Web制作月額保守の継続収益

Web制作会社 保守契約 売却|月額売上を継続収益と見てよいか、4つの確認と月100万円から残る36万円の計算

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 月額で請求していても、解約できない約束とは限らない
  3. 「保守」の請求は5つに分けないと、継続収益の額が出ない
  4. 月額売上から実費・外注費・社内工数を引くと、残る額は見た目より小さい
  5. 解約条項・契約主体・譲渡制限を契約書で確かめる
  6. ドメイン・サーバー・CMSの管理権限が売り手個人にあれば、継続収益は引き継げない
  7. 引継ぎは「契約→ドメイン→サーバー→CMS→売り手の権限削除」の順に決める
  8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)
  10. 出典

「保守・運用の月額売上が毎月立っています」。Web制作会社の売却で、売り手が強みとして挙げることがあります。買い手が知りたいのは、その月額売上が買収後も続くのか、続く分からいくら利益が残るのか、そして保守に必要なドメイン・サーバー・CMSを本当に引き継げるのか、です。この記事は、その判断の順序を整理します。

この記事の結論

  • 月額で請求されていることは、継続収益の証拠になりません。 請求の中身、契約書の期間と解約条項、控除後の利益、管理権限の4つを確かめてから、継続収益として数えます。
  • 月額売上は、実費・外注費・社内工数を引いて見ます。 仮の数字では、月100万円の請求から残る額は36万円でした。
  • 管理権限は、契約→ドメイン→サーバー→CMS→売り手の権限削除の順に移します。 順序を決めずに売り手が先に権限を外すと、保守対象のサイトに手が出せなくなります。

この記事の対象:Web制作会社の買収を検討していて、保守・運用の月額売上をどう評価するかを知りたい買い手。売り手として、何を問われるかを整理したい方にも使えます。

Web制作会社のM&A全体の判断材料は、Web制作会社のM&A DATAにまとめています。ハブでは、継続売上を評価の中心に置く考え方までを扱いました。この記事は、その継続売上が本当に継続収益と言えるかを確かめる手順に絞ります。

月額で請求していても、解約できない約束とは限らない

結論: 「月額」は請求の形で、「継続」は契約の中身です。継続収益として数える前に、契約書で期間と解約の条件を確かめます。

IPA(情報処理推進機構)と経済産業省が公表している「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」は、保守・運用の業務委託について、単発のものもあるが、月額料金制あるいは年額料金制などによる継続的な取引形態が多いと説明しています。同じ文書は、保守・運用のサービス形態は多様で、すべてのパターンを網羅するひな型は作れないため、具体的な内容は個別契約書と仕様書で定めるとしています。このひな型は情報システムの委託契約向けで、小規模なホームページの保守契約そのものではありません。ここでは、保守・運用の契約で何を決めておくべきかを整理する材料として使います。

契約の種類も、同じ文書は業務ごとに分けています。運用と保守はそれぞれ「準委任・請負」のいずれかで、運用段階と保守段階は別の契約書とする整理です。責任の中身も違います。

契約の種類 モデル契約書での責任の内容 継続収益として見るときの含意
準委任型 善良な管理者の注意をもって業務を実施することに限られる 作業を続ける約束であって、結果の約束ではない。解約の条件を別に確かめる
請負型 結果に誤りや仕様書との不一致があれば修正し、損害を賠償する。責任の期間は個別に定める 修正の責任が残る。引き継いだ後の責任の範囲を確かめる

解約については、民法に規定があります。委任の規定は、法律行為でない事務の委託に準用され(第656条)、委任は各当事者がいつでも解除できます(第651条第1項)。相手方に不利な時期に解除したときなどは、損害を賠償する責任が生じます(同条第2項)。契約が準委任にあたるなら、期間や中途解約の定めを契約書に置いていないかぎり、顧客がいつでも終わらせられる可能性がある、ということです。実際の契約がどちらにあたるか、特約でどう定めているかは、契約書ごとに確かめ、判断が必要なら弁護士に確認してください。

避けたい判断 こうすればOK
毎月同じ額が入金されているので、継続収益と見る 契約書を開き、期間・更新・解約の条件で顧客を分ける
「保守」という名前の請求を、すべて同じ性質と見る 請求の中身を分類して、継続収益に数えるものと数えないものを分ける
口頭の合意で続いている顧客を、書面のある顧客と同じに扱う 書面がない顧客は別のグループにして、書面化できるかを売り手に確かめる

「保守」の請求は5つに分けないと、継続収益の額が出ない

結論: 請求書の「保守費」には、性質の違うものが混ざります。分類してから数えると、継続収益の額は請求の合計より小さくなります。

本記事の整理では、月額の請求を中身で次の5つに分けます。

分類 中身の例 継続収益としての見方
実費の再請求 サーバー代・ドメイン更新費・有料プラグインの費用を顧客に請求 売り手が立て替えた実費と同額なら、利益には寄与しない。額は継続しても、残る利益はない
定型保守 CMSの更新、バックアップ、稼働監視 作業の範囲が決まっていて、継続の確度を契約書で確かめやすい
時間枠・チケット型 月○時間までの修正対応 使われる時間によって社内工数が変わる。未使用分の扱いも契約で確かめる
運用代行・改善 更新作業の代行、アクセス解析や広告の運用など 担当者に依存しやすい。成果ではなく作業の対価か、契約書で確かめる
制作費の分割払い 制作費を「月額」にして分割で請求 残りの回数が終われば止まる。継続収益に数えず、残りの回数と金額を別に記録する

分類の根拠は、一次統計にはありません。Web制作会社の保守に関する統計は見つかっておらず、Web制作会社の利益率と社長年収の記事でも、保守の比率に目安を示す一次統計がないことを説明しています。ここでは、買い手が顧客ごとに契約書と請求書を見ながら振り分けられるように作った分類です。

年額で一括して請求している保守は、受け取った月ではなく、契約期間に按分して月額に直します。ここでも、残りの期間と更新の条件を別の列に書きます。

月額売上から実費・外注費・社内工数を引くと、残る額は見た目より小さい

結論: 月額売上は、継続収益の「大きさ」ではなく入り口の数字です。買い手が見るのは、そこから費用を引いた後に残る額です。

次は仮の数字での試算です。実在の会社の数字ではなく、相場や粗利率を示すものでもありません。

仮の前提:顧客20社、月額の請求の合計は100万円(税抜)。内訳は、実費の再請求12万円(売り手が立て替えた実費も12万円)、定型保守48万円、時間枠・運用代行30万円、制作費の分割払い10万円。運用代行の一部は外注していて、外注費は月18万円。保守対応に使う社内の時間は月80時間で、1時間あたりの原価を3,000円と置きます。

段階 差し引くもの 残る額
月額の請求の合計 - 100万円
制作費の分割払いを外す 10万円 90万円
実費の再請求を外す(同額の実費がかかっている) 12万円 78万円
外注費を引く 18万円 60万円
社内工数を引く(80時間×3,000円=24万円) 24万円 36万円

請求の合計100万円のうち、保守の作業そのものから残るのは月36万円(年換算で432万円)です。継続収益として数える対象は、定型保守と時間枠・運用代行の合計78万円で、そこから外注費と工数を引いた額が36万円、という見方です。1時間あたりの原価は、給与や社会保険料などをどう配分するかで変わります。社内工数を引く方法には決まりがないため、買い手と売り手で計算の前提をそろえてから話します。

なお、この試算の前提を変えると結果は変わります。運用代行を売り手の代表者が自分でこなしていて外注費に出ていない場合は、買収後にその作業を誰が担うかを確かめたうえで、工数として加えます。代表者の作業を原価に入れていない決算は、利益が高く見えます。

解約条項・契約主体・譲渡制限を契約書で確かめる

結論: 契約書のどこを見るかを、顧客ごとに決めておきます。3つの確認だけで、継続の確度を3つのグループに分けられます。

確認する点 見る箇所 分け方
期間と更新 契約期間、自動更新の有無 期間と更新の条件が書面にある/期間・解約の定めが確認できない/書面がない
解約の条件 中途解約、予告期間、解約時の費用 条件が書面にある/ない
契約の主体 契約をしている相手が会社か、代表者個人か 会社と契約している/個人と契約している

IPAのモデル契約書の継続的な委託業務の例では、契約の有効期間を契約締結日から○年とし、期間満了の前に別段の意思表示がないかぎり、同じ条件でさらに○年継続する、という自動更新が置かれています。SLA(サービスレベル契約)を導入する場合は、達成できなかったときの協議の手続きや解約権、ペナルティなどを契約書に定める、という整理です。実際の保守契約書に、こうした条項があるかを確かめます。

仮の数字の続きです。継続収益の対象78万円を契約書の状態で分けたところ、期間と更新の条件が書面にあるものが40万円、期間・解約の定めが確認できないものが23万円、書面がないものが15万円だったと置きます。

契約書の状態 月額 見方
期間と更新の条件が書面にある 40万円 条件に沿って継続を見込める
期間・解約の定めが確認できない 23万円 解約の自由度が分からない。顧客に確認できるか
書面がない 15万円 内容を確かめられない。書面化できるか

最後の2グループ(合計38万円)の半分が買収後に解約したと仮定します。解約した分の外注費と社内工数はすぐには減らないと置くと、解約で19万円が減り、残る額は36万円から17万円になります(約53%減)。これは解約率の予測ではなく、契約の状態ごとにリスクが違うことを数字で示すための試算です。

契約の移り方でも、確認する点が変わります。

譲渡の形 契約の扱い 確認すること
株式譲渡 本記事の整理では、契約をしている会社が変わらない 支配権の変更で通知・解除を求める条項の有無
事業譲渡 契約上の地位の移転にあたり、相手方が承諾したときに移転する(民法第539条の2) 顧客ごとの承諾の取り方と時期

株式譲渡・事業譲渡で契約や権利がどう移るかの全体は、Web制作会社のM&Aで著作権とソースコードは引き継げる?で条文から整理しています。

IPAのモデル契約書には、相手方の事前の書面による同意がないまま、契約上の地位を第三者に承継させたり、権利義務を譲渡したりしてはならない、という条項の例があります。事業譲渡では、この条項が無くても民法上は相手方の承諾が必要です。条項があれば、事前の書面による同意という形も守る必要があります。個別の条項の効果や、顧客への説明の仕方は、弁護士に確認してください。

ドメイン・サーバー・CMSの管理権限が売り手個人にあれば、継続収益は引き継げない

結論: 契約を移しても、サイトを動かす権限が売り手の個人名義のままなら、保守は続けられません。名義と権限の一覧を先に作ります。

保守の対象には、顧客のサイトを動かす複数の資産が含まれます。買い手は、次の一覧を売り手に作ってもらいます。

資産 確認する点 引き継ぎの確認先
ドメイン 登録者は誰か(顧客・会社・売り手個人)、管理している事業者 管理を委託している事業者
サーバー・クラウド 契約名義、支払いに使っているカード・口座、管理画面のログイン者 各サービスの規約・問い合わせ窓口
CMS・管理画面 管理者アカウントの数と持ち主、共有アカウントの有無 サイトごとの管理画面
有料プラグイン・ライセンス ライセンスを持っている名義、更新日 各提供元の規約
バックアップ・監視 保管場所、アクセスできる人 使っているサービス

JPドメインについては、JPRSが次のように案内しています。登録者は「JPドメイン名を登録した組織や人」を指します。登録時のデータに変更があった場合は、登録時に申し込んだ指定事業者に変更を依頼します。事業譲渡のあとにドメイン名を移すときは、移転申請の手続きを使い、申請方法は管理を委託している指定事業者に確認するよう案内されています。管理先の事業者を変えるだけの手続き(指定事業者の変更)は、登録者を変える手続きとは別です。

ここで注意するのは、ドメインの登録者が顧客ではなく売り手の会社や個人になっている場合です。顧客のサイトのドメインを売り手が預かっているなら、顧客との間でその扱いがどう合意されているかを、契約書で確かめます。.com など JP 以外のドメインや、サーバー・CMSの名義変更の手順は、サービスごとの規約で変わるため、個別に確認が必要です。

避けたい判断 こうすればOK
「ログインできるから大丈夫」と、名義を確かめずに進める 契約名義と登録者を一覧にして、会社名義かどうかを分ける
売り手の代表者のアカウントで、複数の顧客のサイトを管理している状態を残す 会社名義のアカウントに管理者を移し、共有アカウントは使う人ごとに分ける
顧客のドメインを預かっているのに、扱いの合意を確認しない 預かりの根拠となる契約と、顧客への連絡の要否を確かめる

引継ぎは「契約→ドメイン→サーバー→CMS→売り手の権限削除」の順に決める

結論: 先に権限を外すと、保守が止まります。移す順序を、契約前に取り決めておきます。

引継ぎの順序には一次資料がありません。ここでは本記事の整理として、保守の中断を避ける順序を示します。

順 作業 先にしないと起きること
1 顧客との契約の移転・承諾(事業譲渡の場合)、条項の確認 買い手が保守を引き受ける根拠がない状態で、権限だけ移ることになる
2 ドメインの登録者・管理事業者の確認と、必要な手続き ドメインの更新期限に気づけず、サイトが止まるおそれ
3 サーバー・クラウドの契約名義と支払いの切り替え 売り手の支払いが止まると、サイトが止まる
4 CMS・管理画面に買い手の管理者を追加して動作を確認 売り手の権限を外したあとで、買い手が入れないと分かる
5 バックアップ・監視の引継ぎ 障害が起きたとき、戻す手段がない
6 売り手側の権限を外す 先に外すと、手順4までが完了しない

売り手側の権限を外す作業は最後にします。売り手の担当者が退職するときの扱いは、契約書に「引継ぎの期間」「売り手の協力義務」として書いておきます。引継ぎ期間中の支払い、期間中に起きた障害の責任の分け方は、弁護士などの専門家に確認して条項にします。

売り手が事前にできることは、主に3つです。

  • 契約書がない顧客の書面化を進める。
  • 名義と権限の一覧を、買い手に開示できる状態にしておく。
  • 代表者個人のアカウントで管理しているサイトを、会社名義へ移す。

売却価格の考え方は、Web制作会社の売却相場で、技術者の残留や代表者への依存と合わせて整理しています。契約や権利の面からの整理は、Web制作会社のM&Aで著作権とソースコードは引き継げる?と合わせて読むと、確認の抜けが減ります。

まとめ

  • 月額で請求している保守の売上は、請求の中身で分類し、契約書の期間・解約・契約主体で確度を分けてから、継続収益として数えます。
  • 継続収益の額は、実費・外注費・社内工数を引いて見ます。仮の数字では、月100万円の請求から残る額は36万円で、解約の自由度が高い契約が半分解約されると17万円でした。
  • ドメイン・サーバー・CMSの管理権限は、契約の移転→ドメイン→サーバー→CMS→売り手の権限削除の順に移すと、保守を止めずに引き継げます。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 月額で請求している保守の売上は、継続収益として評価してよいですか。 A. 月額で請求されていることだけでは判断できません。請求の中身(実費の再請求、定型保守、運用代行、制作費の分割払いなど)、契約書の期間と解約の定め、実費・外注費・社内工数を引いた後に残る額、ドメイン・サーバー・CMSの管理権限が会社にあるか、の4点で見ます。

Q2. 保守の契約書がなく、請求書と口頭の合意だけの顧客はどう扱いますか。 A. 本記事の整理では、継続収益としては最も確度の低いグループに分けて、別に数えます。契約の内容が書面で確認できないため、期間や解約の条件、業務の範囲を買い手が確かめられません。買収前に書面化できるかどうかも、売り手に確認します。

Q3. 年額で前払いしてもらっている保守は、どう月額に直しますか。 A. 本記事の整理では、受け取った月ではなく契約期間に按分して月額に直し、契約の残り期間と更新の条件を別に書きます。前受けの会計上の扱いや、譲渡時に残り期間分の対価をどう整理するかは、個別の契約と会計処理で変わるため、税理士などの専門家に確認してください。

Q4. 顧客がいつでも解約できる契約だと、評価されませんか。 A. 評価されないとは限りません。ただし、契約が準委任にあたる場合、民法第651条は各当事者がいつでも解除できると定めています。解約の自由度が高い契約は、期間や更新条件が決まっている契約とは分けて見て、解約された場合の利益を試算します。契約書にどう書かれているかは個別に確認が必要です。

Q5. ドメインが売り手の個人名義になっています。譲渡の前にやることはありますか。 A. JPRSは、登録者を「JPドメイン名を登録した組織や人」と説明しています。事業譲渡などで登録者を変えるときは、移転申請の手続きを使い、詳細は管理を委託している指定事業者に確認するよう案内しています。個人名義のままだと、会社の資産として引き継げているかが確認できないため、契約前に名義と手続きを確認します。.com など JP 以外のドメインは、それぞれの管理事業者の規則で確認が必要です。

Q6. 株式譲渡なら、顧客との保守契約はそのまま引き継がれますか。 A. 本記事の整理では、株式譲渡は契約をしている会社そのものが変わらないため、契約上の地位を移す手続き(民法第539条の2)は問題になりません。ただし、契約書に支配権の変更で通知や解除を求める条項があれば、その対象になりえます。事業譲渡では契約上の地位の移転になり、契約の相手方の承諾が必要です。条項の有無は契約書ごとに確認し、判断は弁護士に確認してください。契約や権利の移り方の全体は、Web制作会社のM&Aで著作権とソースコードは引き継げる?で整理しています。

出典

  • e-Gov法令検索「民法」(第539条の2、第651条、第656条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • IPA・経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」 https://www.ipa.go.jp/digital/model/model20201222.html
  • JPRS「JPドメイン名の各種申請について」 https://jprs.jp/faq/application/
  • JPRS「指定事業者制度」 https://jprs.jp/about/dom-rule/framework/

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