SES相場

SES会社のM&A・売却相場|稼働人数・営業利益・商流で価格はどう変わる?

この記事の目次
  1. この記事の結論
  2. SES会社の売却価格は、売上や人数ではなく、買収後も残る利益と当事者の合意で決まる
  3. 利益を基準にするなら、純資産に1〜3年分の調整後利益を足す形が出発点になる
  4. 稼働率・商流・正社員比率は、利益が続く確からしさとして価格に効く
  5. 同じ売上10億円でも、仮の2社では評価が最大で約2.6倍開く
  6. 公開されたM&Aの取得価額は、希望価格や相場の代わりにならない
  7. 売却前に確認したい財務・人材データは、稼働表と請求額の照合から始める
  8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)
  10. 出典

「SES会社は営業利益の何倍で売れるのか」「エンジニア1人あたりいくらか」。調べると数字がばらばらで、自社の価格をどう考えればよいのか分からなくなります。この記事は、SES会社の売却価格を、売上・利益・稼働人員の3つから組み立てる方法を整理します。単一の相場は示しません。示せる一次資料がないためで、代わりに、評価方法の選び方と、価格に反映されるリスクの見方を書きます。

この記事の結論

  • SES会社に「これが相場」という単一の数字は、本記事では示しません。 中小M&Aガイドライン(第3版)は、算定した金額がそのまま譲渡額になるとは限らず、当事者が合意した金額が譲渡額になるとしています。
  • 利益を基準にするときの出発点は、純資産に数年分の利益を足す形です。ガイドラインの参考資料は、足す年数を「通常1年〜3年」とし、事例ごとに交渉で決まるとしています。年数を左右するのは、利益が買収後も残る確からしさです。
  • 本記事の整理では、その確からしさは稼働率・商流・正社員比率・顧客集中・社長依存で見られます。売上が同じ仮の2社でも、これらの違いで価格の幅が大きく開きます(下の比較表。数字はすべて仮定)。

この記事の対象:SES(客先常駐でエンジニアの稼働を提供する)会社のオーナーで、売却を考え始めた段階の方。

SES会社のM&A全体の見方は、SES会社のM&A DATAにまとめています。この記事はそのうち「いくらで売れるか」を、評価方法と価格要因に絞って扱います。準委任・請負・派遣の契約類型と法令上の確認事項は、SES会社 買収 注意点に任せ、ここでは繰り返しません。

SES会社の売却価格は、売上や人数ではなく、買収後も残る利益と当事者の合意で決まる

結論: 売上高やエンジニアの人数は、価格の「規模」を示すだけです。買い手が値段を付けるのは、買収後に残る利益と、それが続く確からしさです。

中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)は、中小M&Aでは簿価純資産法・時価純資産法・類似会社比較法(マルチプル法)で算定した株式価値・事業価値をもとに譲渡額を交渉するケースが多いとしています。そのうえで、算出された金額が必ずそのまま譲渡額になるわけではなく、当事者同士が最終的に合意した金額が譲渡額になる、と書いています。用語集では、バリュエーションの評価額を「譲渡額を決める際の目安の一つ」と位置づけています。

避けたい判断 こうすればOK
「エンジニア1人あたり○万円」「売上の○倍」を、そのまま自社の価格にする 人数や売上は規模の目安にとどめ、利益が何から生まれ、買収後も残るかを分けて見る
1本の記事の数字を、自社の売却希望額の根拠にする 評価方法を選び、前提(どの利益を何年分見るか)を自分で説明できるようにする
算定結果が出たら、それが売れる価格だと考える 算定結果は交渉の出発点。最終は買い手との合意で決まると理解する

利益を基準にするなら、純資産に1〜3年分の調整後利益を足す形が出発点になる

結論: 本記事の整理では、中小のSES会社はまず純資産を実態に直し、そこに数年分の利益を足す形を出発点として考えます。ガイドラインが例に挙げる利益は税引後利益や経常利益等で、本記事は買収後に残る姿に直した調整後営業利益を使います。足す年数を左右するのが、次の章で見る価格要因です。

ガイドラインの参考資料2「中小M&Aの譲渡額の算定方法」は、手法を次のように説明しています。

手法 何を見るか SES会社で確かめる点(本記事の整理)
簿価純資産法 貸借対照表の純資産 帳簿と実態の差が大きい場合や、簿外の資産・負債がある場合は、本来の価値を表さないことがある(ガイドライン)。SESは設備より人が価値の中心なので、純資産だけでは価値の大部分が出ない
時価純資産法(修正簿価純資産法) 資産・負債を時価で見直した純資産。保険の解約返戻金や退職給付債務など簿外の項目も時価評価する 売掛金の回収可能性、役員貸付金、退職金の引当、未払の賃金や有給休暇の精算などを実態に直す(次の章以降で触れます)
時価(または簿価)純資産に数年分の利益を加算 純資産に、任意の利益を数年分足した額を譲渡額とする場合もある。利益の種類(税引後利益または経常利益等)と年数(通常1年〜3年)は事例ごとに異なり、交渉で決まるケースが多い(参考資料2) 利益は決算書の数字ではなく、買収後に残る姿に直した「調整後営業利益」で見る
類似会社比較法(EV/EBITDA倍率法) 類似した上場会社の評価倍率から、EBITDA(簡易的には営業利益+減価償却費)をもとに株式価値を出す。中小は流動性が低いため、30%程度ディスカウントするケースもある(参考資料2) 選んだ上場会社が自社に似ているかに注意が要る(ガイドライン)。SES会社は設備が小さく減価償却費が小さいので、営業利益とEBITDAの差は小さくなりやすい

調整後営業利益は、決算書の営業利益から、売却後に続かない項目を直した利益です。次は仮の数字での計算例で、実際の会社や相場を示すものではありません。

仮の調整(単位:万円) A社 B社
営業利益(決算書どおり) 7,500 2,200
役員報酬のうち、後任に払う想定額を超える分を戻す +500 +1,200
一過性の費用(オフィス移転費など)を戻す 0 +300
社長が担っている営業・顧客対応を、後任の人件費として差し引く 0 −700
調整後営業利益 8,000 3,000

B社は、社長報酬が大きく見える一方で、社長が営業と主要顧客の窓口を担っています。その役割を別の人が担う費用を引くと、戻した報酬の一部が消えます。「報酬を戻して利益を大きく見せる」だけでは、買い手の見方とは合いません。

稼働率・商流・正社員比率は、利益が続く確からしさとして価格に効く

結論: 同じ営業利益でも、稼働が安定し、商流が元請に近く、正社員が中心の会社ほど、足す年数を長く見てもらいやすいと整理できます。以下は本記事の整理で、年数や倍率を決める公式があるわけではありません。

要因 見るデータ 評価されやすい状態 評価が下がりやすい状態
稼働率 月次の技術者別の稼働・待機(請求が発生している割合) 待機が短く、月ごとのぶれが小さい 待機が長引く技術者がいる、特定の月に待機が集中する
商流 顧客別のエンド直・元請・二次請け以下の比率 エンド直・元請に近い契約が多い 二次請け以下が中心で、上位の事情で契約が動く
正社員比率 技術者のうち正社員・外注(BP)・個人事業主の内訳 正社員が中心で、定着が確認できる 外注への依存が高く、会社に残る技術者が少ない
顧客集中 上位1〜3社の売上比率と契約更新の履歴 特定の1社への依存が低い 1社の契約終了が利益に直結する
社長依存 営業・顧客窓口・採用を担う人 営業や窓口が社長以外にもいる 社長が抜けると案件の獲得と顧客対応が止まる

稼働率と待機で利益がどう動くかの計算は、SES会社の利益率で扱います。正社員とBP(外注)で粗利の構造が違う点も、そちらで整理します。契約の更新履歴の見方や、買収後に技術者が残る条件は、SES会社の人材承継に譲ります。

同じ売上10億円でも、仮の2社では評価が最大で約2.6倍開く

結論: 売上と純資産がほぼ同じでも、利益の質が違えば、純資産に足す年数が違い、価格の幅は大きく開きます。下の2社は架空の会社で、数字はすべて仮定です。

項目(仮定) A社 B社
売上高 10億円 10億円
技術者数 50名(正社員46・外注4) 55名(正社員30・外注25)
稼働率(請求が発生している技術者の割合) 96% 88%
商流 エンド直・元請が約7割 二次請け以下が約7割
上位1社の売上比率 25% 55%
営業・顧客窓口 営業担当が複数いる 社長が主要顧客の窓口
調整後営業利益 8,000万円 3,000万円
時価純資産 1億5,000万円 1億2,000万円

調整後営業利益と純資産は、前の章の調整表と同じ数字です。これに、ガイドラインの参考資料2が示す「通常1年〜3年」の年数を当てはめます(計算は「純資産+調整後営業利益×年数」)。

年数の置き方(仮定) A社 B社
1年分を足す 2億3,000万円 1億5,000万円
3年分を足す 3億9,000万円 2億1,000万円
A社は3年分、B社は1年分と置く場合 3億9,000万円 1億5,000万円

最後の行では、A社はB社の2.6倍(3億9,000万円÷1億5,000万円)です。売上は同じですが、B社は稼働が低く、二次請け以下の商流が中心で、1社に売上の過半が集まり、社長に顧客関係が集中しています。買い手から見ると、これらはどれも「利益が来期以降も残るか」への疑問になります。どの年数を当てはめるかは、実際には買い手との交渉で決まり、上の置き方はあくまで説明のための仮定です。 実際の価格でも、倍率の差でもありません。

公開されたM&Aの取得価額は、希望価格や相場の代わりにならない

結論: 上場企業の適時開示は、SES会社が実際にいくらで譲渡されたかを確かめられる一次資料です。ただし1件ごとに前提が違い、売り手の希望価格と比べても、相場にはなりません。

2026年に上場企業が開示した、SES事業を営む会社の株式取得を3件並べます。「営業利益比」「純資産比」は、開示された数字から本記事で単純に割った値で、開示資料にある比率ではありません。

対象会社(開示日・買い手) 売上高 営業利益 純資産 株式の取得価額 営業利益比 純資産比
YNP(2026年3月2日・fonfun。直近期は2025年8月期、100%取得) 9億7,585万円 9,085万円 1億9,941万円 2億5,300万円 約2.8倍 約1.3倍
ICS(2026年9月29日・fonfun。直近期は2026年8月期の見込値、100%取得) 7億9,566万円 2,934万円 1億9,478万円 1億1,000万円 約3.7倍 約0.6倍
日本クラウド(2026年7月29日・システムソフト。2026年4月期、67.4%取得) 2億7,600万円(開示は百万円単位) −2,600万円(営業損失) 1億6,000万円(同) 400万円(67.4%分。アドバイザリー費用等2,700万円は別) 算出せず(営業損失) 100%に単純換算して約600万円。純資産の約0.04倍

読み取れることは次の3点です。

  • 同じ「SES会社」でも、取得価額と利益・純資産の関係はそろいません。 YNPは純資産を上回り、ICSは純資産を下回り、日本クラウドは営業損失で純資産をはるかに下回っています。なぜそうなったかは、開示資料からは分かりません。
  • 開示された価額は、買い手の事情を含んだ合意額です。 fonfunは両件で、取得価額を、直近の業績・将来の収益計画・DCF法による第三者評価・同社グループとの事業シナジーを総合的に勘案し、当事者間の協議により合意した金額と説明しています。シナジーの大きさは買い手ごとに違います。
  • 開示の数字には、読むときの注意が付きます。 YNPとICSの財務数値は監査法人の監査を受けていないと注記されています。ICSの2026年8月期は見込値で、親会社向けの貸付金1億9,283万円がクロージング前に清算される前提も付いています。日本クラウドは、SES事業を営む会社の株式の一部取得として開示されています。

3件は、SES会社のM&A全体を代表するものではありません。倍率の平均や中央値を作る件数ではなく、本記事は相場として使いません。売り手の希望価格(売り手が示す金額)も、同じく合意額ではありません。希望価格と開示された取得価額を並べるときは、取得価額が「何を含む額か」「いつの業績が基準か」「何%の取得か」を確かめてから読みます。

売却前に確認したい財務・人材データは、稼働表と請求額の照合から始める

結論: 価格の根拠になるのは、利益が残ることを示す資料です。決算書に加えて、技術者別の稼働表、顧客別の売上、簿外になりうる労務の負債を、先に自分で並べておきます。

確認する資料 何を示すか 価格への反映先
技術者別の月次稼働表と請求書の照合 稼働率と待機、請求額が一致しているか 調整後営業利益、足す年数
顧客別の売上・粗利・契約更新の履歴 顧客集中と契約の続きやすさ 足す年数
技術者の内訳(正社員・外注・個人事業主)と入退社の履歴 正社員比率と定着 足す年数、買い手の関心
役員報酬、社長が担っている役割の一覧 後任が必要な役割と、その費用 調整後営業利益(前の調整表)
残業時間・賃金台帳・有給休暇・退職金規程 簿外になりうる労務の負債 時価純資産
外注先との契約と支払の履歴 外注の依存度と契約上の確認点 利益の再現性

労務の負債は、時価純資産法で簿外の負債(退職給付債務など)も時価で見る、というガイドラインの説明に当たる項目です。賃金の請求権(割増賃金を含む)の消滅時効は、2020年4月1日以降に支払期日が来る賃金について5年とされ、当分の間は3年とされています(厚生労働省)。過去3年分の残業時間と賃金台帳の整合は、売却前に自分で確かめておくと、買い手の確認で慌てずに済みます。個別の金額や適用は、社会保険労務士・弁護士など専門家に確認してください。

ガイドラインは、実務では買い手が数年分の税務申告書の確認と経営者へのヒアリングだけで調査を終えることもある、とも書いています。買い手がどこまで調べるかは相手次第です。稼働表と請求額の整合を売り手が示せれば、確認の範囲は絞りやすくなります。買い手側が稼働表をどう照合するかは、SES会社の買収DDで整理しています。買い手の類型ごとに評価点が違う点は、SES会社を買収するのは誰かで扱います。

自社の場合を確認する 売上・利益・稼働人員から自社の位置を見たいとき → 事業価値を確認する

まとめ

  • SES会社の売却価格に、単一の相場はありません。ガイドラインが示すとおり、算定結果は目安で、最終は当事者の合意で決まります。
  • 利益基準の出発点の一つは、実態に直した純資産に数年分の利益(ガイドラインの例は税引後利益・経常利益等、年数は通常1年〜3年)を足す形です。本記事では利益を調整後営業利益に直して考えます。年数を左右するのは、稼働率・商流・正社員比率・顧客集中・社長依存から見える、利益が残る確からしさです。
  • 上場企業の適時開示は、価格の実例を確かめられる一次資料です。ただし取得割合・業績の基準期・買い手のシナジーが件ごとに違い、希望価格や相場の代わりにはなりません。売却前は、稼働表と請求額、顧客別売上、労務データを先に並べます。

よくある質問(FAQ)

Q1. SES会社の売却相場はいくらですか? A. 本記事では単一の相場を示していません。中小M&Aガイドライン(第3版)は、算定した金額がそのまま譲渡額になるとは限らず、当事者が最終的に合意した金額が譲渡額になるとしています。上場企業の開示例でも、利益や純資産に対する取得価額の比はそろっていません。

Q2. 「営業利益の○倍」は使えますか? A. 自社の価格に直接は使えません。中小M&Aでは、純資産に数年分の利益を足す形があり、年数は「通常1年〜3年」で事例ごとの交渉で決まる、とガイドラインの参考資料2が説明しています。倍率や年数が示された記事は、その前提(どの利益を何年分見るか)を確かめて読んでください。

Q3. エンジニアの人数が多いほど、高く売れますか? A. 人数は規模の目安で、それだけでは決まりません。本記事の仮の2社では、売上が同じでも、稼働率・商流・顧客集中・社長依存の違いで評価が最大約2.6倍開く計算になりました(数字はすべて仮定です)。買い手が見るのは、人数に対して利益が残るかどうかです。

Q4. 営業利益は決算書の数字をそのまま使えばよいですか? A. 決算書の数字をそのまま使うとは限りません。役員報酬のうち後任に払う想定額を超える分や一過性の費用を戻す一方で、社長が担っている営業・顧客対応を後任が担う費用を差し引くなど、売却後の姿に直した調整後営業利益で見ます。どの調整が認められるかは買い手との交渉です。

Q5. 上場企業が買ったSES会社の価格は、自社の参考になりますか? A. 参考にはなりますが、相場にはなりません。本記事で読んだ3件は、取得割合(67.4%と100%)、業績の基準期、監査の有無、買い手のシナジーがそれぞれ違い、純資産を上回る例と下回る例の両方がありました。件数も少なく、平均や中央値の算出には使えません。

Q6. 売却前に、まず何を準備すればよいですか? A. 技術者別の月次稼働表と請求額の照合、顧客別の売上と契約更新の履歴、技術者の内訳と入退社、社長が担っている役割の一覧、残業・賃金台帳・退職金などの労務データです。労務の負債や個別の税務・法務の判断は、社会保険労務士・税理士・弁護士などの専門家に確認してください。

出典

確認日:2026-10-23

  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
  • 同 参考資料2「中小M&Aの譲渡額の算定方法」 https://www.meti.go.jp/files/900016261.pdf
  • 株式会社fonfun「株式会社YNPの株式の取得(完全子会社化)に関するお知らせ」(2026年3月2日)https://www.fonfun.co.jp/wp-content/uploads/2026/03/20260302001.pdf
  • 株式会社fonfun「ICS株式会社の株式の取得(完全子会社化)に関するお知らせ」(2026年9月29日)https://www.fonfun.co.jp/ir/ir-news/31216/
  • 株式会社システムソフト「子会社の異動を伴う株式の取得に関するお知らせ」(2026年7月29日)https://www.systemsoft.co.jp/wp-content/uploads/2026/07/kogaisha20260729.pdf
  • 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「賃金請求権の消滅時効は、どのように変更されたのでしょうか?」 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/chingin/q9.html

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