価格・お金を知る解説

会社売却の税金|株式譲渡と事業譲渡の税率と手取りの計算例

この記事の目次
  1. 会社売却の税金は「誰が何を売るか」で決まる
  2. 株式譲渡の税金(個人株主が売る場合)
  3. 手取りの計算例(株式譲渡・仮の数字)
  4. 事業譲渡の税金
  5. 事業譲渡の計算例(仮の数字)
  6. 株式譲渡と事業譲渡の税金の比較
  7. 税理士に相談したほうがよい場面
  8. よくある質問
  9. まとめ

会社売却の税金とは、会社や事業を売ったときに売り手に生じる所得税・住民税・法人税・消費税などの総称です。 課税のされ方は「誰が」「何を」売るかで変わります。個人の株主が株式を売る株式譲渡では、譲渡所得に合計20.315%の申告分離課税がかかります。会社が事業を売る事業譲渡では、売却益に法人税などがかかり、課税される資産の対価には消費税もかかります。

本記事は、国税庁が公表している情報をもとに、売り方ごとの税金の種類、20.315%の内訳、仮定の数字による手取りの計算例を整理します。税率や制度は国税庁の「令和8年4月1日現在法令等」で確認した内容で、改正で変わる場合があります。売却の全体像はM&Aによる事業売却の手続き完全ガイド、売却価格の考え方は中小M&Aバリュエーション実務にまとめています。

この記事の位置づけ:制度の一般的な説明と、仮の数字による計算例です。読者個人や特定の会社の税額を算出するものではなく、節税の方法を提案するものでもありません。実際の税額や申告は、税理士に確認してください。

会社売却の税金は「誰が何を売るか」で決まる

会社売却の税金は、売る人(個人か法人か)と、売るもの(株式か事業か)の組み合わせで決まります。 まず全体像を表で確認します。

売り方 売る人 課税される主なもの 詳しく見る
株式譲渡(個人株主) 株主個人 株式の譲渡所得に所得税・復興特別所得税・住民税(申告分離課税) 次節
株式譲渡(法人株主) 株主である法人 売却益が法人の所得に入り、法人税の対象 比較の節
事業譲渡(売り手が法人) 会社 売却益に法人税など、課税資産の対価に消費税 事業譲渡の節
事業譲渡(個人事業主) 個人事業主 資産の種類ごとに譲渡所得・事業所得、課税資産の対価に消費税 事業譲渡の節

オーナーが株式を売る株式譲渡では、会社そのものは存続したまま株主が入れ替わるため、売り手が受け取る対価は株主個人に入ります。事業譲渡は、会社が事業の一部または全部を資産・負債・契約の単位で売る方法で、対価は会社に入ります。この「対価が誰に入るか」の違いが、税金の違いの出発点です。

2つの方法の手続き面の違いはM&Aのメリット・デメリットやM&Aクロージングの実務でも触れています。

株式譲渡の税金(個人株主が売る場合)

個人が非上場の会社の株式を売ったときの譲渡所得には、他の所得と分けて計算する申告分離課税がかかります。 税率は所得税15%、住民税5%に加え、復興特別所得税がかかります(国税庁 No.1463)。

税率20.315%の内訳

復興特別所得税は、基準所得税額(所得税)に2.1%を掛けて計算します(同ページ)。所得税15%に対して2.1%なので、0.315%になります。

税目 税率 備考
所得税 15% 申告分離課税
復興特別所得税 0.315%(15%×2.1%) 所得税額に2.1%を掛けて計算
住民税 5%
合計 20.315%

上の内訳は令和8年分までのものです。令和8年度の税制改正により、令和9年1月1日以後に生ずる所得については、復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられ、新たに防衛特別所得税(1%)がかかります。合計の2.1%は変わらないため、合計20.315%も変わりません(所得税15%・復興特別所得税0.165%・防衛特別所得税0.15%・住民税5%)(国税庁 防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし)。

非上場株式は、国税庁の区分では「一般株式等」にあたります(上場株式等以外の株式等)。上場株式等と一般株式等は別々に計算し、上場株式等の譲渡損失を一般株式等の譲渡所得から差し引くことはできません(同ページ)。

譲渡所得の計算式

譲渡所得は、譲渡価額から、取得費と譲渡費用を差し引いて求めます。

譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)

取得費は、株式を取得したときの払込代金や購入代金、購入手数料など、取得に要した費用です。取得費が分からない場合は、売却代金の5%相当額を取得費とすることも認められています(国税庁 No.1464)。設立時に払い込んだ資本金は取得費の一つになりえるため、払込みの記録が残っているかは、売却前に確認しておく項目です。

譲渡費用に何が含まれるかは、個別の取引ごとに判断が必要です。仲介手数料などの扱いは税理士に確認してください。仲介手数料の相場はM&A手数料の相場で整理しています。

申告の時期

譲渡所得の申告は、資産を譲渡した日の属する年の翌年の2月16日から3月15日の間に行います。還付申告になる場合は、2月15日以前でも申告できます(国税庁 No.3102)。対価を分割や成果連動で受け取る契約(アーンアウトなど)の場合、どの年にいくら申告するかは契約の内容で変わります。契約の仕組みはアーンアウトとはを参照し、申告の扱いは税理士に確認してください。

手取りの計算例(株式譲渡・仮の数字)

手取りの計算は、譲渡所得に20.315%を掛けて税額を出し、受け取った対価から費用と税額を引く流れです。 以下は、構造を理解するための仮の数字による例です。

計算例:1億円で株式を売った場合

前提は次のとおりです(すべて仮の数字です)。

  • 売り手:会社の株式を100%持つ個人オーナー
  • 譲渡価額:1億円
  • 取得費:1,000万円(設立時の払込資本金を想定)
  • 譲渡費用:500万円(売却に伴って売り手が支払った費用を想定)
項目 金額 計算
譲渡所得 8,500万円 1億円 −(1,000万円+500万円)
所得税(15%) 1,275万円 8,500万円×15%
復興特別所得税(令和9年分以後は防衛特別所得税と合わせて) 約26.8万円 1,275万円×2.1%
住民税(5%) 425万円 8,500万円×5%
税額の合計 約1,726.8万円 8,500万円×20.315%
税引後の手元の現金 約7,773.2万円 1億円 − 500万円 − 約1,726.8万円

取得費の1,000万円は過去に払い込んだ金額なので、売却時の手元の現金からは引いていません。税額の計算にだけ使います。

売却価額ごとの早見表

譲渡費用は考慮せず、取得費を1,000万円とした簡易な例です。

譲渡価額 譲渡所得 税額(20.315%) 税引後の手元の現金
3,000万円 2,000万円 約406.3万円 約2,593.7万円
5,000万円 4,000万円 約812.6万円 約4,187.4万円
1億円 9,000万円 約1,828.4万円 約8,171.6万円
3億円 2億9,000万円 約5,891.4万円 約2億4,108.6万円

譲渡所得に比例して税額が増えるため、取得費が小さいほど税額は大きくなります。この例は、読者の会社の税額を示すものではありません。取得費、譲渡費用、他の所得との関係、適用できる特例の有無で、実際の税額は変わります。

事業譲渡の税金

事業譲渡は、売るのが会社(または個人事業主)なので、株式譲渡とは課税の仕組みが変わります。 売り手が法人の場合と、個人事業主の場合に分けて見ます。

売り手が法人の場合:売却益に法人税など

会社が事業を売ると、売却の対価が会社に入ります。対価から、売った資産の帳簿上の価額(簿価)を引いた差額が、会社の利益(所得)に入り、法人税などの対象になります。

法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人で、年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%です(国税庁 No.5759。所得が年10億円を超える事業年度は、年800万円以下の部分が17%になります)。このほかに、法人住民税や法人事業税など、法人税以外の税が加わります。

消費税:課税される資産と、されない資産がある

事業譲渡では、消費税の判定が必要になります。消費税は「国内において事業者が事業として対価を得て行う取引」が課税の対象ですが、土地の譲渡や有価証券の譲渡などは非課税です(国税庁 No.6201)。

事業譲渡は、営業権(のれん)、建物、機械、在庫、土地、債権債務などを一括して売る契約になることが多く、国税庁の質疑応答事例では、課税資産と非課税資産を一括して譲渡した場合の対価は、課税資産と非課税資産に合理的に区分して計算するとされています(国税庁 質疑応答事例 営業の譲渡をした場合の対価の額)。同事例では、土地の対価は非課税なので課税対象から外し、営業権や有形固定資産の対価だけを課税対象としています。

消費税の標準税率は10%(消費税7.8%+地方消費税2.2%)です(国税庁 No.6303)。なお、株式の譲渡は有価証券の譲渡にあたるため、消費税は非課税です(No.6201)。事業譲渡では、契約書で資産ごとの対価の内訳をどう定めるかが、消費税の計算に関わります。

個人事業主が事業を売る場合:資産の種類ごとに所得が変わる

個人事業主が事業を売る場合は、売る資産の種類ごとに所得の区分が分かれます。

売る資産 所得の区分と課税方法
営業権(のれん)、機械器具、車両など 総合課税の譲渡所得(他の所得と合算)
棚卸資産(商品・原材料など) 事業所得
土地・建物 他の所得と分けて計算する分離課税

総合課税の譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を引き、特別控除50万円を引いて計算します。所有期間が5年を超えるものは、その2分の1が総合課税の対象になります(国税庁 No.3152、営業権が対象に含まれることは確定申告書等作成コーナー)。土地・建物の譲渡は分離課税で、計算方法が異なります(国税庁 No.1440)。個人事業の事業譲渡の手続きは個人事業の事業譲渡 完全ガイドで扱っています。

事業譲渡の計算例(仮の数字)

事業譲渡では、会社の段階の税金と、その後に株主が受け取る段階の税金を、分けて考える必要があります。 以下は法人税だけを取り出した、仮の数字による例です。

前提は次のとおりです(すべて仮の数字です)。

  • 売り手:資本金1億円以下の中小法人
  • 譲渡価額:1億円(税抜、すべて課税資産と仮定)
  • 譲渡する資産の簿価の合計:2,000万円
  • その事業年度のほかの損益:なし。繰越欠損金もなし
  • 事業年度の所得:年10億円以下
項目 金額 計算
譲渡益(会社の所得) 8,000万円 1億円 − 2,000万円
法人税(年800万円以下の部分) 120万円 800万円×15%
法人税(年800万円超の部分) 1,670.4万円 7,200万円×23.2%
法人税の合計 1,790.4万円
消費税等(対価に上乗せ) 1,000万円 1億円×10%(納付額は仕入れ分の控除などで変わる)

この例では、法人税だけで約1,790万円です。法人住民税や法人事業税などは含んでいないため、実際の会社の税負担はこれより大きくなります。

株主が受け取る段階で、別の課税がある

事業譲渡の対価は会社に入るので、オーナー個人の手元にはまだ入っていません。会社に残ったお金を株主個人が受け取るには、配当や役員退職金として受け取る、会社を清算するなど、別の手順が必要です。その受け取り方に応じて、株主の側で別の課税が生じる場合があります。この段階の課税は、受け取り方、金額、役員の在任期間などで大きく変わるため、本記事では税額を示しません。事業譲渡で売却を検討するときは、会社の段階とオーナーの段階の両方を、税理士に確認してください。

株式譲渡と事業譲渡の税金の比較

税金の面では、株式譲渡は株主1段階の課税で、事業譲渡は会社の課税とその後の株主の課税が重なる構造です。 比較すると次のとおりです。

比較項目 株式譲渡(個人株主) 事業譲渡(売り手が法人)
売る人 株主個人 会社
対価が入る先 株主個人 会社
主な課税 譲渡所得に20.315%(申告分離課税) 売却益に法人税など
消費税 非課税(有価証券の譲渡) 課税資産の対価に10%、土地などは非課税
対価を株主が受け取る段階 すでに株主に入っている 配当・役員退職金などの受け取り方で別に課税される場合がある
税額の決まり方 取得費・譲渡費用で決まる 資産の簿価・内訳・繰越欠損金などで決まる

なお、株主が法人(持株会社など)の場合は、株式の売却益が法人の所得に入り、法人税の計算に含まれます。20.315%は個人株主の税率なので、法人株主には当てはまりません。

ただし、この比較だけで売り方を決めることはできません。事業譲渡は、許認可や契約を個別に引き継ぐ手間が増え、買い手が「簿外債務を引き継ぎたくない」として選ぶ場合もあります。売り方は、買い手の希望、引き継ぎたいもの、手続きの負担、税金を合わせて決めます。個別のケースでどちらが有利かは、税理士に確認してください。

税理士に相談したほうがよい場面

この記事で説明したのは一般的な仕組みで、読者の会社の税額を決めるには、会社ごとの数字が必要です。 次のような場面では、早めに税理士に相談してください。

  • 取得費や簿価が分からないとき:設立時の払込資本金、株式の取得経緯、資産の帳簿価額の確認が必要です
  • 売り方を決めるとき:株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に合うか、税金と手続きの両面から検討します
  • 対価の受け取り方を決めるとき:分割払い、成果連動の対価、役員退職金や配当の組み合わせなど
  • 事業譲渡の契約書で、資産ごとの対価の内訳を決めるとき:消費税の判定に関わります
  • 繰越欠損金や他の所得があるとき:実際の税額が変わります
  • 売却の時期を決めるとき:譲渡した年の翌年が申告の対象になります

M&Aの専門家は専門家を探すから探せます。契約書の内容や法的な判断が必要なときは、弁護士に相談してください。

よくある質問

会社売却の税金はいくらかかりますか

売り方で変わります。個人株主が株式を売る株式譲渡では、譲渡所得に所得税15%・復興特別所得税・住民税5%で合計20.315%がかかります。事業譲渡では売却益が会社の所得として法人税などの対象になり、課税資産には消費税もかかります。実際の税額は取得費や簿価などで変わるため、税理士に確認してください。

株式譲渡と事業譲渡では税金はどう違いますか

株式譲渡は売るのが株主なので、株主に譲渡所得の課税がかかります。事業譲渡は売るのが会社なので、会社の所得として法人税などがかかり、課税資産の対価には消費税もかかります。事業譲渡で会社に入ったお金を株主が受け取る段階では、別に課税される場合があります。

株式譲渡の税金の申告はいつまでにしますか

譲渡所得の申告は、譲渡した年の翌年の2月16日から3月15日の間に行うのが基本です。還付申告など一部の場合は2月15日以前でも申告できます。

株式の取得費が分からないときはどうなりますか

取得費が分からない場合は、同一銘柄の株式等ごとに、売却代金の5%相当額を取得費とすることも認められています。ただし、実際の取得費のほうが大きいこともあるため、資本金の払込記録などを確認し、税理士に相談してください。

法人が会社の株式を売ったときも税率は20.315%ですか

いいえ。20.315%は個人が株式を売ったときの申告分離課税の税率です。株主が法人の場合は、売却益が法人の所得に含まれ、法人税の計算に入ります。

まとめ

会社売却の税金は、誰が何を売るかで決まります。

  • 株式譲渡(個人株主):譲渡所得に、所得税15%・復興特別所得税0.315%(令和9年分以後は復興特別所得税と防衛特別所得税で計0.315%)・住民税5%の合計20.315%。譲渡所得は「譲渡価額−(取得費+譲渡費用)」で求める
  • 事業譲渡(売り手が法人):売却益に法人税など。課税資産の対価には消費税(10%)がかかり、土地や有価証券は非課税。株主が対価を受け取る段階で、別に課税される場合がある
  • 手取りの見方:税額は取得費・簿価・費用で変わる。仮の数字の例で構造をつかみ、実際の金額は税理士に確認する

税金は売却価格の一部ですが、価格そのものは手数料や交渉で決まります。売却全体の流れはM&Aによる事業売却の手続き完全ガイド、価格の考え方は中小M&Aバリュエーション実務で確認してください。

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