰属、翻案や二次利用の特掲、人格権の扱い 買収後の再編集・再利用が制約される可能性がある。制作者との追加合意を条件にする
出演者の顔・声・名前 出演の契約、使用できる媒体と期間、撮影済みの素材を買収後も使えるか 出演者が離れたあとも過去素材を使えるか分からない。使用許諾の範囲を確認する
音源・素材・フォント 使った音源・素材の利用規約や許諾の範囲 運営主体が変わったときに、同じ許諾で使い続けられるか分からない
他者の投稿・動画の引用や転載 引用の態様、許諾の有無 権利侵害の指摘を受ける可能性がある。過去の削除依頼や指摘の履歴を確認する

肖像・パブリシティに関する権利は、出演者との契約で許諾の範囲と期間がどう書かれているかが中心になります。本記事は、これらの権利の法的な性質の詳細までは確認していません。出演者・制作者との契約書の読み方は、弁護士に確認してください。

音源については、本記事の整理として、過去の動画で使った音源が、どの規約・許諾のもとで使われていたかを確かめておきます。媒体によっては、個人の利用と商用の利用で音源の規約を分けていることがあり、運営主体が個人から法人に変わると、同じ条件で使い続けられるか分からなくなるためです。どの音源規約が適用されるかは、媒体ごとに、日本の利用者向けの公式ページで確かめてください。

なお、DM、問い合わせ、応募者リストなどの個人データは、別の扱いが要ります。個人情報保護法第27条第5項第2号は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合は、第三者提供の制限の対象となる「第三者」に該当しないとしています。どの取引の形がこれに当たるか、取得時の利用目的の範囲で使い続けられるかは、事案ごとに確認が必要です。

運営者が変わると、プラットフォームの判断と人の離脱の両方が収益に響く

結論: プラットフォームは、規約にもとづいてアカウントの停止・制限や収益化の無効化を行う立場にあります。収益がどの媒体にどれだけ依存しているかと、止められたときに何が残るかを、先に試算します。

プラットフォームの規約には、停止や制限の権限が書かれています。たとえば TikTok の「その他の地域」向けサービス規約は、日本語版(最終更新日 2020年2月)・英語版(2025年12月1日最終更新)とも、利用者が規約に違反した場合などに、いつでもアカウントを無効にできると定めています。X の利用規約(日本語版、発効日 2026年10月9日)も、規約やルールへの違反、長期にわたる不活動などを理由に、アカウントの凍結・削除やユーザー名の返還を求めることができるとしています。収益化の側にも条件があります。例として YouTube パートナー プログラムのヘルプは、有効なコミュニティ ガイドラインの違反警告がないこと、2段階認証プロセスの使用、YouTube 向け AdSense アカウントのリンクなどを前提条件とし、申し込み後に自動システムと審査担当者による審査(通常は1か月程度)があると説明しています。また、動画のアップロードや投稿が6か月以上行われていないチャンネルは、収益化が無効になる場合があるとしています。

つまり、運営者が変わる前後で、次の点が変わりうると考えます。

  • 収益化の条件や審査が、運営者の変更で見直されるかどうかは、今回確認した公式ページには書かれていません。個別に確認が必要です。
  • 運営の空白期間(引き継ぎ中の投稿停止)が長いと、収益化や露出に影響する可能性があります。引き継ぎ期間中の投稿を、誰がどう続けるかを決めておきます。
  • 出演者や制作者が離れる場合の影響は、SNSメディアの属人性で別に扱います。

依存度は、次の表を売り手に埋めてもらうと見えます。

確認する点 例 見立て
収益のプラットフォーム別の割合 1つの媒体が収益の大半 その媒体の停止・規約変更が、そのまま収益に出る
流入の媒体別の割合 他媒体や自社サイトへの流入がほとんどない 止められたときの代わりの流入がない
自社サイト・メール・LINE などの直接の接点 登録者数、開封率 プラットフォーム外に持てる接点があるか。個人データの扱いは別に確認する
フォロワーの質 反応、閲覧の実態 フォロワー・エンゲージメントのDDで別に確認する

停止や制限が起きたときの試算も、買い手側で持っておきます。前節の仮の前提(月の利益80万円、費用120万円)で、主要な媒体のアカウントが使えなくなり、その媒体に頼るプラットフォーム分配50万円とアフィリエイト40万円が止まるとすれば、売上は110万円まで下がり、費用120万円に届きません。この計算は仮の数字ですが、「媒体が止まったとき、費用を払い続けられるか」を価格の前に確かめる目的で使えます。

DDの結果は、表明保証・クロージング条件・価格・見送りに振り分ける

結論: 資料を集めて終わりにせず、見つかった問題を、契約で受けるのか、価格で受けるのか、受けられないのかに振り分けます。

次の表は、本記事の整理としてのチェックリストです。上から順に、売り手に求める資料、見る点、契約条件への落とし方を並べています。

分類 求める資料・確認 赤信号の例 契約・価格での受け方
名義・権限 画面共有でプロフィール・管理者・連携を確認 売り手や出演者の個人名義のまま。権限が売り手1人に集中 名義の整理をクロージング条件にする。権限の移行手順を契約前に決める
規約上の扱い 買収対象の媒体の公式規約・ヘルプ(確認日付き) 移転が認められていない、または確認できない 移転できる資産とできない資産を分けて価格を考える。確認できないまま価値の中心に置かない
警告・制限の履歴 売り手の画面の通知、過去の警告 繰り返しの警告、収益化の停止歴 表明保証で「開示した以外に警告・制限はない」とする
収益の内訳 月次の収益を源泉別に、入金明細付きで 内訳が出せない。入金先が個人 内訳を出せない収益は価格の前提から外す。入金先の整理を条件にする
主要契約 PR・スポンサー・アフィリエイトの契約書、承継の可否 相手方の承諾が取れない。解除・支配権変更の条項 主要契約の承諾をクロージング条件にする。承諾が取れない分は価格から除く
広告の表示 PR投稿の表示と、広告主からの指示 広告であることが分かりにくい投稿が多い 過去の投稿の責任の扱いを契約で決める。弁護士に確認する
著作権・素材 外注契約、出演契約、音源・素材の許諾 権利の帰属が書かれていない。許諾の範囲が不明 制作者・出演者との追加合意をクロージング条件にする
人との契約 出演者・制作者との契約、継続の意思 売り手や出演者が離れる予定 売り手の運営協力期間を契約に入れる。出演者との契約を条件にする
個人データ 保有する個人データの種類と、取得時の利用目的 利用目的の範囲を超えた使い方 引き継ぐ範囲を限定する。弁護士に確認する
プラットフォーム依存 収益・流入の媒体別の割合 1つの媒体に収益の大半が集中 停止時の試算を価格に反映。分割払いなどで払いを分ける
負債・義務 未払い、返金、納品の残り 把握していない負債 引き受ける範囲を契約で限定。補償の条項

契約条件の受け皿は、次の4つが主な選択肢です。どの条件を入れるかは個別の事情で変わるため、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

受け皿 向く問題 注意
表明保証 売り手が事実を知っているはずの事項(警告の履歴、契約の有無) 資料で確かめられるものは資料で確かめる。保証があっても、実際に損害が出たときの対応は別に決める
クロージング条件 権限の移行、主要契約の承諾、出演者との合意など、取引の前提になること 条件が満たされなければ取引を進めない設計。期限を決める
価格・支払いの設計 収益が続くかどうかの不確実性 分割払いや一部後払いは、後払い分の条件を明確にする
売り手の運営協力 運営ノウハウ、出演者・広告主との関係の引き継ぎ 期間と範囲を決める。協力が止まったときの扱いも決める

解消できない問題が主要な収益の根拠に触れている場合は、見送りも正当な判断です。 たとえば、規約で認められないアカウントの収益が価格の中心にあり、他の資産に置き換えられないときです。DDで見つかったことを、買い手の側で価格に反映できないなら、そこで止めます。

まとめ

  • SNSメディアの買収対象は、アカウントの利用権限・収益の契約・投稿の権利・人との契約・運営のしくみに分けて考えます。アカウントも対象になりえますが、それだけで収益や権利が移るわけではありません。一つずつ移るかどうかを確かめます。
  • アカウントの価値は、名義・権限・各媒体の規約で決まります。法令上の評価と規約上の可否は分けて考え、確認できないものを価値の前提にしません。
  • DDの結果は、表明保証・クロージング条件・価格・見送りに振り分けます。判断が要る箇所は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. SNSメディア事業を買収するとき、DDでまず何を確認しますか? A. 取得するものを分けることから始めます。アカウントの利用権限、収益の元になる契約、投稿や動画の権利、出演者・制作者との契約、運営に使っている外部ツールやデータです。そのうえで、名義と権限、収益の入金先と契約の相手方、権利の帰属を、資料と画面で確かめます。

Q2. アカウントの名義や権限は、DDでどう確認しますか? A. 売り手の管理画面を一緒に開き、登録メールと電話番号の持ち主、二段階認証の端末、管理者や共有アクセスの一覧、連携している広告・収益化のアカウントを確かめます。出演者個人の名義になっている場合は、その人との合意も資料に含めます。確認の順番と権限の渡し方は、各媒体の公式ヘルプの手順に沿って契約前に決めます。

Q3. プラットフォームの規約でアカウントの移転が認められていない場合、どう考えますか? A. 法令上どう評価されるかと、規約上許されているかは別の問題です。規約で認められていない、または認められているか確認できない移転は、買収後も同じ状態で続くことを前提にしません。その場合は、移転できる資産(コンテンツ、契約、制作体制など)と、移転できないかもしれない資産を分けて価格と条件を考えます。規約に反する移転を実現する手順は、本記事では扱いません。個別の判断は弁護士に確認してください。

Q4. PRやスポンサー契約は、買収後も続きますか? A. 契約ごとに異なります。民法は、契約上の地位を第三者に譲る場合に、契約の相手方が承諾したときに移転すると定めています。事業譲渡で契約を移すなら、相手方の承諾が要ります。株式譲渡では契約の当事者が変わらない一方、支配権の変更時に通知や解除を求める条項がないかを、本記事の整理として契約書で確かめます。

Q5. 投稿や動画の著作権は、事業を買えば自動的に手に入りますか? A. 自動的には手に入りません。著作権法は、著作権の全部または一部を譲渡できるとしていますが、翻案などに関わる権利は、譲渡契約で特に挙げていないと譲渡した側に残ると推定されます。著作者人格権は譲渡できません。外注の制作者や出演者の作品は、契約書で権利の帰属と、買収後に編集や再利用ができる範囲を確かめます。

Q6. DMや応募者リストなどの個人情報は、買収後に引き継げますか? A. 個人情報保護法は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合を、第三者提供の制限の対象から外しています。ただし、どの取引の形がこれに当たるか、利用目的の範囲が変わらないかは、事案ごとに確認が必要です。引き継ぐ個人データの種類と取得時の利用目的を一覧にして、弁護士に確認します。

Q7. DDで問題が見つかったとき、契約や価格にはどう反映しますか? A. 問題の種類で受け方を分けます。事実が違っていた場合に備える表明保証、権限の移行や主要契約の承諾を取引の前提にするクロージング条件、収益が続くかを見てから払う分割払いなどの価格の決め方、売り手が一定期間運営を手伝う取り決めが主な選択肢です。解消できない問題は、価格で吸収せず見送る判断もあります。どの条件を入れるかは、弁護士や税理士などに確認してください。

出典

確認日はいずれも2026-10-23です。

  • X「利用規約」(日本語版、発効日 2026年10月9日) https://x.com/ja/tos
  • Instagramヘルプセンター「利用規約」(日本語ページ) https://www.facebook.com/help/instagram/581066165581870
  • TikTok「サービス規約」(その他の地域、日本語版、最終更新日 2020年2月) https://www.tiktok.com/legal/page/row/terms-of-service/ja-JP
  • TikTok「Terms of Service」(Other regions、英語版、2025年12月1日最終更新) https://www.tiktok.com/legal/page/row/terms-of-service/en
  • YouTube ヘルプ「ブランド アカウントでチャンネルの所有者と管理者を変更する」 https://support.google.com/youtube/answer/4628007
  • YouTube ヘルプ「YouTube パートナー プログラムの概要と利用資格」 https://support.google.com/youtube/answer/72851
  • Meta 透明性センター「共有アクセス利用規約」(Instagram) https://transparency.meta.com/ja-jp/policies/other-policies/instagram-shared-access/
  • 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing
  • 民法(明治二十九年法律第八十九号)第539条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第15条・第59条・第61条 https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
  • 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第27条 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057

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