この記事の目次
「塗装業は儲かる」とよく言われます。だが決算書を開くと、完成工事高(売上)が大きくても利益率は驚くほど薄い——この食い違いはどこから来るのでしょうか。本記事は職人メディアの体感ベースの年収・儲け話ではなく、一次統計(CIIC「建設業の経営分析」令和6年度。塗装業単独の区分は無いため、塗装工事業を含む職別工事業を代理指標として使います)で塗装業の利益率・年収の実態を検証し、「完成工事高に対する粗利率/営業利益率の目安・元請/下請のmargin差から、買い手はどう買収妙味を測るのか/売り手は財務をどう磨けば高く売れるのか」という財務・M&A目線に翻訳します。相場の算定式(いくらで売れるか)は別記事に譲り、ここでは「利益率の中身=数値の読み方」に絞ってお伝えします。
この記事の結論(先に要点だけ)
- 塗装業の利益率(売上高営業利益率)とは、完成工事高(売上)から工事原価と販管費を引いた後に残る利益の割合です。塗装業だけの官庁統計は無いため、代理指標として塗装工事業を含む職別工事業(CIIC・令和6年度)を見ると0.30%で、建設業全体(1.20%)を下回ります[C-01]。令和4年度の▲0.42%(営業赤字)からは改善しましたが、黒字でもわずかです。自己資本比率も32.22%と建設業5区分で最も低い水準です[C-02]。=統計上は構造的に薄利・低自己資本です。
- 「塗装は利益率20%」等の数字の多くは粗利率(完成工事総利益率=売上総利益率)で、外注費・足場・材料費・販管費を引いた営業利益率(0.30%)とは別物です[C-03]。CIIC(令和6年度)でも職別の粗利率は28.68%もあるのに、営業利益率は0.30%と、粗利と営業段階で大きく落差が開いています。元請か下請かでも margin は変わります[C-08]。
- 社長・経営者や独立・一人親方の年収は、塗装単独の公的な一次統計が乏しく、建設業全体の賃金(賃金構造基本統計調査・令和6年で月額約35.7万円)や塗装を含む職種大括りで近似するしかありません[C-05]。受注・稼働・役員報酬の取り方で幅が大きく、一律の数字では語れません。
- それでも買い手は付きます——完成工事高の大きさや決算の利益率でなく“正常収益力”(社長の役員報酬・私的費用を引き直した実態利益)と、利益率の質・許可・有資格者で評価するからです[C-06][C-07]。
- 次の一手は、「儲かるか」を「いくらで買う価値があるか/どう磨けば高く売れるか」に問い直すこと。まず本文の「【M&A・投資視点】」の節で、決算の利益を正常収益力(役員報酬・私的費用などを引き直した実態利益)に置き直す手順を確かめ、そのうえで事業価値を確認するで、自社の売却価格の目安と価値を左右するポイントを確認してください。
塗装工事業とは — ビジネスモデルと「完成工事高に対する利益率の出方」の基本
利益率の話に入る前に、塗装のビジネスモデル(受注→足場・養生→塗装職人・外注→塗料・材料)と、完成工事高(売上)のどこでコストがかかり、どこに利益が残るのかの基本を押さえておきます。ここを理解しないと、「儲かるのに薄利」という食い違いは解けません。
塗装工事業とは、建築物の外壁や屋根などを塗料で保護・美装する工事を請け負う業種で、請負金額に応じて建設業許可(塗装工事業)を要する許認可ビジネスです。
塗装の原価構造は労働集約型です。完成工事原価の中心は、職人の人件費、下請への外注費、足場・養生の費用、塗料・材料費、運搬費。これらが積み上がるうえ、元請からの値下げ圧も働くため、完成工事高が大きくても営業利益率は薄くなりやすい構造です[C-08]。CIIC(建設業情報管理センター)も建設業を「労働集約型の個別受注型産業であるため…採算性の向上が難しい産業」と指摘しています[C-08]。ここで用語を一つだけ整理しておきます。完成工事高(売上)から材料費・外注費などの完成工事原価を引いたものが「完成工事総利益(粗利)」、そこからさらに販売費及び一般管理費を引いたものが「営業利益」です[C-03]。この二つを混同すると利益率の話は一気にこじれます(詳しくは「塗装業は本当に儲かるのか」)。
ここで前提を一つ。塗装業“単独”の財務や年収を直接出す官庁統計は存在しません。塗装は経済センサスや財務統計では「職別工事業」という区分に含まれて集計され、塗装だけを切り出した財務指標は得られません[C-04]。そこで本記事は、姉妹記事と同じく、財務を「塗装工事業を含む職別工事業」の値を代理指標として、年収を賃金構造基本統計調査(建設業全体・関連職種)で近似し、その都度「塗装単独ではない」と注記します。CIICの分類でも、職別工事業の細目に「…ガラス工事、塗装工事、防水工事、内装仕上工事、建具工事、解体工事」と塗装が明記されており、職別工事業を塗装業の代理指標として使う根拠になります[C-01]。ただし職別工事業には大工・左官・とび・内装仕上・解体なども含まれ、その値は塗装業の平均ではありません。また CIIC の集計対象は、経営事項審査の経営状況分析を申請した建設業専業の法人(大会社を除く)で、個人事業主や経審を受けていない事業者は含まれません。中小の塗装事業者全体を代表するとは限らない点に注意してください[C-01]。
なお、塗装工事は請負金額500万円以上で建設業許可(塗装工事業)が必要で、500万円未満の軽微な工事は許可不要です[C-11](判定は税込・材料費込み、分割合算は不可)。許可なしで軽微工事中心に営む会社も多く、許可の有無は後述する「買い手の見えない資産」の論点にもつながります。
塗装業界の需要動向や将来性の全体像は、外壁塗装業界の将来性・需要動向はこちらで俯瞰しています。本記事(利益率・年収)と併せてご覧ください。
塗装業は本当に儲かるのか — 「粗利率(完成工事総利益率)」と「営業利益率」の落とし穴
「塗装は儲かる・利益率が高い」という体感と、「薄利」という統計。この食い違いの正体は、多くの場合粗利率と営業利益率の取り違えにあります。ここを切り分けるのが本記事の生命線です。
まず言葉の定義から。CIICの定義に依拠すると、売上総利益(粗利=完成工事総利益率)は「売上高から材料費や外注費などの売上原価を控除したもの」、営業利益は「売上高から工事原価、販売費及び一般管理費を差し引いたもの」です[C-03]。つまり営業利益は、粗利からさらに販管費(人件費・一般管理費など)を引いた後の利益です。
CIIC「建設業の経営分析」令和6年度の職別工事業(塗装工事業を含む代理指標)の実数で並べると、その落差がはっきりします。比較のため令和4年度の値も並べます。
| 指標 | 職別工事業(塗装工事業を含む代理指標)令和6年度 | 建設業全体 令和6年度 | 参考:職別工事業 令和4年度 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高総利益率(粗利率) | 28.68% | 26.50% | 27.64% | CIIC R6 図表15[C-03] |
| 売上高営業利益率 | 0.30% | 1.20% | ▲0.42%(営業赤字) | CIIC R6 図表14[C-01] |
| 自己資本比率 | 32.22%(5区分で最低) | 41.67% | 29.79% | CIIC R6 図表25[C-02] |
粗利率は約3割あるのに、営業利益率は0.30%まで落ちます[C-01][C-03]。粗利の段階では3割近く残っているように見えても、販管費・人件費まで引いた営業段階では、令和6年度の職別工事業の平均でわずか0.30%しか残りません(令和4年度は▲0.42%で、平均が営業赤字でした)。業界サイトでよく見る「塗装の利益率20%」等は、この粗利率レンジ(販管費を引く前)を指していることが多く、営業利益率(0.30%)とは別物です。本記事では「利益率20%」を営業利益率として転載しません。
図解F1:塗装業の利益率の読み方(代理指標:塗装工事業を含む職別工事業・令和6年度)。完成工事高(売上)→(−外注費/足場/材料)→ 完成工事総利益=粗利率28.68%(業界サイトの「利益率20%」はここ)→(−販管費/人件費)→ 売上高営業利益率 0.30%(建設業全体は1.20%・令和4年度は▲0.42%)。粗利率とは別物。数値は本文・出典準拠。
元請か下請か — 同じ「塗装」でも立ち位置でmarginは変わる
もう一つ、利益率の幅を生むのが「元請か下請か」という立ち位置です。一般論として、元請は工事全体の粗利を握りやすい一方で、集客・販管費・保証や手直しのリスクを負います。下請は受注が安定しやすい反面、元請からの値下げ圧で margin が薄くなりがちです[C-08]。同じ「塗装」でも、元請比率・下請比率や直需(一般顧客から直接受注)の比率によって、残る利益率は変わってきます。具体的な中間マージン率は案件や商流で大きく幅があるため、本記事では「立ち位置で利益率が変わる」一般構造までを示します。買い手はこの元請/下請比率・直需比率・一社依存を確認します(「買い手の見方と磨き方」で詳述)。
図解F2:同じ塗装でも“立ち位置”で利益率は変わる。元請=工事全体の粗利を握るが経費/保証/集客を負う/下請=安定だが値下げ圧で margin が薄い(具体率は案件で幅)→ 買い手は元請/下請比率・直需比率・一社依存を確認。数値・要素は本文・出典準拠。
ではなぜ薄利なのか。CIIC自身が「個々の取り引きに対する収益性が低くても、多くの工事を受注することで投下資本に対する収益性を保つ戦略(いわゆる薄利多売)」と説明しています[C-08]。塗装では外注費・足場/養生・塗料/材料費・人件費が原価の中心で、元請の値下げ圧と価格競争が営業利益率を押し下げます[C-08]。その帰結が倒産の増加です。塗装を含む職別工事業の倒産は736件(前年比+16.0%)と増えており[C-09]、薄利・低自己資本の構造が表面化しています。
薄利・倒産増のなかで「続ける/畳む/譲る」をどう選ぶか、廃業と売却を手取りで比べる視点は塗装業の廃業と売却どちらが得かで整理しています。
塗装業の利益率・年収の実態 — 一次統計で検証する
ここが本記事の核です。利益率と年収を、出典と「近似・幅」の限界まで含めて正直に検証します。職人メディアが断言する年収・儲け話と、一次データで言える範囲の違いを示します。
利益率の実態 — 営業利益率 0.30%・自己資本比率 32.22%(職別工事業・代理指標・令和6年度)
CIIC「建設業の経営分析」令和6年度によれば、職別工事業(塗装工事業を含む代理指標)の売上高営業利益率は0.30%で、建設業全体(1.20%)を下回ります[C-01]。推移を見ると、令和4年度▲0.42%(営業赤字)→令和5年度▲0.11%→令和6年度0.30%と、平均がようやく黒字に戻った水準です[C-01]。自己資本比率は32.22%で、建設業5区分(土木建築・土木・建築・設備・職別)の中で最も低い水準にあります(全体41.67%)[C-02]。財務余力が薄く、営業利益は黒字でもわずか——統計が示すのは、この薄利の姿です。
繰り返しますが、これは「塗装業の業界平均」ではなく、塗装工事業を含む職別工事業(令和6年度決算)の値で、塗装業を見るための代理指標です[C-01][C-04]。CIIC の集計対象は経営事項審査を受けた法人で、中小の塗装事業者全体を代表するとは限りません。そして前節のとおり、粗利率(完成工事総利益率28.68%)と営業利益率(0.30%)は別物で、粗利では3割近く残るのに営業段階ではほとんど残りません。「利益率20%」と語られる数字の多くは粗利率レンジを指します[C-03]。
元請/下請のmargin差 — 立ち位置で「残る利益率」が変わる(一般論・幅)
「塗装業は本当に儲かるのか」で触れたとおり、同じ塗装でも元請か下請かで残る利益率は変わります。元請は工事全体の粗利を握りやすい反面、集客・販管費・保証や手直しのリスクを負い、下請は受注が安定する反面、元請の値下げ圧で margin が薄くなりがちです[C-08]。買い手はこの元請/下請比率・直需比率・一社依存を確認し、薄い決算の利益率が「商流上やむを得ない薄さ」なのか「改善余地のある薄さ」なのかを見極めます。具体的な中間マージン率は商流・案件で大きく幅があり、一律の数字では語れません。
社長・経営者の年収 — 公的一次が乏しい前提で「幅」を示す
塗装業の社長年収・経営者年収を直接出す公的な一次統計は存在しません[C-04][C-05]。役員報酬は会社規模・利益・節税方針で大きく変動するため、「塗装の社長の年収は◯◯万円」と一律に断定することはできません。求人サイトや民間調査の数字も、出どころが体感ベース(T4)であれば、本記事では「◯◯(媒体)によれば」という参照(attributed)に留め、本サイトの主張として断定転載しません。
独立・一人親方の年収 — Do系の問いへの最小限の回答
独立や一人親方の年収についても同様で、塗装単独の公的統計は乏しく、受注・稼働・外注・経費の取り方で幅が極めて大きくなります。手がかりとして使える公的一次は、建設業全体と関連職種の賃金です。賃金構造基本統計調査 令和6年では、建設業の正社員・正職員(男女計)の月額賃金は約35.7万円(356.5千円)で、産業計(全産業)の約37.2万円(372.3千円)とおおむね近い水準です[C-05]。塗装に近い職種では、「画工,塗装・看板制作従事者」という職種大括り(男女計・企業規模10人以上・産業計)の月額がおおむね約31.3万円(313.4千円・年間賞与は約66.3万円)となっています[C-05]。
ただし注意が必要です。(1) 賃金統計に「塗装工」単独の行は無く、塗装は画工・看板制作と束ねた職種大括りで集計されています [C-05]。(2) これらはいずれも雇用労働者の賃金で、社長・独立・一人親方の年収ではありません[C-05]。独立・一人親方の手取りは、ここから外注費・足場費・社会保険・税負担を差し引いた後に残るもので、会社員時代の給与と単純比較できるものではありません。「独立すれば年収◯◯万円稼げる」という断定は、本記事では行いません。
「儲かる/年収が高い」の正体 — 役員報酬・私的費用で利益が圧縮されている
もう一つ、利益率を読むうえで欠かせない視点があります。中小の塗装会社では、社長の役員報酬、車両・接待などの私的費用、節税対策によって、決算上の営業利益が圧縮されているケースが少なくありません[C-06]。つまり「完成工事高の大きさ=会社の実力」「決算の利益率=そのまま会社の実力」ではない、ということです。この点は、薄利の業種を買い手がどう評価するか(「買い手の見方と磨き方」の「正常収益力」)に直結します。
| 指標 | 数値(職別工事業=塗装工事業を含む代理指標・令和6年度) | 出典・注記 |
|---|---|---|
| 売上高営業利益率 | 0.30%(全体1.20%。職別の令和4年度は▲0.42%) | CIIC R6 図表14[C-01]・代理指標 |
| 自己資本比率 | 32.22%(5区分で最低)(全体41.67%) | CIIC R6 図表25[C-02]・代理指標 |
| 売上高総利益率(粗利率・参考) | 28.68%(全体26.50%) | CIIC R6 図表15[C-03]・営業利益率とは別物 |
| 社長・経営者の年収 | 公的一次が乏しく幅でしか示せない | 役員報酬は会社規模・利益・節税で変動[C-04][C-05] |
| 独立・一人親方の年収 | 建設業全体 月額約35.7万円/塗装含む職種大括り 月額約31.3万円(令和6年)を手がかりに幅で | 賃金構造基本統計調査[C-05]・雇用労働者の賃金で社長/独立年収ではない |
【M&A・投資視点】薄利の業種を買い手はどうスクリーニングするか/どう磨けば高く売れるか
令和6年度でも営業利益率0.30%(職別工事業・代理指標)と、黒字でもわずかな薄利業種を、買い手はなぜ買うのでしょうか。答えは、完成工事高の大きさや決算の利益率(平均ではほぼゼロ)でなく“正常収益力”(役員報酬・私的費用を引き直した実態利益)と、利益率の質・許可・有資格者・元請/直需取引という“見えない資産”で評価するからです。平均の利益がほとんど残らない業種こそ、正常収益力に引き直し、規模・許可・元請化(垂直統合の入口)を束ねれば価値が上がる——その仕組みを解きます。
買い手が薄利の会社を見る順 — スクリーニング指標3つ
- 利益率の質=正常収益力への引き直し+完成工事高に対する率。前節のとおり、中小塗装は社長役員報酬・私的費用・節税対策・一過性損益で営業利益が圧縮されがちです。買い手はこれらを調整した正常収益力(実態利益)を見て、薄い決算利益が「実力」か「圧縮」かを見極めます。あわせて完成工事高に対する粗利率(完成工事総利益率)と営業利益率の乖離を確認します[C-06]。
- 元請/下請比率・一社依存・直需比率・有資格者。元請取引や直需の安定性、特定取引先への一社依存リスク、建設業許可(塗装工事業)・一級/二級塗装技能士の在籍——薄利でも「買えば取り込める資産」が評価を左右します[C-07][C-11][C-12]。技能士の在籍数が査定額をどの程度動かすかの定量は、一級塗装技能士の在籍が査定額をどう動かすか(定量)で解説しています。
- 簿外・薄い自己資本のリスク。自己資本比率32.22%(職別工事業・代理指標・令和6年度)=財務余力が薄く、過大リース、社長の個人保証・個人資産混在、近隣クレーム・手直し履歴などは買収監査(DD)の論点になります[C-02][C-10]。
図解F3:決算の利益率≠実力|買い手のスクリーニング指標 ①完成工事高に対する粗利率/営業利益率(正常収益力に引き直し・社長役員報酬/私的費用を調整)②元請/下請比率・一社依存・直需比率 ③許可・一級/二級塗装技能士など有資格者 ④自己資本比率/個人保証/簿外 ⑤年収水準 → 利益率が薄い業種こそM&A妙味。数値・要素は本文・出典準拠。
編集部より:現場では、買い手は完成工事高も決算の営業利益もそのまま信じません
実際の建設・塗装領域のM&Aで、買い手が完成工事高の大きさや決算書の営業利益をそのまま鵜呑みにすることは、まずありません。中小塗装は社長の役員報酬・車両/接待などの私的費用・節税対策で利益が圧縮されているケースが多く、これを引き直した“正常収益力”を見て初めて「買って意味があるか」が見えてきます。さらに元請か下請か、直需リピートがどれだけあるかで利益率の安定度はまるで違います。逆に、利益率は薄くても、許可・一級/二級塗装技能士・優良な元請/直需取引が揃っていれば、規模を束ねたい買い手には十分な価値になります。「儲からない業種だから買わない」ではなく「どこを磨けば価値が出るか」で見るのが現場の目線です。年収◯万円という数字だけを見ても、この“買い手が何に値段を付けているか”は見えてきません。(※本コラムは当社の建設・塗装領域におけるM&A実務での一般的な所感です)
売り手が財務を磨いて高く売る — 準備ポイント3つ
- 正常収益力を見える化する。社長個人費用・私的支出・一過性損益を整理し、実態利益を説明できる決算(おおむね3期)に整えます。これが価格交渉の土台になります[C-06]。
- 利益率改善・直需/元請化。下請依存からの直需開拓、自社足場・車両の活用、優良元請との継続取引、稼働率の改善で、完成工事高に対する営業利益率を底上げします[C-08]。防水・屋根などの内製化による垂直統合で粗利を改善する出口設計は、誰が・なぜ塗装会社を買うのか(買い手タイプ別事例+垂直統合)で扱っています。
- 許可・有資格者・個人保証の整理。建設業許可(塗装工事業)・一級/二級塗装技能士という“見えない資産”を棚卸しして見える化し、個人保証・個人資産混在を解消しておきます[C-07][C-12][C-10]。
薄利でもM&Aで取り込む「買い手妙味」
利益率が薄く、単独では伸ばしにくい業種でも、買い手が規模(受注・稼働)・許可・元請化(リフォーム・防水・屋根との垂直統合)を束ねればシナジーで価値を上げられます[C-07][C-11]。誰が・なぜ塗装会社を買うのか、垂直統合でどう粗利を改善するのかは、塗装会社のM&A・売却事例(買い手タイプ別+垂直統合)で整理しています(本記事は数値の読み方に絞っています)。
相場の算定と手取りの考え方
「いくらで売れるか」の算定式(年買法=時価純資産+営業利益の数年分。年数に一律の基準はない/EBITDA倍率)の詳細は、外壁塗装会社のM&A相場・年買法での評価額に譲ります。本記事で押さえておきたいのは、営業利益が薄い(代理指標で0.30%)分、年買法では「正常収益力をどう引き直すか」が価格を大きく左右するという点です(年買法の年数に一律の基準はなく、希望額=成約額ではありません。EBITDA倍率を目にしても、それは全業界平均で塗装特化値ではありません)[C-12s]。
手取り(税引後)について。個人株主が株式売却で得た利益には、申告分離課税で税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)が課されます[C-13](計算は取得費等で変わるため税理士へ)。なお「M&Aで事業承継税制を使って節税できる」は正しくありません。事業承継税制(贈与・相続による株式取得の納税猶予制度)は親族内・社内承継の制度で、第三者へのM&A売却とは別物です[C-14]。混同しないようにしてください。
自社の場合を確認する 事業の種類と状況から、売却価格の目安と価値を左右するポイントを確認できます。→ 事業価値を確認する
実際の市場を見る いま掲載中の塗装・防水の売却案件を確認できます。→ 塗装・防水の売却案件を見る
掲載中の案件は掲載中の建設・塗装関連のM&A案件を見るからご覧いただけます(塗装専用の区分はないため、建設・不動産・住宅のLPと「塗装」検索でお探しください)。
よくある質問(FAQ)
Q1. 塗装業の利益率(完成工事高に対する目安)はどのくらいですか? A. 塗装業だけの官庁統計は無いため、塗装工事業を含む職別工事業(CIIC「建設業の経営分析」令和6年度)を代理指標として見ると、売上高営業利益率は0.30%で、建設業全体(1.20%)を下回る薄利です[C-01]。令和4年度の▲0.42%(営業赤字)からは改善しましたが、黒字でもわずかな水準です。自己資本比率も32.22%と建設業5区分で最も低い水準です[C-02]。CIICの集計対象は経営事項審査を受けた法人で、中小の塗装事業者全体を代表するとは限りません[C-01]。ただし決算の利益率は社長役員報酬や私的費用で圧縮されていることも多く、これを引き直した正常収益力で見ると評価は変わります[C-06]。
Q2. 塗装業の社長・経営者の年収はいくらくらいですか? A. 塗装単独の社長年収を出す公的な一次統計は乏しく、一律の数字では語れません[C-04][C-05]。役員報酬は会社規模・利益・節税方針で大きく変動します。近似として建設業全体の賃金を見ると、賃金構造基本統計調査 令和6年で正社員・正職員(男女計)の月額は約35.7万円ですが[C-05]、これは雇用労働者の賃金で社長年収ではありません。求人・民間調査の数字は出どころに留意してご参照ください。
Q3. 塗装業は儲かりますか?「利益率20%」と聞いたのですが、なぜ薄利と言われるのですか? A. 「塗装の利益率20%」の多くは粗利率(完成工事総利益率=売上総利益率)を指していると考えられます。CIIC(令和6年度)でも職別工事業(塗装工事業を含む代理指標)の粗利率は28.68%ありますが、外注費・足場・材料費・販管費まで引いた後の営業利益率は0.30%にとどまります(令和4年度は▲0.42%で、職別の平均が営業赤字でした)[C-01][C-03]。粗利率と営業利益率は別物で、「20%」を営業利益率として受け取らないよう注意してください。
Q4. 塗装業で独立・一人親方になると年収はどのくらいですか? A. 塗装単独の公的統計は乏しく、受注・稼働・外注・経費の取り方で幅が極めて大きくなります[C-04][C-05]。手がかりとして建設業全体の月額賃金は令和6年で約35.7万円、塗装を含む職種大括り(画工,塗装・看板制作従事者)で月額約31.3万円ですが[C-05]、これらは雇用労働者の賃金です。独立の手取りはここから外注費・足場費・社会保険・税を引いた後に残るもので、「独立すれば年収◯◯万円」と断定できる性質の数字ではありません。
Q5. 元請と下請で塗装の利益率(margin)はどのくらい違いますか? A. 具体率は商流・案件で大きく幅があり一律には言えませんが、一般構造として元請は工事全体の粗利を握りやすい一方で集客・販管費・保証や手直しのリスクを負い、下請は受注が安定する反面、元請の値下げ圧で margin が薄くなりがちです[C-08]。同じ「塗装」でも元請/下請比率や直需比率で残る利益率は変わるため、買い手はこの立ち位置と一社依存を確認します。
Q6. 利益率が薄い塗装会社を買って儲かりますか?どう評価しますか? A. 買い手は完成工事高の大きさや決算の利益率でなく、社長役員報酬・私的費用を引き直した正常収益力と、利益率の質・許可・有資格者(一級/二級塗装技能士)・元請/直需取引という“見えない資産”で評価するからです[C-06][C-07]。利益率が薄い業種でも、規模・許可・元請化(垂直統合)を束ねればシナジーで価値が上がります[C-11]。個別の投資判断は専門家にご相談ください。
Q7. 塗装会社を高く売るには財務をどう整えればいいですか? A. ①社長個人費用・一過性損益を整理して正常収益力を見える化する②直需開拓・優良元請取引・稼働率改善で完成工事高に対する営業利益率を底上げする③許可・有資格者・個人保証を整理する、の3点が効きます[C-06][C-08][C-10]。個別の財務・税務判断は税理士・専門家へご相談ください。なお、塗装業へ「独立で参入する」か「会社を買って参入する」かの比較は別記事で扱う予定です。
まとめ — 「儲かるか」を「いくらで買う/売れるか」に変える
最後に要点を3つ。
- 塗装業の利益率は薄い。代理指標の職別工事業(塗装工事業を含む・令和6年度)では営業利益率0.30%(建設業全体1.20%)、自己資本比率は建設業5区分で最も低い32.22%です[C-01][C-02]。令和4年度の▲0.42%(営業赤字)からは改善しましたが、粗利率(完成工事総利益率)は28.68%もあるのに営業段階ではほとんど残らない構造は変わりません。「利益率20%」の多くは粗利率を指し、営業利益率とは別物です[C-03]。
- 年収は幅で見る。塗装単独・社長年収の公的一次は乏しく、建設業全体の月額賃金(令和6年で約35.7万円)や塗装を含む職種大括り(約31.3万円)で近似するしかありません。受注・稼働・役員報酬で大きく変わり、一律には語れません[C-04][C-05]。
- 薄利でも買い手は付く。完成工事高の大きさや決算の利益率でなく、正常収益力と利益率の質・許可・有資格者・元請/直需取引で評価されるからです[C-06][C-07]。利益率が薄い業種こそ、規模・許可・元請化(垂直統合)を束ねれば価値が上がります[C-11]。
出口の問い直しチェックリストにすると、こうなります。
買い手の方
- 決算の営業利益を、社長役員報酬・私的費用を引き直した正常収益力で見直したか
- 完成工事高に対する粗利率(完成工事総利益率)と営業利益率の乖離、元請/下請比率・直需比率・一社依存を確認したか
- 許可・有資格者(一級/二級塗装技能士)・優良元請/直需取引という“見えない資産”を確認したか
- 自己資本比率の低さ・個人保証/個人資産混在・近隣クレーム履歴などのDD論点を点検したか
売り手の方
- 社長個人費用・一過性損益を整理し、正常収益力を説明できる決算3期に整えたか
- 直需開拓・元請取引・稼働率改善で完成工事高に対する営業利益率を底上げできるか検討したか
- 許可・有資格者・個人保証を棚卸しして“見えない資産”を見える化したか
買い手は「儲かるか」を「いくらで買う価値があるか」に、売り手は「利益が薄いから売れない」を「財務を磨けば高く売れる」に——問いを変えることから始めたいところです。相場の算定式は外壁塗装会社のM&A相場・売却価格の目安、誰が買うのか・垂直統合の出口は塗装会社のM&A・売却事例、技能士の査定加点は一級塗装技能士の在籍が査定額をどう動かすか、業界の全体像は外壁塗装業界の将来性をご覧ください。
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免責
本記事は塗装業の利益率・年収およびM&Aに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の利益率・年収・査定額・成約・売却を保証するものではありません。記載した利益率・自己資本比率は職別工事業(塗装工事業を含む代理指標)の令和6年度決算の値(比較用に令和4・5年度)であり、塗装業単独の数値ではありません。CIIC の集計対象は経営事項審査を受けた法人で、中小事業者全体を代表するとは限りません。年収は建設業全体・関連職種の賃金統計による近似で、実際の社長・独立・一人親方の収入は会社規模・受注・稼働・役員報酬の取り方により大きく異なります。個別の財務評価・税務の取り扱いは税理士、許認可(建設業許可・塗装工事業)の承継可否は行政書士・許可行政庁、契約・法務に関する事項は弁護士へご相談ください。本記事には当社サービス(事業価値の確認・案件情報)へのご案内を含みます。
出典
- [C-01][C-01注] 職別工事業(塗装工事業を含む代理指標)の売上高営業利益率 0.30%(令和6年度。建設業全体1.20%。業種別では設備2.53%が最高・建築▲0.03%が最低。職別の推移は令和4年度▲0.42%→令和5年度▲0.11%→令和6年度0.30%)/職別工事業に塗装工事が含まれる分類/集計対象は経営事項審査の経営状況分析を申請した建設業専業の法人(大会社を除く) — 建設業情報管理センター(CIIC)「建設業の経営分析(令和6年度)」図表14・調査の概要(業種別分類): https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2026/02/bunseki_R06.pdf (確認日 2026-10-22)/令和4年度の値は同(令和4年度)図表14: https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/bunseki_R04.pdf
- [C-02] 職別工事業の自己資本比率 32.22%(建設業5区分で最低/全体41.67%・令和6年度。令和4年度は29.79%)— CIIC「建設業の経営分析(令和6年度)」図表25: https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2026/02/bunseki_R06.pdf (確認日 2026-10-22)
- [C-03] 「塗装の利益率20%」の多くは粗利率(完成工事総利益率=売上総利益率。職別工事業 令和6年度28.68%・令和4年度27.64%)で営業利益率(令和6年度0.30%)とは別物/粗利・営業利益の定義 — CIIC「建設業の経営分析(令和6年度)」図表15・指標の解説: https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2026/02/bunseki_R06.pdf (確認日 2026-10-22)
- [C-04] 塗装業単独の財務・年収を直接出す官庁統計は存在しない(塗装は職別工事業に含まれる=CIIC R6 業種別分類/賃金統計に「塗装工」単独行はなく画工・看板制作と同一の職種大括り)— CIIC R6 業種別分類/e-Stat 経済センサス: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- [C-05][C-05注] 建設業 正社員・正職員(男女計)の月額賃金 約35.7万円(356.5千円)/産業計 約37.2万円(372.3千円・令和6年6月分)/塗装を含む職種大括り「画工,塗装・看板制作従事者」男女計の月額 約31.3万円(313.4千円・年間賞与約66.3万円)/塗装単独・社長年収ではなく雇用労働者の賃金 — 厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」概況 第6-3表・第5-1表: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html / 職種第1表: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001225447&cycle=0
- [C-06] 中小塗装は社長役員報酬・私的費用・節税で営業利益が圧縮されがちで、買い手は完成工事高でなく正常収益力(実態利益)に引き直して評価する — M&A専門解説(T3・attributed)+当社の建設・塗装領域M&A実務知見
- [C-07] 薄利でも許可・有資格者(一級/二級塗装技能士)・優良元請/直需取引という“見えない資産”が評価を左右する(買えば取り込める価値)— 当社の建設・塗装領域M&A実務知見(T3・attributed)。制度部分は[C-11][C-12]で一次裏取り
- [C-08] 塗装は外注費・足場/養生・塗料/材料費・人件費が完成工事原価の中心で、元請の値下げ圧と価格競争(薄利多売構造)が営業利益率を押し下げる/元請・下請で margin は変わる(一般構造)— CIIC「建設業の経営分析(令和6年度)」指標の解説・図表7の考察(労働集約型・薄利多売): https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2026/02/bunseki_R06.pdf /元請/下請margin差の具体率は業者解説(T4・attributed・断定転載せず)
- [C-09] 職別工事業(塗装含む近似)の倒産 736件(前年比+16.0%)— 東京商工リサーチ「建設業の倒産」: https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200839_1527.html
- [C-10] 自己資本比率の低さ(職別32.22%・代理指標・令和6年度)=財務余力が薄く、過大リース・個人保証/個人資産混在・近隣クレーム/手直し履歴が買い手のDD論点 — C-02(CIIC)+当社実務知見(T3・attributed)
- [C-11] 塗装工事は請負500万円以上で建設業許可(塗装工事業)が必要・500万円未満の軽微な工事は許可不要(税込・材料費込み・分割合算不可で判定)/利益率が薄い業種でも規模・許可・元請化(垂直統合)を束ねればシナジーで価値を上げられる — 建設業法施行令1条の2・国交省 許可の要件: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html
- [C-12] 一級/二級塗装技能士は技能検定(職業能力開発促進法)の国家資格で、塗装工事業(一般建設業)の専任技術者・主任技術者となり得る(塗装工事業は指定建設業ではない)— 厚生労働省 技能検定/国交省 専任技術者となり得る国家資格一覧: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001619998.pdf
- [C-12s] 相場の算定式(年買法=時価純資産+営業利益の数年分。年数に一律の基準はない/EBITDA倍率)の詳細は別記事へ。営業利益が薄い分、正常収益力の引き直しが価格を左右(年買法の年数に一律の基準はない・希望額≠成約額/EBITDA倍率は全業界平均で塗装特化値ではない)— 中小M&A実務解説(T3・attributed)
- [C-13] 個人の株式譲渡益は申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%・令和7年4月1日現在)— 国税庁 タックスアンサー No.1463: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- [C-14] 事業承継税制(贈与・相続による株式取得の納税猶予制度)は親族内・社内承継の制度で第三者へのM&A売却とは別物 — 中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置)/国税庁 No.4148: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm