解体石綿・廃棄物のDD

解体業 M&A デューデリジェンス|石綿と産廃で最初に請求する3種類の記録と保存期間

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. 過去工事の記録は、会社が適法に工事をしてきたかを確かめる、数少ない証拠になる
  3. 石綿は、事前調査の「方法・資格・記録」が工事ごとに揃っているかで確かめる
  4. 産廃は、元請が排出事業者として委託契約書とマニフェストを揃えているかで確かめる
  5. 行政の指導・命令・事故の履歴は、売り手の説明だけでなく通知と回答の書面で確かめる
  6. 株式譲渡か事業譲渡かで、過去の違反が買い手に残る度合いは変わる
  7. 重大な不備が見つかったら、追加調査で範囲を絞ってから価格と契約条件に反映する
  8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)
  10. 出典

解体会社の買収では、決算書に出てこない過去の工事が、買収後に問題として現れることがあります。なかでもアスベスト(石綿)の扱いと産業廃棄物の処理は、書類が揃っているかで確かめられる範囲が大きい分野です。この記事は、何の書類を、どの保存期間の前提で請求し、不備が見つかったらどう動くかを整理します。

この記事の結論

  • 最初に請求するのは3種類です。 石綿の事前調査の記録、産廃の委託契約書とマニフェスト、行政の指導・命令の履歴です。
  • 保存期間を知らずに「記録がない」と判断しないことです。 石綿の記録は3年、マニフェストは5年が、それぞれ法令や指針に出てくる期間です。
  • 重大な不備が出たら、価格の前に追加調査です。 記録の欠落と実際の不適正処理を切り分け、範囲が見えてから条件に反映します。

この記事の対象:解体会社の買収を検討している買い手。売り手として、買い手に何を問われるかを知りたい方にも使えます。

解体業全体のDD(デューデリジェンス)の論点は、解体業のM&A DATAにまとめています。この記事は、そのうち過去工事のアスベスト対応と産廃処理だけを深く扱います。許可の承継は解体工事業の許可承継、価格の考え方は解体会社の売却相場を参照してください。

過去工事の記録は、会社が適法に工事をしてきたかを確かめる、数少ない証拠になる

結論: 石綿と産廃は、問題が起きていても決算書には出ません。確かめる手段は、工事ごとに残る記録です。

確認の対象は、次の3種類に分けると整理できます。

区分 請求する記録 確かめたいこと
石綿 事前調査の記録、調査者の資格を示す書類、発注者への説明書面、報告の控え 工事の前に、定められた方法と資格で調べていたか
産廃 委託契約書、許可証の写し、マニフェスト 処理を許可のある業者に書面で委託し、最後まで確認していたか
行政対応 指導・命令・報告徴収・立入検査の通知と回答 行政から問題を指摘された履歴がないか

どの記録も、「ある」だけでは足りません。工事の件数に対して揃っているか、日付と内容が整合しているかを見ます。

石綿は、事前調査の「方法・資格・記録」が工事ごとに揃っているかで確かめる

結論: 事前調査は、法律で方法と実施者の要件が決まっています。工事ごとの記録に、その要件を満たした痕跡があるかを見ます。

環境省のパンフレット「大気汚染防止法が改正されました」によれば、解体等工事の元請業者等は、工事の前に石綿含有建材が使われていないかを調べる必要があります。調査の方法は法律で、設計図書などの書面による調査、現地での目視による調査、分析による調査に定められています。書面調査だけで「石綿使用なし」と判断してはいけないとされています。ただし、平成18年9月1日以降に設置の工事に着手したことが明らかな建築物などは、書面で着工日を確かめるだけでよい場合があります。

実施者と報告の要件は、時期によって変わります。

項目 内容 適用時期
建築物の事前調査の実施者 建築物石綿含有建材調査者などの「必要な知識を有する者」に実施させる 令和5年(2023年)10月1日から
結果の報告 一定規模以上の工事で、元請業者等が都道府県等へ報告する。建築物の解体は床面積の合計80㎡以上、建築物の改造・補修と工作物の解体・改造・補修は請負金額の合計100万円以上(工作物は環境大臣が定めるものに限る。金額は事前調査の費用を含まず、消費税を含む) 令和4年(2022年)4月1日から
工作物の事前調査の実施者 工作物でも、調査者に実施させる義務が適用される 令和8年(2026年)1月1日から

工作物の義務は、環境省「大気汚染防止法施行規則等の一部を改正する省令等の公布について」で、一部を除き令和8年1月1日の施行と示されています。パンフレットには「工作物については、調査者等による事前調査の実施は義務付けられていません」と書かれていますが、これは改正前の記述です。確認日(2026-10-18)時点では、工作物にも調査者の要件が適用されます。

記録については、パンフレットが、事前調査に関する記録を作成して写しを現場に備え置き、解体等工事の終了後3年間保存するよう求めています。記録には、調査を行った者の氏名と、調査者に該当することを示す事項が含まれます。厚生労働省の石綿総合情報ポータルサイト「改正石綿則のポイント」も、石綿障害予防規則側の事前調査記録の保存を3年間としています。

DDでは、次の点を請求した記録で確かめます。

避けたい判断 こうすればOK
「石綿は当社では出ていません」という説明だけで済ませる 工事ごとの事前調査の記録を、書面・目視・分析の方法が分かる形で請求する
調査者の氏名だけを確認する 資格を示す書類まで確認する。令和5年10月1日以降の建築物の調査が対象
報告の有無を、売り手の記憶に頼る 規模要件(80㎡、請負金額100万円。工作物は告示で定めるもの)に当たる工事の報告控えを、工事一覧と突き合わせる

石綿が見つかった工事では、作業の実施内容も確認します。パンフレットでは、作業記録の作成と解体等工事終了後3年間の保存が求められています。また、隔離などをせずに吹付け石綿等の除去作業を行った場合は直接罰が適用され、下請負人にも作業基準の遵守義務が及ぶとされています。元請として受けた工事だけでなく、下請として入った現場で作業基準を守っていたかも、作業記録で見ます。

産廃は、元請が排出事業者として委託契約書とマニフェストを揃えているかで確かめる

結論: 解体工事で出る廃棄物の処理責任は、元請にあります。契約書とマニフェストが工事に対して揃っているかが、確認の中心です。

環境省「排出事業者責任に基づく措置に係るチェックリスト」は、建設工事に伴う廃棄物について、実際の施工を下請が行っていても、発注者から直接工事を請け負った元請業者を排出事業者とし、元請に処理責任を負わせると説明しています(廃棄物処理法第21条の3第1項)。環境省の通知「建設工事から生ずる廃棄物の適正処理について」(環廃産第110329004号)が示す建設廃棄物処理指針も、廃棄物の取扱いを下請任せにせず、元請が直接処理業者を選んで委託契約を結ぶよう求めています。

したがって、買収する会社が元請として受けた工事では、その会社が責任を負う側です。確認する記録は次のとおりです。

記録 見る点 保存の目安(出典)
委託契約書 書面で結ばれているか。収集運搬と処分の委託先ごとの契約か。許可証の写しが添付されているか 委託契約書等は工事完了後5年間(建設廃棄物処理指針の記録と保存の例)
許可証の写し 委託先の許可の範囲に、委託した廃棄物の種類が入っているか 契約書に添付
マニフェスト(交付した写し) 廃棄物の種類ごとに交付されているか 交付日から5年間
マニフェスト(終了の写し) 運搬・処分の終了を知らせる写しが、期限内に返ってきているか 送付を受けた日から5年間

チェックリストによれば、委託契約書には、廃棄物の種類と数量、運搬の最終目的地、処分の場所や方法、契約の有効期間、料金などを法定の事項として記載する必要があります。石綿含有産業廃棄物が含まれる場合は、その旨も契約書の情報に含まれます。

石綿を含む廃棄物の扱いは、別に見ます。チェックリストの特別管理産業廃棄物の一覧には「廃石綿等」があり、石綿建材除去事業に係るものや、大気汚染防止法の特定粉じん発生施設が設置されている事業場から生じて飛散するおそれのあるものが該当します。保管の基準では、石綿含有産業廃棄物は他の物と混合しないよう仕切りを設け、飛散を防ぐ覆いや梱包をすることが求められています。石綿の記録と廃棄物の記録は、同じ工事で突き合わせると、整合しているかが見えます。

もう一つ見るのは、処理料金です。チェックリストは、適正な対価を負担していない場合に措置命令(廃棄物処理法第19条の6)の対象になりうるとしています。地域における一般的な処理料金の半値程度かそれを下回る料金で委託していて、その料金に合理性を示せない場合は、適正な対価を負担していないことになる、という説明です。安さだけで業者を選んでいないか、見積もりの比較など選定の記録があるかを、売り手に尋ねます。

行政の指導・命令・事故の履歴は、売り手の説明だけでなく通知と回答の書面で確かめる

結論: 過去の指摘は、売り手の記憶ではなく、通知と回答の書面で確かめます。命令の内容は公表されることがあります。

チェックリストによれば、処理基準や保管基準に適合しない保管・収集・運搬・処分をした場合は改善命令の対象になり、生活環境の保全上支障が生じるか、生じるおそれがあるときは措置命令(廃棄物処理法第19条の5)の対象になります。命令に違反すると、罰則の適用を受ける可能性があります。都道府県知事は排出事業者に対して報告徴収や立入検査も行え、改善命令や措置命令を出したときは、違反行為等の抑止のため内容を公表することがあります。

請求する資料と、見るべき点は次のとおりです。

請求する資料 見る点
行政からの指導・改善命令・措置命令・報告徴収・立入検査の通知 内容と時期。是正が完了しているか
それに対する回答・是正報告の控え 約束した是正が実行されているか
近隣からの苦情と、石綿の飛散や廃棄物の不適正処理に関わる事故・ヒヤリハットの記録 同種の問題が繰り返されていないか
係争・損害賠償請求の履歴 未解決のものが残っていないか

行政の公表は、買い手が独自に確認する手がかりにもなります。ただし、公表の有無や公表される範囲は、命令の種類や自治体の運用で異なる可能性があります。個別の確認は、所管の自治体や専門家に相談してください。

株式譲渡か事業譲渡かで、過去の違反が買い手に残る度合いは変わる

結論: 本記事の整理では、株式譲渡は会社が続くため過去の責任も会社に残り、事業譲渡は引き継ぐ範囲を選べます。ただし、許認可の扱いなど別の論点が出ます。

この点は、本記事で取得した一次資料に条文や公的な説明がなく、本記事の整理として書きます。

観点 株式譲渡 事業譲渡
会社 同じ会社が続く 買い手の会社が事業を引き継ぐ
過去の工事に伴う責任(本記事の整理) 会社に残るため、買い手は会社を通じて影響を受ける 引き継ぐ契約・資産を選べるが、実際の責任の範囲は契約と事実関係で変わる
記録の引き継ぎ 会社の保管書類がそのまま残る 引き継ぐ書類の範囲を契約で決める必要がある
許認可 会社に帰属したまま原則続く 建設業許可は事前認可、産廃許可は新規取得が原則(解体工事業の許可承継)

事業譲渡にすれば過去の責任が切れる、とは決めつけられません。引き継ぐ契約や工事の範囲、商号の使い方、事実関係によって扱いが変わるため、選ぶスキームと責任の範囲は弁護士に確認してください。スキームの選び方そのものは解体工事の事業承継で扱っています。

重大な不備が見つかったら、追加調査で範囲を絞ってから価格と契約条件に反映する

結論: 記録の欠落と実際の不適正処理は、別の問題です。切り分けてから、影響の範囲を見積もります。

不備が見つかったときの動き方は、次の順序が考えられます。

段階 やること 見る点
1. 切り分け 記録が無いのか、記録が不整合なのか、実際に不適正だったのかを分ける 保存期間の外か内か。同じ工事の他の記録で補えるか
2. 範囲の確認 該当する工事の件数・時期・元請か下請かを一覧にする 特定の担当者・現場・時期に偏っていないか
3. 追加調査 委託先の許可の範囲や、行政側の公表、必要なら現地の確認を行う 買い手側の専門家に調べさせる
4. 条件への反映 価格の調整、表明保証、補償の取り決め、支払いの時期、見送りを検討する 専門家に契約条項を確認する

買い手が見落としやすいのは、記録の保存期間より古い工事です。石綿の記録は3年、マニフェストは5年が目安なので、それより前の工事は、記録が無くても直ちに問題とは言えません。その場合は、残っている範囲で同じ傾向が続いているかを見て、売り手に過去の対応方針や社内ルールの変遷を説明してもらいます。

不備が重い場合や、行政の命令が残っている場合の価格・補償の考え方は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。価格の目安の考え方は解体会社の売却相場に整理しています。

まとめ

  • 石綿と産廃は、決算書に出ない分、工事ごとの記録で確かめます。最初に請求するのは、石綿の事前調査の記録、産廃の委託契約書とマニフェスト、行政の指導・命令の履歴の3種類です。
  • 石綿の記録は3年、マニフェストは5年が目安なので、それより古い工事の記録の欠落は、直ちに違反とは言えません。残っている範囲と売り手の説明を突き合わせます。
  • 重大な不備が出たら、記録の欠落と実際の不適正処理を切り分けて範囲を絞り、そのうえで価格・契約条件・見送りを、専門家と一緒に判断します。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 解体会社を買う前に、アスベスト対応は何を見て確かめますか? A. 工事ごとの石綿の事前調査の記録、調査を行った人の資格を示す書類、発注者への説明書面、一定規模以上の工事の調査結果の報告控えを見ます。石綿が見つかった工事では、作業計画、作業記録、廃棄物の処理記録も並べます。

Q2. 事前調査の記録は、何年分残っているのが普通ですか? A. 法令上の保存期間は、大気汚染防止法の記録が解体等工事の終了後3年間、石綿障害予防規則の記録が3年間です。このため、3年より前の工事は、記録が残っていなくても直ちに違反とは言えません。古い工事は、残っている範囲の記録と売り手の説明を突き合わせます。

Q3. 産業廃棄物の責任は、実際に処理した下請や処理業者にありますか? A. 建設工事に伴う廃棄物は、実際の工事を下請が行っていても、発注者から直接工事を請け負った元請業者が排出事業者として処理責任を負います(廃棄物処理法第21条の3第1項)。処理を委託しても、排出事業者の責任はなくなりません。

Q4. マニフェストと委託契約書は、どのくらい保存されている必要がありますか? A. 交付したマニフェストの写しは交付日から5年間、運搬・処分の終了を知らせる写しは送付を受けた日から5年間の保存が必要です。委託契約書等は、環境省の建設廃棄物処理指針が示す記録と保存の例では、工事完了後5年間です。

Q5. 株式譲渡なら、売り手の過去の違反は買い手に引き継がれますか? A. 本記事の整理では、株式譲渡は会社そのものが続くため、過去の工事に伴う責任は会社に残り、買い手は会社を通じてその影響を受けます。事業譲渡は引き継ぐ資産・契約を選べますが、許認可の扱いなど別の論点が出ます。実際の責任の範囲は契約と事実関係で変わるため、弁護士に確認してください。

Q6. 記録に重大な不備が見つかったら、買収は見送るべきですか? A. 一概には言えません。不備が記録の欠落なのか、実際の不適正処理なのかを追加調査で切り分け、影響の範囲を確かめたうえで、価格や契約条件への反映、または見送りを判断します。法的な評価は弁護士などの専門家に確認してください。

出典

  • 環境省「大気汚染防止法が改正されました」 https://www.env.go.jp/content/900397116.pdf
  • 環境省「大気汚染防止法施行規則等の一部を改正する省令等の公布について」 https://www.env.go.jp/press/press_01756.html
  • 厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト「改正石綿則のポイント」 https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/point/
  • 環境省「排出事業者責任に基づく措置に係るチェックリスト」 https://www.env.go.jp/content/000126051.pdf
  • 環境省「建設工事から生ずる廃棄物の適正処理について(通知)」(環廃産第110329004号。別添「建設廃棄物処理指針(平成22年度版)」) https://www.env.go.jp/hourei/add/k035.pdf

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