外壁塗装 M&A 事業承継 廃業vs譲渡

一級塗装技能士の在籍は会社売却の査定をどう動かすか|M&Aで“人が資産”になる構造

「固定資産も乏しいうちの会社に、本当に値段が付くのか」——後継者がいなくて出口を探す塗装会社オーナー、そして塗装会社を取り込みたい買い手へ。塗装は請負500万円未満の軽微な工事が多く、許可そのものの希少性は解体や産廃ほど高くありません。だからこそ塗装M&Aで値段になるのは、建設業許可(塗装工事業)の専任技術者要件を満たせる「有資格者=一級/二級塗装技能士という人」そのものです。本記事は、技能士の在籍が会社の査定をどう動かすのか、その構造と整え方を業種特化で解きほぐします。相場の算定式そのものは親記事(売却相場)へ送り、ここは「人がどう値段になるか」に絞ります。

この記事の結論(先に要点だけ)

  • 塗装の建設業許可は、営業所ごとの「専任技術者」が要件です。塗装工事業(一般建設業)では一級/二級塗装技能士、または実務経験10年等が専任技術者になり得ます(塗装工事業は指定建設業ではありません)[C-12][C-14]。
  • 塗装は軽微な工事〔請負500万円未満〕は許可不要で営業できる現場が広く、許可そのものの希少性は相対的に薄い[C-11]。→ だから「許可を支えられる有資格者(技能士)という“人”」が買収対価の主役になりやすいのです[C-12]。
  • 専任技術者を欠いて補充できなければ許可要件を満たせなくなるため、買い手は許可・施工力を確保しようと“人ごと”を欲しがり、株式取得(会社ごと)でなく人員のみを引き受ける吸収合併/事業譲渡を選ぶことがあります[C-15][C-06]。
  • 技能士の在籍数・若さ・引継ぎ可否は、年買法の営業権を押し上げる方向に働きます(具体的な単価・倍率は案件次第で、ここでは断定しません)[C-02][C-04]。
  • 許可・有資格者は廃業すればゼロ、人ごと譲れば値が付く“見えない資産”です。可否や手続きは許可行政庁・行政書士で運用が異なるため、個別は専門家へ確認のうえ、まずは自社の“人”という資産を棚卸しすることから始めましょう。

§1 塗装の建設業許可は“人”で支えられている — 専任技術者要件と技能士の役割

査定の話に入る前に、塗装の許可が何で・誰で支えられているかを押さえます。ここが「人=資産」の起点になるからです。

塗装会社の専任技術者要件とは、建設業許可(塗装工事業)を受けるために、営業所ごとに常勤で置く技術者の資格・経験の要件をいいます。専任技術者は許可の必須要件で、営業所に常勤していることが必要です[C-14]。

塗装工事業(一般建設業)でこの専任技術者になり得るのは、一級/二級塗装技能士、または実務経験10年等です[C-12][C-14]。一級・二級塗装技能士は、技能検定(職業能力開発促進法に基づく国家検定・厚生労働省所管)の合格者で、「建築塗装作業」などの作業区分があり、合格すると「技能士」と名乗れます[C-12]。なお二級技能士は、合格後3年の実務経験を加えることで要件を満たす扱いとされています[C-12]。

ここで押さえておきたいのが、塗装工事業は「指定建設業」ではないという点です。指定建設業は土木・建築・電気・管・鋼構造物・舗装・造園の7業種のみで、塗装工事業は含まれません[C-14]。指定建設業では特定建設業の専任技術者・監理技術者が一級国家資格者などに限られ実務経験では認められませんが、塗装はその対象外のため、実務経験10年でも専任技術者になれる柔軟性があります。つまり塗装は、許可を支える「人」の確保の選択肢が比較的広い業種だといえます。

そしてもう一つの前提が、塗装は軽微な工事〔請負500万円未満〕なら許可不要で営業できる、という点です(判定は税込・材料費込み、分割合算で行います)[C-11]。許可なしで営業できる現場が広いため、「許可そのものの希少性」は解体や産廃ほど高くありません。だからこそ、塗装M&Aで効くのは「許可の有無」よりも「許可を支えられる人(専任技術者になれる有資格者)の有無」——これが、後で見る「技能士という見えない資産」の出発点です。

なお、ここで言う営業所の「専任技術者」と、工事現場ごとに置く「主任技術者・監理技術者」は別の制度です。主任技術者・監理技術者は工事現場における施工の技術上の管理をつかさどる配置技術者で、元請(特定建設業者)が締結した下請契約の請負代金合計が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上になる場合に、主任技術者に代えて監理技術者を置きます(建設業法26条)[C-13]。査定の本筋からはそれるため深追いはしませんが、「営業所側の専任技術者=許可維持の土台」「現場側の配置技術者=施工キャパの裏付け」と、いずれにも有資格者が要る、という重なりだけ押さえておけば十分です。

塗装の建設業許可は“人”で支えられる:塗装工事業(一般建設業)の専任技術者=一級/二級塗装技能士 or 実務経験10年等(塗装工事業は指定建設業でない)→許可維持の土台。軽微な工事500万円未満は許可不要

図解F1:塗装の許可は“紙”でなく“人(専任技術者)”で支えられる構造。塗装工事業は指定建設業ではなく、技能士または実務経験10年等で要件を満たせます。軽微な工事500万円未満は許可不要です。

外壁塗装業界の需要動向や将来性の全体像は、外壁塗装業界の将来性・需要動向はこちらで俯瞰しています。本記事(技能士の査定価値)と併せてご覧ください。

注:専任技術者の個別の充足判断(誰が要件を満たすか・実務経験の証明方法など)や許可の維持・変更の手続きは、許可行政庁や個別事情で運用が異なります。具体的な可否・手続きは行政書士・許可行政庁へご確認ください。


§2 なぜ買い手は“人だけ”を欲しがるのか — 株式取得 vs 人員のみ引受の力学

査定の各論に入る前に、なぜ買い手が“人(技能士)”を欲しがり、どんなスキームで引き受けるのか、その力学を整理します。

起点は§1で見た専任技術者要件です。専任技術者は許可の要件のため、退職などで欠けて補充できなければ、要件を満たせなくなります。実務上は、廃業届(建設業法12条)の提出により、許可行政庁が満了日を待たずに建設業許可を取り消す扱いがあります[C-15]。つまり、塗装の許可・施工力は「専任技術者になれる有資格者が、承継後も残るか」にかかっている——これが、買い手が“人ごと”を欲しがる制度的な根拠です。

ただし「専任技術者が抜けたら必ず即・許可取消」というわけではありません。補充できれば許可は維持でき、不在になった場合も変更届で対応する余地があります。取消の可否・期限・手続きは許可行政庁で運用に差があるため、個別は許可行政庁・行政書士へ確認してください(断定はしません)。

その前提で、買い手が技能士(有資格者)を引き受ける主なスキームは2つに分かれます。

ひとつは株式取得(株式譲渡)です。会社ごと取得するため法人格は変わらず、建設業許可は会社に帰属したまま原則として継続します。許可も有資格者の雇用も“まとめて”会社に残せるのが利点です。

もうひとつが、人員のみ/事業のみを引き受ける吸収合併・事業譲渡です[C-06]。塗装は許可そのものの希少性が薄い分、買い手には「会社の簿外リスクごと買う」より「許可を支えられる人と施工力だけを取り込む」動機が働く場面があります。このとき主役になるのは、会社の器ではなく“人(技能士)”そのものです。

スキーム別の許可承継の制度詳細(事業譲渡の事前認可・承継のタイミングなど)は本記事では深追いせず、建設業のM&A・建設業許可承継の全体像へ送ります。本記事は「塗装の技能士という人がどう値段になるか」に絞ります。

買い手が“人ごと買う”動機を後押しするマクロ背景も見ておきましょう。建設業の後継者不在率は57.3%(2025年)で全業種のなかでも高い水準にあります(全国平均は50.1%/ピークの71.4%〔2018年〕からは改善傾向)[C-01]。職人の高齢化と採用難が重なり、改修・リフォーム需要は中長期で堅調です——建築物のリフォーム・リニューアル受注高は令和6年度計で13兆8,303億円(前年度比+4.2%/住宅▲3.3%・非住宅+7.7%)[C-10]。需要はあるのに担い手が枯れる構図のなか、買い手には「採用代替として、許可を支えられる人ごと買う」需要が生まれているのです(足元の傾向であり、将来の件数増を断定するものではありません)。

補足:塗装を含む職別工事業は薄利な業態です。職別工事業(塗装を含む近似)の売上高営業利益率は▲0.42%(令和4年度=営業赤字、建設業全体は0.33%)[C-05]。固定資産も利益も厚くないからこそ、買い手の目は「決算書に載らない人(技能士)」に向きます。なお、この数値は塗装単独ではなく職別工事業(塗装を含む区分)の近似値です[C-05]。

買い手はなぜ“人だけ”を欲しがるか:専任技術者が抜けると許可維持に影響 → 株式取得(会社ごと)vs 人員のみ引受(吸収合併・事業譲渡)で技能士を引き受け、許可・施工力を確保

図解F2:「人員のみ引受」の力学。許可は人(専任技術者)で支えられるため、買い手は許可・施工力を確保しようと“人ごと”を欲しがります。スキーム選択は個別事情・専門家確認が前提です。

誰が・なぜ塗装会社を買うのか(買い手タイプ別の事例)は、塗装会社のM&A・売却事例で整理しています。


§3 技能士の在籍が営業権を押し上げる構造 — 在籍数・若さ・引継ぎ可否の3変数

ここが本記事の中核です。技能士の在籍が、相場の数式(年買法)の中の「営業権」をどの方向に動かすのかを、3つの変数で整理します。金額そのものは断定しません。

まず相場の数式の確認(送り出し)

中小塗装M&Aは、実務では年買法=時価純資産+営業権(営業権は概ね営業利益の2〜4年分/案件により幅)で“目安”を置くことがあります[C-02]。ただし年買法に確たる理論的裏付けはなく、塗装会社に「これが相場」という単一の金額は存在しません[C-02]。算定式そのものの解説は親記事へ送り、本記事は「営業権を技能士がどう動かすか」に集中します。

相場の算定式(年買法・EBITDA倍率の目安)や税引後の手取りの詳細は、外壁塗装会社のM&A相場・売却価格の目安(年買法と営業権)をご覧ください。本記事では数式の中身までは踏み込みません。

その営業権を、技能士の在籍が次の3変数で押し上げる方向に働きます。

変数① 在籍数 — 許可・施工力を“面”で支えられるか

技能士が複数在籍していれば、専任技術者を確保しやすく許可維持が安定し、施工キャパシティも読みやすくなります。買い手から見れば「承継後も許可・施工力が続く」と評価しやすく、営業権を押し上げる方向に働きます[C-12][C-04]。逆に社長一人だけが有資格者だと、§3.5で見る属人化リスクに直結します。

変数② 若さ — 承継後も“続く”資産か

有資格者が高齢者ばかりだと、承継後に引退で要件を失うリスクが残ります。一方、若手の有資格者がいる、あるいは育成体制があるなら、「続く資産」として評価が上がる方向に働きます[C-04]。買い手は「今だけ」でなく「数年後も許可・施工力が回るか」を見るためです。

変数③ 引継ぎ可否 — 人ごと残るか・引き抜きで消えないか

雇用の継続、キーマン条項、技能の標準化(属人的な技能のマニュアル化)などで「人ごと残る」状態に整っていれば、評価が上がる方向に働きます[C-04]。逆に、引き抜き前提で消えてしまう人材は、営業権に乗りにくくなります。買い手にとって最も怖いのは「買った直後に有資格者が辞めて許可・施工力が崩れる」ことだからです。

3Cで「買われる強み」を棚卸しする

この3変数を、3Cで言語化しておくと判断が早くなります。

  • 買い手:許可維持・施工力の確保・採用代替として、専任技術者になれる有資格者を“人ごと”取り込みたい。
  • 競合:同業・リフォーム会社の内製化や採用難で、有資格者の奪い合いが起きている。
  • 自社:在籍数・若さ・引継ぎ可否の3変数を整え、“人ごと譲れる状態”にできるか。

自社の3変数を棚卸しすれば、「うちには値段が付かない」という思い込みが、「うちの“人”は買い手が欲しがる資産だ」という具体的な強みに変わります。

★金額についての注意:「技能士1人=査定◯円」「在籍◯名で営業権◯倍/◯%アップ」といった単価・倍率は、案件次第で大きく変わり、ここでは一切示しません。在籍は営業権を「押し上げる方向に働く」——その構造と3変数をつかむことが目的です。具体的な金額感は、相場の数式は親記事外壁塗装会社のM&A相場で、自社の概算は無料相談でご確認ください。

技能士の在籍が営業権を押し上げる:在籍数(許可・施工力を面で支える)+若さ(続く資産)+引継ぎ可否(人ごと残る)→ 年買法の営業権↑(具体額は案件次第)

図解F3:技能士の在籍が営業権を押し上げる構造。在籍数・若さ・引継ぎ可否の3変数が、年買法の営業権を上げる方向に働きます。具体的な金額・倍率は案件により異なります。

▶ 自社の“人”という資産がいくらになるか、無料で相談する

「うちの技能士は会社の値段にどう効くのか」を、有資格者の棚卸しを含めてご相談いただけます(具体的な査定額・倍率は案件により異なり、相場の数式は親記事・個別は専門家への確認が前提です)。 → 自社の“人”という資産がいくらになるか無料相談する


§3.5 社長=唯一の技能士という落とし穴 — 属人化が査定を下げ、整えると上がる

塗装M&Aで最も査定を下げやすいのが、ここです。固定資産が乏しくても“人ごと残る会社”に整えれば値が付きます——属人化はそれを潰してしまいます。

属人化の典型は、社長が唯一の有資格者で、営業も元請との関係も施工技能も社長個人に紐づいているケースです。この状態がなぜ査定を下げるかというと、社長が退任した瞬間に、専任技術者要件・施工力・取引関係が一斉に失われるリスクがあるからです[C-04]。買い手はそれを見越して「どうせ引き抜き前提・許可は自前で取り直す」という前提で評価を下げる方向に動きがちです。

逆に、次のように整えるほど、査定は上がる方向に動きます。

  • ① 有資格者を社長以外にも確保する(在籍数):専任技術者になれる人を増やし、社長一人依存から抜ける。
  • ② 若手技能士を育成・登用する(若さ):承継後も「続く資産」にする。
  • ③ 雇用継続・技能の標準化・元請契約の文書化(引継ぎ可否):技能と取引を「社長個人」でなく「会社」に帰属させる。
  • ④ 社長の現場依存を外す(属人化の解消):社長が抜けても回る体制に近づける。

ここで多くのオーナーが抱く不安が、「人だけ引き抜かれて、会社は買い叩かれないか」というものです。これに対する考え方はこうです。人ごと残る状態に整え、雇用継続やキーマン条項を前提に交渉すれば、“人”が営業権として値段に乗りやすくなり、引き抜き前提の安値を避けられる方向に働きます。逆に、属人化したまま・口約束のままだと、「人は残らない」と見られて評価が乗りにくくなります。ただし、雇用継続条項やキーマン条項を実際に置けるか・どう設計するかは個別の交渉次第のため、契約・法務の論点は弁護士へご相談ください。

廃業してしまえば、技能士の雇用関係も許可も価値ゼロで消えます。廃業と売却の手取りの損得は、塗装業は廃業と売却どっちが得か(費用と手取り比較)で比較しています。本記事は「人ごと譲れる状態に整える」ことに絞っています。

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§4【M&A・投資視点】“人という見えない資産”をどう値段に乗せるか — 買い手のDDと売り手の整え方

ここからは、技能士を「資産」として見る視点です。許可を支える有資格者は、決算書に金額では載りません。けれど廃業すればゼロになり、人ごと譲れば買い手が欲しがる価値になる“見えない資産”です。塗装は許可の希少性が薄い分、買収対価の主役はこの“人”になりやすい——だからこそ出口は、「たたむ」「人を引き抜かれて終わる」より先に、「人ごと譲れる状態に整えて売る」を検討する価値があります。

買い手は“人”をどう見るか — チェックポイント3つ

1. 専任技術者要件を満たせる有資格者が承継後も残るか。一級/二級塗装技能士の在籍数・常勤性・年齢構成を見ます。社長一人に依存していれば減点要因です[C-12][C-04]。 2. 技能・取引が会社に帰属しているか。属人化していて引き抜きで消える状態なら減点、技能の標準化・雇用継続・元請契約の文書化で「会社に残る」状態なら加点です[C-04]。 3. スキーム適合。許可・施工力をどう確保するか——株式取得で会社ごとか、人員のみ引受か。塗装工事業は指定建設業ではないため、実務経験者でも専任技術者になれる柔軟性があり、人材確保の選択肢が比較的広い点も評価されます[C-06][C-12]。

編集部より:買い手が最初に確認するのは“専任技術者になれる人が承継後も残るか”です

実際の建設・塗装領域のM&Aで、買い手が初期に確認するのは、まず「専任技術者要件を満たせる有資格者(一級/二級塗装技能士)が、選んだスキームで承継後も残るか」です。塗装は許可そのものの希少性が薄い分、評価の重心は“人”に寄ります。社長が唯一の技能士で営業も施工も属人化している会社は、需要があっても「引き抜き前提」で評価が下がりがちです。逆に、有資格者が社長以外にも定着し、若手がいて、技能・取引が会社に帰属している会社は、“人ごと”の価値が営業権に乗りやすい。許可の「取り方」や資格の「取り方」だけ読んでも、この“買い手が人をどう見るか”は見えてきません。(※本コラムは当社の建設・塗装領域におけるM&A実務での一般的な所感です)

売り手が“人”を値段に乗せる準備 — 3つ

1. 有資格者の棚卸し・見える化。一級/二級塗装技能士の人数・年齢・常勤性、実務経験10年に該当する人を整理し、「人ごと承継できる状態」を提示できるようにします。 2. 属人化の解消。社長以外の有資格者の確保、若手育成、技能の標準化、元請関係の会社帰属化を進め、引き抜き前提の安値を避けます。 3. 価額・税務・許認可は専門家へ早期相談。具体的な査定額・倍率は案件次第で、相場の数式は親記事外壁塗装会社のM&A相場、個別の税務は税理士、許可の手続きは行政書士・許可行政庁へ。

相場・金額の決まり方は別記事へ(断定回避)

技能士の在籍は営業権を押し上げる方向に働きますが、相場の算定式(年買法・EBITDA倍率)と金額レンジは親記事外壁塗装会社のM&A相場へ送り出し、本記事では「在籍数・若さ・引継ぎ可否が評価を左右する」という定性的な整理に留めます。「技能士◯名=査定◯円/◯倍」のような断定単価は示しません。なお、EV/EBITDA倍率(例3〜5倍)を相場として目にすることがありますが、これは全業界の平均的な参考値で塗装特化の数字ではありません[C-03]。塗装に固有の一次データは存在しないため、金額の根拠としては用いません。

手取り(税引後)の考え方

第三者へのM&A売却で個人株主が株式売却益を得た場合は、申告分離課税で20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の世界です[C-08](実際の税額は取得費等で変わるため計算は税理士へ)。事業譲渡は課税の入口が異なります。ここで注意したいのが事業承継税制です。事業承継税制(贈与・相続による株式取得の納税猶予制度)は親族内・社内承継の制度で、第三者へのM&A売却とは別物であり、「M&Aで事業承継税制を使って節税できる」という理解は正しくありません[C-07][C-08]。混同しないようにしてください。

3Cで見る — 買い手・競合・自社

整理すると、買い手は許可維持・施工力・採用代替として有資格者(技能士)を取り込みたい、競合は同業・リフォーム会社の内製化や採用難で有資格者を奪い合っている、そして自社は3変数を整えて“人ごと譲れる状態”にできるか——という構図です。買い手が実在することは、売り手にとって「人を引き抜かれて終わるのでは」という不安への安心材料にもなります。

掲載中の建設・塗装関連のM&A案件は、掲載中の建設・塗装関連のM&A案件を見るからご覧いただけます(塗装専用の一覧はありませんが、建設・不動産・住宅の案件から「塗装」で検索できます)。

▶ “人”ごと譲れる価値を、無料で相談する

売り手の方は「“人”ごと譲れる価値」を、買い手の方は「許可・有資格者ごと取り込める案件」を、それぞれ無料でご相談いただけます。 → 売り手の方:“人”ごと譲れる価値を無料相談する → 買い手の方:許可・有資格者ごと取り込める案件を相談する


§5 よくある質問(FAQ)

Q1. 一級塗装技能士が在籍すると、会社の売却価格は上がりますか? A. 上がる方向に働きます。一級/二級塗装技能士は塗装工事業(一般建設業)の専任技術者になり得るため[C-12]、許可と施工力の土台として営業権を押し上げます[C-04]。ただし「1人=◯円」のような単価は案件次第で、ここでは断定しません。効くのは在籍数・若さ・引継ぎ可否の3変数です(→§3)。

Q2. なぜ塗装会社のM&Aで技能士(有資格者)が査定に効くのですか? A. 塗装の建設業許可は、営業所ごとに常勤の専任技術者を置くことが要件で[C-14]、その専任技術者を一級/二級塗装技能士などが担えるからです[C-12]。塗装は軽微な工事500万円未満が許可不要で許可の希少性が薄い分[C-11]、「許可を支えられる人」の有無が評価の重心になります。

Q3. 塗装の建設業許可は、誰がいれば維持できますか? A. 営業所ごとに常勤の専任技術者が必要で、塗装工事業では一級/二級塗装技能士、または実務経験10年等で要件を満たせます(塗装工事業は指定建設業ではありません)[C-12][C-14]。専任技術者を欠いて補充できないと許可の維持に影響します(廃業届により取り消される扱いがあります)が、補充や届出で対応する余地もあり、運用は許可行政庁で異なります[C-15]。個別は行政書士・許可行政庁へご確認ください。

Q4. 買い手はなぜ株式取得でなく、人員だけ引き受ける(吸収合併・事業譲渡)のですか? A. 許可・施工力を確保するうえで重要なのは「専任技術者になれる人」だからです。塗装は許可の希少性が薄い分、買い手には「会社の簿外リスクごと買う」より「人と施工力だけ取り込む」動機が働く場面があります[C-06][C-15]。一方、許可も雇用もまとめて残せる株式取得が選ばれることもあります。スキーム選択は個別事情によります。

Q5. 社長が唯一の塗装技能士で属人化していると、査定はどうなりますか? A. 下がる方向に動きやすくなります。社長退任で専任技術者要件・施工力・取引が一斉に失われるリスクがあるため、買い手は「引き抜き前提」で評価を下げがちです[C-04]。逆に、有資格者を社長以外にも確保し・若返らせ・技能と取引を会社に残す形に整えるほど、評価は上がる方向に動きます(→§3.5)。

Q6. 技能士を引き抜かれて会社が買い叩かれないか心配です。人ごと譲るにはどうすればよいですか? A. 雇用継続やキーマン条項を前提に、技能・取引を会社に帰属させた状態で交渉すれば、“人”が営業権として値段に乗りやすくなり、引き抜き前提の安値を避けられる方向に働きます[C-04]。ただし、こうした条項を実際に置けるか・どう設計するかは個別の交渉次第のため、契約・法務は弁護士へご相談ください。

Q7. うちは固定資産が乏しく軽微工事中心です。それでも値段は付きますか? A. 可能性はあります。塗装は軽微な工事が多く許可の希少性が薄い分[C-11]、買い手は「決算書に載らない人(技能士)」を評価します。有資格者の在籍・定着・引継ぎ可否を整えれば、“人”が営業権に乗ります。固定資産の多寡だけで「二束三文」と決めつける必要はありません(具体額は無料相談・相場は親記事へ)。


§6 まとめ — 技能士がいる“今”、人ごと譲れる状態に整える一手

最後に要点を3つ。

  • 塗装は許可より“人(技能士)”が資産。塗装の許可は営業所ごとの専任技術者で支えられ、塗装工事業では一級/二級塗装技能士、または実務経験10年等が要件を満たせます(塗装工事業は指定建設業ではありません)[C-12][C-14]。軽微な工事500万円未満は許可不要で、許可の希少性は薄い[C-11]。
  • 専任技術者要件が、買い手に“人を欲しがる力学”を生む。専任技術者を欠くと許可維持に影響するため[C-15]、買い手は許可・施工力を確保しようと“人ごと”を欲しがり、株式取得でなく人員のみを引き受ける吸収合併・事業譲渡を選ぶこともあります[C-06]。
  • 在籍数・若さ・引継ぎ可否が、営業権を押し上げる方向に働く[C-02][C-04]。具体的な金額・倍率は案件次第で断定できません(相場の数式は親記事へ)。逆に社長一人依存で属人化していれば、引き抜き前提で査定は下がる方向に動きます。

二分岐でチェックリストにすると、こうなります。

売り手の方(技能士を“人ごと”値段に乗せたい)

  • ☐ 一級・二級塗装技能士の人数・年齢・常勤性・実務経験10年該当者を棚卸ししたか(在籍数・若さの見える化)
  • ☐ 社長以外にも有資格者を確保し、属人化を解いたか(引継ぎ可否)
  • ☐ 技能の標準化・元請契約の文書化で「会社に帰属」する形に整えたか
  • ☐ 廃業する前に、人ごと譲れないかを確認したか

買い手の方

  • ☐ 専任技術者になれる有資格者が、選んだスキームで承継後も残るかをearly DDで確認したか
  • ☐ 有資格者の年齢構成・引き抜きリスク・技能の帰属(会社か個人か)を確認したか

固定資産が乏しくても、塗装会社には“人”という見えない資産があります。廃業すればゼロ、人ごと譲れば値が付く——だから、技能士がいる“今”こそ、有資格者を棚卸しし・属人化を解き・人ごと譲れる状態に整えることが、会社の値段を守る一手になります。相場の算定式は外壁塗装会社のM&A相場、廃業との損得は廃業と売却どっちが得か、誰が買うのかは塗装会社のM&A・売却事例、建設業全般の許可承継は建設業のM&A・許可承継の全体像をご覧ください。

▶ 技能士がいる今、人ごと譲れるか確認する

「うちの“人”はいくらの価値になるか」「人ごと譲れる状態か」を、有資格者の棚卸しを含めて売り手は完全無料でご相談いただけます(個別の可否・税務・許認可は専門家・許可行政庁への確認が前提です)。 → 技能士がいる今、人ごと譲れるか無料相談する


免責

本記事は塗装工事業の技能士(有資格者)の評価・M&A・事業承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の査定額・倍率・成約・節税効果を保証するものではありません。記載した相場・算定式・倍率はあくまで目安・レンジであり、実際の成約価格や評価額を保証するものではありません。財務指標は塗装単独ではなく「職別工事業(塗装を含む区分)」の近似値です。専任技術者要件の充足判断・許可の維持/承継の可否・申請期限・取消の可否は、許可行政庁(国土交通大臣=地方整備局/都道府県知事)および個別事情により運用が異なります。許認可の承継申請・個別の可否判断は行政書士・許可行政庁へ、契約・法務に関する事項は弁護士へ、税務の取り扱いは税理士へご相談ください。本記事の内容は当社が許認可の代理・代行を行うことを示すものではありません。また、本記事には当社サービス(無料相談)へのご案内を含みます。


出典

  • [C-01] 建設業の後継者不在率57.3%(2025・全業種最高/ピーク71.4%(2018)から改善・全国平均50.1%)— 帝国データバンク「後継者不在率動向調査2025」: https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
  • [C-02] 年買法(株式価値=時価純資産+営業利益×概ね2〜4年/年数は案件により幅・理論的裏付けは弱く明確な相場は存在しない)。算定式の詳細は親記事 — 中小M&A実務解説(T3・attributed): https://www.maxus.co.jp/columns/3725
  • [C-03] EV/EBITDA倍率(例3〜5倍)は補助的な参考で全業界平均=塗装特化値ではない — 中小M&A実務解説(T3・attributed)
  • [C-04] 塗装会社の営業権は、技能士の在籍数・若さ・引継ぎ可否・雇用継続・技能の会社帰属で上がる方向/社長属人化・有資格者不在・引き抜き前提で下がる方向(増減の方向性のみ・単価/倍率は出さない)— 当社の建設・塗装領域M&A実務知見(定性)。制度部分は[C-11][C-12][C-13][C-14][C-15]で一次裏取り
  • [C-05] 職別工事業(塗装を含む近似・令和4年度決算)の売上高営業利益率▲0.42%(営業赤字/建設業全体0.33%)。※0.35%は設備工事業の値であり用いない — 建設業情報管理センター(CIIC)「建設業の経営分析(令和4年度)」: https://www.ciic.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/bunseki_R04.pdf
  • [C-06] 株式取得(株式譲渡)は法人格存続のため許可は会社に帰属したまま原則継続/事業譲渡・合併・分割では人員のみ/事業のみの引受もあり得る(許可承継の制度詳細総論は /column/kensetsugyo-ma/ へ。継続の明文ワンライナーは省庁になく一般法理として記述)— 国土交通省 建設業者の地位の承継: https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
  • [C-07] 事業承継税制(贈与・相続の納税猶予制度)は親族内・社内承継の制度で第三者M&A売却とは別物(法人版・特例措置の適用期限 令和9年〔2027〕12/31/提出期限は税制改正で変動のため中小企業庁・国税庁の最新情報を要確認)— 中小企業庁/国税庁 タックスアンサー No.4148: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
  • [C-08] 個人の株式譲渡益は申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)/事業承継税制とは別物 — 国税庁 タックスアンサー No.1463: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
  • [C-10] 建築物リフォーム・リニューアル受注高 令和6年度計13兆8,303億円(+4.2%/住宅4兆1,318億円・▲3.3%/非住宅9兆6,984億円・+7.7%)— 国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告(令和6年度計)」: https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001894226.pdf
  • [C-11] 塗装工事は請負500万円以上で建設業許可(塗装工事業)が必要・500万円未満の軽微な工事は許可不要(税込・材料費込み・分割合算で判定)— 建設業法施行令1条の2・国土交通省 許可の要件: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html
  • [C-12] 一級/二級塗装技能士は技能検定(職業能力開発促進法)の国家資格で、塗装工事業(一般建設業)の専任技術者・主任技術者となり得る(塗装工事業は指定建設業ではなく実務経験10年でも専任技術者になれる/2級技能士は合格後3年の実務経験で要件充足)— 厚生労働省 技能検定/国土交通省 専任技術者となり得る国家資格一覧: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/ability_skill/ginoukentei/syokusyu.html / https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001619998.pdf
  • [C-13] 主任技術者・監理技術者は工事現場ごとの配置技術者で営業所の専任技術者とは別制度。元請(特定建設業者)の下請契約合計5,000万円(建築一式8,000万円)以上で主任技術者に代えて監理技術者を置く(建設業法26条1項・2項)— 国土交通省 監理技術者制度運用マニュアル(国総建第316号・最終改正令和7/1/28): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001859191.pdf
  • [C-14] 指定建設業は土木・建築・電気・管・鋼構造物・舗装・造園の7業種のみで塗装工事業は含まれない。専任技術者は営業所ごとに常勤で設置することが許可要件 — 国土交通省 建設業許可制度(許可の要件): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html
  • [C-15] 専任技術者(営業所技術者)を欠いて補充できないと許可要件を満たせず、廃業届(建設業法12条)の提出により許可行政庁が満了日を待たず建設業許可を取り消す(建設業法29条の5)。ただし補充・14日以内の変更届で対応の余地があり運用は許可行政庁で異なる=断定回避 — 東京都都市整備局 建設業許可(廃業届に基づく取消し): https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kenchiku_kaihatsu/kenchiku_shidou/gyosya_shido/kensetsu/kensetsu08